学習指導要領/教育の情報化

タブレット端末環境をどのように生 かしていくか

三つの柱の一つ「学びに向かう力」

平成28年12月の中央教育審議会答申(中教審第197号)を受け、小中学校ともに平成29年3月に新しい学習指導要領(以下「新学習指導要領」と称す)が公示されました。

今回の改訂の基本的な考え方の一つに、学力の三要素を重視する従前の学習指導要領の枠組みや教育内容を維持した上で、知識の理解の質を更に高めることが挙げられます。これはいわゆる「深い学び」と関連し、深い学びの鍵として「見方・考え方」を働かせることが重要になることを授業改善のポイントとして示しています。

新学習指導要領が示す特徴の一つに「学びに向かう力」があります。今回の改訂においては「生きる力」をより具体化し、教育課程全体を通して育成を目指す資質・能力を、【表1】のように三つの柱で整理されました。

【表1】教育課程全体を通して育成を目指す資質・能力
何を理解しているか、何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)
理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)
どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)

これまで学力の三要素として「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」がありましたが、要素の三番目「主体的に学習に取り組む態度」に代わり「学びに向かう力・人間性等」として再整理され、最近ではひとくちに「学びに向かう力」と言い表すようになっています。

そこで、「学びに向かう力」を具体化しながら、その力が身に付いたり高まったりしていく授業を実現するための手段としてのICT活用例について述べていくことにします。

各教科等の目標及び内容の再整理

今回の改訂を受け、各教科の「学習指導要領解説」で過去に例を見ないほどボリュームが増えたのは算数編です。「付録」を除いた総ページ数は338ページに及び、従前の189ページに比べて149ページも増量されました。何が増量されたのか簡単に見ていきます。

算数の領域は四つで変わりはありません(領域名は変更されました)。目標はこれまでひと続きで表現されていたものが上述の「三つの柱」によって三つに分けて示されました。

また、内容も同様に再整理されました。さらに、各学年の目標及び内容についても三つの柱によって再整理されました。三つの柱で目標及び内容を再整理することは各教科においても同様ですが、結果として、相対的に算数編のボリュームが最も増えたことになります。

算数科における「学びに向かう力」

小学校学習指導要領解説算数編(以下「算数編」と称す)において、小学校第1学年から中学校第3学年にわたる資質・能力「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力,人間性等」が一覧で示されています。その中から小学校の学びに向かう力に関するものを抜き出すと【表2】のようになります。

【表2】 各学年の「学びに向かう力」
第1学年
  • 数量や図形に親しみ、算数で学んだことのよさや楽しさを感じながら学ぶ態度
第2学年
  • 数学的に表現・処理したことを振り返り、数理的な処理のよさに気付き生活や学習に活用しようとする態度
第3学年
  • 数学的に表現・処理したことを振り返り、数理的な処理のよさに気付き生活や学習に活用しようとする態度
第4学年
  • 数学的に表現・処理したことを振り返り、多面的に捉え検討してよりよいものを求めて粘り強く考える態度
  • 数学のよさに気付き学習したことを生活や学習に活用しようとする態度
第5学年
  • 数学的に表現・処理したことを振り返り、多面的に捉え検討してよりよいものを求めて粘り強く考える態度
  • 数学のよさに気付き学習したことを生活や学習に活用しようとする態度
第6学年
  • 数学的に表現・処理したことを振り返り、多面的に捉え検討してよりよいものを求めて粘り強く考える態度
  • 数学のよさに気付き学習したことを生活や学習に活用しようとする態度

▲ 文部科学省「小学校学習指導要領解説算数編」第1章2 資質・能力(「思考力,判断力,表現力等」「学びに向かう力,人間性等」)(図3)より抜粋

ポイントを取り出すと、「よさや楽しさを感じながら学ぶ」(第1学年)、「よさに気付き生活や学習に活用しようとする」(第2〜6学年)、「よりよいものを求めて粘り強く考える」(第4〜6学年)になります。これらの学びに向かう力の実現に向け、どのように授業改善するか、タブレット端末活用と合わせて検討してみることにします。

学びに向かう力とICT活用

第1学年 D データの活用「くらべよう」

今回の改訂により算数の領域として「D データの活用」が新たに設定されました。算数編では絵や図を用いた数量の表現について示されています。これと学びに向かう力とを関連付けながらICTを活用する授業について考えてみましょう。

【図1】学習の素材

【図2】大きさを揃える

▲ 文部科学省「小学校学習指導要領解説算数編」第1章2 資質・能力(「思考力,判断力,表現力等」「学びに向かう力,人間性等」)(図3)より抜粋

ものの個数を数えたり比べたりするときの例として、動物を並べて数の大小を比べる素材があります【図1】。

きりん、ぞう、うさぎ、しまうまを並べることは紙で作った具体物でも可能ですが、数の大小を比べやすくするためには大きさを揃える必要があります。そこで、児童のタブレット端末に動物の絵を準備し、児童自らの(指の)操作によって、例えば、しまうまの大きさに合わせてきりんとぞうを小さくし、うさぎを大きくして、大きさを揃える活動を展開します【図2】。

このような活動には指操作ができるタブレット端末が効果的で、児童の学びに向かう力「楽しさを感じながら学ぶ態度」の育成につながります。教室に電子黒板だけしか設置されていない場合、それを用いて学級全体で行ってもよいでしょう。

第2学年 A 数と計算「かけざん」

第1学年における数のまとまりに着目する経験を踏まえ、第2学年ではものの数をまとまりとして捉えることで構成を再現しやすくなることに気付き、乗法的にみることへとつなげていくことがねらいとなります。このため、算数編では「団子の数」(1本の串に4個の団子が3本ある写真)や「児童の絵」(横に4枚、縦に3枚貼ってある写真)が例示されています。

これらを電子黒板で提示しながら数のまとまりに関心を持つ活動につなげていきますが、その次の活動として児童自らが数のまとまりを探してくる活動へと発展させることで、学びに向かう力「算数で学んだことのよさを感じながら学ぶ態度」の育成につながります。

【写真1】は、児童がタブレット端末を持って校舎内を回り、体育館でボールをまとめておいてある様子を写真撮影してきたものです。児童はこれをもとにかけざんの問題を作り、【写真2】のように全体の場で問題を出し、友達から出た考え(答え)を電子黒板に書き込み、学級全体で乗法との出会いが深まっていきました。

【写真1】ボールの数をもとに作った問題

【写真2】作った問題を提示する児童

第3学年 D データの活用「表と棒グラフ」

表を用いて整理する際にもタブレット端末の活用は効果的ですが、棒グラフに表す際には更に効果的です。もちろん棒グラフを物差しと鉛筆を用いて書く技能の習得も大事です。

実際、児童が書いた棒グラフを一つ一つ教師が確認していくことは時間がかかります。また、児童は「待ちの姿勢」になってしまい、学びに向かう力が弱まります。そこで、タブレット端末を用いてグラフ化する活動が考えられます。物差しと鉛筆を用いて棒グラフを書けるようになったら、次の棒グラフを書く問題をタブレット端末で解決する学習へと発展させます。そして、棒グラフを書き終えたら児童同士で確認(合っているかどうか確認)させます。

この際に、『SKYMENU Class』[画像合成]機能がとても便利です【図3】。タブレット端末の画面同士を重ね合わせることができます。これを用いると簡単な操作でそれぞれの児童が書いたグラフを重ね合わせることができるので、児童自らで確認することができます。まさに、学びに向かう力の発揮と言うことができます。

【図3】『SKYMENU Class』[画像合成]機能

第4学年 D データの活用「折れ線グラフ」

タブレット端末の活用方法は上述した「表と棒グラフ」と同様です。

共通のグラフ用紙を教師が用意して、児童自らタブレット端末を用いて折れ線グラフを書きます。

この学年ではグラフを見て考察することもねらいとなりますから、書いたグラフを使って最も多い(高い)点や最も少ない(低い)点に印を付け、それらを重ね合わせることにより、グループや学級成員の“印”の箇所を定量的に見て取る活動が実現できます。こうすることで第4学年に求められる「数学的に表現・処理したことを振り返る」ことが児童同士で出来るようになります。

ここでもタブレット端末の画面同士を重ね合わせることができる[画像合成]が重宝します。小学校や中学校の学習指導で徐々に活用されてきています。

第5学年 B 図形「平面図形の面積」

この学年においては、三角形や平行四辺形、ひし形及び台形の面積について、図形の見方を働かせて、第4学年までに学習してきた長方形や正方形の面積の求め方に帰着し、計算によって求められることを理解することが大切である、と算数編で示しています。また、三角形や平行四辺形の底辺や高さの関係の理解を確実にすることが必要であり、等積変形といった図形の操作活動に伴って、底辺をどこにとるかで高さが決まることを理解させることが大切であると示しています。

そこで、例えば、高さが決まっている場合には底辺をどこにとっても面積が同じであることを実感を伴って理解できることを意図してタブレット端末を活用します。【図4】のように高さをアとイによって定めたワークシートをタブレット端末に配布し、底辺BCの長さを指示して書かせ、出来上がった三角形ABCをお互いに重ね合わせることで、形が違っても面積が同じであることに気付くことができます。これは平行四辺形でも応用できます。

【図4】タブレット端末で三角形を書くためのワークシート

第6学年 B 図形「縮図や拡大図」

縮図や拡大図は、大きさを問題にしないで、形が同じであるかどうかの観点から図形を捉えたものであり、実際に、縮図や拡大図を書くに当たって、例えば、方眼紙の縦、横の両方の向きに同じ割合で縮小したものを書く場をとり、児童相互や教師によって確認したのち、拡大したものを書く場面にタブレット端末を活用します。

タブレット端末上の方眼に一つの頂点を決め、もとの図の拡大図を書き、お互いの図を重ね合わせます。これによって児童相互に確認することができます。重ねた図がずれている場合、角の大きさが等しいか、対応している辺の長さの比が一定かについて自ら調べる活動へとつながっていきます。

このような学習は、第6学年に求められる学びに向かう力としての「多面的に捉え検討してよりよいものを求めて粘り強く考える態度」の育成に期待できると言えます。

おわりに

これから求められる力の一つとしての「学びに向かう力」について、算数科の学習指導をもとに述べてきました。

ICT環境として電子黒板やタブレット端末が整備されていたら、私が述べたことで本当にその力(態度)の育成に期待できるか、是非、トライしてみてください。

学びに向かう力とICT活用について、他教科でもトライしてみてください。その際には当該の教科で求められる「学びに向かう力」を学習指導要領解説で確かめてみてください。

(2018年11月掲載)