学習指導要領/教育の情報化

新学習指導要領がめざすもの

簡潔に話すことは、ものすごく大事なテクニック。
それが、表出する力を育むのです。

表出する力

表現すべき内容が獲得できたら、次はそれを的確に表出する力が必要になります。しかし、現在の若い人たちを見ていますと、あまりにも表出技能に懲りすぎていると感じます。表現においても、「すべ」となる表出の仕方があります。その1つが「僕はこう思います。その理由は……」という話し方です。

例えば、3学期にはいろいろな研究大会が行われます。その際はぜひ、発表されている学校のスライドの提示方法に注目してみてください。例えば、全国大会であれば「本校は○○県の○○地区にありまして……」といったことを、長々と一生懸命に話したりしています。そして、「今までこうしたことに取り組んできましたので、これからそれを発表します」と言うのです。これでは何も的確に表現できていません。本来なら、最初に「本校の今年の目標はこれでした。これを明らかにしたかったのです。その結果、こういうことが分かりました」といったことを話すのです。つまり、結論を先行させていく話し方です。まず自分はこういうふうに考える。あるいは、こういう目的に対してこうした結果が得られた。それを先に言って、その後に手続きを述べるという話し方を、学校文化につくらなければならないと思います。

簡潔に話す。そのために時間を短くしようとするのは、ものすごく大事なテクニックです。それを小学校、中学校、高等学校でやらなくてはいけない。あるいは大学として、やらなくてはいけないと思います。それが、表出する力を育むのです。

そのときに基本型になるのは「僕はこう思います。その理由はこうだからです」という形です。理科の場合なら「こんな実験結果から、こうしたことが言えます」と言い、社会の場合は「僕はこう思います。こうした資料をこういう視点で読んだからです」となる。各教科等の中で練習しなくてはいけません。

この繰り返しによって、表現力は高まっていくと思います。それを抜きにして言語技術にとらわれると、単なる技術論に陥ってしまいます。そうではなく、的確に表出する技能を獲得するという捉え方で、各教科等を考えるべきではないかと思います。

自ら勉強したくなるような「ターゲット」になる人を
子どもたちの側に配置することです。

学びに向かう力・人間性等の涵養

次に、「学びに向かう力・人間性等」について。私はこの学びに向かう力というものが非常に重要な意味があると思っています。結論を言えば、「他者から学べ」ということです。 私が広島大学附属福山中・高等学校(以下、福山附属)の校長をしているときのことをご紹介します。その当時、福山附属は文部科学省の研究開発学校の指定を受け、科学教育「サイエンスプログラムの研究開発」と「サイエンス・パートナーシップ・プログラム」(SPP)を行っていました。その一環として最先端の科学に取り組まれている方をお呼びして、毎月1回土曜日の午前中に生徒たちにレクチャーしてもらうという実践をしていました。

実は、福山附属に入学してくる生徒のご両親には医療関係者が多く、生徒たちの志望進路もご両親と同じく医師や薬剤師などの医療関係が大半を占めていました。しかし、この取り組みを通じて志望進路が変わり、工学部や理学部に進学する生徒が出てきました。保護者から「いったい、何があったのか?」という問い合わせもあり、私もその理由が分からなかったので追跡調査を行ったのです。

その調査で京都大学の理学部に進学したある子どもにヒアリングをすると、「僕は、京都大学のあの先生の、あの授業を聞いて、僕もあんな世界に入りたいと思って勉強を始めた」と言うのです。これは、何を意味するのか。子どもが勉強をするようになるために、「勉強しろ」とは言わなくていい。自ら勉強したくなるような「ターゲット」になる人を配置すればいいのです。

小学校の場合なら研究者などではなく、一生懸命に生きている人を配置して、触れさせればいいわけです。例えば、パン屋さんでも何屋さんでもいい。そういう方々と触れ合うことによって、子どもたちは「あんなふうになりたい」「こんな生き方がしたい」という気持ちを抱くようになります。私は、それが「学びに向かう」ことなのだと思います。

ですから、無理強いをして「○○をしなさい」と言うのではなく、いかにターゲットになるような人と子どもたちを触れさせるか。その最も身近な例として、先生方の1人ひとりもターゲットだといえます。先生が毎日疲れた顔をしていたら、子どもたちは決して学びません。「自分が生きるターゲット」を持たせるということが、学びに向かうための大きな「すべ」なんだと思います。

そのためには、先生や学級の子ども同士の関係が大事で、子どもたちの中に「友達から学んでいいんだ」という文化をつくらなくてはいけません。さらに言えば「人の意見は、僕の意見と同じように大事なんだ」という文化をつくっていくのです。つまり、人間性の育成は、学級経営と絡んでいるのです。

各教科等における見方・考え方

次に、「各教科等における見方・考え方」です。これは、各教科等の特質によって異なる見方や考え方があります。国語であれば「言語」、算数・数学なら「数・量・形」、社会科では「社会現象」、理科は「自然現象」というように、子どもたちが扱う対象が異なり、それぞれに特質があるはずです。扱う対象に異なる特質があるならば、それらに働きかけるときにも、それぞれ固有の視点があるはずです。そして、それに基づいた方法が考えられるのではないかと考え、新しい学習指導要領では「見方・考え方」を打ち出しています。

各教科等では、子どもが扱う対象、例えば

言語
数、量、形
社会現象
自然事象

}

というように対象が異なる

対象への固有の働きかけ方がある

  • ① 物事を捉える視点
  • ② 考え方:思考の方法

この見方・考え方が全教科で示されているのは、教科ごとに固有のものを見つけ出そうとして、あるいは子どもたちに対して固有のものを育成しようとして示されています。知識や技能は教科等の共通の話で、見方・考え方は固有性の話ですから、物事を捉えるときに目の付けどころを意識して、それに基づいた方法を考えればいいと思います。

教科等の共通性と固有性の2つをカリキュラム案として、今回の学習指導要領が具現化したわけです。具体的には、教科ごとの内容をご覧いただければと思います。

どのような学習指導を展開するのか

最後に「主体的・対話的で深い学び」について述べさせていただきます。これについても、言葉だけが一人歩きしている感じがしています。また、「深い学びとはいったい何か」といった、よく分からない議論ばかりが先行している印象があります。ですから、この点についても「すべ」といえるレベルまでかみ砕き、ブレークダウンした方がいいと思います。

主体的な学び

各教科等では、問題解決という形で学習指導過程が構想され、展開されています。その問題解決の過程はおおむね5つぐらいに区切られています。これは6つでも、7つでも構いませんし、逆に導入・展開・結末の3つだけでも構いません。いずれにせよ、子どもたちが主体的になるには、①自分で問題を見いだし、②自分で見通しを立て、③そして自分で解決方法を考え、④さら自分で実行結果を整理して、⑤自己の問題解決の過程を振り返るというステップが必要になります。

問題解決過程において主体的になる「すべ」

  • ① 問題の見いだし …… 違いを見つける
  • ② 見通しの発想 ……… 既習との関係づけ
  • ③ 解決方法の発想 …… 既習との関係づけ
  • ④ 実行結果の整理 …… 問題や見通しとの関係づけ
  • ⑤ 振り返り …………… 実行結果を問題や見通しなどの他の過程の関係で整理

では、それらが「自分で」行えるようになるには、どうすべきかを考えなくてはなりません。例えば、子どもたちが自分で問題を見いだすためには、あらかじめどんな力をつけておかなければならないのか。それは、「違いを見いだす力」です。これは普段の授業で徹底して、その力がつけられるような方略を考えなければいけません。

また見通しを立てる、あるいは解決方法の発想には、既習と関係づけることが「すべ」にあたります。「これまで学んだことを、うまく使って」と言って導いてあげることができます。そして、絶えず「既習と関係づける」ことが、子どもたちの頭に思い浮かぶようにならなければいけません。

実行結果の整理でも、「結果をまとめてごらん」とか「整理してごらん」と言うだけではなく、問題や見通しとの関係によって整理することが大事だと教える必要があります。つまり、自分が見いだした問題や見通しと実行結果とを比べて、整合するという「すべ」を身につけさせることが必要です。また、振り返りは結果が出て良かった、悪かったということではありません。何が分かって、何が分からなかったのかをはっきりさせることです。こうした「すべ」に基づいた取り組みによって、主体的な学びができるようになります。

対話的な学び

続いて、対話的とは何か。「目標に関する見通しを実行し、自分にない考え方を他者から獲得することをめざす」と少し堅い表現をしていますが、要するに「他者から考えを獲得する」ことです。先ほど、話をするときには「僕はこう思います。その理由は……」という形で、簡潔に話すことが大事だと申し上げました。そして、対話をするときは「主張」と「判断」と「根拠」あるいは「主張」と「判断」というものを軸にすることで内容を把握し、整理できます。判断は同じだけど主張が違うときもあれば、主張は同じだけれども判断が違うこともあります。こうした聞き方ができるのは、「比べる力」に起因しているわけですが、こうした力を身につけて人の話を聞くことで、「自分にはない考えを他者から獲得」できるようになります。繰り返しになりますが、その前提として簡潔に話せる力が必要です。

対話的になる「すべ」
目標に関する見通しを実行し、自分にない考え方を他者から獲得することをめざす ▽ 話し合いの「すべ」

  • ① 自己の考えを、判断と根拠という関係で整理する
  • ② 他者の考えを、判断と根拠の関係で捉える
  • ③ 自己の判断と根拠を、他者と比べる
  • ④ 自己の判断と根拠の修正

深い学び

最後に深い学びには、いろいろな定義の仕方があり、「ディープ・ラーニング」などとも言われます。ひと言で言えば「自分がどんなふうに変わったか」です。自己成長の自覚ですから、授業を始める前と授業が終わった後で、自分がどんなことが分かって、どんなこと分からなかったのか。あるいは、自分がどんなふうに変わったのかということです。それに加えて、友達はどんなふうに自分に影響しているか。これだけです。

深い学びになる「すべ」

  • ① 振り返りで自己の見通しや解決方法が変容したという自己成長の自覚
  • ② 実行結果を、目標や見通し、実行方法との関係で整理しながら他のグループのそれらとを比較し、自己のものを修正し、豊かになるという自己成長

こうした視点で捉えていただければ、現在は「主体的・対話的で深い学び」という言葉だけが先行しているところから脱却し、本当の意味での「主体的・対話的で深い学び」が実現するのではないかと、私は考えております。

『東菅小学校の7年間の物語』

『東菅小学校の7年間の物語』
思考の「すべ」を獲得した子どもたち

川崎市立東菅小学校 授業研究会 監修:角屋 重樹

20年先をいくといわれる東菅小学校の姿と、その取り組みを紹介

ごく普通の小学校、川崎市立東菅小学校。視察に訪れた人々が驚くのは、自分たちで考え、自分たちで判断し、自分たちで話し合っている子どもたちの姿です。「考えなさい」と言っただけではだめ。子どもたちに思考の「すべ」を獲得させることが大切……とする角屋重樹先生の指導のもと、同校の先生たちの7年間にわたる試行錯誤の中から生まれてきた「学校力」を明らかに。「思考力・判断力・表現力」が育つ先進事例がここにあります。

『なぜ、理科を教えるのか』

改訂版『なぜ、理科を教えるのか』
理科教育がわかる教科書

角屋 重樹 著

本物の学習指導力をつけたい先生へ、理科教育の3本柱を丁寧に解説!

理科の目的である「子どもが自然の事物や現象と関わることによって、人間性を豊かにしていくこと」を実現するための指導法を明らかにしています。教育基本法や新学習指導要領の改訂の主旨、授業改善方向性の解説を充実。自然科学と理科の違い、内容区分の考え方などの理科教育の成り立ちや仕組みの理解を容易にします。問題解決の授業づくり、評価の在り方の他に、学習指導案の作成方法を加筆。実践に役立つ情報が満載です。

(2020年2月掲載)