学習指導要領 / 教育の情報化

長期の臨時休業における学校の取り組みから学ぶ 川崎北高等学校におけるオンライン授業の取り組み環境が整うことを待たず「まずは、やってみる」こと が大切

柴田 功

神奈川県立川崎北高等学校校長

はじめに

令和2年4月、新任校長として川崎北高等学校に着任したものの、生徒の姿を見ることがほとんどないまま2か月がたった。6月になってからは、分散登校がスタートし、オンライン授業と対面授業を組み合わせた新しい学びの方法を模索しているところである。本稿では、この2か月間にどのような工夫をして、オンライン授業の実現に向けて取り組んできたのか、また、その成果を生かして、今後どのように引き継ごうと考えているのかについて紹介する。

オンライン授業実現に向けた準備

神奈川県教育委員会は国のGIGAスクール構想の先取りのような形で、令和元年度に全県立高等学校に「端末」「ネットワーク」「クラウド」の3セットを同時に整備した。具体的には学習者用コンピュータを各校82台、無線LANと民間の光インターネット回線の敷設、生徒と教員にクラウドサービスのアカウントを整備した。今振り返ると、このことがオンライン授業の実現に極めて重要なことだった。校長として着任して最初に行ったことは、生徒が登校していない間、使用していなかった学習者用コンピュータを全教職員に配付したことである。教育委員会と相談し、学習者用コンピュータを教員や生徒に貸し出すこと、校外に持ち出すことを認めてもらった。次に、新入生全員にクラウドサービスのアカウントを配付した(2、3年生は前年度に配付済み)。また、クラウド上に教員専用のクラスルームを作成し、教材や動画コンテンツを教員間で共有できるようにし、在宅勤務の教員もオンラインで会議に参加できるようにした。こうした活用の積み重ねにより、すべての教員がクラウドサービスを問題なく利用できるようになっていった。

オンライン授業の学習課題の工夫

全生徒がクラウドサービスにログインできたことを確認すると、クラウドを使った課題の配付、回収を本格的にスタートさせた。家庭にコンピュータやプリンタがない生徒を想定して、スマートフォン(横向き)の画面で一つの設問を見られるようにしたり、キーボードがなくても手書きのレポートをカメラで撮って提出できるようにしたりといった工夫を、先生方に求めた。また、クラスごとではなく科目で課題を統一し、事前に評価方法をホームページに掲載するようにした。音楽、美術、情報などの実技を伴う科目については、表現活動を音声や動画で課題を提出させることができた。

オンデマンド型動画配信の工夫

オンラインで課題のやりとりができるようになったので、次は動画コンテンツの作成に取り掛かった。いきなり授業動画を作成するのではなく、まずは、新入生向けに「校舎案内」動画を教員有志で作成した(ワンテイクで撮影した割にはよくできた)。その後、先生たちがホワイトボードや黒板を使った授業動画を次々と撮影し、「編集しないこと」や「説明内容はホワイトボードにあらかじめ書いておくこと」、「動画の長さは5分程度にすること」、「撮影した端末でアップロードすること」、「できれば姿を出してアイコンタクトするのが良い」といった動画コンテンツ作成のノウハウが蓄積していった。完成した動画はYouTubeの「限定公開」で生徒に配信し、著作権上の問題がない授業動画は学校のホームページにも掲載した。なお、クラウド上で生徒に配信するだけの場合は、起案はせずに、複数の科目担当者等で内容を確認するだけでよいことにした。

同時双方向型(ライブ型)オンライン授業の工夫

こうしてオンデマンド型授業動画の配信を始めたものの、すべての家庭にインターネット環境が整っているわけではないことが、オンライン授業を推進する上での大きな課題になっていた。そうしたなか、神奈川県教育委員会がインターネット環境の整わない家庭にモバイルルータを貸与する補正予算を組むことになり、オンライン授業で動画配信を続ける大きな推進力になった。2020年6月現在、本校では10数人の生徒にモバイルルータを貸与しているが、この支援がなければオンライン授業の継続は難しかった。一部の私立高校では、すべての授業を同時双方向型(ライブ型)で配信しているが、本校の場合、生徒の半数近くがスマートフォンで受信しており、小さな画面でライブ型授業を行うのは困難であると思われた。しかし、課題についての質問や朝のホームルーム活動をライブ型で行ったところ、生徒は顔を出さないもののチャットによる回答は活発で、オンライン授業ではライブ型とオンデマンド型をうまく使い分けることが大切であると実感した。この点はいろいろな考えがあるところだが、本校のライブ型オンライン授業では、自宅の中の様子が先生や友人に伝わってしまうことや、入学やクラス替え後間もないなかで、慎重なコミュニケーションを求める生徒に配慮し、画面に顔を出すことを生徒に強制しないことにした。また、ライブ型の場合は黒板の文字をスマートフォンで視聴するのは難しいので、教科書や配付資料を使うことにした。

すべての動画を自作する必要はなく、既存の動画をうまく活用したい。

オンライン授業のコーディネートが重要

新聞やテレビなどのさまざまなメディアでは、ライブ型授業の方がオンデマンド型授業より優れた取り組みであるかのように取り上げられることが多いが、そうではない。ライブ型、オンデマンド型にはそれぞれメリット、デメリットがあり、単元の目標に合わせて、動画教材やプリント教材、ライブ型での質問の受け付けなどを、教員がコーディネートすることが大切だと考えている。また、必ずしもすべての動画を自作する必要はなく、既存の動画をうまく活用し、担当教員でないとできない動機づけや授業の振り返りを行う場面こそ、オリジナル動画や対面授業が必要と考える。そして、時間割どおりにすべての授業をライブ型で行うことは、生徒の集中力を継続させることが難しいことや、「繰り返し学べる」、「好きな時間に学べる」といったオンデマンド型オンライン授業のメリットが得られないことなどが課題と感じている。

まとめ

オンライン授業の取り組みは学校の外からは見えないし、校内であってもほかの教科の授業も見えにくいので、本校が一部の動画を学校のホームページで発信したことには、開かれた学校づくりの視点で大きな意味があった。これからは、多くの学校が積極的に情報発信、共有してより良い取り組みにしていくことを期待している。また、「繰り返し学べ、反転学習につながるオンデマンド型」、「チャットではリアルな授業より良い反応が期待できるライブ型」のそれぞれの良さを組み合わせたオンライン授業が理想である。オンライン授業は対面型授業の代替ではなく、授業方法の選択肢となった。分散登校が始まっても、こうしたオンライン授業の成果を引き継いでいきたい。本校を含め、まだ、ICT環境が整わない自治体や学校も多いとは思うが、すべての環境が整うことを待たずに、今やれることをやっていきながら、すべての生徒のインターネット環境を整える取り組みを並行して行うことが大事であり、「まずは、やってみる」という姿勢が大切といえる。

(2020年9月掲載)