学習指導要領/教育の情報化

主体的・対話的で深い学びの実現に向けて これからの教育の情報化を展望する

2019年12月13日に閣議決定された「令和元年度補正予算案」では、児童生徒向けの1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備するための経費が盛り込まれた。この「GIGAスクール構想」によって、児童生徒1人1台の端末の整備が現実味を帯びてきている。急激に進む教育の情報化の波に、私たちはどのように向き合うべきだろうか。2020年度から順次全面実施を迎える新学習指導要領において求められる「主体的・対話的で深い学びの実現」と絡めて述べたい。

問題解決場面における学びの充実とICTの活用

2021年度全面実施の中学校学習指導要領 第1章総則 第3 教育課程の実施と学習評価1 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善によると、

「(1)(略)生徒が各教科等の特質に応じた見方・考え方を働かせながら,知識を相互に関連付けてより深く理解したり,情報を精査して考えを形成したり,問題を見いだして解決策を考えたり,思いや考えを基に創造したりすることに向かう過程を重視した学習の充実を図ること。」

「(3)(略)各学校において,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え,これらを適切に活用した学習活動の充実を図ること。また,各種の統計資料や新聞,視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。」と、問題解決やICT活用について述べている。「主体的・対話的で深い学びの実現」に向けて、ICTは問題解決の場面における学びの充実に大きな役割を果たすと考えられる。

主体的であることと児童生徒1人1台の端末

また、2020年度全面実施の小学校学習指導要領 第1章総則 第3 教育課程の実施と学習評価 1 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善では、「3つの思考・判断・表現の過程」として、例えば、以下があげられている。

「・物事の中から問題を見いだし,その問題を定義し解決の方向性を決定し,解決方法を探して計画を立て,結果を予測しながら実行し,振り返って次の問題発見・解決につなげていく過程」

コンピュータは、情報の収集や考えの整理、制作物の編集、情報の発信や表現において効果的なツールだ。児童生徒1人1台の環境が整えば、1人ひとりの状況に合わせて活用できるだろう。

個別、協働、一斉の学習形態でICTを有効に活用する

1人ひとりの状況に合わせた活用といえば、「GIGAスクール構想」で期待されることの一つに「学びの個別最適化」がある。これは学習者用のデジタル教科書やAI学習ドリルソフトなどでよくいわれる話だが、児童生徒1人1台の端末で学習することで、1人ひとりの特徴や実態に応じて学習課題や教材に取り組むことができ、最適な学びが実現できる可能性がある。

これらがICTの有効な活用方法の一つであることに間違いはないだろう。けれども「個別最適化」のキーワードが先行しすぎたためか、児童生徒1人1台というと「1人ひとりが個別で端末を使う」というイメージが先行してしまっているように思う。

当然のことだが、授業には個別の場面だけでなく協働や一斉の場面もある。グループで1台、もしくは2台使ってディスカッションするという場面もあるだろう。個別の活用に捉われるのではなく、さまざまな学習場面の中に、一斉、協働、個別の学習形態を効果的に取り入れ、そこに学習者用コンピュータを有効に活用することで授業の質を高めることこそが重要だと筆者は考える。新学習指導要領のめざす「主体的・対話的で深い学びの実現」に向けて、1人1台の環境をどのように生かしていけるのか。その議論がますます大事になってくるだろう。

「児童生徒が1人1台の端末に向き合って学ぶ姿」を、
まず教師がイメージすることから始めたい

児童生徒とコンピュータを、どのように向き合わせるのか

1人1台の端末に関してさらに言えば、ICTリテラシー教育や情報活用能力の育成、年間指導計画やカリキュラム・マネジメントなど、我々教師が検討すべきことは多い。いずれも重要な事柄であり、今後、具体的に検討をしていかなければならない。けれども、筆者はその前提として「1人1台の端末と児童生徒をどのように向き合わせるのか」を、まずは教師が具体的にイメージすることから始めてほしいと考えている。

例えば、児童生徒1人1台の学習者用コンピュータの活用に向けては、いくつか踏むべきステップがある。最初の段階は「全員で同じような作業を一緒にやる」ということをしっかりと指導していくべきだろう。そして、児童生徒が端末の操作に慣れてきたところで、少しずつ自由度を高めていくようなことが大切だ。例えば国語の授業で、ペンツールを使って主人公の気持ちを心情曲線で表すといった取り組みだ。1人ひとりの操作は同じだが、個々の考えの違いが出てくる。そうしたときに、学習者機の画面を一覧で映し出せば、「この人とこの人は考えが違う」といったことを比較して考えるといった学習活動が展開できるだろう。

頃合いをみて、例えば「コンピュータを使うのか、ノートを使うのか」「デジタル教科書を使うのか、紙の教科書を使うのか」といったように、子ども自身に情報活用の手段を選ばせるような指導も必要だ。そうした指導をしておくと、やがてデジタル教科書やWebサイトの画面を自らキャプチャ(画面保存)して、文書作成アプリに貼りつけてまとめるといった、自分なりの情報活用をする子どもが現れてくる。教師は、このような個別最適化された学びの様子を学習活動ソフトウェアにあるような[画面一覧]で見取り、場合によってはその子どもの画面を映し出して発表させたりするとよいだろう。

今述べたのは、あくまで一例に過ぎない。児童生徒が1人1台の端末に向き合って学ぶ姿を、私たち教師がもっと議論し、その姿を共有した上で、ICT環境の在り方や活用推進の方策を考えるべきだと思う。

大人が利用する文書作成やプレゼンテーションのアプリは、授業で活用できるか

児童生徒1人1台の端末やOSの選定に合わせて、それらに対応した無償もしくは安価な文書作成アプリやプレゼンアプリ、グループウェアの活用にも注目が集まっている。こうしたサービスは非常に便利で、我々教師や大人が仕事で活用する上で有用なツールだ。けれども、児童生徒が授業、学習活動の中で用いるのであれば注意が必要だ。なぜなら、このようなアプリやサービスは、我々大人が利用することを前提として作られていて、児童生徒の発達段階によっては、うまく活用できない可能性があるからだ。それは単純に画面が分かりにくいとか、操作手順が多いということだけではない。コンピュータやネットワークの仕組みや概念をある程度理解していないと扱いが難しいということもある。もちろん情報リテラシーの習得、いわゆる「情報の科学的な理解」は大切なのだが、コンピュータの活用で思考が途切れたり、本来の学習活動と関係のない操作に授業時間が消費されたりして、その時間の中で達成するべき学習内容にたどり着けない、学習活動が成立しないということでは本末転倒になる。

対話的であることと児童生徒1人1台の端末

先の学習指導要領によると、「3つの思考・判断・表現の過程」として、例えば、以下もあげられている。

「・精査した情報を基に自分の考えを形成し表現したり,目的や状況等に応じて互いの考えを伝え合い,多様な考えを理解したり,集団としての考えを形成したりしていく過程」

このような学習過程を授業の中に位置づけるために役立つのが、児童生徒が学習活動でコンピュータを使うことを想定して作られた学習活動ソフトウェアだ。例えば、学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』には簡易なプレゼンテーション資料を作成できる[発表ノート]がある【図1】。[発表ノート]は、我々大人が普段利用している文書作成やプレゼンテーションのアプリと違い、ツール上から[カメラ]を直接起動し、撮影から挿入までシームレスに行える。児童生徒が手間をかけずに自分の考えを表現できるように作られていて、互いの考えを手軽に伝え合える良さがある。

プレゼンテーションについていえば、「プレゼンテーション資料を作成するため」ではなく、「プレゼンテーションの力を育むこと」をめざして研究開発した[シンプルプレゼン]の活用を勧めたい【図2】。児童生徒が要点を整理し、自分の考えを簡潔にまとめて伝える力、ひいては情報活用能力の育成につながる。

そして、児童生徒が自分の考えを形成し、表現したものは、教師が[比較表示]や[画面一覧]で提示するとよいだろう【図3】。多様な考えを理解し、あらためて自分の考えを整理することができる。加えて、グループでスライドを共有し、協働編集できる[グループワーク]や自分の考えや立ち位置を表明し、学級で視覚的に共有できる[ポジショニング]を使えば、全体の議論場面で「集団としての考え」を形成することに大いに活用できるだろう【図4】。

児童生徒の思考力・判断力・表現力の育成、そして集団として考えを形成する過程までを踏まえて開発されている「学習活動ソフトウェア」を、ぜひ有効に活用してほしい。

深い学びであることと児童生徒1人1台の端末

先の学習指導要領によると「3つの思考・判断・表現の過程」として、例えば、以下もあげられている。

「・思いや考えを基に構想し,意味や価値を創造していく過程」

自分の考えを持ち(そのような場を保証し)、場に応じて考えを伝え合い、合意形成していく児童生徒を教師がどのように指導していくのか、教師の力量が問われる。

例えば、グループでの話し合いの場面では、教師が机間指導でどのような助言をするのかが重要だ。そうしたとき、教師は手元の端末で児童生徒の[画面一覧]を確認すれば、どの児童生徒に注視するべきなのかを考えて指導できる【写真1】。こうしたことの積み重ねが、深い学びへ導くこととなるだろう。

1人1台端末の時代に突入する今だからこそ、
「授業づくりの原点」に立ち戻って考える研修を

教員研修の充実と教師の負担軽減がポイント

教員研修の充実が、より一層重要になるだろう。児童生徒1人1台のコンピュータ時代に突入する今だからこそ、コンピュータやICT機器の操作習得ではなく、「授業づくりの原点」に立ち戻って考えるような研修が必要だ。児童生徒の思考がどのように広がり、深まっていくのか。そのためには児童生徒にどのような支援が必要なのか。そして先述したような、個別、協働、一斉をどのように授業に取り入れるのか。授業づくりの研修を充実させてほしい。

今後、「児童生徒1人1台環境整備・運用・活用」がますます加速していくだろう。その際に、いつまでも教師のコントロール下でしか使えないのであれば、それは宝の持ち腐れになる。「児童生徒が使いたい時に使いたいように、自ら判断して鉛筆やノートのように使っていく」ことこそ、望まれる姿だと筆者は考える。その際に、研修は単なる操作習得研修に終わることなく、児童生徒が自らの判断で最大限活用できるような情報活用能力の育成について再考していく機会を設けることも急務である。

それから、これはかつての「フューチャースクール推進事業」などを経験した教師は実感できることだと思うが、児童生徒1人1台が実現すると、これまで教育委員会や学校が経験したことがない数の端末が学校に導入され、学校でそれらの運用や管理をすることになる。そのときに、多忙を極める教師に端末のメンテナンスや管理でさらに手間を取られるようなことは避けたい。各教育委員会は、ICT支援員などの配置はもちろんのこと、多台数の端末の運用管理に役立つソフトウェアなども導入し、端末管理の負担軽減や効率化を検討してほしい。

そして各学校においては、情報担当の教師が1人で抱え込まないような体制づくりが急務だろう。学校全体で組織として、児童生徒1人1台端末の活用を推進できる体制をつくり、子どもたちの学びの充実につながる方策を考えてほしいと思う。

(2020年4月掲載)