学習指導要領/教育の情報化

小学校理科における学習指導の充実とICT活用

2020年度から全面実施を迎える小学校新学習指導要領。
新学習指導要領における小学校理科の学習指導の充実とICT活用について、鳴川 哲也 先生(文部科学省 初等中等教育局 教育課程課 教科調査官)に解説いただきました。

ICTの特性を生かす

今回の改訂では、学習の基盤となる資質・能力の一つとして情報活用能力が示されました。情報活用能力は、「世の中の様々な事象を情報との結び付きとして捉え、情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して、問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていくために必要な資質・能力」とされています。この情報活用能力は、教科等横断的な視点で育んでいくことになるわけですが、理科の授業において、理科で育成を目指す資質・能力と切り離して育成していくものではありません。理科の特質に応じて適切な学習場面で育成を図ることが重要なのです。

「2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会 最終まとめ」(平成28年7月28日 2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会)及び「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」(平成28年12月21日 中央教育審議会)において、ICTの特性が次のように示されています。

  1. ①多様で大量の情報を収集、整理・分析、まとめ表現することなどができ、カスタマイズが容易であること
  2. ②時間や空間を問わずに、音声・画像・データ等を蓄積・送受信できるという時間的・空間的制約を超えること
  3. ③距離に関わりなく相互に情報の発信・受信のやりとりができるという、双方向性を有すること

これらの特性を踏まえ、ICT機器を効果的に活用し、情報活用能力を育成するとともに、児童が情報活用能力を発揮することで、「主体的・対話的で深い学び」へとつなげ、理科で育成を目指す資質・能力を育成していくことが大切なのです。

理科の特質を踏まえたICTの活用

1. 小学校理科の目標とICT活用

新学習指導要領における小学校理科の目標は次の通りです。

自然に親しみ,理科の見方・考え方を働かせ,見通しをもって観察,実験を行うことなどを通して,自然の事物・現象についての問題を科学的に解決するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

  1. (1)自然の事物・現象についての理解を図り,観察,実験などに関する基本的な技能を身に付けるようにする。
  2. (2)観察,実験などを行い,問題解決の力を養う。
  3. (3)自然を愛する心情や主体的に問題解決しようとする態度を養う。

理科の学習は、児童が自然に親しむところから始まります。この「自然に親しむ」とは、単に自然に触れたり、慣れ親しんだりするということだけではありません。児童が関心や意欲をもって対象と関わることで、自ら問題を見いだし、それを追究していく活動を行うとともに、見いだした問題を追究し、解決していく中で、新たな問題を見いだし、繰り返し自然の事物・現象に関わっていくということを含意しているのです。

このように、小学校理科では、自然に直接関わることを重視しているのです。ですから、児童の身近にあるのに、デジタル図鑑で調べたり、せっかく対象物に近づいたのに、写真を撮影して観察を終えたりするのではなく、まずは対象物を、諸感覚を通して観察することが大切なのです。

そして、その観察を補完するような形で、ICTを活用することで、資質・能力の育成を目指すことが大切なのです。

2. 問題解決の活動とICT活用

小学校理科は、従来より問題解決の活動を重視しています。そして、今回の改訂においても問題解決の活動を通して資質・能力の育成を目指すこととしています。

問題解決の活動とは、児童が自然の事物・現象に親しむ中で興味・関心をもち、そこから問題を見いだし、予想や仮説を基に観察、実験などを行い、結果を整理し、その結果を基に結論を導きだすといった活動のことです。

この活動の中核をなすのは、観察、実験です。観察、実験とは、児童が自ら目的、問題意識をもって意図的に自然の事物・現象に働きかけていく活動のことです。児童は解決したい問題に対して、既習の内容や生活経験を基に、根拠のある予想や仮説をもち、それを確かめるために観察、実験を行います。その後、考察して結論を導きだすのですが、考察の際に重要になるのが、観察、実験の結果となります。

この点が、ICT活用の重要なポイントになります。根拠を明確にして考察し、結論を導きだすことが大切なのですが、この根拠となるのが観察、実験の結果なのです。観察、実験の結果を明確にするために、ICTを効果的に活用してみましょう。

3. ICT活用の具体例 ①

理科の学びの特質から、先に示したICTの特性を考えた場合、中でも②の特性を踏まえて効果的に活用することにより、理科で育成を目指す資質・能力を育成することができると考えます。

例えば、第5学年B(3)「流れる水の働きと土地の変化」において、「雨の降り方によって、流れる水の速さや量は変わり、増水により土地の様子が大きく変化する場合があること」を捉える際、人工の流れをつくったモデル実験を取り入れ、水の速さや量といった条件を制御しながら増水による土地の変化の様子を調べることが考えられます。

児童が、実験などを行う前に自分なりの予想や仮説をもち、自分の予想が正しければ、どのような結果になるのかという結果の見通しをもって、実験に臨んでいたとしても、モデル実験において水を流し、変化する土地の様子を、実験の結果として捉えるのは大変です。短時間における変化であることや、繰り返し実験することが容易ではないため、結果が明確にできないのです。

そこで、タブレット等で実験の様子を録画し、グループで繰り返し再生すれば、結果を明確にすることができ、それを基に考察し、より妥当な考えをつくりだすことができるのです。

第4学年A(2)「金属、水、空気と温度」において、「水や空気は熱せられた部分が移動して全体が温まること」を捉える際の実験でも同様のことが言えます。

ビーカーに水とインク等を入れて、下から加熱したときの水のあたたまり方を、インク等の動きを基に考察しようとしても、刻一刻と変化するインクの動きを的確に把握し、記録することはとても難しいことです。そこで、タブレット等で実験の様子を録画し、グループで繰り返し再生すれば、結果を明確にすることができるのです。

理科では、繰り返し実験したり、複数の方法で実験したりするなどして、できるだけ多くの実験結果を基に考察し、結論を導きだすことがとても大切です。このことが、資質・能力の育成につながるのです。

このようなポイントを意識して、ICTを有効に活用しましょう。

4. ICT活用の具体例 ②

文部科学省国立教育政策研究所教育課程研究センターは、「全国学力・学習状況調査の調査結果を踏まえた理科の学習指導の改善・充実に関する指導事例集」(平成29年3月)を作成し、各都道府県教育委員会、市町村教育委員会及び小中学校に送付しています。

この指導事例集は映像資料(DVD)及びそれに対応した冊子で構成されています。小学校では6事例が収録されていますが、その中の3事例でICTを活用しています。

事例1第3学年「昆虫と植物」

つかまえてきた生物は昆虫なのだろうか

本事例における指導の工夫として、「観察した事実を共有し,考察した内容の話合いを促す」が挙げられており、その中に以下のような記載があります。

児童一人一人が観察した事実をグループや学級全体で検討しやすくするためには,タブレットPCで撮影した写真を共有するなどの工夫をして,観察した事実を全体で確認できるようにすることが大切である。

本事例では,昆虫かどうかを判断しにくい生物を取り上げ,その生物を撮影した写真を共有して,グループや学級全体で事実を確認し,昆虫かどうかを検討できるようにした。昆虫の体のつくりがどのようになっているのかをタブレットPCの画像にかき込んで示すことで,昆虫かどうかを判断する三つの特徴について検討する話合いができるようにした。

なお,タブレットPCがない環境でも,観察する生物をあらかじめデジタルカメラなどで撮影して印刷しておくことで,同じように展開することができる。

事例4第5学年「流水の働き」

実際の川で大雨のとき
土地の様子はどのように変化するのだろうか

本事例における指導の工夫として、「実験結果を共有する場を設定し,多面的に分析して考察できるようにする」が挙げられており、その中に以下のような記載があります。

問題解決を通して自らの考えを広げ深めるためには,一つの実験方法から得られた結果だけでなく,異なる方法で得られた実験結果を共有し,多面的に分析して考察できるようにすることが考えられる。

本事例では,実験方法の異なる他のグループが行った実験の結果についてホワイトボードにまとめたものを見ながら話し合った。また,タブレットPCで撮影した動画を再生して確認できるようにした。

事例5第5学年「天気の変化」

3日後の天気と気温はどうなるのだろうか

本事例における指導の工夫として、「ICT機器を活用して、多様な情報や考えを交流できるようにする」が挙げられており、その中に以下のような記載があります。

児童が問題の解決に必要な情報を収集したり,その情報をグループや学級全体で共有したりすることができるようにするためには,タブレットPCや電子黒板の活用が考えられる。

本事例では,収集した情報を累積し,拡大して表示したり,自分の考えをかき込んだり,移動して他の児童と共有したりすることができるようにするために,タブレットPCを活用した。また,収集した情報や自分の考えを学級全体で共有するために,電子黒板を活用した。そうすることで,児童が多様な情報を基に考え,グループや学級全体での話合いを通して自らの考えを深められるようにした。

ぜひ、指導事例集を活用して、理科におけるICTの活用を推進し、資質・能力の育成につなげていただきたいと考えています。

(2019年1月掲載)