学習指導要領 / 教育の情報化

GIGAスクールで求められる教員の姿 学習者中心の教育へ授業観の転換を 1人1台端末を、子どもの資質・能力の育成に生かす

寺嶋 浩介

大阪教育大学 准教授

関西大学大学院総合情報学研究科を修了。京都外国語大学国際言語平和研究所、長崎大学教育学部を経て2015年1月より現職。専門分野は教師教育学、教育工学、メディア教育。日本教育メディア学会理事、日本教育工学会代議員、日本教育工学協会副会長。

変化の激しい社会、答えのない問題に対応できる力の育成を

現在、教育だけでなく社会の有り様が変わってきています。そのキーワードの一つが「Society 5.0」です。学校現場でもよく耳にするようになりましたが、これは文部科学省ではなく、内閣府というもう少し国の大きいレベルでいわれている社会の方向性です。つまり教育場面だけでなく、日本全体が転機に立っているということです。

これからの人口減少に対応するため、ロボットやAIといった技術を積極的に利用し図1のような社会にシフトしていきます。ネットワークがもっと身近になり、小手先ではなく、ICT機器を使いこなす力がこれまで以上に求められます。

図1Society 5.0で実現する社会
出典 : 内閣府ホームページ (https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html)

それを受けて教育現場では、どのような人材が必要なのかを具体的に考えていかなければなりません。それは私たちが「教員として何が必要か」や「一人の大人としてどのように社会に対応していくべきか」を考えるということでもあります。

そのためには「どのような児童・生徒を育てていくか」という議論が必要です。今までの教科学習だけでは、おそらく子どもたちは社会の変化に対応できないでしょう。コロナ禍のように、今まで経験したことのない場面に遭遇したとき、答えのない問題に対応できる基礎的な力を養うことが、教育現場でも求められているのです。

新学習指導要領も「問題発見・解決能力」や「情報活用能力」を重視

改訂された学習指導要領総則においても、次のように書かれています。

「各学校においては,児童の発達の段階を考慮し,言語能力,情報活用能力(情報モラルを含む。),問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力を育成」。

「言語能力」については、先生方がこれまで取り組んできた「言語活動」に直結して理解できると思います。そして、答えのない、問題そのものを発見するところから始まり、どうやって解決していくか考えさせるのが「問題発見・解決能力」です。今回の改訂では、これらに加えて、学習の基盤となる資質・能力として「情報活用能力」という言葉が入ってきました。

ロボットやAIの活用など技術革新が進んだ「Society 5.0」の社会に向け、刻々と状況が変化します。今の子どもたちが将来大人になったとき、どのような社会の状況になっているか、どのような仕事が求められるかは誰にも予測できません。

学習指導要領においても、変化の激しい社会を子どもたちが生きていくための資質や能力を身に付けさせることが求められていることを確認してほしいと思います。

「ゴール設定」を学習者に委ね、
それを支援することが指導者の役割になる。

資質・能力の育成 学習者中心の教育への転換が重要

では、学校の先生方はどのようにして子どもの資質・能力を育めば良いのでしょうか。私は、授業自体が「学習者中心の教育」に変わっていかなければならないと考えます。

図2学習者中心の教育とは
出典:ライゲルースほか(編)(2020)
学習者中心の教育を実現する インストラクショナルデザイン理論とモデル 北大路書房 京都

学習者中心の教育とは、次の5つのようなことをいいます図2

例えば「達成基盤型のインストラクション」。今、多くの授業は45分、50分という時間で学習の進捗を管理しています。しかし、授業時間内で理解できる子もいれば、そうでない子もいます。学習者の進捗を時間ではかるのではなく学習進度ではかるべきという考え方です。

次の「課題中心型のインストラクション」とは、真正な課題、つまり実際の社会的な文脈に合わせた課題に取り組むということです。そして、その課題を進めるときは「個人にあわせたインストラクション」をするべきだとされています。

そして、このような学習者中心の教育を進めると、教育者・学習者・テクノロジー、それぞれに「役割の変化」が求められ、「カリキュラムの変化」も起こります。カリキュラムについては、新学習指導要領でいわれる探究的な学習やSTEM・STEAM 教育が良い例です。一つの教科や分野からではなく、総合的にアプローチできるカリキュラムの拡張・再構成が必要になるということです。

図3指導者の役割
図4学習者の役割
出典:ライゲルースほか(編)(2020)
学習者中心の教育を実現する インストラクショナルデザイン理論とモデル 北大路書房 京都

「役割の変化」について詳しく紹介します。指導者の役割は大きく変化します図3。例えば、今までは指導者が何を達成するのかを決めていました。しかし学習者中心の教育では、「学習者のゴール設定」を支援することが指導者の役割になります。そして、課題設計やそれに向かって何を行っていくかを学習者が選べるように、指導者が支援するのです。つまり、これからは「何を教える」かだけでなく、「学習者が課題を進めていくこと」への支援を含めて「指導」と呼んだほうが良いといえます。
また、学習者の役割も変化します図4。これまでは指導者が教えてくれることを受け身で学習することが多かったかも知れませんが、「能動的な学習者」として自ら学ぶことが必要です。そして、学ぶだけでなく、時には人と協働したり、人に教えたりすることが求められます。ずっと学習者という立場だけではなく、学んでいる人にもさまざまな役割が求められるようになってきます。

1人1台端末は、学習者中心の教育実現の一つの手段

役割の変化についてさらに言及すると、テクノロジーもその役割が変わります。今回の「GIGAスクール構想」によって整備された1人1台端末は、まさに学習者中心の教育を実現させるための一つの手段になり得ると私は捉えています。

図5は、文部科学省が示すGIGAスクール構想によってもたらされる学びの変容を表したものです。まさにICTを活用した場面での先生の役割の変化が示されています。例えば「1人ひとりの子どもたちの反応を個別に把握して対応する」という学習者中心の教育のために、一斉学習や個別学習、協働学習においてもICTを使うことが必要だということです。

図5「1人1台端末・高速通信環境」がもたらす学びの変容イメージ
出典:文部科学省(2020)「「GIGAスクール構想の実現」とは~学校情報化の目的と概略~」

ICT活用の典型例を知り、各教科や学習場面に当てはめて考える

では具体的に、一斉学習、個別学習、協働学習でどのようにICTを活用していけばよいのでしょうか。学校の先生方からは、よく各教科、単元における活用事例を具体的に知りたいという声を聞きます。事例の把握の仕方に、一つポイントがあります。先生方には、ぜひ、教科や単元ごとに事例を調べるのではなく、ICTを活用した典型例を知り、それをさまざまな教科や学習場面に当てはめていくという考え方をしてほしいと思います。

実は、ICT活用の典型例や活用場面については、技術の進歩による違いはあるものの、文部科学省が2014年に出した「学びのイノベーション事業」で示された活用場面からあまり変わりがなく、それを支援する技術が変わったといったところだと思います。典型的な場面を知り、それをどのように自分の教科に当てはめられるかを考えることが大切です。

授業支援ソフトウェアを、協働学習の充実に役立てる

また、学習者中心の教育の実現にあたっては、協働学習の充実が重要です。グループで作品を作る「協働制作」は、これまでも一部行われていましたが、1人1台端末がなかったり、クラウドのサービスが整備されていなかったりと、やりたくてもできなかったという先生方が多いのではないでしょうか。しかし、今回、GIGAスクール構想で1人1台端末の環境が整ったことで、協働制作や交流学習に格段に取り組みやすくなりました。単に交流するだけではなく、離れた学校同士で協働学習をして発表・話し合いを行うこともできます。

こうした学習を円滑に行うためには、クラウド型の授業支援ソフトウェアが有効です。ICT活用が難しいと感じる先生方も多いと思いますので、『SKYMENU Cloud』のように先生方が扱いやすく、子どもたちの学びにつながる機能や仕組みをうまく活用してほしいと思います。学習者中心の教育を実現していくためには、ハードウェアだけでなく、ソフトウェアの活用や充実が欠かせないと考えます。

まずは質より量。授業以外での活用から始めるのも良い

1人1台端末を活用した授業づくりに向けて、校内研修は一つの有効な手段です。先生方が教科を越えて議論し、ICTを活用した典型例をさまざまな教科や学習場面に当てはめて、発展させていくかたちが望ましいと思います。単に端末の操作を習得するだけでなく、ICTを使う場面や機能を想定しながらその活用を進めていき、授業を振り返って先生同士で協議をしてほしいのです。今、コロナ禍で学校外で学ぶ時間が持てないからこそ、校内研修などで先生の学びを充実させていくべきです。

まずは質より量だと思います。経験を重ねて分かってくることもあると思います。先生にはぜひさまざまなチャレンジをしてほしいです。授業以外の場面からICT活用を始めるというのも良いと思います。例えば、クラブ活動や部活動、生徒会活動など授業外の場は、気楽に活用でき、子どもたちとも話し合いながら改善の方向を探ることができます。そこから、授業への活用につながったという事例もあります。

社会の変化により、
教育政策も変わるという認識を持てば
自ずと授業への考え方も変化する。

インフォーマルなコミュニケーションによる情報共有を

ICT活用がうまく進んでいる学校は、研修などのフォーマルな場でのコミュニケーションではなく、職員室での教職員同士のちょっとした会話、つまりインフォーマルなコミュニケーションが充実している傾向があります。休み時間や帰る前の15分で情報を共有するといった、柔軟なコミュニケーションから学べることは非常に多いようです。教職員集団のインフォーマルなコミュニケーションをどのようにデザインしていくか。管理職の先生方の工夫が求められる部分です。

最も大切なのは、一喜一憂するくらいの心持ちで取り組むことだと思います。失敗したからもうやらない、ではなくて、失敗は失敗で良いとする。そのうちうまくいって、楽しければ、またやりたいと思うし、ほかの先生にも自分の成功を伝えたい、広めたいと思うようになります。そのような良いサイクルが学校の中で生まれてほしいと思います。

オンラインの公開研究会などに積極的に参加する

先ほど、研修の時間が持ちにくいことやコロナ禍で校外の研修に参加しにくいとお話ししました。従来のような対面での研修は困難ですが、今はインターネット上にICTの活用事例などを紹介する動画や資料がたくさん公開され、Web会議システムを活用したオンラインの研究会も開催されています。例えば、日本教育工学協会は11月にオンラインの研究会「第47回全日本教育工学研究協議会全国大会 大阪大会」を開催します。ICT活用先進校の授業公開から授業後の研究協議までオンラインで参加できます。教育関連企業による発表などもあり、広く情報を得ることができます。新しい情報と出会える場になるのではないでしょうか。ぜひこのような機会の活用を検討してみてください。

一学習者として、教員が学び続けること

今回は、学習者中心の教育という言葉を繰り返しお伝えしました。授業観を転換するということは、言われて簡単にできるものではないと思います。これには先生方ご自身の納得が必要です。まずは先述したように、協働学習の型にはめて、1人1台端末を活用した授業に取り組んでいただきたいと思います。そして、冒頭でお話ししたように、社会の変化に敏感になることが重要です。社会が大きく変化し、それを受けて学習指導要領など教育政策も変わってきているという認識を持つことで、自ずと授業への考え方は変化するものと思います。

これは教員として、というより一人の大人として必要な意識といえます。子どもが学習者として学び続けることが求められるように、私たち教員も一学習者として学び続けることが求められています。

第47回全日本教育工学研究協議会全国大会 大阪大会

ICT活用を通した未来につなげる新しい学習のスタイル

会期
2021年11月19日(金)、20日(土)
公開授業校
  • 大阪市立阿倍野小学校
  • 大阪市立天王寺小学校
  • 大阪市立堀江小学校
  • 大阪市立本田小学校
  • 大阪市立むくのき学園(小・中一貫)
  • 大阪市立昭和中学校
  • 大阪府立夕陽丘高等学校

本大会は、オンラインでの開催となります
https://conv.jaet.jp/2021/

主催:日本教育工学協会(JAET)
共催:一般社団法人日本教育情報化振興会、おおさか学校情報化研究会

(2021年10月掲載)