学習指導要領 / 教育の情報化

GIGAスクール環境の活用1人1台端末の軽やかな日常使いのポイント

中川 一史

放送大学 教授

教育の情報化推進に向けたキーワードは「環境」 「制度」 「スキル」 「活用」

図1教育の情報化推進の鍵

教育の情報化推進の鍵は、「環境」「制度」「スキル」「活用」の4つのキーワードだと思います。そして、このキーワードが有機的に結びつき、拡大していくことで、教育の情報化が推進していくと思っています。図1の「環境」「制度」に関しては、国の政策によってどんどん進んできています。一部、個人所有の端末を教育利用する「BYOD」や学習記録データなどとの連動、自治体における情報通信ネットワークガイドラインの弾力化といったことについては、まだ現在進行形ではあるものの、着実に「環境」や「制度」は整ってきています。

そしてこれから、学校には「活用」と「スキル」が求められるようになります。今後、「効果的な活用」や「日常的な活用」、「児童生徒の活用スキル向上」はもちろんですが、「教員の授業方法の改善」も必要となります。子どもたちが1人1台ずつ端末を持っている環境で、教員がゆったりと構えながらでも授業できるようなスキルを持つことが課題になってくると思います。

「個別最適な学び」 「協働的な学び」を進めるために有効な1人1台端末

文部科学省が平成26年度に出した「学びのイノベーション事業」の実証研究報告書では、学校におけるICTを活用した10の学習場面を図2のように示しています。当時は、教員が提示用にICTを使う一斉学習が主だったはずですが、文部科学省は、すでに1人1台端末を想定しているような絵を載せています。

特に、図2の「B5 家庭学習」では、「情報端末の持ち帰りによる家庭学習」とあります。現在、多くの自治体でようやく検討が始まったことを、すでにこの時期に示されています。これまでは、例えばコンピュータルームに40台ぐらいあった端末を使い回しており、次の時間にはほかのクラスに端末を明け渡さなくてはならなかったのですが、GIGAスクール構想によって、常時1人1台をずっと占有できるようになりました。この違いはとても大きいです。われわれ大人が、スマートフォンをいつも手元に置いてあるからこそツールとして使っているように、子どもたちにもようやくそうした環境が整ってきました。

中央教育審議会の答申では、「個別最適な学び」について示されています。中でも「指導の個別化」については、支援が必要な子どもにより重点的な指導を行うことや、特性や学習進度などに応じて、教材や指導方法を柔軟に提供していくことなどを示しています。そして、「個別最適な学び」のもう1つのポイントが「学習の個性化」です。子どもの興味関心などに合わせ、1人ひとりに応じた学習活動、あるいは学習課題に取り組む機会を提供し、それにより、子ども自身で学習が最適となるよう、いろいろと調整をしていくことです。この2つを「個別最適な学び」として示しています。

さらにもう一つ大事なことが「協働的な学び」です。これは大人の世界では、毎日問われているところです。子ども同士、あるいは多様な他者と協働しながら、他者を価値ある存在として尊重すること。そして、さまざまな社会的な変化などを乗り越え、持続可能な社会の作り手となることができるように、いわゆる合意形成や意見の交換といった「協働的な学び」を充実させるということです。これにも1人1台端末が非常に有効に働きます。

図2に「協働学習」として4つの場面が示されています。この絵を見ると、1人1台端末が生きることがよく分かります。「個別最適な学び」と「協働的な学び」は、決して相反するものではありません。図3のように、これら2つが相乗効果を促すことで、深い学びにつながっていくということだと思います。そして、その中で思考を活性化させる端末の活用、あるいはソフトウェアやコンテンツの活用、そして児童生徒の言語能力や情報活用能力の向上が影響し、2つの学びを行き来しながら、深めていくことが想定できます。

図2学校におけるICTを活用した学習場面
出典:「学びのイノベーション事業」実証研究報告書(平成26年度)より
図32つの学びの相乗効果促進のイメージ

教科を横断し実社会の問題解決に生かせる学習へ。ICTの「学び」への活用

文部科学省は、GIGAスクール構想の実現に向けて1人1台端末の環境が整ってきたことにより、どのようにICTが学びへ活用できるかということを示しています。例えば、教科の学びをつなぎ、社会課題の解決に生かすことや、教科を横断し実社会の問題解決に向かうような学習です。図4で「探究のプロセス」と示されていますが、「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」というそれぞれのところで1人1台端末は生きるということです。

各教科の授業においても、学びを深め、教科の学びの本質に迫るため、1人1台端末が生きる場面がたくさんあることも示しています。例えば、国語で書いた文章をネットワークを通じて友だち同士で推敲することや、理科で実験のときに動画を撮影して科学的な分析や考察を深めるために生かすことなどが示されています。

そして「“すぐにでも” “どの教科でも” “誰でも” 使えるICT」として、調べ学習で検索サイトを使うことや、文章作成やプレゼンテーションなどのソフトウェアの利用といった例も挙げています。子どもたちは、これまでも共有の端末でも行ってきたことですが、これから1人1台占有になると、これらがいつでも使えます。そうすると、例えばプレゼンテーションソフトウェアの使い方も上手になっていくわけです。

図4探究のプロセスにおけるICTの活用について
出典:文部科学省(2020)GIGAスクール構想の実現へ(https://www.mext.go.jp/content/20200625-mxt_syoto01-000003278_1.pdf)

授業だけでなく、放課後や家庭での
ICTの効果的、日常的な活用についても
見据えていかなくてはなりません

学びのマストアイテムとなるICT。その活用は児童生徒とともに進めていく姿勢が大切

文部科学省が出している最新の「教育の情報化に関する手引」では、「これからの学びにとっては,ICTはマストアイテムであり,ICT環境は鉛筆やノート等の文房具と同様」だと書いてあります。つまりそれだけ、当たり前にいつも子どもたちが使っていくものに、ようやくなっていくわけです。

図5授業や家庭など、場面ごとに必要となるICT活用の具体的なイメージ

そのとき、学校教育の場で考えなくてはいけないことがあります。これまで学校では、授業で有効にICTを使うにはどうしたらいいかという、図5の①の部分のみを追求してきました。しかし、常時1人1台の端末を持っている環境では、授業以外の放課後や家庭に帰ってからも使うことになります。効果的な活用だけでなく、われわれが普段から使っているスマートフォンと同じように、日常的な活用をしていくことになります。つまり、これからは図5の①だけではなく、②、③、④の活用についてもいろいろと見据えていかなくてはなりません。今後の課題について、教員側から言うと、まずはICT活用のイメージをどれだけ持てるのか、ということです。これは、児童生徒に対する指導にも関係してきます。さらに、どれだけ児童生徒と一緒に活用を進められるのかということが大切になります。今までの学校では、教員がすべてを知っていて、それを子どもに教えるという関係でしたが、タブレット端末については児童生徒の方が詳しいということもあります。ですから、一緒に進めていくという姿勢が大事です。

そして、学校としては、ICT活用の慣れや深まりなどの段階をどう見通していくのか。初めはルールを決めることが大事かもしれません。でもその内、子どもたちがいろいろと考えられるようになってきます。また、ある先生だけが積極的に使い、ある先生はあまり使っていないということがないように、校内で情報共有をしていくことが重要になっていきます。

さらに、教育委員会では、情報通信ネットワーク環境を快適に使えるか、そして、子どもたちのために役立つアプリケーション、コンテンツはあるかということが重要です。たくさんありすぎるのも困りますが、要所、要所で活用できるキラーコンテンツはあった方がいいです。こういったことを、今後どう進めていけるのかがポイントになっていくと思います。

(2021年9月掲載)