学習指導要領/教育の情報化

小学校プログラミング教育の現状と展望

先生方も経験していない
プログラミング教育にどう取り組むべきか

佐藤 幸江金沢星稜大学前教授

これから変化の激しい未来がやって来ると予想されています。その未来で、豊かな社会を築き、力強く自己実現していける子どもたちを育てるため、教育の在り方も変わろうとしています。本日のテーマである「プログラミング教育」は、私たちも教育を受けた経験がないものですので、皆さまもどう取り組むべきか、悩んでいらっしゃるのではないでしょうか。

「プログラミング的思考」というのは日本特有の言葉なのだそうですが、文部科学省は「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要」か。また、その記号を「どのように組み合わせたらいいのか」「組合せをどのように改善していけば」いいのかといったことを「論理的に考えていく力」だと定義しています。

これらは、単にプログラミングを行うためだけではなく、問題を見つけて解決する際に働く力となることが必要であり、学習の基盤となる資質・能力として位置づけられた「情報活用能力」の一部であると捉えられています。こうした力を育むためには、【図 1】にありますように小学校から高等学校までを見通して「小学校はどこを担うのか」を視野に入れて考えていく必要があると思います。

【図1】

新学習指導要領の解説では、小学校段階においてプログラミング教育に取り組むねらいを「教科等で学ぶ知識及び技能等をより確実に身に付けさせることにある」としています。これは、同じく解説にあるように「児童がプログラミングを体験しながら、コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動」を、各教科の特質に応じて行うことになろうかと思います。しかし、この言葉だけでは、なかなかイメージが湧かないかもしれません。文部科学省からは「小学校プログラミング教育の手引」の第一版(平成30年3月)と第二版(平成30年11月)が公表されています。また、未来の学びコンソーシアムが「小学校を中心としたプログラミング教育ポータル」というWebサイトを開設していますので、関心をお持ちの先生はぜひご覧いただき、参考にされるとよいと思います。

アンプラグド・プログラミングの
学習活動のねらいと留意点

清水 匠茨城大学教育学部附属小学校教諭

コンピュータの仕組みや考え方を学ぶアンプラグド・プログラミング

私からは「アンプラグド・プログラミング」について、実践事例を交えながら発表します。

私は以前、コンピュータを使わずに情報科学を教えるために「コンピュータサイエンスアンプラグド(CSアンプラグド)」という学習法があることを教わりました。なお「アンプラグド」とは、単に「コンピュータを使用しない活動」という意味ではなく「コンピュータの仕組みや考え方を学ぶことを目的にした活動」と捉えた方が良いのではないかと思います。つまり、プログラミング活動以外の用途でコンピュータを使用し、活動を通じてコンピュータの仕組みや考え方を学ぶのであれば、それはアンプラグドの範疇に収まると考えています。

それを踏まえて、コンピュータを活用する良さを生かして、コンピュータの仕組みそのものを考えていくという学習を構想しました。本日ご紹介するのは、6年生算数科の「形が同じ図形(拡大図・縮図)」の単元です。目標としては「対応する辺の長さの比と角の大きさをもとにすれば、拡大図か縮図かを見分けることができる」という基本的な概念の習得をめざします。この授業では、拡大図と縮図、合同な図形の3種類と、それらのどれでもない図形を用意し、見分けるためのフローチャートを作りました。【図2】

このとき、教科の目標とプログラミングの目標の双方が両立しなければならないため、プログラミング的思考を活用することで、教科の目標が達成できるという入れ子構造を作ることがポイントです。この授業では、条件分岐を用いたフローチャートを作成することで、おのずと「辺の長さの比と角の大きさに注目すれば見分けられる」という根拠となる部分が見いだせるようになり、算数科として学ぶ内容が押さえられるという構造になっています。

数学的な見方・考え方を働かせる時間を十分に確保することができた

なお、フローチャートの作成はコンピュータで行いました。紙でフローチャートを作ると、一度書いてから、消したり入れ替えたりすることがとても大変になるからです。よく、ホワイトボードなら試行錯誤できるともいわれますが、子どもたちは一度書いたものを消して、もう一度書くということをあまり好みません。特にフローチャートの作成では、順番を入れ替えたり、大きく移動させたりしながら考えをまとめていきます。このような編集は、ホワイトボードでも手間がかかるものです。

その点コンピュータを使うと、消したり移動させたりすることへの心理的ハードルが大きく下がります。特に、本時で使用した『SKYMENU Class』の[プログラミング]機能では、記号を動かすと接続した線も移動してくれたり、移動したことで線が交差してもトンネル状になったりして、自動的に整理してくれる良さがあり、子どもたちも思い切って考えを変えながら、試行錯誤できていたように感じました。

子どもたちの振り返り文書を見ると、見た目で判断するのではなく「元の図形との辺の長さの比や角度に注目すればよい」と結論づけており、見定める視点が獲得できていることが分かります。さらに、拡大図の長さの比は1より大きく、縮図は1より小さく、合同は1だとし、それぞれの特徴や相違点を理解している子もいました。

また、フローチャートは順番に進み、根拠を持って判断していくので、順序性が生じます。それを意識して、効率よく調べたいときには、まず比を使った方がいいのではないかと思考する子もいました。当然、順序性は人それぞれですので、角度を測った方が早いという子もいれば、比で判断した方が一度で3種類のどれなのかが分かるという子もいます。いずれにしても、それぞれに試行錯誤するなかでこうした視点を獲得していきました。

このように、算数科としての一番の目的である、数学的な見方・考え方を働かせる時間を十分に確保することができたのです。その結果、ほとんどの児童が本時の目標である、辺の長さの比と角に注目すれば良いということを言葉や図で説明するという、最終ゴールに至ることができました。

本時の課題を達成するための核となるのは、数学的な見方・考え方を働かせた算数科の学習活動ですが、本時の場合はそれが「プログラミング活動」になっているわけです。フローチャートによる条件分岐や順序という考え方を用いて算数の活動をすることで、算数の学習のまとめに到達するという仕組みです。算数の学習として、普通に算数の活動をしても到達でき、プログラミングを取り入れることで、さらに深まるということです。

そう考えると、「数学的な見方・考え方」と「プログラミング的思考」には、ある種の近似性があるのではないかと考えられます。なので、普通に算数をやろうと思い「こういうことをやらせたい」と思ったことがヒントになって、プログラミングの考え方とつながっていく。私が学習指導案をひらめくときは、比較的このパターンが多いです。

なぜなら、基本的なプログラミング的思考として「順次」「反復」「分岐」がありますが、これらはさまざまな学習の中に含まれていて、私たちも日常的に使っている考え方だからです。このように、プログラミング的思考そのものを取り扱うことができるという点と、普段の授業の延長線上でプログラミング教育ができるというのが、アンプラグド・プログラミングの良さでもあると思います。

プログラミング的思考と教科の学び

園田 泉横浜市立北山田小学校教諭

学んだことを伝える手段の一つとしてプログラミング活動に取り組む

横浜市立北山田小学校では、昨年度(2018年度)からプログラミング教育を実践するため、各学年から希望者を1名ずつ募って取り組んできました。まだ、駆け出しという段階の実践ではありますが、これから一歩踏み出そうとされている先生方に、こういう実践があるということが紹介できればと思います。

総合的な学習の時間の大単元の流れをご説明しますと、社会科の「ごみのゆくえ」の学習でリサイクルについて学び、自分たちも身近な牛乳パックを紙にしてリサイクルしようということになり、実際に紙すきに取り組みました。次に、それを絵手紙やランプシェードといった紙製品にしました。

このような活動に並行して、国語科で「広げよう紙のよさ」というテーマで、学習してきた紙のことを発表する機会を設けました。これら社会科や国語科、総合的な学習の時間など一連の活動を通して、子どもたちには自然と「伝えたい」という思いが芽生えていきます。

国語科の活動では新聞も作ったのですが、低学年の子どもたちはなかなか読んでくれません。そこで、学習してきたことを伝える手段の一つとして、『プログラミングゼミ』というソフトウェアを使ったプログラミング活動を実践することにしました。

実は、この取り組みの少し前から『プログラミングゼミ』がインストールされたタブレット端末を、教室に置いておきました。このソフトウェアには、あらかじめ完成されたゲームも入っていて、それを自分たちで改造することもできます。中休みや昼休みになると、子どもたちはそのゲームで遊びます。そして、子どもたちが慣れてきた頃に「なぞなぞシリーズ」というゲームを改造して、自分たちで問題を作成するような時間も設けました。

その上で、国語科で作成した新聞は「低学年の子どもたちが見ていない」という状況を伝え、何か良い方法がないかと考えていくなかで、自然に「ゲームにして楽しく伝えてみよう」という流れになるように工夫しました。

自分が想定する結論・姿・動きを正確に見通せる力を育むプロセス

ゲームの内容は、「かみははっぱでできている。○か×か」という問題に対して、1年生が○や×の画像を押すと「せいかい」という言葉が出て、「かみは木でできているよ」という解説が表示されるようなもの。また、自分たちが取り組んだ紙作りの方法について、各工程を記録した写真を動かしながら、どの順番で行うのか考えて並べ替えるようなものです。

プログラミング的思考における想定から実際までのプロセス【図3】を見ると、まず全体像を描いて影響を見通し(想定)、それを動かして(動作)、どうだったのかを確認する(実際)という流れがあります。これは「自分が想定する結論・姿・動きを正確に見通せる力」という資質・能力を育むプロセスです。

【図3】
※出典:放送大学 中川 一史 教授著「小学校プログラミング教育の考え方と留意点」より

この単元に当てはめた場合、「想定」にあたるのは、プログラミングした結果として、キャラクターがどう動くのかというアニメーションを想定することになります。

しかし、実はプログラミングに取り組む前に、想定すべきことがあります。1年生を対象にしたゲームを作るわけですから、1年生のことを想定しなければいけません。例えば、1年生は漢字が読めません。また、分かりやすい操作でないと使えません。さらに、面白いものでなければ飽きてしまいます。

このように「1年生はこうだろう」という想定を行い、問題を作成しました。当初は「かみは、いつからある?」というような、教員の私ですら簡単には答えられないような問題を作っていたのですが、次第に「選択問題にすれば、1年生でもできるんじゃないか」といった思考を働かせるようになっていきました。こうやって、まずは紙の上で問題を作る活動を行いました。

次にプログラミングに取り組むのですが、このときも紙で「構想シート」を作り、キャラクターをどのように動かすのかといったこと想定した上で、プログラミングを行いました。実際に完成してみると、思っていた以上に文字表示が早かったり、想定していた場所に写真が出なかったり、正解・不正解が分からないといった、さまざまな問題点が見つかります。それらを踏まえて、子どもたちは何度も「想定」「動作」「実際」を繰り返しながら、ゲームを作り上げていきました。

そして、自分たちが「完璧だ」と言えるものができた後、1年生に使ってもらう前に、2年生に体験してもらいました。すると、ゲームの操作方法が分からなかったり、タッチされる場所が違っていたり、画面を連打する子がいたりといった、大きな課題が出てきました。つまり、「1年生はこうだろう」という最初の想定が非常に甘かったということです。

この結果を踏まえて、さらに改善を繰り返してゲームを完成させ、最終的にゲームセンターを開店して1年生たちに楽しんでもらいました。

当初は、この活動におけるプログラミング的思考というのはアニメーションにおける想定・動作・実際だと考えていたのですが、実は対人的な部分にも思考を働かせなければいけないんだということを、この実践から学ぶことができました。

この4年生たちが、5年生や6年生になり発表を行うとき、今回の経験を通じて学んだ技術をほかの教科でも活用するようになるのではないかと思っています。プログラミングの流れは分かっているので、この先にプログラミング学習を行う際も、自然と取り組めるだろう実感を持っています。

小学校プログラミング教育の
円滑な実施を支えるヒト・モノ・コト

小林 祐紀茨城大学准教授

地域にどういった人材がいるか早期に目星をつける

私からは、プログラミング教育実施に向けた準備の進め方について、ヒト・モノ・コトという3つの観点でお話します。茨城県を中心に全国各地の先生方にご協力いただき、さまざまな実践事例や研修事例を収集していますので、それらの事例を交えながらお伝えしていきます。

まず「ヒト」について、それは授業を支援してくれる人材です。平成29年度末には、全国で約2,800名のICT支援員が活躍されています。また、地域のボランティアの活用もあります。私は、決してボランティアを推奨しているのではなく、本来的にはICT支援員に入っていただくのがいいと考えています。しかし、それが難しい自治体もあるかと思いますので、そうした場合には地域の協力を得ることも大切ではないでしょうか。

ある自治体で、ICT支援員とは別にプログラミング教育の市民学習支援ボランティアを募ると、教育委員会の予想以上の応募があったとも聞いています。また、ある自治体では、土曜授業に大学生がボランティアとして来ている例もあります。企業や保護者の方のご協力を得ることも視野に入れ、わが地域にはどういった人材がいるのかという目星を、早期につけることが必要になっているのではないでしょうか。

例えば、地域によっては、地元の科学館との連携を図るといったことも考えられます。石川県の小松市では、教育委員会が主導して5時間のプログラミング教育授業パッケージを開発しました。初めに、子どもたちに関心を持たせるため「理解の学習I」(2時間)として学級担任が授業を行います。そして次に、子どもたちを科学館に連れて行くとスタッフが「体験の学習」として2時間みっちりと体験させてくれます。科学館に連れて行くといっても、科学館の手配したバスが子どもたちを迎えに来てくれます。その後、学級に戻って「理解の学習II」(1時間)を、再び学級担任が実施します。このように、すべてを科学館に任せるわけではなく、押さえるべきところは先生が押さえているわけです。

急務といえる実践事例の提供にはすでにある「モノ」も活用

続いて「モノ」について、それは授業の実施を支える環境整備です。プログラミング教材は、大きく分けて2つのパターンが考えられます。1つ目はWebの画面上で完結する学習サービス、2つ目は目の前で実際に物が動く教材です。先ほどの園田先生のお話にもあるように、ロボット教材は、子どもたちの関心度が非常に高そうです。しかし、Web上の学習サービスは無料のものが多いので、どちらも捨てがたい教材です。いずれにしても、テキスト型プログラミング言語より、ビジュアル型のプログラミング言語を用いたものが主流を占めてきているのが現状です。

また、「モノ」といえば、タブレット端末をはじめとするICT環境です。最低限の環境として、どの程度の整備が必要なのか。来年度からの全面実施に向けて、真剣に考えなくてはならない部分です。どういったものが、どれぐらい必要なのかを調査して、具体的に声を上げていくという動きが求められるのではないかと思います。

そして「モノ」という観点で考えるなら、「事例の提供」もその一つです。未来の学びコンソーシアムが提供している『小学校を中心としたプログラミング教育ポータル』というWebサイトがあります。このWebサイトには、教科調査官の目で見て学習のねらいがしっかりと入っている事例が集められており、比較的取り組みやすいものが提供されています。事例の提供は急務ですから、すでにある「モノ」を活用することも必要なのだと思います。

まず仲間を増やすことを優先し短時間・自由参加の研修も

そして、最後に「コト」について。プログラミング教育は、多くの小学校の先生にとって初めて体験ですので、非常に不安だと思います。しかし、不安を解消する最もいい方法は「それが何者かを知ること」です。そのために「自らやってみること」が一番の近道です。その際に、どうしても必要になるのが研修です。

実際に核となるのは、校内研修だと思います。教育委員会が主催する研修に比べて、校内研修は自由度が高いので、参加者のニーズに応じた研修が実施できるというメリットもあります。90分や120分というものではなく、15~30分の研修でも構わないと思います。そして、全員参加の研修もあれば、自由意志による参加の研修もあるというように、組み合わせて実施することが効果的だと思います。

私自身も長年、小学校で情報教育の担当者をしてきましたので、「どのようにして、先生方を巻き込むか」について頭を悩ませてきました。その結果、私が最終的に至ったのは、「イノベーター理論」というものです。【図4】

【図4】

これは、スタンフォード大学のエレベット・M・ロジャース教授が提唱したものですが、ここで言う「イノベーター」という層(2.5%)は、おそらく情報担当者やプログラミング教育に非常に関心がある、稀有な先生にあたるだろうと思います。次に「アーリーアダプター」と呼ばれる層(13.5%)があります。この層はフットワークが軽く、いいと思ったらとにかく「やってみようよ」と動いてくれる人たちです。年齢や経験に関係なくいらっしゃいます。イノベーターとアーリーアダプターを合わせると全体の16%ですが、まずはここまでの先生方を味方につけて、一緒に動くわけです。そうすると、一気に風向きが変わると言われています。しかし、多くの学校や自治体において、この16%に到達する前に、具体的にはラガード(16%)と呼ばれるかたくなに変わろうとしない人たちを、早く変えようとしてしまい、負担が増えて動きが重くなってしまっているケースが多いのではないでしょうか。むしろ私は、まず仲間を増やすということを優先して注力する方がいいと思います。

大切なのは、研修は短時間で行い、自由意思による参加を認めることです。この話をすると、多くの学校で「そんなことしたら、来ない人は絶対に来ませんよ」と言われますが、実際にはそんなことはありません。研修事例を集めていると、確かに最初は半分程度の参加率だとしても、2回、3回と繰り返していくうちに、みんなが参加するようになったというケースがとても多いです。ぜひ、皆さんは先生だからこそ、同じ先生方のことを信じて取り組んでほしいと思います。

例えば、茨城県内の小学校で実施された校内研修では、いろんな種類の教材をそれぞれ一つずつ用意して、グループごとに体験してもらっていました。そして、「Plus(良い面)」と「Minus(悪い面)」そして「Interesting(面白いところ)」という3つの観点で、体験を通じて感じた率直な意見をPMIシートに書き出していきます。その後、書き出した意見を踏まえて、みんなで年間指導計画を見ながら「どの場面に位置づけられそうか」「これはちょっと使いづらいね」といったように話し合う研修が行われていました。

当然ながら「ヒト」「モノ」「コト」は、いずれか一つだけが大きくてもいけません。例えば、「モノ」が豊富にそろっている。でも、どう活用して良いか分からない、では困ります。あるいは、研修(コト)はたくさん用意されているけれど、「モノ」がないから切実感がない、というのも困ります。やはりバランスよく進めていくことが、とても大切になると思います。

※学校とICTフォーラム(東京会場)パネルディスカッションより
(2019年8月掲載)