学習指導要領 / 教育の情報化

1人1台端末は、本格的な活用の段階へ 個別最適な学びや協働的な学びの充実に向けて

GIGAスクール構想は、ICT環境整備を進める段階から本格的な活用を充実させていく段階へと入りました。これからの1人1台端末の活用支援の施策や今後のコンピュータ教室の位置づけについて、文部科学省 初等中等教育局 修学支援・教材課の安彦 広斉 課長にお話を伺いました。

安彦 広斉(文部科学省 初等中等教育局 修学支援・教材課 課長)

安彦 広斉

文部科学省 総合教育政策局 社会教育振興総括官(兼)地域学習推進課長
(前 文部科学省 初等中等教育局 修学支援・教材課長)

GIGAスクール構想における学びの充実に向けて

令和3年4月から、小・中学校のほぼ全校で1人1台端末の活用がスタートしました。この令和3年度を「GIGAスクール元年」と呼んでいます。当然のことですが、このGIGAスクール構想の目的は環境整備ではなく、ICT環境を活用することで個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実させていくことです。ですから、令和4年度は、本格的に活用が進むことが求められます。環境整備が終わったところがステップ1だとすると、これからはステップ2として次の段階に入っていくべきだと考えています。

しかし、環境整備においても課題は残っています。例えば、これまでの整備により学校内のネットワーク環境は充実しましたが、校外とつながるためのインターネット回線の高速化については、大きな課題の一つになっています。また、活用促進という意味では、デジタル教科書の普及に大きな期待が寄せられています。個別最適な学びや協働的な学びにおいても、教室の中心となる教材は教科書です。それが紙の書籍であれ、デジタルであれ、児童生徒の学びを支えていくということが大事です。しかし、ネットワークの脆弱さに加えて、デジタル教科書はコンテンツが充実しているという反面、データ容量が大きいことなどもあり、児童生徒が使う端末やネットワークに負荷をかけ過ぎてしまうといったことが、現状の課題として挙げられています。これらを解決するための実証研究についても予算を計上し、コンテンツの流通や配信基盤などの課題にしっかり向き合って、本格的な導入に向けた課題解決に取り組んでいくこととしています。

これらの課題に加えて、活用支援の充実が強く求められていることから、「GIGA StuDX推進チーム」の取組もさらに進めていきたいと思っています。具体的には、ICTを活用した優良事例をプッシュ型で情報提供したり、伴走型の支援活動を展開したりと、さらに充実を図っていきたいと考えており、オンライン相談会・研修会、メールマガジンの配信を通じて展開していきたいと思っています。

文部科学省CBTシステム(MEXCBT)の改善と拡充

文部科学省では、児童生徒が学校や家庭において、国や地方自治体等の公的機関が作成した問題を活用し、オンライン上で学習やアセスメントができるCBT(Computer Based Testing)システムを構築し、これを「文部科学省CBTシステム(MEXCBT:メクビット)」と呼んでいます。活用のイメージは図1のようなもので、令和2年度と令和3年度前期に、約14万人の児童生徒が活用したプロトタイプの実証を行い、令和3年度後期には機能改善や問題追加を実施し、昨年12月からは希望する全国の学校で活用が始まっており、現在は約8,500校、約250万人の児童生徒が登録しています。

実証等に参加した児童生徒からは「問題を解けば正答率が出るので、それを楽しみながら使っている」と、今後も利用したいという前向きなニーズが掘り起こされています。また、教員からも「配信することでテストに利用でき、印刷や採点などの手間が省け、業務効率も向上している」という声も寄せられています。

令和4年度からも、引き続き希望する全国の学校で活用できるようにし、さらに機能の改善・拡充を実施。加えて、全国学力・学習状況調査のCBT試行調査等で活用することになっています。

図1 文部科学省CBTシステム(MEXCBT:メクビット)について
図1文部科学省CBTシステム(MEXCBT:メクビット)について
[出典]文部科学省CBTシステム(MEXCBT:メクビット)について(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/mext_00001.html)
[資料名]文部科学省CBTシステム(MEXCBT:メクビット)について

高等学校における1人1台端末の整備状況の展望

GIGAスクール構想の実現に向けたICT環境整備は当初、小・中学校が中心となって進みました。中学校3年生は、すでに1人1台端末を使い始めています。それが高等学校で使えなくなると、学びの継続という観点からも差が生じることが懸念されています。自治体によって整備状況がさまざまであること等も踏まえ、昨年末に文部科学省の初等中等教育局長から、高等学校の1人1台端末の整備を促進してほしいという通知を発出しました図2

図2 高校の1人1台端末整備に向けた取組について
図2高校の1人1台端末整備に向けた取組について
[出典]個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会(第1回)(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/087/siryo/1416449_00016.htm)
[資料名]資料7 高校の新学習指導要領スタートを契機とするこれからの高校教育について

令和4年度には、高等学校でも新しい学習指導要領が実施されます。情報科の情報Iが共通必履修科目になるとともに、情報活用能力の育成が重視されている学習指導要領をよりよく実現していくためにも、1人1台の端末環境はとても大事になります。

高等学校における1人1台端末は、教員が「教える道具」というよりも、自分で「学ぶための道具」として、文房具と同じような活用が定着する段階だと考えています。小・中学校においても「文房具として」という認識で活用に取り組まれていますが、高校生はそれ以上に多様な使い方ができる発達段階であることを考えると、必要な場面、効果的な場面で当たり前のように使いこなせるようになってもらいたいと思っています。

都道府県のおおよそ半数がBYODという形で、自分自身が所有する端末(スマートフォンを除く)を学校に持ち込むというスタイルが予定されています。一方、学校が用意した端末を貸与している学校もあります。これは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を考慮し、オンライン授業等に備えるため、そのための国の臨時交付金を活用して学校設置者が端末を緊急的に整備してきたという特殊な事情が背景にあります。

いずれにしても、各学校における学びにおいて、どのような端末が望ましいのかを考えて整備が進められており、来年度中にはすべての高等学校において、少なくとも新1年生の環境が整う見込みとなっています。学年進行により来年度以降も整備が進めば、遅くとも令和6年度に、すべての高校生に1人1台端末が実現するという状況です。今後はBYODで生徒が端末を自身で用意して、自分の道具として日常的に使いこなすという活用の形が実現する状況になると捉えています。

全体の傾向として端末のスペックは、高等学校では動画で学ぶアプリやツール等の活用が想定されることから、小・中学校の1人1台端末よりも高いスペックになるケースが多いと聞いています。普通科であったり総合学科、専門学科であったり、それぞれ学科での学習内容も多様ですので、学校や学科ごとに必要となるスペックが異なるのも当然なのだろうと思います。

高性能な端末が必要な活動は、コンピュータ教室で行う

一方で、個人が使用する端末については高性能すぎる機種である必要はないと考えています。今後、アプリやツールもクラウドでの活用が当たり前になっていくことを考えると、必要以上にスペックが高いものを求めるあまり、整備が遅れてしまったり、費用負担が大きくなりすぎたりすることになりかねません。これまでの端末整備がなかなか進んでこなかった背景でもありますので、十分な注意が必要だと思っています。

私が視察したいくつかの高等学校でも、個人の端末ではできる限りブラウザベースのWebアプリケーションを活用し、高性能な端末が必要な学習活動を行う場合にはコンピュータ教室を活用するという役割分担ができている学校が多くありました。特に高度な動画の編集であったり、探究活動の高精細で大判な発表資料の作成・印刷であったり、場合によっては3Dプリンタで作品を作るときなど、こうした学習活動は、引き続きコンピュータ教室が担っていく部分なのだろうと考えます。

コンピュータ教室に高性能な端末を置いて何をするのかと問われた場合、学習活動の具体例を挙げることが重要であり、例えば、地理総合で必須となるGIS(地理情報システム)の活用など、大きくて高精細な画面表示が必要な学習場面やGISと地域の防災情報とをデータ連携させて、問題を発見し解決を目指す探究的な学習活動など、さまざまな教科・科目等で活用場面を想定することが大事になります。また、教科等横断的な取組として、例えば、防災教育にはさまざまな教科等横断的な関連性が詰まっており、STEAM教育とも非常につながりが深いといえます。具体的には、理数系の教科・科目の内容だけで防災は完結せず、「どうしたらみんなが正しく避難しようとしてくれるのか」といった課題に対し、具体的なフィールドワークによる地域の人々とのコミュニケーションにおける言葉の表現の仕方であったり、さまざまな情報手段を適切に組み合わせて伝えたりするなど、避難することをいかに自分事として捉えてもらえるかという文系的なアプローチも大事であることがわかるかと思います。まさに文理融合的なテーマとして学ぶ機会となり得ますが、こうした学習活動を高度なICT活用環境において、リアルとオンラインでのフィールドワークを駆使して対話的・協働的な学びを実現し、問題の発見・解決につなげていく創造的な学習空間として、コンピュータ教室をアップデートしていく発想が重要だと考えています。

教室で使う個人の端末と
コンピュータ教室の高性能な端末。
使い分けながら、学ぶ場そのものが進化を遂げていく

コンピュータ教室の位置づけや名称も多様化していく

さらに、こうした学習活動の多様性も考えるなら、コンピュータ教室という呼称も含めて変わっていくのかもしれません。以前訪問した小学校では、図書室とコンピュータ教室が併設され、対話スペースが確保された「メディアセンター」が設置されていました。学習指導要領の解説には「子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等」とありますが、協働的な学びの中で、教職員や地域の大人たちからいろいろな話を聞くことは、当然「対話」に含まれるわけですが、それだけではなく「先哲の考え方」という意味で、本という媒体を通じて先哲である作者と「対話」するということも含まれます。また、インターネットなどで多様な立場の著名人たちが、どんなことを言っていたのかを知ることも「対話」の一つです。本のような印刷物なのか、デジタルメディアなのかを問わず、今はいろいろな媒体がありますので、そうしたものと触れるスペースという位置づけとして、こうした新たな価値を創造する空間を設置する学校も増えてきました。

これからの1人1台端末の時代には、コンピュータ教室の位置づけや名称も多様化し、そして重要性もさらに高まります。教室で使う文房具的な端末とコンピュータ教室の高性能な端末を使い分けながら、学ぶ場そのものが進化を遂げていくべきだろうと考えています。そうした実態も踏まえながら、今後のICT環境の整備計画も変わっていくのだろうと考えています。例えば、コンピュータ教室に同じ端末を40台教室型で並べて更新するだけではなく、毎年4分の1にあたる10台ずつを順次更新し、常に最新機種が活用できるように工夫し、配置もグループでの協働的な学びを前提としている学校も出てきました。このように、1人1台端末が実現しても、コンピュータ教室が不要になることは想定しておらず、むしろ新しい学習指導要領をよりよく実現するための学習活動を前提として、さらに発展的な整備の充実が重要となります。そうした実態も踏まえながら、今後のICT環境の整備計画も変わっていくことになるでしょう。

当然、ICT環境整備のほとんどが地方財政措置によって賄われているので、その充実のためには、地域の住民の理解、議会の承認が得られなければ、予算化されないという大原則があります。そうした意味で、これからの時代に必要な地域の人材育成のためのICTへの投資として捉えてもらうことが大切です。地域が抱えるさまざまな課題の中でICTを使わずに解決できるものは、この時代ではなくなっている状況を鑑みると、次世代の地域の人材育成のために、どのような学習環境が、それを支えるICT環境整備が必要なのかを真剣に考えてもらえるような働きかけ、社会に開かれた教育課程として地域と共有することが益々大事になってくるのではないでしょうか。

そのためにも、例えば、地域をフィールドとした探究活動を通じて地域の方々と対話したり、学校に地域の方々を招いて探究活動の発表に対してフィードバックしてもらったり、そうした学習活動がICTによってどのように支えられているのか、将来の地域を支える人材育成において、いかにICTが欠かせないものとなっているか、そうした実感を伴って地域と共有できる取組が何よりも効果的だと考えています。このように学ぶ場そのものがICTにより進化を遂げていくためには、大人たちにも情報活用能力を発揮することが求められるのです。一緒にがんばりましょう。

(2022年2月取材 / 2022年4月掲載)