学習指導要領 / 教育の情報化

高等学校新学習指導要領の全面実施に向けて 新しい情報科「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」を教える準備を

鹿野 利春

文部科学省 初等中等教育局
情報教育・外国語教育課情報教育振興室 教科調査官
参事官(高等学校担当)付 産業教育振興室 教科調査官

はじめに

高等学校には「数学」や「理科」と同様に「情報」という教科がある。2003年度からの新しい教科であるが、日常生活を振り返るだけでも情報科の重要性は納得できることと思う。情報科は、小・中・高等学校の各教科等の指導を通じて行われる情報教育の中核として位置付けられる教科であり高校生全員が履修する。2022年度から実施される情報科の科目「情報Ⅰ」の内容は、2024年度の大学入学共通テストへの出題も検討されている。

Society 5.0に向かう社会

我が国が目指すべき未来社会の姿として、第5期科学技術基本計画において「Society 5.0」が提唱された図1。ここでそれぞれの社会で必要な資質・能力について考えてみよう。Society 1.0(狩猟社会)では、体力や勇気、リーダーシップ、獲物を発見・追跡する技能などが必要であるが、Society 2.0(農耕社会)では、協調性や持続力などが重視される。このように社会が変われば必要とされる資質・能力も変わる。

現在はSociety 5.0に向かう社会といわれている。学校では、Society 5.0で生きていくための力を子どもたちに育む教育を行う必要がある。Society 5.0で必要な資質・能力はSociety 4.0までのものとは異なるとすれば、それを育む教育も異なるものでなければならない。

図1Society 5.0(内閣府作成)

Society 5.0とは?

経団連の提言「Society 5.0-ともに創造する社会-」では「Society 5.0 時代に人間に必要になるのは、社会に散らばる多様なニーズや課題を読み取りそれを解決するシナリオを設計する豊かな想像力と、デジタル技術やデータを活用してそれを現実のものとする創造力である。デジタル革新と多様な人々の想像力・創造力を融合することで、『課題解決』を図るとともに、われわれの未来をより明るいものへと導く『価値創造』をもたらす。」としている図2

図2Society 5.0(経団連)

「デジタル革新」については様々な捉え方があるが、IoTの普及やAIの発達によりデータが大きな価値を持つ社会になることについては一定の理解が得られるだろう。また、自動運転などのAIを活用した新たな技術が私たちの生活を変えていくことについても同意が得られることと思う。これらにより生活や産業のあり方は大きく変わり、私たちに求められる資質・能力も変化する。

Society 5.0 においては、誰もがデータやAIを使いこなす能力を身に付ける必要があり、それに関連してコンピュータや情報通信ネットワークの仕組みを理解し、安全に使うために情報セキュリティを確保する必要がある。また、それを適切に使うために情報モラル教育も充実する必要がある。

今回の学習指導要領改訂で情報科の内容を大きく変更した背景には、このような社会の変化も関係している。

育成すべき資質・能力

今回の学習指導要領改訂では、育成を目指す資質・能力の要素を「資質・能力の三つの柱」として「知識及び技能」、「思考力・判断力・表現力等」、「学びに向かう力・人間性等」で整理している図3。学校教育としては、これらの資質・能力をバランスよく育成していくために観点別の評価と指導を充実するとともに、必要に応じてカリキュラム・マネジメントを行うことになる。

図3育成すべき資質・能力

情報に関わる資質・能力

今回の学習指導要領改訂を行う際に総則・評価特別部会の第4回(平成28年1月18日)において、高等学校卒業までに全ての生徒に育むべき情報に関わる資質・能力と、小・中・高等学校を通じた情報教育と高等学校情報科の位置付けのイメージを資料図4として公開した。

ここでは高等学校卒業までに育むべき資質・能力を整理し、それを小・中・高等学校の各段階でどのように育成するか、具体的に何を扱うかについて記載している。小学校では「プログラミングの体験」をすること、中学校では「計測・制御やコンテンツに関するプログラミング」を行うこと、高等学校では「情報科の目標や育てる資質・能力など発達段階に応じた情報活用能力の育成」について示した。これらは総則・評価部会から各教科等部会に示され、それぞれの部会での議論を経て学習指導要領の記述につながっている。

図4

新学習指導要領のポイント

小・中・高等学校別のポイント(総則及び各教科)について確認しておこう。小学校での指導の際には、指導する内容が、中学校・高等学校における学習にどのようにつながっていくのか理解しながら指導することが必要である。また中学校・高等学校での指導の際には、それぞれ小学校・中学校における学習の程度を把握した上で指導することが必要である。

小学校

文字入力など基本的な操作を習得、プログラミング教育を必修化

各教科等の特質に応じて、児童がコンピュータで文字を入力するなどの学習の基盤として必要となる情報手段の基本的な操作を習得するための学習活動や、プログラミングを体験しながらコンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動を計画的に実施することを明記。【総則】
※ 実施事例等については図5【資料1】を参照。

図5小学校を中心としたプログラミング教育ポータル
  • 【資料1】 小学校を中心としたプログラミング教育ポータル :
    http://miraino-manabi.mext.go.jp/
  • 【資料2】 中学校技術・家庭科(技術分野)内容『D 情報の技術』におけるプログラミング教育実践事例集 :
    https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00617.html
中学校

技術・家庭科(技術分野)においてプログラミング、情報セキュリティに関する内容を充実

「計測・制御のプログラミング」に加えて、「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング」等について学ぶ。【技術・家庭科(技術分野)】。
※実践事例については、図5【資料2】を参照。

高等学校

情報科において共通必履修科目「情報Ⅰ」を新設し、全ての生徒がプログラミングのほか、ネットワーク(情報セキュリティを含む)やデータベースの基礎等について学習

「情報Ⅰ」に加え、選択科目「情報Ⅱ」を開設。「情報Ⅰ」において培った基礎の上に、情報システムや多様なデータを適切かつ効果的に活用し、あるいはコンテンツを創造する力を育成。【情報科】

「情報Ⅰ」の構造について

「情報Ⅰ」は「問題の発見・解決に向けて、事象を情報とその結び付きの視点から捉え、情報技術を適切かつ効果的に活用する力を育む科目」としており、以下の項目から構成している。

  • (1)情報社会の問題解決
  • (2)コミュニケーションと情報デザイン
  • (3)コンピュータとプログラミング
  • (4)情報通信ネットワークとデータの活用

ここで項目(1)は項目(2)~(4)の導入として位置付け、(2)~(4)では①各項目に応じた情報、情報技術や問題解決の手法等を理解し、②問題の発見・解決に情報技術を活用するとともに自らの情報活用を評価・改善する。この構造は「情報Ⅱ」でも基本的に同じである。

(1)情報社会の問題解決

今回の改訂による変化をまとめると図6のようになる。現行学習指導要領では「理解」となっているところが、新学習指導要領では「必要な力」「意義を知って適切に対応する力」「対応を考察し提案する力」など、より深い理解と「思考力・判断力・表現力等」まで求めている。

図6情報Ⅰ(1)の内容についての変化

(2)コミュニケーションと情報デザイン

今回の改訂による変化をまとめると図7のようになる。現行学習指導要領では「情報の表現・伝達の工夫」となっているところが、「問題を発見・解決する方法」となりメディアの特性についても科学的理解を深め、整理の方法も詳しく記載している。また、インタフェースなどの機能、アルゴリズムなどの論理も情報デザインの対象としている。

図7情報Ⅰ(2)の内容についての変化

(3)コンピュータとプログラミング

今回の改訂による変化をまとめると図8のようになる。アルゴリズムの表現として「アクティビティ図」を追加しているが、アルゴリズムはその内容に応じて適切な表現形式を用いるべきであり、特定の形式にこだわるものではない。プログラムも「問題の発見・解決に応じたもの」を扱ってもらえればよい。「関数の使用による構造化」をプログラムの改善に活用することによって、論理的思考力が向上することを期待している。1人1台端末が手元にあれば、授業の最中にプログラムでちょっと試してみるということも可能になると考えている。

図8情報Ⅰ(3)の内容についての変化

(4)情報通信ネットワークとデータの活用

「情報通信ネットワーク」について、今回の改訂による変化をまとめると図9のようになる。IoTを含む外部機器が追加され、情報セキュリティが強化されている。また、クラウド、分散型データベースなど現代社会を支えるテクノロジーが追加されている。ここでは小規模な情報通信ネットワークを設計できる力を身に付ける。

図9情報Ⅰ(4)情報通信ネットワークについての変化

「データの活用」について、今回の改訂による変化をまとめると図10のようになる。中学校数学科「Dデータの活用」の内容を活用するとともに、高等学校「数学Ⅰ」(4)「データ分析」の内容と連携して授業を行う。さらに、情報科のみで活用する内容もある。

図10情報Ⅰ(4)データの活用についての変化

これからの社会を生きる生徒にとって
「情報Ⅱ」の内容も重要であると考えている。

「情報Ⅱ」の内容

「情報Ⅱ」は「情報Ⅰ」において培った基礎の上に、問題の発見・解決に向けて情報システムや多様なデータを適切かつ効果的に活用する力やコンテンツを創造する力を育む選択科目として設置した。(5)として「探究」を行うようになっている。生徒が「数学B」を履修している場合は、「情報Ⅱ」と連携することでさらに学びを深めることができる。「情報Ⅱ」の概要を図11として示す。なお、専門教科としての情報科もあり、より専門的な科目が準備されている。これらを「情報Ⅰ」や「情報Ⅱ」を履修した後に選択科目として教育課程に取り入れることもできる。

図11「情報Ⅱ」の概要

新しい情報科を教える準備

今回の学習指導要領改訂によって、これまでの選択必履修から全員が「情報Ⅰ」を履修することになる。「情報Ⅰ」の内容としては、プログラミングやデータの活用などが入ってくる。冒頭にSociety 5.0 の話をさせていただいたが、「情報Ⅰ」は生徒の卒業後の進路等を問わず、情報の科学的な理解に裏打ちされた情報活用能力を育むために重要である。「情報Ⅱ」は、より発展的な選択科目という位置付けではあるが、情報システムや多様なデータを適切かつ効果的に活用し、あるいはコンテンツを創造する力を育成するために重要であると考えている。

情報科を教えるためには、まずその内容について理解し、教え方についての工夫をする必要がある。内容の理解のために文部科学省及び情報処理学会としては表1のコンテンツを準備している。

表1情報科を教えるためのコンテンツ(例)

高等学校情報科「情報Ⅰ」
教員研修用教材(公開済)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1416756.htm
高等学校情報科「情報Ⅱ」
教員研修用教材(公開済)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00742.html
高等学校情報科事例集
(来年度公開予定)
まずは、ファイルをダウンロードし、読み進めるところから始めてはいかがだろうか。
また、情報処理学会や民間からも研修用教材が公開されている。
情報処理学会 公開教材
現在「アルゴリズム」まで公開済。以降、順次公開予定。
https://sites.google.com/view/ipsjmooc/

1人で悩まず、周りと協力して生徒のために、
自らの学びを深めて、より良い教育につなげてほしい。

おわりに

「情報Ⅰ」については、2021年の教科書採択までにその内容を把握し、授業をイメージして1年の計画を立てるようにしてほしい。「情報Ⅱ」については、その翌年ということになる。教科書採択の際に、1年間の流れが分かっていないと教科書を選ぶこと自体が難しいのではないだろうか。必要な備品などを購入する際も同様である。ICTを活用して協働的な学びを実現するための授業支援システムの導入の有無についても検討が必要になる。これらの準備を的確に行うことで、2022年度から開始される「情報Ⅰ」の授業で生徒に良い環境を提供でき、学び自体も豊かになると考えられる。

また、「情報Ⅰ」については、大学入学共通テストで出題することについて検討されているところであり、今後の動向について注視するとともに状況に応じた検討を行う必要がある。先生方には2024年度までの情報科の授業の準備や実施などについてタイムテーブルを作成し、それにあわせて情報科教員として身に付けるべきものをリストアップして計画的に学習するとともに、授業で必要となるものについて時間の余裕を持って検討したり、必要な環境を整えたりするといったことを進めていただきたい。

さらに2022年度から担当する生徒の中には、プログラミングなどについて先生方よりできる生徒がクラスに何人かいる可能性がある。そのような生徒に授業を手伝ってもらうことで、クラス全体の理解が進むとともに該当の生徒もコミュニケーション能力が向上したり、自己有用感が向上したりするなどの良い変化が見られることが期待できる。情報部(仮称)のような部活動を作り、外部の大会やコンテストに参加したり、大学や企業と連携して才能を伸ばしたりするなど、優れた生徒がより高いレベルをめざすことができるようにすることも情報科を担当する教員としては推進すべきことのように思う。これはスポーツ、芸術、理数、産業教育などではすでに行われていることである。

これからのことを考えると、授業などに不安を持つ先生方もおられるかもしれない。小・中・高等学校を含めて自治体レベルで研究会を作り、お互いに交流することで良い方向に向かうのではないだろうか。たとえば、教材などの準備を他校の先生と協力して行うこともできる。1人で悩まず、周りと協力して生徒のために自らの学びを深めて、より良い教育につなげていってほしい。

(2021年1月掲載)