学習指導要領/教育の情報化

新学習指導要領と情報教育

それぞれの教科等が自分だけの立場で検討するのではなく、
全体が連携しながらより高い目標を目指していかなければならない。
それが今回の改訂の基本的な考え方です。

学習指導要領の改訂の特徴

前回の学習指導要領の改訂では、文部科学大臣から中央教育審議会に諮問すると、即座に教科等ごとの専門部会を開き、教科等をどう変えたら良いだろうかという議論を始めました。そして教科等の議論の結果を取りまとめて、最終的に答申という形でまとめられました。当初、今回の改訂も同じように進むのだろうと考えていたのですが、大臣からの諮問の後、教科等の議論を始めるまでには約半年間待つことになりました。その期間に「これからの教育はどうあるべきか」という全体的な検討が行われ、「論点整理」を公表し、それを踏まえて教科等についての議論に入ったのです。つまり、各教科等が自分の立場だけで検討するのではなく、全体が連携しながら変えていかなければならない。それが今回の改訂の基本的な考え方なのです。

今回の改訂のキーワードとして「社会に開かれた教育課程」という基本理念が示されています。より良い学校教育を通じて、より良い社会づくりを目指すこと。それは「教科の立場で、自分の教科を変える」という検討では実現できないのです。

学習指導要領の改訂の全体像:基本理念

現在、社会の変化は激しさを増しています。すべてのモノがインターネットにつながる「IoT」。様々な情報を得て蓄積された情報を利用する「ビッグデータ」。さらに、今やその言葉を聞かない日はない「人工知能(AI)」。また、その人工知能が組み込まれた「ロボット」。そうした技術の発達が非常なスピードで進んでおり、これまでは実現不可能と考えられてきたものが実現可能になる一方で、産業構造や就業構造が大きく変わろうとしています。

しかし、技術が発達すれば人間は働かなくていいのでしょうか。そんなことはありません。人工知能は決まった目的の中で高速処理を行います。例えば、画像認識や過去のデータに基づく判断は、すでに人間を超えていると言われていますが、その人工知能に何を考えさせるのかを決めるのは人間です。「何を問題とするか」を含めた創造的な問題解決をしたり、感性を働かせたりするのは人間だからできることです。この部分をしっかりと強調しなければ機械に使われるような人間になってしまうかもしれません。そして、こうした人間の強みを伸ばしていくことが学校教育の役割であり、「これまでの内容を、どう変えようか」と考えているようではその責任は果たせないのです。

今回の学習指導要領の改訂における根本的な方針は3つあります。1つ目は、目指す資質・能力を明確化し、そのために何を学ぶのか、どう学ぶのかという「学びの地図」。2つ目は、明確にした資質・能力を育成するための「主体的・対話的で深い学び」の実現。そして3つ目は、教科等が連携してさらに高い目標を達成するという「カリキュラム・マネジメント」の実現です。

改訂のポイント「学びの地図」

【図1】今回の学習指導要領の改訂のポイント 学びの地図

「学びの地図」を具体的に示すと、①「何ができるようになるか(育成を目指す資質・能力)」、②「何を学ぶか(教育課程の編成)」 、③「どのように学ぶか(学習・指導の改善・充実)」、 ④「子供一人一人の発達をどのように支援するか」、⑤「何が身に付いたか」 、⑥「実施するために何が必要か」といった流れになります。前回の改訂では、「何を学ぶか」から議論を始めていました。自分たちが担当する教科では、何を増やそうか、何を上の学校に、何を下の学校に持っていこうといった議論が多かったと思います。しかし、今回は「何ができるようになるか」ということをしっかり意識した上で、そのために「何を学ぶか」や「どのように学ぶか」を考え、そして、それを支援するために何が必要かといったことについて検討しました。

それを図示したのが【図1】です。皆さまもよく目にされている図だと思いますが、もっとも重要なことが中心に示されています。つまり、「社会に開かれた教育課程」というキーワードが中心だということです。そして、今回の改訂の方針は、中心に書かれているとおり「よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を共有し、社会と連携・協働しながら、未来の創り手となるために必要な知識や力を育む」ことです。それを実現するために「何ができるようになるか」という目指す資質・能力を明確にし、「何を学ぶか」を決め、「どのように学ぶか」を検討する。そして、各教科が連携するという意味で「各学校における『カリキュラム・マネジメント』の実現」というキーワードもまた、中心にあるわけです。

「言語能力」や「問題発見・解決能力」とともに、
「情報活用能力」を学習の基盤として
重要な資質・能力と位置づけています。

学習の基盤に位置づけられる「情報活用能力」

【図2】今回の学習指導要領の改訂のポイント 情報活用能力

情報活用能力

小学校学習指導要領 第1章総則 第2教育課程の編成

2 教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成

(1) 各学校においては,児童の発達の段階を考慮し,言語能力,情報活用能力(情報モラルを含む。),問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力を育成していくことができるよう,各教科等の特質を生かしつつ,教科等横断的な視点から教育課程の編成を図るものとする。

情報手段を適切に活用した学習活動

小学校学習指導要領 第1章総則

第3 教育課程の実施と学習評価

 1 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善
各教科等の指導に当たっては,次の事項に配慮するものとする。

(3) 第2の2の(1)に示す情報活用能力の育成を図るため,各学校において,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え,これらを適切に活用した学習活動の充実を図ること。

「何ができるようになるか」という資質・能力の中でも、「情報活用能力」が重視されています【図2】。

例えば、タブレット端末やスマートフォンを使えば使うほど、多種多様かつ大量な情報が端末内に蓄積されていきます。さらにインターネット上では、日々膨大な情報が飛び交い、増え続けています。それらの大量の情報を自由に使いこなせるようになるためには情報活用能力が必要です。ですから今回の改訂では、「言語能力」や「問題発見・解決能力」とともに、「情報活用能力」を学習の基盤として重要な資質・能力と位置づけているのです。

なお、「何を学ぶか」に関して新しい教科をつくるということは今回はありませんでしたが、「どのように学ぶか」という点では、総則に「情報手段を適切に活用した学習活動」を示しています。

加えて、ある特定の教科だけで取り組むのではなく、連携することが必要であることから、「カリキュラム・マネジメント」の実現を目指して、「各教科等の特質を生かした、教科等横断的な視点からの教育課程の編成」の中に情報活用能力が位置づけられているのです。

これからの社会を考えるならば、「誰かが社会を変化させてしまうから、それに対応しよう」という考え方ではなく、「これからの社会を、自分たちがいいものとして創っていく」必要があり、そのために情報活用能力が非常に重要であるということを今回の改訂は示していることを認識していただきたいと思います。

すべての教科等で、目標や項目が何を目指すのかを整理し、
示し方を共通化することで教科等間で連携しやすくしています。

改訂のポイント「カリキュラム・マネジメント」の実現

【図3】今回の学習指導要領の改訂のポイント カリキュラム・マネジメント

<これからの「カリキュラム・マネジメント」>

①各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校教育目標を踏まえた教科等横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと。

②教育内容の質の向上に向けて、子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データ等に基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること。

③教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源等を、地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせること。

教科等を学ぶ本質的な意義を大切にしつつ、教科等間の相互の連携を図ることによって、それぞれ単独では生み出し得ない教育効果をもたらす教育課程とする

【図4】今回の学習指導要領の改訂のポイント 目指す資質・能力の明確化

【現行】 第3節 算数 第1 目標

 算数的活動を通して,数量や図形についての基礎的・基本的な知識及び技能を身に付け,日常の事象について見通しをもち筋道を立てて考え,表現する能力を育てるとともに,算数的活動の楽しさや数理的な処理のよさに気付き,進んで生活や学習に活用しようとする態度を育てる。

【改訂】 第3節 算数 第1 目標

 数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して,数学的に考える資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

(1)数量や図形などについての基礎的・基本的な概念や性質などを理解するとともに,日常の事象を数理的に処理する技能を身に付けるようにする。

(2) 日常の事象を数理的に捉え見通しをもち筋道を立てて考察する,基礎的・基本的な数量や図形の性質などを見いだし統合的・発展的に考察する,数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確に表したり目的に応じて柔軟に表したりするを養う。

(3)数学的活動の楽しさや数学のよさに気付き,学習を振り返ってよりよく問題解決しようとする態度,算数で学んだことを生活や学習に活用しようとする態度を養う。

これからの社会を自ら創り出していく資質・能力を育成するためにはどういった方法が考えられるのでしょうか。「カリキュラム・マネジメント」の実現という視点からお話しします。カリキュラム・マネジメントには大きく3 つあります【図3】。

例えば、②のように、学校教育目標を設定し、その実現のためにPDCAサイクルを確立していくこともカリキュラム・マネジメントですし、③のように、地域等の人的・物的資源を活用することもカリキュラム・マネジメントです。しかし、皆さんにもっとも意識していただきたいのは、①の「目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと」です。

改訂に向けての審議の中では、より具体的に「教科等を学ぶ本質的な意義を大切にしつつ、教科等間の相互の連携を図ることによって、それぞれ単独では生み出し得ない教育効果をもたらす教育課程」にしてほしいといった意見も出されました。そして、このような教育課程を編成しやすくするために、学習指導要領の形式も変わっているのです。

小学校の算数を例に挙げれば、現行の学習指導要領で示されている目標は【図4】のようになっています。この中には当然、知識及び技能、思考力、判断力、表現力等、そして態度といった学びに向かう力、人間性等が含まれているわけですが、ここでいう態度がどのようなものなのか、算数を専門とする方以外、あるいは保護者の方々などには分かりにくいと思われます。

ですから今回の改訂では、すべての教科等の目標は、最初に柱書きとして教科等が目指す資質・能力がどういうものかの全体像を示した上で、(1)には知識及び技能を、(2)には思考力、判断力、表現能力等を、そして(3)には学びに向かう力、人間性等の目標を示すという形式となっています。

内容の示し方の変更点

【図5】今回の学習指導要領の改訂のポイント 内容の示し方

【現行】 第3節 算数 第1学年 2内容
A 数と計算

(1)ものの個数を数えることなどの活動を通して,数の意味について理解し,数を用いることができるようにする。

ア ものとものとを対応させることによって,ものの個数を比べること。

イ 個数や順番を正しく数えたり表したりすること。

ウ 数の大小や順序を考えることによって,数の系列を作ったり,数直線の上に表したりすること。

エ 一つの数をほかの数の和や差としてみるなど,ほかの数と関係付けてみること。

オ 2位数の表し方について理解すること。

カ 簡単な場合について,3位数の表し方を知ること。

キ 数を十を単位としてみること。

【改訂】 第3節 算数 第1学年 2内容
A 数と計算

(1)数の構成と表し方に関わる数学的活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。

ア 次のような知識及び技能を身に付けること。

(ア)ものとものとを対応させることによって,ものの個数を比べること。

(イ)個数や順番を正しく数えたり表したりすること。

(ウ)数の大小や順序を考えることによって,数の系列を作ったり,数直線の上に表したりすること。

(エ)一つの数をほかの数の和や差としてみるなど,ほかの数と関係付けてみること。

(オ)2位数の表し方について理解すること。

(カ)簡単な場合について,3位数の表し方を知ること。

(キ)数を,十を単位としてみること。

(ク)具体物をまとめて数えたり等分したりして整理し,表すこと。

イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。

(ア)数のまとまりに着目し,数の大きさの比べ方や数え方を考え,それらを日常生活に生かすこと。

加えて、内容の示し方も変わっています。【図5】は、現行の小学校1年生の算数「数と計算」の部分です。最初に、「ものの個数を数えるなどの活動を通して、数の意味を理解し、数を用いることができるようにする」とあり、その次に、指導する事項としてア~キが示されていますが、これらを知識及び技能、思考力、判断力、表現能力等、学びに向かう力、人間性等に分類できるでしょうか。

例えば、エには「一つの数をほかの数の和や差としてみるなど、ほかの数と関係付けてみること」とあります。「みること」だから思考力でしょうか、それとも見て判断するということでしょうか。今も首をかしげている方がいらっしゃるということは、それだけ分かりにくいということだと思います。それでは連携はしにくいと思います。ほかの教科と、思考力等に関して連携しようと思っても、それがどのような思考力等なのかが分からなければ連携できないと思います。そのため今回の改訂では、アには知識及び技能のことを書き、イには思考力、判断力、表現力等のことを書くといったように整えました。このように、内容の示し方でも「教科等を学ぶ本質的な意義を大切にしつつ、教科等間の相互の連携を図る」ことを意識しているわけです。なお、学びに向かう力、人間性等については、それぞれの部分で教科等の目標の(3)の涵養を目指して、各学校で検討することになっています。

「情報活用能力」育成のための
カリキュラム・マネジメントの実現

【図6】今回の学習指導要領の改訂のポイント 情報活用能力の例

では実際に、情報活用能力の育成を例にカリキュラム・マネジメントの実現について考えてみましょう。まずは、「情報活用能力」とはどのようなものなのかを明確にする必要があります。その際、教科等の連携がしやすいように、教科等の目標と同様に「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」そして「学びに向かう力、人間性等」の3つの柱で整理することが大切です。

次に、明確にした目標を各教科等で目指すわけですが、各教科に新たな内容を追加するということではありません。例えば、文字情報は国語で学び、数字情報は算数・数学で学んでいます。また、社会科や理科ではグラフなどの資料を活用しています。このように各教科で目指している資質・能力の中から、情報活用能力に関係するものを選ぶのです。さらに、目標としての資質・能力にはなかったとしても、学習活動で育成できるものもあったり、題材や教材で育成できるものもあったりします。

そして【図6】のように、各教科で育成する情報活用能力に関係する資質・能力を、各教科等の指導計画に従って並べてみましょう。もし、「これが抜けている」というものがあれば、どこかの教科等で指導するようにしていただきたいと思います。また「この順序は適切なのか」という視点で検討することも大切です。例えば、ここで使おうとしていた機器やソフトウェアを、別の教科で先に経験している。あるいは、この時期にしっかり取り組ませようと考えていたことを、別の教科で先にやっていた。このような問題を見いだし、子どもたちが学びやすいような順序で指導内容を配列し直すのです。加えて、例えば総合的な学習の時間を使い、各教科等で育んでいる情報活用能力を連携させるような場面を設定してみようといったことも検討できるかもしれません。それが「単独では生み出し得ない教育効果をもたらす教育課程」の編成ということになります。

プログラミング教育が目指す資質・能力

【図7】今回の学習指導要領の改訂のポイント プログラミング教育

プログラミング体験・論理的思考を身に付ける学習活動
小学校学習指導要領 第1章総則

第3 教育課程の実施と学習評価

1 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善
各教科等の指導に当たっては,次の事項に配慮するものとする。

(3) 第2の2の(1)に示す情報活用能力の育成を図るため,各学校において,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え,これらを適切に活用した学習活動の充実を図ること。
<略>
あわせて,各教科等の特質に応じて,次の学習活動を計画的に実施すること。

ア  児童がコンピュータで文字を入力するなどの学習の基盤として必要となる情報手段の基本的な操作を習得するための学習活動

イ  児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動

【図8】プログラミング・プログラム的思考

プログラミング教育が目指す資質・能力
小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について
(議論の取りまとめ) 平成28年6月16日

  • 発達の段階に即して、「プログラミング的思考」(自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力)を育成すること。【思考力・判断力・表現力等】

  • (小)身近な生活でコンピュータが活用されていることや、問題の解決には必要な手順があることに気付くこと。

    (中)社会におけるコンピュータの役割や影響を理解するとともに、簡単なプログラムを作成できるようにすること。

    (高)コンピュータの働きを科学的に理解するとともに、実際の問題解決にコンピュータを活用できるようにすること。【知識・技能】

  • 発達の段階に即して、コンピュータの働きを、よりよい人生や社会づくりに生かそうとする態度を涵養すること。 【学びに向かう力・人間性等】

プログラミング教育についても、情報活用能力と同様に、各教科等が連携して取り組んでいただきたいと思います。プログラミング教育が目指している資質・能力は、情報活用能力に含まれているというイメージです。中学校と高等学校については専門で扱う教科がありますので、総則ではプログラミング教育について言及していませんが、ほかの教科では取り組まなくて良いということではありません。むしろ、様々な教科等で取り組んでいただきたいと考えています。小学校では専門の教科はありませんので、プログラミング体験あるいは論理的思考を身に付ける学習活動について例示しています【図7】。

プログラミング教育は「プログラミング的思考」という思考力、判断力、表現力等を育成することだけを目指していると思われがちです。小学校のプログラミング教育を検討した際には、確かに、第一に「プログラミング的思考」を育成することが挙げられています【図8】。しかし、小学校、中学校、高等学校の段階での知識及び技能についての目標もあり、さらに「発達の段階に即してコンピュータの働きを、よりよい人生や社会づくりに生かそうとする態度を涵養すること」も含まれています。このように思考力等の育成だけを目指すのがプログラミング教育ではないのです。

プログラミング教育について検討を始める理由について、先に示した資料には「便利な機械が『魔法の箱』ではなく、プログラミングを通じて人間の意図した処理を行わせることができるものであり、人間の叡智が生み出したものであることを理解できるようにすることは、時代の要請として受け止めていく必要がある」と示されています。

生まれたときからコンピュータやスマートフォンがある。そうした時代を生きる子どもたちは、それらを「便利なもの」として認識したとしても、それを自分で変えていこう、新たな使い方をしようといった発想が生まれなくなってしまうのではないでしょうか。誰かが作ってくれた「便利なもの」が使えればいいという考え方では、自分たちでより良い社会を創っていこうといった意欲も湧いてこないと思います。

プログラミングは、考えたことを、
人間にとっても分かる言葉で表現することです。

プログラミングは人が考えて表現するもの

これはぜひ意識していただきたいことですが、プログラミングとは、ある問題に対して、人間がこうやって解決したいと考えたことを、人間にも分かる言葉でコンピュータに命令することです。それを実行すると、コンピュータはコンピュータだけが分かる言語に変換して処理してくれるわけです。つまり「命令されたとおりに処理する」のがコンピュータの特徴です。そしてコンピュータは「察して」はくれないのです。人間を相手に、対話したり文章で伝えたりするときには「きっとこういう意味なのかな」と察してくれます。しかしコンピュータが相手では、そうしたことは一切ありません。分からなかったら分からない、間違っていたら間違っていると処理するだけです。ただ、文句は言いませんので、何度でも繰り返すことができます。何らかの問題を解決するために、このような特質をもったプログラミングを行うことは、しっかりと考える力や、目的のためにどんな手順が必要かを考える力を育成するために、とても良い活動だと思います。

いよいよ平成30年4月から小・中学校で新学習指導要領への移行期間に入ります。子どもたちが、社会の変化に対応するためではなく、自分たちの手で幸福な人生とより良い社会を創っていくために必要な力を育む。そのためには、ICTを活用する力が必要ですし、ICTを使うことによってその力が育まれると思います。優れた実践事例などを参考に、指導計画等の作成や環境整備などを計画的に進め、情報活用能力の育成、プログラミング教育、ICTの活用等を重視している新学習指導要領への円滑な移行の準備を進めていただけることを期待しています。

タブレット端末活用セミナー2018(札幌会場)特別講演より
(2018年4月掲載)