学習指導要領/教育の情報化

今だからこそ、未来の授業の土台を創ろう

まさに、予期せぬ事態。新型コロナウイルス感染症禍。小学校では、2020年度全面実施となる小学校学習指導要領の理念はどこかに吹き飛んでしまい、今は失ってしまったこれまでの学びをどのようにして取り戻すかといった議論が続いています。

けれども、もし学習者一人一台の情報端末が整備されていて、学習者も教師もそれを活用して授業を創り出すスキルを持っていたら、今の状況も少しは緩和されていたのではないかと思われます。本稿では「休校中のオンライン授業」や未来の授業の土台となる「自立的な学びや協働的な学び、ICT活用」をテーマに、Withコロナ、Afterコロナの時代の授業について皆さんと考えたいと思います。

休校中の子どもたちの学び ─オンライン授業のススメ─

新学習指導要領全面実施の年であるにもかかわらず、新型コロナウイルス感染症禍のために、学校現場の混乱・戸惑いは深まる一方です。感染予防の観点から文部科学省は「学校の新しい生活様式」を示しましたが、新学習指導要領の実現については、まだ明快な方向性が見えない状況です。【図1】に見るように、新学習指導要領には改訂のポイントが多々ありました。これまでの移行措置の期間に、未来の社会の担い手として必要な資質・能力の育成を掲げ、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて授業改善を試みてきた先生方にとっては、悩み多き学校再開になっているのではないでしょうか。

(1)休業中の学び

【図2】は、学校の臨時休業中に学校がどのような取り組みをしたのか、調査した結果です。先生が「ペーパーデリバリー」になったと揶揄されていましたが、「教科書や紙の教材を活用した家庭学習」の割合は、100%です。それに比べて「テレビ放送」や「デジタル教科書やデジタル教材」を活用した家庭学習の割合は、本当に低いです。また、「同時双方向のオンライン指導を通じた家庭学習」に至っては、5%しかありません。日本のICT関係の学習環境の遅れが、ここにきてはっきりしました。

GIGAスクール構想にあるような学習環境が整備されていた学校では、朝の会のあいさつに始まり、徐々にオンライン授業を増やすことができたそうです。いつもの時間に起きて、身支度をして朝食をとり、タブレット端末の前に集まり、皆で顔を見ながら大きな声であいさつをする。そうしたことだけでも、子どもたちの不安な気持ちを解消され、規則正しい生活を継続するうえで効果があったそうです。また、画面越しではあっても、仲間の顔を見ながら学ぶことで、学習への意欲の持続につながっていったという話も伺いました。

さらに、普段の授業から、一人一台のタブレット端末環境を生かした授業を実施していた学級では、少しずつと協働的な学びの場を組み込んでいくことができていったそうです。

(2)オンライン授業でできること

単に「オンライン授業」と言っても、様々な形態があります。一人一台のタブレット環境があり、家庭にインターネット回線があることは共通していますが、それぞれメリットとデメリットがあります。

リアルタイムで画面共有やチャット機能を使うなどして協働的に学習

教室の授業と同じような感覚で、取り組めるのがメリットです。ただ、家庭において子どもたちが自分でできるようになるまでに、保護者のサポートが必要です。

また、オンライン授業に取り組む以前の、日常の授業のなかで、子どもの相互作用の起こるような授業づくりを教師が取り組んでいること。さらには子どもがタブレット端末の操作に慣れていて、協働的に学ぶことを経験していることが、授業を成立させるための大事な要素になります。<写真1>は、一人一台端末環境を生かして、オンライン授業をする教室の写真です。誰も座っていない座席が寂しいですが、画面越しに元気な子どもたちに会えるのが、何より教師のモチベーションを上げていったそうです。

リアルタイムオンライン授業を実施するためには、Web会議システムをインストールしておく必要があります。授業をする前に先生方同士で試してみて、リアルタイムにつながってみるもの面白いかもしれません。

課題配信が中心の学習

学校や家庭のインターネット回線が脆弱で、常時インターネットにつないでおくことが難しいという場合もあると思います。教師は、あらかじめ課題を出しておき、子どもたちが自由に時間を選んでその課題に取り組み、終わったら提出するという方法があります。子どもたちに「規則正しい生活をしてほしい」という願いのある小学校では、あまりオススメできない方法かもしれませんが、時間の縛りがなく、教師にも子どもにも大きな負担感なく取り組めるというメリットがあります。

教育委員会が中心となって作成した授業ビデオ等を視聴して学習

学校の休校が決まると教育委員会がすぐに動き出し、指導主事の先生やエキスパート教員の力を借りて「授業ビデオ」を制作、配信したという自治体もありました。分からなければ何度でも見直せる授業ビデオは、「ある意味」、子どもに有効な方法と考えられます。ここで「ある意味」と言うのは、受け手である子どもたちに「分かりたいという切実感があれば」ということです。教師にとっては、なかなかのメリットが見られます。授業ビデオの作り手である教師は、分からないことがあってもすぐに質問できない環境にいる子どもを思い浮かべて、映像を作らなければなりません。このような経験により、子どもの実態を踏まえて、「より分かりやすい授業」の実現に向けた取り組みを期待できるからです。このような経験が、子どもの実態を踏まえた「より分かりやすい授業」の実現に向けた取り組みが生まれるからです。さらに、授業ビデオを教師自身が見直せば、授業改善につなげることもできます。

ただ、このような独自な動きはなかなかできない地域も多いかと思います。文部科学省の「子供の学び応援サイト」や「NHK for school」など、既成のコンテンツを利用することも視野に入れると良いと思います。

上記を組み合わせた学習

兄弟姉妹で、1つのインターネット回線を取り合うという家庭もあると聞きます。家庭によってそれぞれ事情が異なるので、事前(緊急事態になる前)に、オンライン授業がどの程度可能なのかを各家庭に調査をしておくことが大切です。それによって、様々な方法を組み合わせる必要があるでしょう。

今だからこそ、未来の授業の土台を創ろう
~自立的な学びと協働的な学び、ICT活用~

学校が再開され、これまでの学習の遅れを取り戻すために、ドリルやテストが続くという状況も耳に入ります。けれども、今はまず「生活も学習も完璧にこなす必要はない」と、ゆったりと構えることが大切です。そして、将来この経験が生きることがきっとある、今の状況だからこそ得られる貴重な経験もあると考えて、ぜひ、子どもたちの話に、耳を傾けてあげてほしいと思います。

そして、今だからこそ、子どもたちに新しい学び方を提供して、意欲を喚起させることも大事ではないでしょうか。GIGAスクール構想の前倒しによって、教室にタブレット端末一人一台環境が整ってきます。「先生が使えないから」「使えるようになったら」とそのままにしておかず、子どもたちと一緒に楽しみながら、まずは使ってみるということをおススメします。

また、【図3】にあるように、新型コロナウイルス感染が終息を迎えたとしても、今後どのようなことで休校措置がとられるか予測がつきません。この時期に、これからの学校や授業のあり方を再考し、子どもたちがまずは自立的に学べるように、そして画面を通してでも協働的に学べるように、先生方も様々な授業を展開できる授業力を身につけていってほしいと思います。

今、高度なネットワーク社会においてスマートフォンやインターネットなしの生活は考えられなくなりました。もっと先の近未来の世界では、ソサエティー5.0(Society5.0)と言われる仮想空間と現実世界がさらに融合した新たな社会の幕が開けると言われています。そのような社会で生きていく子どもたちに、今からどのような力を育成することが必要であるのか、考えていく必要があるでしょう。

(1)日常的な授業でもICTを活用しよう

言うまでもないことですが、新学習指導要領の総則には、教師が「これら(コンピュータや情報通信ネットワークなど)の情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること」と記述されています。教育コンテンツは、これまでは紙が中心でしたが、これからはデジタル教科書やデジタル教材がインターネットを介して提供されるようになるでしょう。最新かつ大量のコンテンツを、取捨選択したり、つなげたりして、自分の考えにどのように生かしていくのか。情報活用能力の育成をめざしましょう。ぜひ、タブレット端末を積極的に授業で使い、徐々に効果的な場面で活用できるように授業改善を図っていくと良いとでしょう。また、この時期だからこそ、日常的な授業に交流学習等のオンライン学習を取り入れたり、家庭と学校をつないでの「ハイブリッド型単元づくり」を考えたりしておくことも必要だと考えます。

(2)教員研修会をしよう

<写真2>は、ある学校の教員研修の様子です。4月上旬のこの日は、どの学年も春の校外学習(遠足)の下見の日だったそうですが、遠足が延期となったために、全教員が参加しての校内研修に変更されたそうです。すでにオンライン授業を実施していた先生が中心となって、双方向のオンライン授業の仕方やポイントを共有したそうです。校内すべての先生が参加されました。やはり、「必要感」や「切実感」は人を動かすのでしょうか。

また、<写真3>は、筆者が講演と一人一台環境でのワークショップを行った、ある県の国語科研修会の様子です。県をまたいでの対面式の研修会の実施は、まだまだハードルが高いようですが、オンラインであれば密にさえ配慮すれば実施可能です。このワークショップでは、情報活用能力の育成をめざした単元づくりを行いました。一人では難しい課題も、他の人のアイデアを参考に考えることができていました。

例えば、先に提案をした家庭と学校をつないでの「ハイブリッド型単元づくり」などは、取り組まれたことがない先生が多いでしょうから、このように協働的に考える場を各教育委員会等で設定することも必要だと思います。

これからの学校や授業のあり方、教師の役割を考える時

【図4】は、学校現場ではあまり知られていないようですが、5月11日に文部科学省が「学校の情報環境整備に関する説明会」で提示したスライドです。「使えるものは何でも使って、できることからできる人から〜」「この非常時にさえICTを使わないのはなぜ?」「現場の職員の取り組みをつぶさないで」「やろうとしないということが一番子供に対して罪だと、私は思います」というメッセージは、衝撃的でした。

これについては、賛否両論はあると思いますが、考えなくてはいけない内容がたくさん含まれていると思います。残念ながら見逃してしまわれた方は、YouTubeで配信されているので、ぜひ一度視聴していただければと思います。

今は、まさに、これからの学校や授業のあり方、教師の役割を考えていかなくてはならない時ではないでしょうか。

(2020年7月掲載)