学習指導要領 / 教育の情報化

オンライン学習、端末持ち帰り 最前線 INTERVIEW オンライン学習、端末持ち帰りの課題とポイント いつでも協働できるオンラインの特性を生かし、探究的な学びにつながる問いを

堀田 博史

園田学園女子大学 教授

2021年4月から開始した1人1台端末の運用。半年で学校の取り組みに顕著な差

「GIGAスクール構想」による高速大容量の通信ネットワークや1人1台端末の整備が、2020年度中に完了できたところ、できなかったところ。整備は完了したものの、運用を開始すると通信速度が十分でなかったところ……。さまざまな課題を抱えながら、全国の小、中学校で4月、2021年度がスタートしました。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴った5月からの緊急事態宣言やまん延防止等重点措置への対応などにも追われ、教員も、児童生徒も、1人1台端末やクラウドという新しいICT環境にゆっくりと時間をかけて慣れ親しむような余裕がなかったように思います。

非常に厳しい状況が続いた1学期だったのですが、7月ごろには、学校間で1人1台端末の活用度合いや取り組み内容に顕著な差が表れ始めました。例えばある学校は、日々先生方の実践が積み上げられ、共有されて、校内で活用がどんどん広がっていました。実践も質的に向上し、活用がステップアップしていました。

一方、別のある学校は、4月当初に掲げた「1人1台端末に慣れ親しむ」という段階をなかなか抜け出せずにいました。7月でも4月当初と変わらない活用を継続しており、活用がステップアップするというより、平行移動をしてしまっていました。

そうして夏季休業期間が終わろうという8月末のタイミングで、緊急事態宣言の延長が決定され、全国の多くの学校では臨時休業や短縮授業、分散登校の対応に迫られました。

今回、緊急事態宣言が延長された際は、GIGAスクール構想によって整備された1人1台端末やWeb会議システム、クラウド型グループウェアを使って、授業の様子を配信する取り組みが多く見られました。整備された環境を生かしてオンラインでつながり、学びを継続できたこと自体が、まずは素晴らしいことだと思います。

経験を積み重ねた学校は、工夫してオンライン学習を展開

その一方で、「オンライン学習は45、50分間の授業をWeb会議システムなどで家庭に配信するものだ」という偏った考え方で実践されている様子も見受けられました。実は、Web会議システムで配信された授業の動画を、子どもが家庭で集中を切らすことなく視聴するのは、非常に難しいことなのです。

1学期からさまざまに実践を積み重ねてきた学校は、こうした課題に気がつき、対策を練っていました。例えば、授業の冒頭とまとめ部分だけをWeb会議システムでつなぎ、後は個別で学習課題に取り組む。またはクラウド型グループウェアや授業支援システムに保存した教材を子どもと共有して、その内容を基にオンラインでディスカッションするといった学習が展開されていました。

1学期の経験を基に、Web会議システムやクラウド型のグループウェア、授業支援システムなどを上手に使う方法を検証し、子どもたちが家庭でも楽しみながら学べる方法を作り上げていったのです。

児童が家からクラウドにアップロード。意見を交流させ、協働的な学びへ

クラウド型グループウェアを有効に活用したオンライン学習案を紹介しましょう。長期休み等を利用して各家庭でインゲンマメの発芽の実験に取り組んでみます。子どもは、各家庭で育てているインゲンマメの写真を定期的に撮影し、クラウド型グループウェアにアップロード。クラウド上では、学級のその日のインゲンマメの写真が一覧で見えるようにします。

図1各家庭で育てているインゲンマメの写真を、クラウド上にアップロード

児童Aは写真を見比べて、児童Bのインゲンマメの生長が、ほかの人より早いことに気が付きます。そのことを疑問に思った児童Aは、児童Bがどのように工夫しているのかを質問。児童Bが自分のインゲンマメの生長の様子を回答したりします。このようなやりとりを経験した子どもたちは、クラウド上で友だちと意見や考えを交流することの大切さを実感し、さらに定期的に記録し、アップロードして共有することの意味を見出していきます。子ども主体で、そして協働的に学習が進んでいくでしょう図1

もし、各家庭で紙やプリントに生長記録をつけさせて、長期休み等が明けてから学校で提出するという方法であれば、このような気づきや学びは起こり得ないでしょう。

学校の授業が終わっても、オンラインで学びが進む。教師の問いがより重要に

このオンライン学習案でお伝えしたいのは、オンライン学習、ひいては1人1台端末、クラウド型グループウェアを活用した授業においては、教師が与える課題や問いがより重要になる、ということです。教師が示す学習課題は「インゲンマメの写真をクラウド上にアップロードして共有しよう」という単純な内容です。とても単純なのですが、子どもたちはクラウド上で共有された生長記録が気になり、自ら写真を投稿したり、写真を見比べたりするようになります。そして疑問が生まれて、友だちに質問して探究的に学び始めます。

つまり、教師がクラウド環境の特徴を理解して適切な課題や問いを提示できれば「家庭でも友だちと協働して学ぶ」「授業が終わっても、家庭で学びが進む」という新しい学びが実現できるということです。これまで家庭学習は「学校の授業で学んだことを定着させること」が主な役割でした。しかし、今後はクラウド環境が当たり前になりますから「授業の学びの延長線上に家庭学習がある」と捉え直して課題や問いを練る必要があります。

そして、新しい学習環境によって学習指導要領の求める学習の基盤となる資質・能力である「情報活用能力」や「言語能力」「問題発見・解決能力」を網羅的に育成するような学習活動は、以前よりもずっと取り組みやすくなっています。ぜひ資質・能力の育成につながる課題や問いの在り方も検討してほしいと思います。

臨時休業や分散登校、
オンライン学習にうまく対応できた学校の特長とは?

1学期から1人1台端末の実践を積み上げ、活用がステップアップしてきた学校の多くは、8月末からの臨時休業や分散登校に対しても、うまく立ち回ることができていました。そうした学校には次のような特長があります。

1授業外でも積極的に活用している

先生のICT活用スキルはさまざまですから、「授業」で1人1台端末を活用することを前提にすると、活用が進まなくなる傾向があります。実際、1人1台端末の活用が順調に進んでいる学校ほど、児童生徒は授業外でも積極的に端末を活用しています。

そうした学校は、年度はじめ早々から週末に端末を家庭に持ち帰らせ、家庭でデジタルドリルなどに取り組ませていました。さまざまな事情から端末の持ち帰りを実現できなかった学校でも、朝学習の時間や休み時間にデジタルドリルなどに取り組ませ、とにかく端末を使わせていました。

2先生同士が気軽に情報交換をしている

以前は、情報担当教員が校内研修を実施し、ICT機器に関する情報の共有や操作スキルの習得を図っていました。しかし、校内研修の時間を確保することも容易ではありません。また、すべての教員がICT活用に興味や関心があるわけではありません。興味や関心がない状態で研修をしても身に付くものではありません。ましてや授業実践にまで至るものではありません。

では、活用が進んでいる学校はどのように研修をしているのかというと、もちろん校内研修は実施しているのですが、研修で普及させることにこだわってはいません。例えば、ある学校では、職員室の掲示板に写真1枚や簡単なメモが貼り付けてあり、そこで実践が共有されていました。メモには「〇〇の授業で〇〇をしました」と簡単な紹介が書かれてあり、興味を持った先生は、メモを貼った実践者の先生のところに自ら赴いて実践方法を確認していました。この学校では、このような教員間の気軽な情報交換が頻繁に行われていて、無理のない形で1人1台端末の活用が広がっていました。校内の端末利用を活性化する好事例として、ぜひ全国の学校でお勧めしたい取り組みです。

3クラウド型の授業支援システムを利用する

日々の授業で、1人1台の端末やクラウド型グループウェアに加えて、授業支援システムをうまく活用しています。

人によっては、授業支援システムがなくても、1人1台端末とクラウド型グループウェアがあれば十分という意見もあります。しかし、この半年間の小学校低、中学年の活用を見れば、その考え方には少し無理があると感じています。

例えば、クラウド型グループウェアにアクセスして、学習課題のファイルを確認したり、保存したりすることは、低学年の児童には操作的に難しい部分があります。もちろん十分に時間を割けば、操作を習得させることは可能ですが、そのような時間的な余裕はありませんし、操作の習得に適した授業、学習場面は限られています。

図2配付された教材に書き込んで、簡単に提出できる仕組みが重要

このような状況を見ると、教員から配付された教材に書き込んで、低学年の児童でも簡単に提出できるクラウド型の授業支援システムは、学習に欠かせないツールであるといえます図2

児童はクラウド型の授業支援システムを使うなかで、クラウドサービスの特徴を知り、クラウド環境で学ぶ方法を身に付けていくのです。

そして授業支援システムの利用は、持ち帰り学習、ひいては臨時休業や分散登校時のオンライン学習の備えとしても有効です。低学年の児童でも扱えるように作られているわけですから、保護者でも十分に操作を補助することができるのです。

写真1授業支援システムを活用して、教室前方の電子黒板でみんなの考えを共有したり、比較して考える(写真提供:大阪市立今里小学校)

また『SKYMENU Cloud』のような授業支援システムには、友だちの画面を拡大して見たり、並べて表示したりして比較できる機能があります。低学年では個別で端末の画面で情報を見るよりも、みんなで教室前のスクリーンや電子黒板を見て、情報を共有することが大切です。うまく活用してほしいと思います写真1

4走りながら改善する

先述したインゲンマメの学習案では、問いを工夫することの大切さをお伝えしました。けれども、最初から1人1台端末やクラウド環境に適した問いを立てることはできないと思います。まずは、日々ICTを活用して試行錯誤すること。そして、子どものアイデアに耳を傾けたり、先生同士が意見交流したりするなかで、問いが練り上げられるのです。

「やってみないと分からないこと」はたくさんあります。最初はうまくいかなくて当然ですから、走りながら改善する、良いところをより太くしていくという考え方を大切にしたいですね。ぜひ、学校の仲間と一緒にスタートして、切磋琢磨して取り組んでほしいと思います。

学校間の「情報活用能力」の差、「中学校区」で小中連携し対応を

2022年3月には、GIGAスクール構想の下で1年間学んだ小学6年生が卒業し、4月から中学1年生になります。多くの学校では、2小1中、3小1中で中学校に進学しますから、情報活用能力や端末活用のスキルの学校間の差が課題になります。オンライン学習やクラウド環境の活用経験の差は、中学校の先生方の学習指導を難しくするだけでなく、最終的に子どもの学習への不安につながります。特に、学習の基盤となる資質、能力である情報活用能力は一朝一夕で身に付く力ではありません。長いスパンで、系統的に指導する必要があります。ぜひ中学校単位で協議して「今年の小学6年生はここまでの力を身に付けさせよう」という共通認識を持って取り組んでいただきたいと思います。

(2021年12月掲載)