学習指導要領/教育の情報化

学習指導要領改訂のポイント 無藤 隆 白梅学園大学教授

文部科学省がこのほど公示した新しい学習指導要領では、学習内容の変更にとどまらず「主体的・対話的で深い学びの実現」など指導方法やカリキュラム・マネジメントまで踏み込んで記述されています。今回の改訂のポイントについて、中央教育審議会教育課程部会長を務められた、無藤 隆 白梅学園大学教授に伺いました。

学び続ける姿勢や学ぶ力としての学力

新しい学習指導要領の前文に「社会に開かれた教育課程の実現」と書かれているように、学校には子どもたちを教育する役割があり、彼らが大人になって社会に出たときに意味のある教育を行わなければなりません。ですから、新しい学習指導要領は、これから学校教育を受ける子どもたちが社会に出る2030年ごろ、今から10年後の社会をイメージして考えなければならないわけです。そのころの社会は、おそらく政治的、経済的に激変していることが予想されますし、AIなど、今のICT技術よりもはるかに進化した技術と共存している社会になっていると思います。

そのような変化の激しい社会では、絶えず新しい知識が生まれますから、子どもたちが身に付けるべき「基礎的な知識」というものは、今とは相当違うものになります。さらにそれは10年、20年というスパンで変わるものではなく、絶えず変化するものだと考えられます。それらに対応していく力を端的に表したのが「学び続ける姿勢、学ぶ力としての学力」です。これは基礎的な知識の上に成り立つことには違いありませんが、高等学校までに基礎的な知識を固め、その先の大学で発展的に考える力を身に付けようという考え方ではなく、小学校の段階から自ら学ぶ力を養成しようという考え方をより明確に打ち出しています。

そして、子どもたちに学び方や学ぶ姿勢を身に付けさせるためには、まず教師が「絶えず学ぶ、学び続ける」という学びの在り方をイメージして指導しなければなりません。そのうえで、子どもたちが主体的、能動的に学ぶ経験をより多くさせることが重要です。

「まず指導すべき内容があり、どのように学ぶのかは教師の指導技術、テクニックである」という考え方もありますが、学びの根本は「教師の指導を通して、子どもが学び方を学ぶ、学ぶ姿勢を身に付けること」にあります。彼らが学校を卒業しても、自分の仕事や趣味などについて学び続けていける力を身に付けさせること。それはインターネットや本から学んでも良いと思いますし、自らの判断で先生に師事しても良いと思います。さまざまな学び方を経験させ、学びに向かう力を身に付けていく。基礎的な知識は、それらに結びつけるような形で身に付けさせるということです。

すべての教科を「資質・能力」の3つの柱で再整理

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【図1】「次期学習指導要領に向けたこれまでの審議のまとめ」(中央教育審議会教育課程部会)より

幼・小・中・高等学校を通して、その根幹にある「学びに向かう力」を含めた学力を「資質・能力」と呼び、整理しています。資質・能力は、簡単にいうと「知的な力」と「情意的な力」に分けられます。

「知的な力」は非常に大雑把にいうと「知識(生きて働く知識・技能)」と「考える力(思考力、判断力、表現力)」に分けて考えられます。 「知識」とは物事についての在り方を知ることであり、私たちは問題解決を図るときにさまざまな物事に関する知識を使って思考しています。一方で、「考える力」とは、普遍性を持ちながらも、例えば数式を使うのであれば数学的な考え方をしていますし、言葉を使うなら国語的な考え方をしているといえます。

これら「知識」と「考える力」を組み合わせることで「知的な力」の育成が整理されます。

資質・能力のもう一つの側面である「情意的な力」とは、意欲や意思などを、自分の人生、将来に結びつけて学んでいける姿勢のことです。これを先に述べたように「学びに向かう力」と呼んでいます。この力は、以前から大切な力であると言われていましたが、今回の改訂で「学力の3要素」の一つになり、それが小・中・高等学校の教育を通じて育成すべき資質・能力であると明確に示しています【図1】。

では、「何を学ぶか」、つまり「各教科で何をどのように教えるのか」ということについては、学習指導要領では、教科ごとに教科固有の目標、内容が書かれています。その目標をそれぞれこれまでお話してきた「資質・能力」の3つの観点で整理しています。

さらに、各教科において学習対象を捉える視点や考え方を「見方・考え方」として整理しました。各教科の目標と内容を合わせた学習指導要領の記述全体が、その教科の「見方、考え方」であると理解していただいていいと思います。「資質・能力」を直接教えることは不可能ですから、数学では数学としての「見方、考え方」を教え、国語では国語としての「見方、考え方」を教える。「見方、考え方」を学ぶことを通じて、子どもたちの「資質・能力」が身に付くという考え方です。


問題解決のための道具・手段として、
ICTなどを使って「考える力」を育てる

「主体的・対話的で深い学び」とは何か

そして「どのように学ぶか」という「学び方」の部分ですが、これを「アクティブ・ラーニング」「主体的・対話的で深い学び」と呼んでいます。

「主体的な学び」というのは、まさに自らの意思、意欲を働かせて学ぶことですから、より具体的にいえば、自分がどのように学んでいくかという見通しを立てながら、またこれまでどのように学んできたのかを振り返りながら学ぶ、そのような学び方を言います。

「対話的な学び」とは、人とやりとりしながら学ぶことです。対話するとき、私たちは必ず言葉や図や映像などで表現しながら考えを伝え合います。それぞれの考えをさまざまな表現手段を通して共有し、そして自らの表現を見直しながら考えていく。対話的な学びとは、表現と絡めて非常に重要な学びです。

そして、それらが「深い学び」につながる必要があります。深い学びとは、教科ごとの「見方・考え方」を深めるということです。つまり、主体的・対話的でありながら、教科としての見方・考え方を深めていくような学びをめざそうということです。それは、先生方の指導の仕方でもあり、同時に「主体的・対話的で深い学び」の在り方を子ども自身に身に付けさせる学び方であることも意味しています。これらの点が、すべての教科に共通する重要なポイントです。

学び方を学ぶとは、考える方法を学ぶということ

今回の改訂の根底にある「学び方を学ぶこと」とは、別の言い方をすれば、「考える力を育てるときに、考える方法を学ぶ」ということです。

先に述べたように、考えるということは、知識内容に支えられているので、知識を使わなければ考えられません。そして知識は、知識と知識が結びつくことではじめて問題解決や、思考で使える「構造化された知識」になります。

ですから、考える力を育てるとは、「知識を構造化して、問題解決に活用できるようにする」ことと、「問題に合わせて、問題解決のための道具・手段として、ICTや思考ツールなどを使って考える力を育てる」ということです。今、タブレット端末など、使いやすいICTが普及しており、ICTは問題解決のための有効な道具の一つになっています。もちろん、紙でも良いのですが、子どもたちが将来就く仕事や学びを考えたときに、ICTを使うことは間違いありません。それは単純にインターネット検索をするといったことではなく、アプリケーションやソフトウェアを使って考えたりしていると思います。ですから、授業でICTを積極的に活用して、子どもたちに馴染ませた方が良いということです。ただし、それは紙で行っていることを単純にICTに置き換えたら良いということではなく、ICTでなければできないことを使って学んだり、問題解決したりしてほしいと考えています。

学校は、社会と比べてICTを活用した問題解決、思考にまだまだ馴染んでいません。ICTを含めた適切な道具を使って、問題解決を学ばせてほしいと思います。

「重点化」でカリキュラム・マネジメントを

学校の教育課程を編成することは各学校単位の仕事ですが、カリキュラム・マネジメントという言葉は、教育課程外の時間、例えば部活動、朝の時間や放課後、土曜日、長期休業中、保護者との連携といったもろもろの学校の運営、経営にかかわる内容を含めた広い意味で捉えていただきたいと思います。

学校への要請、要望は、英語教育やプログラミング教育、防災教育など、学習指導要領の改訂を重ねるごとに増えています。そのなかでも、学校に与えられている時間や人員は一定であり、それ以上を望むことが困難な状況にあります。今回の改訂では、教える内容を減らすことや授業時間の削減をしていませんから、増えた内容に対して、今学校で取り組まれている内容を見直し、整理して時間を創出しなければいけません。これを「重点化」と呼んでいます。

学習指導要領は最低基準ですが、すべての地域、学校で満遍なく同じように教えるというわけではありません。地域、学校の状況はさまざまです。学校単位、もしくは先生単位でそれぞれの実情に合わせて、どこをどのように強調してメリハリをつけるのかを考え、カリキュラム・マネジメントに取り組んでいただきたいと思います。


学習指導要領の中身は大きく変わっていません
学び方を学ぶことが強調されているのです

単元レベルで「主体的・対話的で深い学び」を考える

今回の改訂では、高等学校1年で科目が増加したり、小学校5、6年で英語科が開設したりするなど、さまざまな内容の変化がありますが、学習指導要領の中身はそれほど大きく変わっていません。「どのように学ぶか」という学び方を学ぶことがかなり強調されていますが、これらについて、今まで小・中学校でまったく取り組まれていなかったことではないと思います。

そして「アクティブ・ラーニング」という言葉は、「主体的・対話的で深い学び」という言葉に変わりました。アクティブ・ラーニングという言葉が諮問で出て以来、それに関する書籍が多数出版されていますが、小・中・高等学校でそれぞれ解釈が異なっていたり、「アクティブ・ラーニングは必ず話し合う」、「先生が説明してはいけない」といった誤った見解が広まったりしていました。そのような状況を受けて、「主体的・対話的で深い学び」と表現を改めることで先生方が何を指導すべきなのかをより明確にすることにしました。

また、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けては、1コマのレベルではなく、単元のレベルで実現を考えてほしいと思います。つまり1時間丸々一斉指導のコマがあってもよくて、さまざまな学習活動を組み合わせた単元全体で子どもたちがアクティブになっているかどうかを考えてほしいということです。
このような活動は、小・中学校ではこれまでも取り組まれていることだと思いますが、特に高等学校では、1時間丸々先生が話すという授業がずっと続くというケースもあります。そのような意味では、極めて単純な意味での「アクティブ・ラーニングの実現」というメッセージは、今後も必要だと考えています。


小学校から高等学校1年まで、
カリキュラムを体系化し、縦のつながりを強化

小・中・高等学校で何が変わるか

小学校英語科は3年後に全面実施をめざしています。高学年では、週あたり1コマの増加の仕方は学校や教育委員会に任されていますが、おおむね、45分授業週1回か、15分週3回の実施を想定しています。

45分授業の場合は、ALTと中学校の英語免許を持った教員が指導することを原則にしています。これらの授業について、中学校英語二種免許を持っている小学校教諭を増やして教えられるようにしようという動きもあります。15分の指導では、オーディオ・ビジュアルな英語教材を使って子どもが学びます。教材は、文部科学省から全小学校に配付される予定で、学級担任が指導の中心にならない教科になります。小学校3、4年生は、外国語活動ですから、こちらは従来のように基本的には学級担任が指導します。

一方で、中学校は大きな変化が見られません。中学校では「どのように教えるか」に重点が置かれた改革になります。中学校は生徒指導が忙しいですから、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて、教員がより授業づくりにかかわる時間を増やす必要があります。具体的には、教員の部活動にかかわる時間を減らしたり、それ以外の校務負担を減らしたりするといった方向性を打ち出しています。

そして教科横断的な、教科の壁を越えた授業づくり、授業改善というねらいもあります。中学校では、他教科の実践については、内容がわからないことが多いと思いますが、「主体的・対話的で深い学び」という共通の観点であれば、意見交流ができます。そのような交流が、教科の壁を越えた思考力や問題解決力の育成につながると思います。

部活動にかかわる時間の削減については、これまで部活動が担っていた生徒指導における大きな役割を、学習以外の部分でどのように充実させるかが課題になります。サッカーなどのスポーツは、近年では地域のクラブに所属するケースも増えていますから、地域によっては学校に頼りきった部活動である必要がなくなってきており、地域との連携で解消する部分もあります。

高等学校は、「歴史総合」など教科・科目構成において大きな再編がありますが、各教科において小学校から高等学校1年までを一つとしたカリキュラムの体系化を行い、縦のつながりを強化しています。高等学校は義務教育ではありませんから、厳密にいえば小・中学校の9年間に加えて1年ということですが、すべての教科において高等学校1年生で一応の完成形というイメージです。現代社会の実情やニーズに合わせた再編を行っています。

社会に開かれた教育課程の実現に向けて

社会に開かれた教育課程の実現に向けて、先生方に2つお願いがあります。

一つは、学校を取り巻く地域社会、つまり保護者や地域のさまざまな方と一緒になって学校の在り方を考えてほしいということ。

もう一つは、そのようななかで、学校のミッションを見直そうということです。5年、10年単位でますます増える教育内容や子どもにかかわる要望について、そのすべてを学校で引き受けることはできません。学校が主体となって、保護者、地域との連携や分担を見直し、本当に学校ですべきことを明らかにしていくこと。そこから学校に課せられているミッションを再定義することが必要です。こうしたことは、都市部と地方の学校では学校を取り巻く状況がまったく異なるため、国や文部科学省から一律に決めることはできませんから、ぜひ教育委員会、学校、先生方が一緒になって、新しい学校教育をつくっていただきたいと思います。

(2017年3月取材 / 2017年6月掲載)