学習指導要領/教育の情報化

授業が変わる、ライブ感あるプレゼンテーション(小林 祐紀 茨城大学准教授)

はじめに

【図1】タブレット端末の整備が進んでいる。文部科学省(2016)によると、全国の公立小、中、高等学校、特別支援学校において平成28年3月時点で25万台以上が整備されており、2年間で約3.5倍の伸びを示している【図1】。現時点において、30万台以上であることが容易に推測できる。

タブレット端末は、価格が安価であるから整備が進んでいるのではない。これから求められる授業とタブレット端末の活用の相性が良いと考えられているからこそ、各自治体・学校等によって整備が進められている。例えば、筆者が今夏に訪問した茨城県内の義務教育学校では、自治体のモデル校として、普通教室への電子黒板の整備とともに35台のタブレット端末が整備された。そしてタブレット端末の活用による表現力の向上を目指し、学校研究に取り組もうとしている。

本稿では、整備が進むタブレット端末は、どのような授業の中で活用されることが、児童生徒の能力を引き出すことにつながるのか、筆者がここ数年で参観した授業、筆者自身が同僚たちと取り組んできた授業をもとに論じていく。そして、今私たち教師に求められることは、タブレット端末に代表される「ICT活用観」の再確認であることが読者のみなさんに伝われば幸いである。

ライブ感あるプレゼンテーション

プレゼンテーションの授業と聞くと、どのような学習活動を想像するだろうか。学期に1回ほどの頻度で設定され、児童生徒が念入りに発表用原稿を書き、加筆修正を加え、話す言葉を覚えるほど繰り返し練習し、本番の発表会に臨む。また、プレゼンテーションで使用する資料は、コンピュータ等で時間をかけて作成する。このような学習活動だろうか。しかし、これではせいぜい1年間で2~3回程度の機会があれば良い方である。もしかすると、このような時間がかかるようなプレゼンテーションは、一度も行われていないかもしれない。

筆者が提案したいのは、上記のようなプレゼンテーションではない。もっと日常的に、もっと多くの機会(さまざまな教科、場面)で、原稿などを準備せずに行うライブ感あふれる日常的なプレゼンテーションである。

タブレット端末の利点の一つとして可搬性が挙げられる。持ち運びやすさのことである。他にも、操作性の良さや試行錯誤の容易さが挙げられる。つまり、タブレット端末を任意の場所に持ち運び、短時間で編集したもの、あるいは撮影した写真だけを用いてプレゼンテーションすることができる。

【図2】例えば、【図2】は中学校理科の授業の一場面である。実験結果をグループの中の担当者が各グループから集まったメンバーに説明している授業場面である。このプレゼンテーションで使用されたのは、実験結果を撮影した写真、および実験方法や考察等が書かれたホワイトボードの写真である。もちろん発表用原稿は存在しない。プレゼンテーションを担う生徒は、自らのグループの実験結果について、どの写真を見せれば伝わるか、どのような順でどのような内容を話せば伝わるか等を事前に考えただけではなく、きっとプレゼンテーションのさなかにも、聞き手の反応を見ながら考えていたはずである。

他者の考えを聞く学習活動、自分の考えを伝える学習活動、
そしてその価値を再確認する機会を、
数多く設定できるかどうかが鍵となる

3つのポイント

前述した授業が成立するためには、3つのポイントがある。

第1に、各グループの実験結果を統合して考えることで、学習(授業)課題が解決するといった授業デザインが採用されていることである。このような授業デザインでは、話し手・聞き手の双方が必然的に、主体的に取り組むことを要求される。当該グループの実験結果を理解しているのは、話し手ただ一人。聞き手に分かるように伝えなければならない。また、当該グループに実験結果を聞きに来ているのはそれぞれのグループの聞き手ただ一人。自分がしっかりと理解し、聞いたことを伝えないと、役目を果たせないばかりか、学習課題の解決につながらない。授業に参加する誰もが主体的に学習に関わらざるをえない授業デザインといえよう。

第2に、第1でも少し触れたが、児童生徒全員が何らかの役割を担っているということである。しかも、それぞれの役割はどれも大きく重要である。「私一人ぐらい……」という考えは許されない。

特に、プレゼンテーションの直前まで、誰が実験結果を伝える役になるのかは、教師から伝えられない。各グループでの実験終了後には、誰が話し手になったとしても大丈夫なように、実験結果の確認や伝え方の確認が念入りに行われ、どのグループにおいても対話的な学びの姿を見ることができる。

第3に、児童生徒がためらうことなく、誰に対しても意見を述べたり、交わしたりしているということである。当たり前のことのように感じられるが、果たして当たり前だろうか。話し手が恥ずかしがったり、学習内容を伝えることに意味を見出せなかったりする姿こそが、筆者が当たり前に見てきた光景であった。もちろん一朝一夕に、このような児童生徒の姿は実現されない。このような他者の考えを聞く学習活動、自分の考えを伝える学習活動、そしてその価値を再確認する機会を、数多く設定できるかどうかが鍵となるはずである。

数多くあるライブ感あるプレゼンテーションの場面

これまで述べてきたライブ感のある日常的なプレゼンテーションは、他の学習場面においてもいくつも見つけられる。

【図3】【図3】は、小学校国語科の授業の一場面である。自分の見方・考え方について一人一人がグループ内でプレゼンテーションしている。4人いれば4人分の見方・考え方を聞くことができる。自分と異なる見方・考え方は、言語活動として設定されている一人一人が書く「名画解説文」の手がかりになる。だからこそ、聞き手は身を乗り出して聞き、話し手は自分だけのオリジナルの見方・考え方を伝えたい気持ちが高まっているといえる。

【図4】【図4】は、近年たびたび見られる、体育科におけるタブレット端末の活用場面である。ただ、残念ながら多くの実践では互いに撮影し合い、見合って終わりという学習活動に遭遇することが多い。確かに、動きを見ることで問題の把握につながる場合もあるが、多くの場合には、何らかの働きかけが必要であろう。この授業で教師は、誰と誰をバディにするのかを熟慮したに違いない。その結果、撮影した泳ぎに対して、助言がなされていただけではなく、複数回見合っては泳ぎ方について質問する姿が見られた。バディの泳ぎを少しでも改善しようと思い、ジェスチャーを交えたプレゼンテーションが行われていた。

【図5】【図5】は、高校国語科の授業の一場面である。羅生門の学習後に学習(授業)課題「生きるための悪は許されるのか」について、まずは一人一人がワークシートに考えをまとめ、次にグループ内にて一人一人がプレゼンテーションを行った。さらに、グループ内の議論の結果をタブレット端末上にまとめる。その後、任意のグループの画面が大型提示装置に投影され、代表によるプレゼンテーションが行われた。「私たちのグループでは……」という話し方でプレゼンテーションしていたのが印象的であった。議論を経て、どのような意見になったのかを代表となった生徒なりに伝えようとしている姿が見られた。

小学校低学年でも同様の実践を見ることができる。例えば生活科の授業の一場面等である。とつとつとした話し方であるが自分の体験したこと、考えたことなどを伝える学習活動とタブレット端末は非常に相性が良いといえる。

離席のススメ

【図6】【図7】ライブ感ある日常的なプレゼンテーションによって授業は変化する。高い動機付けのもと、自らの考えやグループの考えを表現したり、他者の話に傾聴する場面が設定されたりする。しかも、一方的に話すだけに留まらず、質問や確認等の双方向のやりとりが生まれる。それは、教師が主役の授業から、児童生徒が主役の授業への変化を意味する。そして、このような学習の実現に向けて、筆者は児童生徒が離席する学習活動をおすすめしている【図6、図7】。

必要に応じて、児童生徒自身が自由に動き、その場でライブ感あるプレゼンテーションを行うことは、学習者の意識を大きく変える。45分・50分間ずっと座っているのではなく、たくさんの仲間と意見を交わすためには席を離れなければならない。そのときに自らの考えを表現するために、タブレット端末は大いに役立つことはこれまでに述べてきた。意見を交わした直後に内容の修正も容易に行うことができる。例えば【図6】では、プレゼンテーションの直後に内容を修正する児童の姿が見られた。

当然のことながら、児童生徒の離席を実行するためにはいくつかの配慮点がありそうだ。まず、何よりも教師の我慢(忍耐強さ)が必要になる上、同時多発的に起こる学びを見取る評価の目も養わなければならないだろう。しかし、どの校種においても実現可能である。そして、授業の光景は間違いなく変化する。

学習指導要領が変わる今だからこそ
タブレット端末をどのような授業(指導)観のもとで
活用するのかといった「ICT活用観」を、
問い直す必要がある

おわりに

タブレット端末を活用した授業では、どのような機能、どのようなソフトウェアを使うのかということをどうしても考えがちである。このような考え方も、これからも進むタブレット端末の整備やソフトウェアの開発を考えたときには必要である。また、タブレット端末が学習者の学びにどのように関与したのか。タブレット端末活用場面の前後でどのような教師の働きかけが必要か等といった授業研究に関わる議論も、最近見聞きするようになってきた。タブレット端末の活用が日常化してきた証といえよう。しかし、タブレット端末の活用が日常化すればするほど、教師によっては活用場面が固定化する傾向が見受けられる。例えば、教師がタブレット端末を活用し、何かを大きく提示するといった活用場面だけになりがちである。

児童生徒主体の授業を実現するためには、活用スキルの向上や活用場面の認知と共に、学習指導要領が変わる今だからこそICT(本稿の場合、タブレット端末)をどのような授業(指導)観のもとで活用するのかといった「ICT活用観」を、問い直す必要があるのではないだろうか。本稿では紙面の都合上、ライブ感のある日常的なプレゼンテーションに限って論じてきたが、他にも今求められる授業と相性が良い活用方法は数多くある。またいずれ報告できればと願っている。

参考文献
文部科学省(2016)平成28年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果

(2017年10月掲載)