学習指導要領/教育の情報化

長期の臨時休業における学校の取り組みから学ぶ コロナ禍への対応から学ぶ“オンライン授業の展開”

山本 朋弘

鹿児島大学大学院教育学研究科准教授

第2波、第3波に備えた
遠隔授業やカリキュラムのポイント

新型コロナウイルス感染症対策もあり、オンライン授業が全国的に展開されるようになった。大学では、ほとんどの授業がオンライン化されて、学生は自宅で授業を受けるようになった。また、小中学校や高校においても、学校が臨時休校になって、子供たちの学びが止まらないよう、家庭での学習を支援する取り組みが始まったのである。学校に子供たちが戻ってきているが、第2波、第3波が起きる可能性もあり、その際に備えた取り組みが求められる。万が一、臨時休校が起きた際に、即座にしっかりと対応できるようオンライン授業を進めるためのポイントを整理してみた。

日頃の環境整備や授業実践の延長となる

緊急事態になったから、その対応策としてオンライン授業を開始するのではなく、日頃から児童生徒の学習環境の整備を意識しておき、日常の授業実践の延長となるように環境整備を進めておく必要がある。今回、多くの自治体では家庭でのインターネット環境が十分でないことに苦慮していたが、自治体担当者や学校の管理職は、各家庭のインターネット環境を把握しておくなどして、日頃からしっかり環境整備や授業実践を進めていくことを意識しておく必要がある。また、家庭学習への支援や宿題の出し方も見直すようにして、今後整備される1人1台端末の環境が有効に活用できるようにする。

実態や現状に応じて、実現可能な内容からスタートする

児童生徒、大学生や教師の実態、学校や家庭でのICT環境等の現状に応じて、実現可能な内容からオンライン授業をスタートさせる。また、学習内容によっては著作権や肖像権等への配慮が必要になる内容もあるので、単元やシラバスの順序を組み替えるなどして、実施しやすい内容から始める。例えば、音楽のオンライン授業であれば、有名な楽曲を鑑賞させるよりも、教師が演奏して楽器の演奏の仕方を視聴させる方が問題なく進めやすい。また、実習や実験等の教室の対面でないと実施が難しい授業内容は、単元構成を見直して後の対面授業で実施するようにして、それまでに実施可能な内容をオンラインで実施するなどの工夫を行うようにする。

児童生徒が健全に生活できているかを把握する

さまざまな方法を用いて児童生徒の生活状況を把握するよう、学校や地域全体で取り組むようにする。家庭での学習は、ICT機器や通信の環境だけでなく、生活の環境も大きく影響することから、児童生徒が健全な環境で生活できているかも含めて、担任教師が児童生徒の状況を確実に把握する。

学びの機会を保障し、より多くの児童生徒が参加できるようにする

児童生徒の学習環境を事前に把握して、Wi-Fi等の通信環境が不十分な家庭からでも参加できるよう自治体や学校が環境を提供する。例えば、学校の教室を一部開放したり、ポケットWi-Fiや光回線の設置補助を自治体が負担したりするなど、より多くの児童生徒が家庭で学習できる環境の提供を行う。これらの自治体の環境整備については、この後好事例を紹介する。

目標に基づいた授業設計

オンライン授業であっても、教室での対面授業であっても、授業の目標が大きく変わることはない。授業の目標に基づいて実施する形態を工夫するなど、計画的な授業設計により遠隔授業を実施する。教師が説明して、その内容を理解していく。
Web会議システムを用いて家庭と教師がつながるだけでは、家庭での学びを十分に支援することはできない。レポートやチャット、クイズやディスカッション、教師への質問、フィードバックなどを取り入れて授業の活性化を心掛ける。
場合によっては、動画提供サイトから録画授業を視聴させることも有効である。しかし、その際にも一方的に長時間伝達しないように配慮することが重要である。大量のPDFファイルやスライド、長時間のテレビ会議や録画動画にならないようにしなければならない。5〜6分の動画を何本かに分けて視聴させるなど、児童生徒の集中力や興味関心を途切れさせないようにさまざまな工夫が考えられる。

さまざまな手法をブレンドする

オンライン授業となると、Web会議システムを用いた授業をイメージしがちである。しかし、Web会議を用いた授業であっても講義型になる場合もあるし、ディスカッション型になる場合もある。
図は、オンライン授業の形態を同時・非同時、双方向・単方向の2点で整理したものになる。同時で双方向にあたるのは、授業者と学習者あるいは学習者同士のやり取りが中心となる「ディスカッション型」である。同時で単方向にあたるのは、授業者が学習者に説明したり解説したりするのが中心となる「講義型」である。非同時で双方向にあたるのは、情報を共有して学習を展開する「Web共有型」である。また、非同時で単方向にあたるのは、授業者が解説した映像や資料を閲覧する「録画授業型(資料配付)」である。それぞれのタイプによってそのメリットやデメリットがあるので、それぞれをうまく組み合わせて補完することが重要である。さまざまな手法をブレンドしながら、より効果が高いオンライン授業になるよう工夫改善する。

1人1台端末9年目、持ち帰り、家庭学習を4年間継続
先進地「高森町」の取り組みから学ぶ

全国的にもICT活用の先進地で有名な熊本県高森町は、教室のICT常設や1人1台端末環境の整備など教育の情報化に取り組んで、すでに9年目を迎えている。その継続的な取り組みが今回の新型コロナウイルス感染症対策として有効な手だてとなっている。新型コロナウイルス感染症対策による臨時休校を実施したのは2020年2月後半からである。その高森町がそれまでにどのような方法でオンライン授業を継続していたか、過去の取り組みの蓄積がオンライン授業にどう生かされたのか、先進地の取り組みの特徴を整理した。

すでに始まっていたタブレット端末の持ち帰り

高森町は子供たちがタブレット端末を家庭に持ち帰り、家庭学習に生かす取り組みを4年間継続していた。日頃から家庭にタブレット端末を持ち帰っていた子供たちは、タブレット端末を学習ツールとして使いこなしていたのである。このことは、臨時休校になった際にも大きく影響した。他地域では、子供たちの端末をどうやって確保するか悩んでいる段階であったが、高森町ではインターネット環境がない家庭でもタブレット端末を持ち帰って学習を進めていたのである。家庭でのオンライン学習をスタートさせる前に、情報端末の持ち帰りが先に検討されるべきなのかもしれない。

インターネット環境整備の素早い対応

臨時休校となる直前から、高森町の町長や教育長の決断は素早く、家庭からWeb会議システムが活用できるかどうかの調査を即座に開始している。そして、家庭のインターネット環境が充実するように、光回線の敷設やWi-Fiルータの提供といった支援をした。学校は情報セキュリティの確保や適切な活用の指導について、保護者に対して丁寧に説明をして共通理解を深めるようにした。そして、すべての家庭でWeb会議が利用できるようになり、継続的なオンライン授業が実現している。このような自治体の積極的な支援や、教育委員会・学校の事前調査と共通理解は、すべての家庭での学びを継続させるための意義ある取り組みといえる。

普段の授業の延長

高森町のオンライン授業では、教室に常設していたICT機器や従来の教具をフルに活用している。これまでに教室で行われていた普段の授業と同様に展開している。例えば、教師が分かりやすく説明するために、教室にある実物投影機や大型提示装置を活用している。また、家庭にいる子供たちはタブレット端末に入っている学習者用デジタル教科書を活用して、理解を深めるようにしている。さらに、従来の教具もうまく活用している。例えば、上の写真のように板書の内容を実物投影機で拡大して説明し、子供たちからの質問に回答するなど、双方向のやり取りを取り入れた授業展開を意識している。個別学習支援システムを活用して、自分のペースや学習状況に合わせて、問題を解いたり、解説を読んだりして、個に応じた学習を進めている。その際、Web会議は接続していなくても、1人学びを継続させている。
また、子供が登校した際の時間配分を意識して、家庭学習の日課を明確に設定している。家庭からのオンライン授業の時間割を明確に提示して、臨時休校期間中の生活リズムの確保および生徒の健康面に配慮するようにした。オンラインの朝の会では、子供たちの健康観察を丁寧に行って生活状況の把握に努めていた。また、教師が生徒の状況を把握しやすくするように各クラス3時間のオンライン授業を実施するようにした。例えば、2つの学級を交互に入れ替えて授業を実施し、子供たちの休校期間中の生活リズムの安定を図ることができているように配慮した。また、1単位時間おきに休憩が入ることで画面を見る時間を調整し、体調不良や視力の低下等にも配慮した時間割となるように工夫した。

教師の働き方改革にもつなげる

今回の新型コロナウイルス感染症対策においては、オンライン授業によって子供たちが家庭で学習するだけでなく、教師も自宅からテレワークで仕事を進める自治体も多く見られた。教師の働き方改革として、しっかり向き合う必要がある。例えば、朝の会に職員室と家庭をWeb会議でつなぎ、出勤していない教師もテレワークで打ち合わせに参加することができる。また、教師の自宅から子供たちの健康観察を行うこともできる。また、外部人材をオンラインで有効に活用することも考えられる。右の写真は、大学院生が自宅からオンラインで授業の支援を進めている様子である。今後は、学校を支援する外部人材をオンラインでうまく活用して、教師の働き方改革につなげてほしい。
しかし、テレワークであっても個人情報保護にはしっかり対応する必要がある。先ほど紹介した高森町は、通知表や指導要録への記入は教師が自宅に持ち帰って行うことはしていない。また、ネットワーク上での書き込みや閲覧はあえてできないようにしている。教師が自宅でできることは、そのほかにもたくさんある。教材研究や資料作成など、教師が家庭に持ち帰ってできるのは子供たちの個人情報を含まない業務。これらの点を参考にしていくと、教師の働き方改革につながっていく。

今後整備される児童1人1台端末の活用にむけて

2020年から文部科学省のGIGAスクール構想が進展して、児童生徒1人1台端末の活用が本格的にスタートする。1人1台端末の環境を整備することに止まらず、その先の活用を見つめて、さらには家庭へ持ち帰り、家庭学習に生かす取り組みまで高めてほしい。今回紹介した高森町は、児童生徒のICTスキルが向上するだけでなく、学力調査等の結果も高いレベルを持続している。また、教職員の異動も多いなか、また、教職員の異動も多いなかでも教師のICT活用指導力が年々向上しており、教育の質の維持・向上が図られている。さらに、児童生徒の学力向上の証し(エビデンス)もしっかり示しており、GIGAスクール構想の先進地モデルとして参考になる参考になる地域だろう。

第46回 全日本教育工学研究協議会全国大会鹿児島大会

つながる!広がる!新しいICT活用のカタチ─風は南、かごしまから─

(兼)令和2年度かごしま「教育の情報化」フォーラム
会期
2020年 11月6日(金)・7日(土)
公開授業校
  • 学校法人白石学園 認定こども園辻ヶ丘幼稚園
  • 鹿児島市立大龍小学校 / 鹿児島市立名山小学校
  • 鹿児島市立武小学校 / 鹿児島市立清水中学校
  • 鹿児島市立鹿児島玉龍中高一貫教育校
  • 鹿児島県立鹿児島中央高等学校
  • 鹿児島県立鹿児島聾学校

主催 : 日本教育工学協会(JAET)
共催 : 九州教育情報化研究会、鹿児島県教育委員会、一般社団法人 日本教育情報化振興会
後援 : 文部科学省、総務省、他教育関連団体(予定)

(2020年9月掲載)