学習指導要領/教育の情報化

タブレット端末環境をどのように生 かしていくか

各教科領域で実現する力を育成するため
ICT機器や環境をどう活用するのか

新学習指導要領で示されたICT環境整備とその活用

平成29年3月に公開された新小学校学習指導要領には、各教科領域においてコンピュータや情報通信ネットワークの整備と、それらをどのように活用するのかについて多くの記述が見られる。例えば「情報活用能力の育成を図るため、各学校において、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え、これらを適切に活用した学習活動の充実を図ること。また、各種の統計資料や新聞、視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること」と示されている※1

また「児童が、基礎的・基本的な知識及び技能の習得も含め、学習内容を確実に身に付けることができるよう、児童や学校の実態に応じ、個別学習やグループ別学習、繰り返し学習、学習内容の習熟の程度に応じた学習、児童の興味・関心等に応じた課題学習、補充的な学習や発展的な学習などの学習活動を取り入れることや、教師間の協力による指導体制を確保することなど、指導方法や指導体制の工夫改善により、個に応じた指導の充実を図ること。その際、第3の1の(3)に示す情報手段や教材・教具の活用を図ること」とも記述されている※2

当然のことながら、これらはコンピュータを使うこと自体が目的ではなく、各教科領域で実現する力を育成するためにICT機器や環境をどう活用するのかという観点で示されたものである。今後、タブレット端末環境の整備が進むにつれて、児童生徒が自分の考えをまとめる場面への活用が求められている。

デジタルの思考ツール・協働ツールを活用するメリット

思考ツール:マッピング

筆者が参画するSky株式会社との共同研究プロジェクトでは、児童生徒の思いや考えを可視化するツールとしてマッピングに着目した。マッピングは「語句を線で結んで、蜘蛛の巣状に張りめぐらせていくことで、知識や考えを拡充したり整理したりする方法」である※3。これは中心概念からだんだんと細分化、具体化させていく作業である。

ここに学習活動ソフトウェアで、デジタルならではのメリットを加えたのが「マッピング」機能である。例えば、以下のようなメリットだ。

試行錯誤と柔軟な修正・変更

ドラッグ&ドロップで直感的に操作でき、カードを追加・削除したり線をつなぎ直したりと試行錯誤がしやすい。また、文字の手書き入力、横書き / 縦書きを変更したり、カードの背景や枠線の色を変えたりするなど修正・変更がしやすい。さらに、テーマやカードに文字だけでなくカメラで撮影した画像も挿入できる。

カードの自動整列

カードを移動する際には、配下のカードがまとめて移動し、ほかのカードの配置も自動的に調整される。

カードの配置自体に意味があるなど整列しない方が良い場合もあるため、整列は任意で行える。

履歴表示

1人の児童生徒の提出物を、時系列に一覧表示して履歴を確認できる。前時までの成果物と本時の状況を比較できるように提示することで、児童生徒自身が自分の成長を実感したり、教師が1人ひとりの学習の成果を時系列で把握したりすることに役立つ。

前時の成果物と本時の状況を比較

思考ツール:グルーピング

一方で、児童生徒の思いや考えを収束していく方法があり得る。具体化されたキーワードなどをグルーピングしていくつかの考えのまとまりにする作業である。「ブレーンストーミングなどで思いついたことや調査で得られた情報などをカードに記すことから始め、類似のカードについてグループ分けとタイトルづけを行い、グループ間の論理的な関連性を見いだし、発想や意見や情報の集約化・統合化を行う」KJ法※4がその代表格だ。ここでは、このような機能的働きを総称してグルーピングと呼ぶことにする。このグルーピングは、最近は授業後の検討会や校内研修会などで、教員も経験することが多くなったのではないだろうか。ここに学習活動ソフトウェアでデジタルでのメリットを加えたのが、「グルーピング」機能である。例えば、以下のようなメリットだ。

視覚的な分類

二段階に視覚的に分類される。一段階目は仮グループとして、そして二段階目は本グループとして自動的にカードが整列し、重ならないように配置される。グループにする際は、自動的に色分けされる。

無限に広がるキャンパスサイズ

グルーピングとマッピングに共通して、キャンパスサイズに制限がないこともメリットになる。児童生徒の思考の広がりに応じて、キャンパスサイズが自動的に広がる。

協働ツール:画面合体・画像合成

そのほか、協働ツールについても同様に、デジタルならではの良さがある。例えば、「画面合体」機能では、児童生徒がそれぞれ使用しているタブレット端末の画面をつなげると、一つの大きな画面になる。指でなぞるだけでデータを行き来させることができ、グループで何らかの協働作業をする際に個の作業だけに終始せず、それを全体として捉えられるようになる。

また「画像合成」機能では、複数のタブレット端末でそれぞれに作成したものをレイヤー化して重ね合わせ、全体のデータを一つの画像にすることが可能になる。1人ひとりの考えや結果が一つの画像としてまとめられることで、実験結果の傾向などが把握しやすくなる。また、自身の成果物が全体の一部として扱われることから、児童生徒の授業に対する参加意欲を高める効果も期待できる。

画面合体

意見交流しながらまとめの作業をする際、最大9台のタブレット端末の画面を一つのワークスペースとして活用することができ、簡単な操作で、タブレット端末間でデータを受け渡せる。また、機能解除後には、それぞれのタブレット端末に成果物が残る。

画像合成

児童生徒が各タブレット端末を使って書き込んだ内容を、重ね合わせるようにして合成し、一つのページとして表示する。それぞれの考えや結果を集約することで、全体としての傾向が見えるようになり、全員参加で解を導き出す取り組みにつながる。

「自分の中にある考え」を可視化して
具体と抽象を行き来させる

どのツールを活用するのかを適切に選ぶ

先のマッピングの活用効果については、教科書会社が発行する指導書において、「『自分の中にある考え』を、キーワードを使って図に整理していくことにより可視化できることと、一つひとつのキーワードの関係について客観的に検討を加えることができることにある。自分の中にあった考えを見える形にすることで、自分では気づかなかった関係性を発見したり、他者の指摘を受けて考えを見つめ直したりすることができるようにもなる。」と解説している※5。しかしこのことは、グルーピングについても言えることだ。具体と抽象の行き来が行われることは変わらない。マッピングが上から下(図1の太い矢印)に向かい、中心概念・テーマから広げていくのに対し、グルーピングは下から上(図2の太い矢印)に、出た意見・考えやアイデアを整理していく。

どちらの思考ツールを使うときも、学習活動ソフトウェアでほかの児童生徒のタブレット端末や教室の大型提示装置に転送したり、情報を共有したりできるICTのメリットを生かしながら「知識・技能の習得」「思考力、判断力、表現力等の育成」「学びに向かう力・人間性の涵養」に迫っていきたい。

これらは矢印の方向がまったく逆なので、どちらをツールとして活用することが適切なのか、教師が意識して活用させることが重要である。しかし、いずれは児童生徒が判断して最適なツールを選択・活用することがのぞましい。児童生徒の実態を見据えつつ、この段階・見通しをしっかり持っていきたい。

ICTは、学びを拡張するものとして位置づけられる。先述したように、ICTを使うことは目的ではない。アナログとデジタルを適切に組み合わせたり、選択したりしながら、これまでの学びが拡張するように活用していきたい。そういった意味でも、今後のICTのあり方は授業を支援するという発想から、学習活動を支援するものに転換していかねばならないと考えている。

※1:小学校 学習指導要領(平成29年3月公示) 第3 教育課程の実施と学習評価 1主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善(3)
※2:小学校 学習指導要領(平成29年3月公示) 第4 児童の発達の支援 1児童の発達を支える指導の充実(4)
※3:塚田泰彦(2005)『国語教室のマッピング』教育出版(P9)
※4:小学館『デジタル大辞泉』
※5:光村図書出版(2015)中川一史監修・国語と情報教育研究プロジェクト編著『小学校国語 情報・メディアに着目した授業をつくる 光村図書出版小学校国語教科書指導書』(P236-239)

(2018年8月掲載)