学習指導要領/教育の情報化

小学校外国語教育のポイント

2020年度から全面実施を迎える小学校新学習指導要領。
新学習指導要領における小学校外国語教育のポイントについて、直山 木綿子 先生(文部科学省 初等中等教育局 視学官)に解説いただきました。

はじめに

次年度、新小学校学習指導要領全面実施を受け、昨年度に引き続き、移行期最終年度となる今年度も、各教育委員会及び学校では、そのご準備をいただいているところである。

特に、今回の改訂で新しく導入されることになっている中学年外国語活動及び、高学年外国語科については、昨年度より移行措置として、中学年で外国語活動に年間15コマ、高学年で外国語科の学習内容を一部取り扱い、外国語科の指導を意識した外国語活動に年間50コマを取り組んでいただいているところである。もちろん、先行実施で全面実施時数(中学年外国語活動年間35コマ、高学年外国語科年間70コマ)で取り組んでいただいている自治体や学校も昨年度段階で全校数の3割程度ある。

そこで、本稿では、そのご準備に当たり留意いただきたいことのうち「『言語活動を通して』の理解と実践」を取り上げ、その具体の指導のあり方について述べることにする。

「言語活動」とは何か

まず、外国語教育における「言語活動」とは何かについて確認をしておきたい。新学習指導要領における外国語活動及び外国語では、次に示す通り、「言語活動を通して」コミュニケーションを図る素地/基礎となる資質・能力を育成することを目標としている。これは、小学校のみならず、中学校や高等学校においても同様である。

<外国語活動>

外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ、外国語による聞くこと、話すことの言語活動を通して、コミュニケーションを図る素地となる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。(傍線筆者)

<外国語>

外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ、外国語による聞くこと、読むこと、話すこと、書くことの言語活動を通して、コミュニケーションを図る基礎となる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。(傍線筆者)

小学校段階では、身近で簡単な事柄について
簡単な語句や基本的な表現を用いることが大切

今回、学習指導要領の改訂に当たり、小中高一貫して、外国語教育において育成すべき資質・能力である、「知識及び技能」と「思考力、判断力、表現力等」及び、両者を一体的に育成する過程を通し育成する「学びに向かう力、人間性等」の三つの柱を、「言語活動を通して」育成することが重要である。

この「言語活動」については、現行「中学校学習指導要領解説 外国語編」には次のような記載がある。「言語材料についての知識や理解を深める言語活動から、考えや気持ちなどを伝え合う言語活動まで」。この記載から、言語活動には二種類の言語活動があることが読み取れるが、このたびの改訂にあたり、この「言語活動」の捉えを、「小学校外国語活動・外国語 研修ガイドブック」(2017年6月 文部科学省)では、次のようにしている。「外国語活動や外国語科においては、言語活動は、実際に英語を用いて互いの考えや気持ちを伝え合う」活動。つまり、言語活動は、言語材料について理解したり練習したりするための指導とは区別されており、実際に英語を使って互いの考えや気持ちを伝え合うという言語活動の中では、情報を整理しながら考えなどを形成するといった「思考力、判断力、表現力等」が活用されると同時に、英語に関する「知識及び技能」が活用されることになる。

したがって、外国語活動や外国語科では、英語は使っているが考えや気持ちを伝え合う要素がない活動は言語活動とは言い難い。また、英語を用いず、日本語だけで情報を整理しながら考えなどを形成する活動は、やはり言語活動とは言い難い。言語材料についての理解や練習は、言語活動を成り立たせるために重要であるが、それだけで授業が終わることがないように留意する必要がある。

また、新学習指導要領には、「コミュニケーションを行う目的、場面、状況などを明確に設定」「簡単な語句や基本的な表現を用いながら,友達との関わりを大切にした」「具体的な課題等を設定し,児童が外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせながら,コミュニケーションの目的や場面,状況などを意識して」「児童の興味・関心に合ったものとし,国語科や音楽科,図画工作科など,他教科等で児童が学習したことを活用したり,学校行事で扱う内容と関連付けたり」などの記述がなされている。これらはすべて言語活動に関わるものである。

すなわち、言語活動を充実させるためには、「コミュニケーションの目的や場面、状況が明確で、教師と子供がそれを共有していること」、「子供が誰に何のために自分の考えや気持ちを伝え合うかを十分に意識できる場面設定や題材であること」等が大切であるとともに、初めて外国語に触れる小学校段階では、身近で簡単な事柄について簡単な語句や基本的な表現を用いることが大切である。

なお、【図1】は、小学校学習指導要領 外国語活動及び外国語科に記されている言語活動に係る文言のキーワードを記したものである。

このような要素が取り入れられている言語活動であるからこそ、子供たちは主体的に「どのように伝えるか」「どうすればより伝わるか」という思考を働かせて言語活動に取り組むことになると考える。

「言語活動を通して」指導する具体例

1)Small Talk

言語活動の具体例として、高学年用新教材We Can!では、Small Talk を提案している。この活動は、ライブで子供が本当のことを聞いたり言ったりする活動である。この活動のねらいは、既習語句や表現を繰り返し活用し、自分の考えや気持ちを伝え合わせる、できるだけ対話を続けさせることである。子供たちが、自分の考えや気持ちをどの既習語句や表現を使って言い表せばよいかを考えて選択し、表現する。そうやって相手に伝わったとき、子供たちの喜びは大きいであろう。また、友だちが使う既習語句や表現を聞いて、その使い方についての理解もさらに深まるであろう。このように、子供たちは、例え簡単な語句や基本的な表現であっても、身の回りのことについて英語で自分の考えや気持ちを伝え合うことに自信をもち、もっと英語で自分の考えや気持ちを伝え合えるようになりたいという思いを膨らませるであろう。 

この活動は、そのねらいから新教材5、6年生のみに、年間指導計画では、ほぼ2時間に1回程度設定している。具体的には【図2】のような進め方を提案している。

①まず、指導者が数名の子供とやり取りをして、話題とともに、対話の出だしの言い方等の提供をする。

②次に、子供がペアになりその話題についてやり取りをする。

③子供同士でやってみるとうまくいかないことが多い。その時こそが指導の時と考えたい。子供に「言いたかったけれど、言えなかったこと」「どう言ってよいかわからなかったこと」を発表させ、学級のみんなで、既習語句や表現でどう言い表せばよいかを考える。ここがポイントである。すぐにALTに尋ねたり、指導者が教えたりするのではなく、指導者は子供にどのような流れでそのようなことを言おうと思ったのかなどを子供に尋ね、学級のみんなが既習語句や表現で言い表せるように導くこと、ヒントを出すことが大切である。といっても、既習語句や表現だけでは言い表せない場合もある。その時は、ALTに尋ねて教えてもらったり、指導者が次回までに調べて来る約束をして今回は日本語で言い表したりするなどの対応が考えられる。

④再度、相手を替えて子供にやり取りをさせる。その際には、③で言い方を確認した語句や表現を使わせることが大切である。

なお、本活動については、新教材誌面には記載されておらず、文部科学省作成指導案にその詳細が記載されている。指導案は、文部科学省HP(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/123/houkoku/1382162.htm)よりダウンロードができるので、参照されたい。

また、国立教育政策研究所 教育課程研究センターによる教育課程研究指定校事業により、2018,19年度の二年間、京都市立朱雀第二小学校が外国語活動に関する研究指定校として、Small Talk に係る研究を行っている。研究初年度は、Small Talk を計画的に授業に取り入れ、その内容を教師自身が常時記録し、振り返るというプロセスを繰り返した結果、学級担任が外国語活動において英語を使用する量が増えるとともに子供の実態に合わせて英語を使うようになりつつあるという成果を出している。【図3】に示すのは、その成果の一端である、Small Talk 例である。

QRコードを読み取ると、音声とスクリプトをダウンロードできるようになっている。本資料及び研究の詳細は、国立教育政策研究所HP(https://www.nier.go.jp/kaihatsu/shiteikou.html)に掲載されているので、合わせて参照されたい。

このように例えば、Small Talk を通して、既習語句や表現を十分に使わせることが大切である。

デジタル教材も子供の実態に合わせてうまく活用を

2)Let’s Listen、Let’s Watch and Think

文部科学省が作成し全国の小学校に配布している新教材(中学年用新教材Let’s Try!含む)には、英語の音声を聞いて、必要な情報を聞き取ったり概要を捉えたりする Let’s Listen や、映像を見ながら英語でまとまりのある話を聞き、語句や表現の意味を推測したり話の概要を捉えたりする、また、聞き取った内容に関する質問に答えたりする Let’s Watch and Think という活動が設定されている。これらは、児童用及び教師用指導書に加えて作成・配布したデジタル教材を活用して行うものとして設定されている【図4】。

例えば、デジタル教材をクリックし、子供に "Let's listen and write your answers on your textbook." と指示を出すのではなく、指導案にもその指導の仕方を示している通り、言語活動を通して指導することが大切である。クリックする前に誌面にあるイラストや写真について子供とやり取りをして、子供にどのようなことが話されるのか予想したり、予想したことがあっているかを確かめるために聞いたり視聴したりするなどのねらいをもたせることが大切である。また、リスニングテストとして子供の聞き取り状況を判断するためのものではなく、どの子供もが自信を付けるための活動であることを考えると、すべての設問を扱うよりは、扱う設問を子供の実態に応じて選択し、どの子供もが英語だけど分かったと成就感を味わえるようにすることも大切である。

例えば、以下の誌面は、Let’s Try! 1 Unit 7 Let’s Listen (p.29)である【図5】。

いきなり、Let's Listen のマークをクリックして1番から3番までの音声を聞かせて、テキスト登場人物と作品とを線で結ばせるのではなく、次のように子供とやり取りをして「言語活動を通して」指導するようにしてはどうか。

まずは、三人の登場人物の名前を確認する。これらの人物は、Unit 2 から児童用テキストに登場しており、子供たちはすでに知ってはいるが、教室には様々な子供がいることを踏まえ、指導者は What's her / his name? と、スクリーン(あるいは大型テレビ)に映し出された映像のイラストを指して尋ね、子供と三人の登場人物の名前を確認する。

次に、四つの作品についても確認をする。例えば、左端の花の一つを指しながら What's this? と尋ねると、子供は Flower. と答えるであろう。そうすれば、That’s right. It’s a flower. A flower. A flower. Two flowers. と確認した上で、さらに How many hearts in this flower? と作品の中のパーツについて確認する。左から二つ目、三つ目について、子供は Candy. Christmas tree. と答えるであろうから、Do you like candies / Christmas? と子供とこれまでに慣れ親しんだ語句や表現を使ってやり取りをする。こうすることで、それらの語句や表現に十分慣れ親しませるようにする。

どの子供もが、四つの作品がどのような色や形でできているかがおおよそ分かったうえで、音声を聞かせる。その際にも、No.1 から聞かせるのではなく、子供にとって負担感の少ないものから聞かせるよう配慮することが大切である。例えば、この設問であれ、black stars や yellow star が扱われている右端や右から二番目の作品が、子供にとって分かり易いと思われる。

また、三つの設問全てを扱うのではなく、二つだけでもよいと考える。残りの一つは、今学年が終了する頃に改めて聞かせ、子供たちにこの単元を学習していた時よりも聞く力が結果として付いていることを実感させることも考えられる。このようにデジタル教材も子供の実態に合わせてうまく活用していただきたい。

まとめ

本稿では、誌面の関係上、今年度取り組んでいただきたいことのうち、「言語活動を通して」の指導を取り上げた。この言語活動を通した指導を行うことによって、外国語活動及び外国語科の指導を行う、小学校教師の英語力も向上されると考える。この小学校教師の英語力向上も、今年度取り組んでいただきたいことの一つである。

昨年度より、文部科学省は、小学校外国語教育の指導について専科教員の配置を行っているが、専科教員か、学級担任かの選択肢ではなく、「カリキュラム・マネジメント」の視点からも校長のリーダーシップの下、教育委員会とも連携し、目の前の子供の実態に応じてコミュニケーション能力の素地や基礎を身に付けさせるのに必要な指導力は何かを明確にし、ご準備をいただきたいと思う。

(2019年7月掲載)