学習指導要領/教育の情報化

新学習指導要領と教育の情報化

このほど高等学校の新学習指導要領解説が公表されました。
科目構成及び教育内容が見直された、情報科の改訂のポイントについて、
鹿野利春先生(文部科学省 生涯学習政策局 情報教育課情報教育振興室 教科調査官)に
解説いただきました。

はじめに

この度の共通教科情報科の改訂は平成28年12月に示された中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策について」(以下、「中央教育審議会答申」という)を踏まえて行ったものである。

中央教育審議会答申では、新学習指導要領は、「東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される2020年から、その10年後の2030年頃までの間、子供たちの学びを支える重要な役割を担う」としている。

また、「情報技術の飛躍的な進化等を背景として、経済や文化など社会のあらゆる分野でのつながりが国境や地域を越えて活性化し、多様な人々や地域同士のつながりはますます緊密さを増してきている。」と指摘している。

さらに、「社会の変化は加速度を増し、複雑で予測困難となってきており、しかもそうした変化が、どのような職業や人生を選択するかにかかわらず、全ての子供たちの生き方に影響するものとなっている」とも指摘している。子供たちは、そのような時代を生き抜く力を身に付ける必要がある。

現行学習指導要領の成果と課題

中央教育審議会答申では、情報科における平成21年改訂の学習指導要領の成果と課題が次のように示されている。

「近年、情報技術は急激な進展を遂げ、社会生活や日常生活に浸透するなど、子供たちを取り巻く環境は劇的に変化している。今後、人々のあらゆる活動において、そうした機器やサービス、情報を適切に選択・活用していくことがもはや不可欠な社会が到来しつつある。

それとともに、今後の高度情報社会を支えるIT人材の裾野を広げていくことの重要性が、各種政府方針等により指摘されている。

そうした中、情報科は高等学校における情報活用能力育成の中核となってきたが、情報の科学的な理解に関する指導が必ずしも十分ではないのではないか、情報やコンピュータに興味・関心を有する生徒の学習意欲に必ずしも応えられていないのではないかといった課題が指摘されている。

こうしたことを踏まえ、小・中・高等学校を通じて、情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し、受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる力や情報モラル等、情報活用能力を含む学習を一層充実するとともに、高等学校情報科については、生徒の卒業後の進路を問わず、情報の科学的な理解に裏打ちされた情報活用能力を育むことが一層重要となってきている。」

今回の改訂では、これらの課題に適切に対応できるよう改善を図った。

改訂の基本的な考え方

中央教育審議会答申で示された成果と課題を踏まえた改訂の基本的な考え方は次の通りである。

(1)「情報に関する科学的な見方・考え方」の重視

新学習指導要領の情報科では、問題の発見・解決に向けて情報と情報技術を適切かつ効果的に活用して情報社会に主体的に参画する力を育成するようにしている【図1】。その際、情報に関する科学的な見方・考え方を働かせることを重視している。

「情報科に関する科学的な見方・考え方」とは、「情報を、情報とその結び付きとして捉え、情報技術の適切かつ効果的な活用(プログラミング、モデル化とシミュレーションを行ったり情報デザインを適用したりすること等)により、新たな情報に再構成すること」である。

(2) 科目構成及び教育内容の見直し

現行の「社会と情報」、「情報の科学」の2科目からの選択必履修を改め、全ての生徒が学ぶ共通必履修科目として「情報Ⅰ」を設け、「情報Ⅰ」の発展的選択科目として「情報Ⅱ」を設けた。なお、標準単位数はいずれも2単位としている。

全ての高校生が学ぶ「情報Ⅰ」では、プログラミング、モデル化とシミュレーション、ネットワーク(関連して情報セキュリティを扱う)とデータベースの基礎といった基本的な情報技術と情報を扱う方法を扱うとともに、コンテンツの制作・発信の基礎となる情報デザインを扱い、更に、この科目の導入として、情報モラルを身に付けさせ情報社会と人間との関わりについても考えさせる。

「情報Ⅱ」では、情報システム、ビッグデータやより多様なコンテンツを扱うとともに、情報技術の発展の経緯と情報社会の進展との関わりについて考えさせる。

次ページに改訂前と改訂後の共通教科情報科の各科目の目標等を示す。

共通必履修科目「情報Ⅰ」

この科目は、具体的な問題の発見・解決を行う学習活動を通して、問題の発見・解決に向けて情報と情報技術を活用するための知識と技能を身に付け、情報と情報技術を適切かつ効果的に活用するための力を養い、情報社会に主体的に参画するための資質・能力を育成する科目として設置され、以下の(1)〜(4)の項目をもって構成されている。

(1)情報社会の問題解決

この項目では、情報やメディアの特性を踏まえ、情報の科学的な見方・考え方を働かせて、情報と情報技術を活用して問題を発見・解決する学習活動を通して、問題を発見・解決する方法を身に付けるとともに、情報技術が人や社会に果たす役割と影響、情報モラルなどについて理解するようにし、情報と情報技術を適切かつ効果的に活用して問題を発見・解決し、望ましい情報社会の構築に寄与する力を養う。

こうした活動を通して、情報社会における問題の発見・解決に情報と情報技術を適切かつ効果的に活用しようとする態度、情報モラルなどに配慮して情報社会に主体的に参画しようとする態度を養うことが考えられる。

(2)コミュニケーションと情報デザイン

この項目では、目的や状況に応じて受け手に分かりやすく情報を伝える活動を通じて、情報の科学的な見方・考え方を働かせて、メディアの特性やコミュニケーションを行うための情報デザインの考え方や方法を身に付けるようにするとともに、コンテンツを表現し、評価し改善する力を養う。

こうした学習活動を通して、情報と情報技術を活用して効果的なコミュニケーションを行おうとする態度、情報社会に主体的に参画する態度を養うことが考えられる。

(3)コンピュータとプログラミング

この項目では、問題解決にコンピュータや外部装置を活用する活動を通して情報の科学的な見方・考え方を働かせて、コンピュータの仕組みとコンピュータでの情報の内部表現、計算に関する限界などを理解し、アルゴリズムを表現しプログラミングによってコンピュータや情報通信ネットワークの機能を使う方法や技能を身に付けるようにし、モデル化やシミュレーションなどの目的に応じてコンピュータの能力を引き出す力を養う。

こうした学習活動を通して、問題解決にコンピュータを積極的に活用しようとする態度、結果を振り返って改善しようとする態度、生活の中で使われているプログラムを見いだして改善しようとすることなどを通じて情報社会に主体的に参画しようとする態度を養うことが考えられる。

(4)情報通信ネットワークとデータの活用

この項目では、情報通信ネットワークや情報システムにより提供されるサービスを活用する活動を通して情報の科学的な見方・考え方を働かせて、情報通信ネットワークや情報システムの仕組みを理解するとともに、データを蓄積、管理、提供する方法、データを収集、整理、分析する方法、情報セキュリティを確保する方法を身に付けるようにし、目的に応じて情報通信ネットワークや情報システムにより提供されるサービスを安全かつ効果的に活用する力やデータを問題の発見・解決に活用する力を養う。

こうした学習活動を通して、情報技術を適切かつ効果的に活用しようとする態度、データを多面的に精査しようとする態度、情報セキュリティなどに配慮して情報社会に主体的に参画しようとする態度を養うことが考えられる。

選択科目「情報Ⅱ」

この科目は、具体的な問題の発見・解決を行う学習活動を通して、問題の発見・解決に向けて情報と情報技術を活用するための知識と技能を身に付けるようにし、適切かつ効果的、創造的に活用する力を養い、情報社会に主体的に参画し、その発展に寄与するための資質・能力を育成する科目として設置され、以下の(1)〜(5)の項目をもって構成されている。

(1)情報社会の進展と情報技術

この項目では、情報技術の発展の歴史を踏まえて、情報セキュリティ及び情報に関する法規・制度の変化を含めた情報社会の進展、情報技術の発展や情報社会の進展によるコミュニケーションの多様化や人の知的活動に与える影響を理解するようにし、コンテンツの創造と活用、情報システムの創造やデータ活用の意義について考える力を養う。

こうした活動を通して、情報社会における問題の発見・解決に情報技術を適切かつ効果的、創造的に活用しようとする態度、情報社会の発展に寄与しようとする態度を養うことが考えられる。

(2)コミュニケーションとコンテンツ

この項目では、コミュニケーションを適切に行うために、目的や状況に応じてコンテンツを制作し、発信する学習活動を通じて、情報の科学的な見方・考え方を働かせ、多様なメディアを組み合わせてコンテンツを制作する方法やコンテンツを発信する方法を理解し、必要な技能を身に付けるようにするとともに、情報デザインに配慮してコンテンツを制作し評価し改善する力を養う。

こうした学習活動を通して、制作したコンテンツを適切かつ効果的に発信しようとする態度、コンテンツを社会に発信した時の効果や影響を考えようとする態度、コンテンツを評価し改善しようとする態度を養うことが考えられる。

(3)情報とデータサイエンス

この項目では、情報の科学的な見方・考え方を働かせて、社会の様々なデータ、情報システムや情報通信ネットワークに接続された情報機器により生成されているデータについて、整理、整形、分析などを行う。また、その結果を考察する学習活動を通して、社会や身近な生活の中でデータサイエンスに関する多様な知識や技術を用いて、人工知能による画像認識、翻訳など、機械学習を活用した様々な製品やサービスが開発されたり、新たな知見が生み出されたりしていることを理解するようにする。更に、不確実な事象を予測するなどの問題発見・解決を行うために、データの収集、整理、整形、モデル化、可視化、分析、評価、実行、効果検証などの各過程における方法を理解し、必要な技能を身に付け、データに基づいて科学的に考えることにより問題解決に取り組む力を養う。

こうした活動を通して、データを適切に扱うことによって情報社会に主体的に参画し、その発展に寄与しようとする態度を養うことが考えられる。

(4)情報システムとプログラミング

この項目では、実際に稼働している情報システムを調査する活動や情報システムを設計し制作する活動を通して、情報の科学的な見方・考え方を働かせて、情報システムの仕組み、情報セキュリティを確保する方法、情報システムを設計しプログラミングする方法を理解し、必要な技能を身に付けるようにするとともに、情報システムの制作によって課題を解決したり新たな価値を創造したりする力を養う。

こうした活動を通して、情報システムの設計とプログラミングに関わろうとする態度、自分なりの新しい考え方や捉え方によって解決策を構想しようとする態度、自らの問題解決の過程を振り返り、改善・修正しようとする態度、情報セキュリティなどに配慮しようとする態度を養うことが考えられる。

(5)情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探究

この項目では、教科の目標に沿って、地域や学校の実態及び生徒の状況に応じて情報と情報技術を活用して問題発見・解決の探究を通して、情報の科学的な見方・考え方を働かせて、情報と情報技術を適切かつ効果的に活用するための知識及び技能の深化・総合化、思考力、判断力、表現力等の向上を図る。

このような活動を通して情報社会における問題の発見・解決に情報と情報技術を適切かつ効果的に活用しようとする態度、新たな価値を創造しようとする態度、情報社会に参画しその発展に寄与しようとする態度を養うことが考えられる。

おわりに

新学習指導要領について理解を深めるとともに、現行学習指導要領で学ぶ目の前の生徒のための授業を充実させることが大切である。そのために次の4つのことをお願いしたい。

1点目は、主体的・対話的で深い学びが実現されるよう観点別の指導と評価を含めた授業設計を行い、日々の授業を改善することである。学びの変革は新学習指導要領の実施を待つ必要はない。

2点目は、情報デザイン、データの扱い、プログラミングなどの学習要素を日々の授業に少しずつ取り入れ、問題を発見・解決するサイクルの中で学ぶようにすることである。

3点目は、中学校との連携を密にすることである。入学してくる生徒の状況を把握することで効果的な情報の授業を行うことができる。特に学習指導要領の移行期間については注意が必要である。

4点目は、プログラミングやコンテンツを作成する環境、インターネットの接続環境、授業支援システムなど、ICT環境の整備を進めることである。十分なウォーミングアップと環境整備を行い、新学習指導要領の実施に備えていただきたい。

(2018年11月掲載)