GIGAスクール構想と学校の今 従来のコンピュータを活用した授業に新たな視点を加えて “情報活用能力”を意識し、系統的な指導を

豊田 充崇
和歌山大学 教授
1学期、全国の小中学校で1人1台端末の活用は進んだのか
2021年4月、全国の多くの自治体、学校で1人1台端末の運用が始まりました。多くの先生方は、整備された端末の機種、クラウドのシステム、ドリルソフトウェア等についての利用経験がほとんどなく、突然の大きな環境の変化に戸惑われていると思います。
例えばChromebookが整備された、ある学校では1学期早々にカメラを活用した授業を試みました。教員は、これまで活用していたWindows端末と同じような仕組みだと想定して、1人1台の端末を配付して実践。しかし、カメラの起動をはじめ、撮影したデータの保存先やクラウド上のアプリの使い方が分からず、1時間を使って写真1枚をプレゼンテーションアプリに貼り付けることが精いっぱいでした。児童用端末と教員用との仕様が異なっていたり、児童側としてクラウド利用の手順などを、事前に充分検証する機会がとれないことが原因の1つです。全国の学校では、このような失敗や戸惑い、つまずきがたくさんあったのではないでしょうか。
またある学校では、6月になってようやく1人1台端末の活用がスタートできました。はじめて保管庫を開いて児童に端末を配付したところ、約半数の端末の画面に「ネットワークに接続できません」と表示されました。何度試しても接続できないので「なんで私は使えないの」と泣き出してしまう児童もいました。結局、この児童の端末は授業の最後までネットワークに接続できませんでした。
ほかにも端末を起動したら、端末の時計が遅れていて、端末の時間合わせから始めたという例も聞きます。しかも、設定変更には管理者権限を持つユーザが必要で、ユーザを導入業者に確認するために、さらに手間がかかったそうです。また、アルファベットを知らない低学年の児童のログオンも課題になっていました。私が訪問する情報教育に関心のある学校でもこうした状況ですから、この1学期間中に1人1台端末の活用が軌道に乗った、持ち帰り学習まで取り組めたという学校は、全国でも多くないのではないでしょうか。
「ICT専科」を設置。全教室で週に1回必ず端末を活用

一方で、着実に1人1台端末の活用を進めている学校もあります。和歌山市立八幡台小学校では「ICT専科」という学校独自の取り組みで端末活用を進めています
。ICT専科は、学級担任を持たない教員が、1年から6年までの全学級を回って週に1度1人1台端末を活用した授業を授業者として実施するという取り組みです。ICT支援員のような外部人材の巡回指導ではなく、校内常駐の「専科教員」として授業をおこなうのが特徴です。
今年1年間は、ICT専科の教員が授業者で、学級担任はサポートに専念します。OJTのような形でノウハウを吸収し、来年度以降は各学級担任が1人1台の端末を使った授業を行う予定です。加えて、今年1年間のICT専科の実践を基に、学校独自のモデルカリキュラムを作成する計画です。
ICT支援員によるサポートはとても重要ですが、予算の都合上、週1、2回程度の訪問頻度になりがちです。現状の予算、人材を生かしたこの取り組みは、学校レベルで工夫して対応している好事例といえます。
学校できちんとルールを守れているから
「家庭に持ち帰っても大丈夫だろう」と思える。
学校や教員の考え方次第で、活用の度合いや育まれるスキルに差
学校におけるYouTube動画の視聴は、どの自治体や学校でも課題になっていると思います。ある小学校では、「YouTube動画を学校で視聴しても良いのか考えよう」と学級会で話し合いが行われていました。休憩時間での視聴の可否が議論になり、「休憩時間は、みんで楽しく遊ぶ時間だから、1人で動画を見るのは良くない」「雨の日であればいいと思う」「雨の日でも1人で見ているのは良くない。3人以上で視聴するのだったらいい」などと、意見が活発に出され、学級のルールが決まっていきました。子どもは、自分たちで決めたルールは自分たちで守ろうとする傾向があります。ルールを破りそうな子どもがいたら、子ども同士で注意し合ってくれます。この学級の教員は、そうしたことを踏まえて子どもたちにルールをつくらせていました。集団のルールを形成すること自体が学びであり、育むべき資質・能力であるという認識で指導していました。
実は、1人1台端末の家庭への持ち帰りをうまく進めている学校の多くは、端末利用について学校で厳しい制限を設けていないということが分かっています。比較的自由な環境を与え、子ども自らがルールを作って、それを子どもに守らせているのです。学校できちんとルールを守れているから「家庭に持ち帰っても大丈夫だろう」と思える。だから、持ち帰りに踏み切れるのです。
このような学校や学級担任のスタンスの違いによって、今後、1人1台端末の活用や文具化に大きな差が生まれると思います。学習のための「マストアイテム」となるか、もしくは、「お荷物」や「トラブルの元凶」と化すかは大きな課題だといえます。
まずは「GIGAスクール構想の趣旨」を見直し、理解を深める
では、2学期から具体的にどのように取り組んでいけばよいのでしょうか。
まずは、「GIGAスクール構想」の趣旨やねらいについて、改めて確認することから始めてほしいと思います。そもそもGIGAスクールのGIGAとは、「Global and Innovation Gateway for All」の略で「全児童生徒にグローバル(国際舞台)とイノベーション(革新的創造)への架け橋を!」という趣旨が込められているといえます。
改めて、ここで2019年12月19日に萩生田光一文部科学大臣のメッセージとして出された「子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現に向けて ※1」を参照したいと思います。
※1 https://www.mext.go.jp/content/20191225- mxt_syoto01_000003278_03.pdf
例えば、以下はメッセージの冒頭の記述です。
「Society 5.0 時代に生きる子供たちにとって、PC端末は鉛筆やノートと並ぶマストアイテムです。今や、仕事でも家庭でも、社会のあらゆる場所でICTの活用が日常のものとなっています。社会を生き抜く力を育み、子供たちの可能性を広げる場所である学校が、時代に取り残され、世界からも遅れたままではいられません。」
これは2018年度のOECD生徒の学習到達度調査(PISA)の結果や、日本の教育におけるICT活用が世界標準から大きく遅れていることを受けて書かれています。
そして、「イノベーション」に関しては、「創造性」という言葉がタイトルを含め、メッセージの全体で4回も出てきます。
「この新たな教育の技術革新は、多様な子供たちを誰一人取り残すことのない公正に個別最適化された学びや創造性を育む学びにも寄与するもの」
そして以下のように「個別最適化」「資質・能力の育成」「情報活用能力」「ネットリテラシー」といった言葉が用いられる一方で、「学力向上」という言葉が一切出てきません。つまり、教科指導でICTを活用することや教科の学びに寄与するための環境整備が色濃く打ち出されているわけではありません。1人1台端末によって学びの個別最適化を図り、子どもたちの創造性を発揮させようという意味合いが強く打ち出されているといえます。
「子供たちが変化を前向きに受け止め、豊かな創造性を備え、持続可能な社会の創り手として、予測不可能な未来社会を自立的に生き、社会の形成に参画するための資質・能力を一層確実に育成していくことが必要です。その際、子供たちがICTを適切・安全に使いこなすことができるようネットリテラシーなどの情報活用能力を育成していくことも重要です。」
ですので、「紙でできることをICTでやっていないか」「ICTを使うことが目的になっていないか」「本当に効果があったのか検証すべき」といった議論はいったん置いておいて、まずは「紙でもできるけれども、ICTでもできるようにやってみよう」という姿勢で活用を進めてほしいと思います。活用を進める中で、ICTだからこそできることが見つかれば、それを継続していく。最終的には、児童生徒が自分自身で、自分に適したツールを選べることが重要です。それも個別最適な学びの一つです。
「情報活用能力」の視点で、1学期の授業や子どもの育ちを見つめ直す
GIGAスクールの趣旨を踏まえた上で、先生方には1学期の授業を振り返り、従来の教科の視点に加えて、「情報活用能力」という視点で子どもの育ちを見つめ直すことから始めてほしいと思います。

例えば、中学年の社会で1人1台端末を使って全三次の「昔の道具調べ」の授業をしたとします。この学習では、「昔は洗濯機がなくて洗濯板だった」「アイロンは電気で温めるのではなくて、炭を使っていた」など、電気がない時代も、暮らしを便利に豊かにするために人々が工夫していたことを学びます。これらは社会の教科としての学びです。こうした学びとともに、実は授業を通じて
のような、全教科に適用できる資質・能力、情報活用能力を子どもたちは獲得しています。具体的に説明すると、まず本実践を行う前提として、1人1台端末を使って検索をするにあたって、児童に授業に無関係なYouTube動画を見ないといった「基本的な情報モラル」や、一定の「タイピングスキル」、「ブラウザの操作スキル」などの情報活用能力を身に付けているとします。
第一次で、調べ活動をするので、「どのようなキーワードで検索すればよいのか(キーワードの想起)」「出てきた検索結果から、どのようにしてサイトを選べばよいのか(情報の選択)」「サイトの情報は本当に自分が調べたい情報で、正しい情報なのか(情報の信憑性の見極め)」と考え、それぞれの力が発揮されています。続く第二次で情報をまとめる際や、第三次で情報を発信する際も同様に、図のような情報活用能力が発揮されます。
つまり「調べて」「まとめて」「伝える」という、以前からよくあるコンピュータ活用の場面にも、実は11もの情報活用能力が育まれ、発揮されているのです。このような資質・能力の育成について、これまで強く意識して指導したり、学習のねらいとして子どもに示したりすることは、ほとんどなかったのではないでしょうか。従来の授業を情報活用能力の視点で見直すだけで、子どもたちが日々の授業でさまざまなことを学んでいることに気が付けます。1人ひとりの成長を、より実感できると思います。
5.情報活用能力・重点単元一覧表
情報活用能力系統表の例(1、3、5年生の項目のみ抜粋して掲載)
(大阪府泉佐野市立第三小学校)
情報活用能力 | 1年生 | 3年生 | 5年生 |
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情報の収集 |
・身近な人に聞く。
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〇目的を意識し,日常生活の中から情報を主体的に収集する。
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・新聞や資料集を利用して情報を主体的に収集する。
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情報の整理(編集含む)
・ 情報の分析 |
〇複数の情報の共通点,相違点,事柄の順序などを見つける。
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・自分の考えとそれを支える理由や事例など,複数の情報の関係性について理解する。
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・事柄の原因や結果など,複数の情報の関係性について理解する。
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表現
・ 発信 |
・相手に応じてわかりやすく表現する。
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・表現方法を相手に合わせて選択する。
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・目的や意図に応じて,複数の表現手段を組み合わせて表現する。
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プログラミング的
思考 |
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デジタルシティズンシップ
教育 |
情報機器を利用する場所を選んだり,使用する時の約束を考えたりする態度を身につける。また,大人と一緒に情報機器を使うこと,連絡先を教える相手の選択ができる。 |
相手のことを考え,情報社会での約束を守るとともに,個人の情報を大切にする態度を身につける。また,健康のために利用の仕方を考えることができる。 |
自他の権利を尊重し,周囲への影響を考えて行動する意識をもつ。また,協働や学習,効率的な制作の向上を手助けする情報技術の利用に対して,肯定的な態度をとることができる。 |
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最初はとにかく「慣れる」ことが肝心です。すぐに教科の学びに寄与できなくても、児童生徒ができるようになってきたことを段階的に把握していただければと思います。
そして指導にあたっては目標値や指導計画が必要です。先進的に取り組んでいる地域や学校で「情報活用能力系統表」や「情報活用スキルのルーブリック評価
」などを作成、公開しています。学校全体で共有し、直接指導する教員は、担当する学年の内容を確認し、情報活用能力の育成・発揮の視点を持つことが重要だと考えます。
(大阪市立滝川小学校Webサイト:http://swa.city-osaka.ed.jp/swas/index.php?id=e511000)
教員の情報リテラシーを高め、子どもよりも1歩先へ
極端な言い方をすれば、授業者の意識を変える必要はありますが、1人1台端末で取り組む授業自体は、これまでコンピュータ教室で実践してきたことから大きく変える必要はありません。変えるべきなのは、あくまで教員の意識であり、授業のねらいや児童生徒への発問です。
例えば、子どもがインターネットで情報を検索し、その内容をプレゼンテーションソフトウェアのスライドにまとめたとします。今までは「情報が綺麗にまとまっているね」「たくさん情報を調べたね」などと声を掛けていたと思います。しかし今後は、「その情報は本当に正しいのだろうか」「その情報の出どころ(Webサイト)は信頼できるのだろうか」といった情報モラルや情報の信憑性、引用や出典の記載などの指導につながる発問をすることが重要です。
とはいえ、その問いかけを行うためには、私たち教員自身に情報を見る目が必要です。よく「子どもとともに学ぼう」といわれますが、操作スキルについてはそれでいいと思いますが、情報モラルや情報セキュリティといった情報リテラシーに関する部分は、私たち教員が常に1歩先、1つ上を行かなければなりません。そのための情報収集や研修の充実を図っていただきたいと思います。
子どもの創造性が発揮される場をつくろう
GIGAのI、Innovationというキーワードについて改めて認識を深める必要があります。過去の調査ですが、日本の学校では「マルチメディア作品」に関する授業がほとんど実施されていないという結果が出されました。子どもが何かを創り出して、発信するという活動が不足していることは確かです。

は、子どもが図工で書いた魚の絵をコンピュータに取り込み、プログラミングで動きを与えて作った動画作品です。学級の子ども全員の作品が合わさって1つの作品ができ上がっています。ICTを使えば、今までは1人で取り組んでいた作品づくりを、簡単に協働制作の作品にすることができます。1人1台端末を使って、創造性を発揮した好事例だと思います。しかも、この実践は何か斬新な活動をしたわけではありません。これまでの図工の学習と、この2、3年のプログラミング教育の実践で取り組んだ「プログラムでキャラクターに動きを与える」という学習を組み合わせただけなのです。
もちろん1人1台端末の活用がスタートしたこの段階で、児童生徒が創造性を発揮して、発信するといった活動にまで至るのは困難であることは確かです。まずはこれまでコンピュータ教室で行ってきた「調べて」「まとめて」「伝える」といったことを中心に、情報活用能力の育成を意識しながら指導していく。そして次のステージとして、子どもたちの創造性が発揮される学習場面を用意してあげてほしいのです。今は動画編集などが、比較的容易にできるようになりました。いずれは1人1台端末でCMやニュースを作るといった、学習活動に取り組んでほしいと思います。
(2021年9月掲載)