学習指導要領/教育の情報化

学校における働き方改革について

なぜ働き方改革が必要なのか

学校現場の先生方に働き方改革について伺うと、「働き方改革を求められること自体に負担感がある」という声を聞きます。働き方改革がなぜ負担感となるのでしょうか。こうした状況を変えていくためには、私たち1人ひとりが、「働き方改革の目的」を考え、それを関係者全体で共有してできることから取組を始めていく必要があります。

まず、今の子どもたちが生きる未来とはどのような未来でしょうか。グローバル化や情報化により、変化が激しく予測困難な未来と言われています。そして、人工知能(AI)がより身近に生活の中に入ってきていると思います。AIは、人間が条件を設定すれば、膨大なデータの中から確率や統計の手法を駆使して最適な解を見つけるといったことが得意ですから、10〜20年後には今ある職業、仕事の半分くらいはなくなってしまうとも言われています。こうしたことは、新学習指導要領を検討する中でも議論されてきました。中央教育審議会の答申では、「1人ひとりが予測できない変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向かって関わり合い、よりよい社会と幸福な人生の創り手となること」が重要であり、「社会をどう描くかを考え、他者と一緒に生き、課題を解決していくための力の育成」が必要であると記されています。そのためには、教師が1人ひとりの子どもたちに向き合う十分な時間を確保することが一層大事となってきます。

新学習指導要領では、生きて働く「知識・技能の習得」だけでなく「学びに向かう力・人間性の涵養」「未知の状況に対応できる思考力・判断力・表現力等」の育成が重要であると強調しています。このため、「どのように学ぶか」という視点においては、「主体的・対話的で深い学び」、いわゆるアクティブ・ラーニングの実現が必要ですから、この観点から教師が授業研究をするための時間の確保もますます重要になっています。

大きく異なる「日本」と「諸外国」の学校の位置づけ

「学校」の在り方自体も改めて考えてみる必要があります。日本の学校と諸外国の学校を比べてみると、社会における学校の位置づけは大きく異なっています【図1】。諸外国の学校で教師の業務は、主に教科指導に特化していますが、日本は「知・徳・体」、すなわち教科指導、生徒指導、部活動指導などを学校が一体的に行うことが求められています。加えて、日本の学校は、地域社会の中核として地域コミュニティの活性化においても重要な役割を果たしています。

このように日本の学校は、様々な機能を担っており、子どもたちや家庭の抱える昨今の課題とともに学校現場が抱える課題は複雑化、多様化しています。先日文部科学省が公表した「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」でも、多くの項目で課題や事案の発生件数が増加していました。また少子高齢化や人口減に伴う生産年齢人口の減少に対し、外国人労働者は増加傾向にあり、引き続き、日本語指導が必要な児童生徒数も増加していくことが明らかであるなど、学校の業務の増大に伴って教師の負担増が見て取れます。

こうした状況に対応するため、文部科学省では、平成28年1月「次世代の学校・地域」創生プランを策定し、制度改正などに取り組んできました。「チームとしての学校」を掲げ、スクールカウンセラーなどの教員をサポートする多様なスタッフの配置を推進し、地域の方とも連携・協働して子どもたちを育む体制の構築を進めています。けれども、まだ十分な対策に至っていないというのが現状です。

【図1】「学校」の在り方の国際比較①

小3割、中6割の教員が、1か月80時間超の時間外勤務

平成29年4月に公表した「平成28年度教員勤務実態調査」では、前回調査(平成18年)と比較して、平日・土日ともに、小中学校の校長、副校長・教頭、教諭の勤務時間が増加していることが明らかになりました。特に、3割の小学校教員、6割の中学校教員が、1か月あたり80時間を超えるような時間外勤務を行っている実態が浮き彫りになりました。業務内容別に見ると、小・中学校ともに授業や授業準備の時間が最も伸びていました。これは10年前と比べて授業時数が増加した影響だと考えられます。2020年度から順次全面実施される新学習指導要領では、小学校の中高学年で外国語の指導が増えます。授業時数に対応して、働き方改革による対策は欠かせない状況です。また、土日の中学校の部活動の時間も増加していました。こうした中で、教職員の精神疾患による休職者数についても5,000人前後を推移する状況が続いており、深刻な状況にあります。

【図2】教員勤務実態調査(平成28年度)集計【速報値】~勤務時間の時系列変化~
【図3】教員勤務実態調査(平成28年度)集計【速報値】~1週間当たりの学内総勤務時間数の分布~

働き方改革の目的

これらの状況を踏まえて平成29年6月から中央教育審議会では学校の働き方改革について議論が進められてきました。12月には「中間まとめ」が取りまとめられ、この中では、働き方改革の目的について次のように記しています。

『……限られた時間の中で,教師の専門性を生かしつつ,児童生徒に接する時間を十分確保し,教師の日々生活の質や教職人生を豊かにすることで,教師の人間性を高め,児童生徒に真に必要な総合的な指導を持続的に行うことのできる状況を作り出すことが「学校における働き方改革」の目指すところである。』

注目するべきは、「持続的」という言葉です。持続するためには、持続できる環境が必要です。その一つが「学校・教師が担う業務の明確化や適正化」です。中央教育審議会では、これまで先生方が担ってきたさまざまな業務を「基本的には学校以外が担うべき業務」「学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」「教師の業務だが、負担軽減が可能な業務」の3つに分類しました。また、「勤務時間に関する意識改革」も重要です。ここで示された具体的な方策を踏まえて、文部科学省が実施する内容を「学校における働き方改革に関する緊急対策」として取りまとめ、平成30年2月には各教育委員会、学校に具体的に行っていただく取組をまとめて業務改善及び勤務時間管理等に係る取組の徹底について通知しています。さらに、教育委員会におけるこれらの状況について、「教育委員会における学校の業務改善のための取組状況調査」等により、毎年フォローアップし、市区町村ごとの結果もホームページで公表しています。こちらもあわせて参考にしていただければと思います。

2019年度概算要求の3つの柱

今、中央教育審議会では、これまでお話したような業務分担などに加えて「学校の組織運営体制の在り方」「学校の労働安全衛生管理の在り方」「時間外勤務抑制に向けた制度的措置の在り方」について議論しています。そして、これらの議論も踏まえて予算要求を行っています。2019年度の概算要求では、【図4】のように次の3つの柱を立てました。

1つ目の柱「学校指導・運営体制の効果的な強化・充実」については、例えば、小学校専科指導の充実として、授業時数の増える外国語教育への対応を検討しています。また、事務業務の軽減のために「共同学校事務室」の体制強化として、事務職員の配置を進めていきます。

2つ目の柱「教員以外の専門スタッフ・外部人材の活用」では、今年度から「チームとしての学校」の考え方で、事務業務をサポートするスタッフや中学校の部活動スタッフなどの拡充も進めていきます。

3つ目の柱「学校が担うべき業務の効率化及び精選」では、都道府県単位で統合型校務支援システムの導入や業務改善の実践研究事業など、効率的に業務を進められるように取組を進めていきます。

【図4】新学習指導要領の円滑な実施と学校における働き方改革のための環境整備

各自治体・学校の取り組み事例

静岡県教育委員会

静岡県教育委員会では、「やめる」「変える」「減らす」の手法ですべての校務の見直しを進めています。「学校が行うもの」「保護者・地域が行うもの」「学校と保護者・地域が行うもの」「その他関係機関が行うもの」で業務を仕分けました。そして、タイムマネジメントやワークライフバランスを重視し、教職員の意識改革を実施。教職員だけでなく、保護者、地域の方々を巻き込んだ取組を進めています。その結果、モデル校では、1か月あたり5時間程度、1年間で60時間超の時間外勤務時間の削減に成功しています。

埼玉県教育委員会

埼玉県教育委員会では、サポートスタッフとして「業務アシスタント」を採用し、さらに学校行事の見直しを進めました。教職員の事務負担の軽減が図られ、平日の時間外在校時間の減少につながりました。平成29年度6月と平成30年2月に教職員を対象に実施したアンケート結果を比較すると、子どもと向き合う時間の確保が十分にされているという回答が大きく上昇。さらに自己研鑽や授業準備に必要な時間が取れているという回答も上昇しました。

北九州市教育委員会

北九州市教育委員会では、校務支援システムとともに出退勤管理システムを導入。カードリーダやコンピュータで勤務時間を管理しています。学校の管理職は、誰が何時間働いているのかを確認して、それを参考に校務分掌の調整や体調管理に役立てています。また同時に、すべての教職員の出退勤時間を教育委員会の担当者が把握しています。各学校や教職員の状況把握や健康管理、業務改善の効果検証などに活用されています。

鳥取市教育委員会

鳥取市教育委員会では、多くの自治体で取組が進められつつある学校給食費に加え、補助教材費の一部などの公会計化を推進しています。教育委員会が学校徴収金の管理を一律で担うことで、教育委員会の負担は増えますが、学校で先生方がお金に触れる機会がなくなり、負担軽減の効果が表れています。

静岡市教育委員会

静岡市教育委員会では、部活動の負担軽減に取り組んでいます。

平成30年3月にスポーツ庁が「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を作成していますが、静岡市はその以前から「静岡市立中学校部活動ガイドライン」を独自に策定・公表しています。ガイドラインでは、部活動の活動日については、平日週4日とし、そして土日はどちらか1日は休養日を取るといった、かなり踏み込んだ内容を定めています。休養日の設定は、教職員の負担軽減だけでなく、生徒が家族とともに過ごす時間や地域の活動に参加する機会の増加を目的としています。

岡山県教育委員会

岡山県教育委員会では、【図5】のように働き方改革プランを平成29年6月に作成し、取組を開始しています。

まず、働き方改革の目的として「先生方のワークライフバランス」による「教育の質の向上」「児童生徒の豊かな成長」を掲げています。そして、教職員の勤務実態を把握した上で、「月当たりの時間外業務を25%減らす」という具体的な数値目標を立てました。

さらに、「時間管理の徹底」「事務業務の軽減」「授業準備支援」「部活動休養日の徹底」を4つの重点的な取り組みとして示し、教育委員会、学校、校長、教職員がそれぞれ何をどのように取り組むべきなのかを具体的に決めました【図6】。

【図5】業務改善方針の策定に係る取組事例
【図6】業務改善方針の策定に係る取組事例

もし、教育委員会が数値目標だけを決定し、あとは学校で取り組むという形で進めていたならば、各学校で数値目標を達成することだけが1人歩きしてしまい、実態にそぐわらない働き方改革が進んでしまうかもしれません。本事例は、働き方改革の目的を明確化して共有し、その上で「誰が何をするのか」を具体的に決めて進めており、大変良い取組だと思います。

実際に、同県の浅口市立鴨方東小学校では、教育委員会の業務改善方針のもと「時間改善」「業務改善」「環境改善」の3つのプロジェクトを立ち上げて働き方改革を進め、成果が上がっています【図7】。

1つ目「時間改善プロジェクト」では、時間管理を確実に行っています。「カエルボード」を作成し、誰が何時に帰るのかを「見える化」。時間外勤務の時刻や業務内容を表にまとめ、誰がどのような業務を行っているのかも「見える化」し、声掛けしています。

終礼や会議の改善も進めています。20分強かかっていた終礼は、短時間で大切なことのみを伝達することにし、約5分に短縮できました。職員会議では、会議ルールを定めるとともに、議題を精選。各議題の協議時間を決め、本当に必要なことを効率的に議論するといった取組を行っています。

2つ目「業務改善プロジェクト」では、静岡県教育委員会の事例と同様に、業務内容の棚卸を行いました。棚卸の議論には、学校の教職員だけでなく、保護者、地域の方も参加しているのが特徴です。「どんな学校にしたいのか」「どんな子どもを育てたいのか」を参加者で共通理解した上で、学校行事や地域行事を含め、何をやって何をやらないのかを整理しました。また、コミュニティ・スクールを導入して「地域学校協働本部(鴨東セカンドスクール)」と両輪で、学校・地域・家庭が連携して読み聞かせや放課後学習、安全パトロールなど、様々な取組を実施しています。こうした取組が、生徒指導上の課題を未然防止や、学校と保護者、地域の信頼関係を深めることにつながっています。

校務分掌も工夫されています。知・徳・体と地域連携で構成される各部会は、学校の教職員だけでなく、PTAや地域の方を含めて組織されています。それぞれの課題を共有しながら、学校では何をするのか、地域・保護者は何ができるのかという視点で取り組んでいます。

3つ目「環境改善プロジェクト」では、より機能的な職員室のレイアウトへの改善を民間企業の協力を得て進めています。教職員や子どもにアンケート調査を行い、その中でどのようなレイアウトが望ましいのか。理想の職員室のイメージを作り、学校だけでなく地域、保護者の方も巻き込んでレイアウトを変えています。このようなさまざまな取組によって、前年度に比べて約3割の勤務時間の削減効果が得られています。

教職員にワークライフバランスについてアンケート調査も実施した結果、仕事面では「帰りの時間を意識して計画的に仕事をして達成感を持てた」「教材研究の時間が増え、授業の質が向上した」「職場みんなで遠慮しないでアイデアを出して解決しようという雰囲気が強まった」、生活面では「家族と一緒に夕飯を食べられる日ができた」「睡眠時間が増えた」「早く帰ることに後ろめたさがなくなった」と、ワーク、ライフともに前向きな回答が得られています。

【図7】学校現場における業務改善の取組事例

各々が1つずつ取り組むことで、働き方改革を1つ前に

働き方改革を進めるためには、これまでお話したように、教育委員会、学校、地域、保護者など関係者がみんなで様々に対話を重ねながら、各々が取り組めることを1つずつ行うことが大切だと考えています。引き続き行われる中央教育審議会での議論を踏まえ、文部科学省では、様々な動きがあり、サポートの準備を進めています。ぜひ、働き方改革を一つでも前に進めていただきますようお願いします。

※学校とICTフォーラム(名古屋会場)特別講演より
(2019年3月掲載)