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学習指導要領改訂の方向性
今、学習指導要領の改訂に向けてさまざまな話が進んでいます。2016年末に中央教育審議会の答申がありました。まもなく改訂が公示され、次期学習指導要領の形が見えてきます。
中央教育審議会では、非常に長い時間をかけて次期学習指導要領に向けた審議のまとめが行われてきました。「学習指導要領改訂の方向性」のページでは、改訂の方向性がわかりやすく表現されています【図1】。この図に示されている「何ができるようになるか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」の3点が次期学習指導要領の軸になります。「何を学ぶか」は内容を、「どのように学ぶか」は方法を、そして「何ができるようになるか」は能力を示しています。誤解を恐れず言えば、これまで学習指導要領の変遷は、赤枠で囲った「何を学ぶか」「何ができるようになるか」に重きが置かれていました。次期学習指導要領では、青枠で囲った中の、特に「どのように学ぶか」ということに着目して、各教科、領域の内容が示されると思います。非常に大きな転換になると推測しています。
「生きて働く」知識・技能の 習得とは
「何ができるようになるか」という部分には、「生きて働く知識・技能の習得」と記されています。新たに「生きて働く」という言葉が書き加えられました。これは非常に大きなことで、今後先生方が担当される学年、教科・領域において、どのようにして「生きて働く」知識や技能を児童生徒に身につけさせるのかを、具体的に詰めていく作業が必要になります。
では、どのようにすれば「生きて働く」知識や技能が身につくのか。次の3つのポイントを挙げたいと思います。
1つ目は、児童生徒が「今までの知識をフル活用する」ことです。教師が、児童生徒が既習の知識をフル活用して取り組むような課題や仕掛けを考えるということ。
2つ目は、「今までの知識を再構成する」ことです。「再構成」というのは、知識を「活用」するという段階から一歩踏み込んでいて、これまでに獲得した知識を修正して、新たな知識を獲得していくことを指しています。
3つ目は、「児童生徒が知識を活用するホンモノ・本気な場がある」ことです。例えば、ある国語の教科書では、リーフレット制作に取り組む単元があります。教科書では、委員会活動や町、商店街をテーマにリーフレットを制作することが想定されています。しかし、それらのテーマがすべての学校、学級の実態に合っているとは限りません。教師が自分の学校や学級の実態と照らし合わせて、誰に向けて、どのような目的で、どのようにしてリーフレットを制作すると良いのかを考えることや、児童生徒が制作したものが実際に活用されるといった、児童生徒が本気で取り組める場を、教師が設定することがポイントになります。
児童生徒に不足する「根拠のある説明をする力」
国立教育政策研究所がまとめた2014年度の全国学力・学習状況調査の結果では、小学校の国語では「根拠を明確にした上で発言をする点」、算数では「根拠となる事柄を過不足なく示し、判断の理由を説明すること」に課題があると書かれています。これは中学校の国語、数学においても同様の課題が挙げられており、根拠のある説明をする力が不足していることが明らかになっています。
では、授業で児童生徒の「根拠のある説明」を生むためのポイントとは何か。1つ目は「説明する必然性」です。ホンモノ、本気の場が重要と先に述べましたが、説明するためには必然性が必要です。確かに、先生に「説明しなさい」と言われれば、子どもは説明するかもしれませんが、それよりも説明をせざるを得ない、説明をする羽目になるような学習の場を教師が用意したい。
2つ目は「出力する機会」の創出です。この「出力」というのは子どもたちが話して説明したり、書いて説明したりすることを指しています。「これはちょっとおかしいのではないか」「これ直そうよ」といった話し合いをする場が、授業の中でどのように保証されているかということです。
3つ目は「論点の整理」です。この言葉の主語は教師です。板書はいつの時代も大事だと思います。教師が子どもたちの考えや話し合いの論点をきちんと板書で整理できているかどうか、ということです。
「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」
中央教育審議会では、「アクティブ・ラーニング」とは「主体的・対話的で深い学び」であると説明しており、「審議のまとめ」では【図2】のように詳しく表しています。
「主体的な学び」は、「学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる『主体的な学び』が実現できているか」と書かれています。そして、その言葉を受けて、【例】(黄囲み部分)の中に「学ぶことに興味や関心を持ち、毎時間、見通しを持って粘り強く取り組むとともに、自らの学習をまとめ振り返り、次の学習につなげる」と書かれています。この記述は、「教師が子どもの思考の連続性を保証していこう」ということであり、「前の授業から次の授業につなげる。そのような授業の流し方をしていますか」と私たちに問うているといえます。非常に大切な記述だと思います。
「対話的な学び」は、「子ども同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める『対話的な学び』が実現できているか」と書かれています。「対話的」なので、私たちは子ども同士がペアやグループで話し合うようなイメージを持ちがちなのですが、ここで示されている「対話的な学び」の【例】には「子ども」と「教員」、「子ども」と「地域の人」、あるいは本を通した「本の作者」などとの対話、これも「対話的な学び」を生み出す一つだと書かれています。つまり、「情報」との対話、自己の中の「情報」との対話も「対話的な学び」であることがわかります。
最後に「深い学び」です。「各教科等で習得した概念や考え方を活用した『見方・考え方』を働かせ、問いを見いだして解決したり、自己の考えを形成し表したり、思いを基に構想、創造したりすることに向かう『深い学び』が実現できているか」と書かれています。
この【例】の中で、「精査した情報を基に自分の考えを形成したり、目的や場面、状況等に応じて伝え合ったり、考えを伝え合うことを通して集団としての考えを形成したりしていく」と書かれています。これは、子どもたちがペアやグループで話し合う前に、1人ひとりが精査した情報を基に自分の考えを持ち、伝え合う場面に向かうということが保証されているのかどうか。そして、ただ伝えるのではなく、目的や場面、状況などに応じて伝え合うことができているのかどうかということを指摘しています。
このことができているかどうかで、例えば、グループで話し合うときに話し合いに参加しない児童生徒が出てしまうのかどうかが決まると思います。
「主体的・対話的で深い学び」にICTはどう寄与するか
では、ICTは主体的・対話的で深い学びにどのように寄与できるのか。私は「自分の考えを整理する場面」「友だち、あるいは教室の中で共有する場面」「説明するときに映像を示したりしてエビデンスを見せる場面」でのICT活用が効果的だと考えています。
Sky株式会社との長年の共同研究で開発したタブレット端末を活用した学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』は、このような場面でICTを有効に活用できるソフトウェアをめざしてきました。
例えば[発表ノート]は、記号を書いたり、テンプレートのグラフの上に点や線を書き込んだりと、さまざまに表現できるツールになっています。子どもたちは紙だと一度書いたことをなかなか消さないのですが、タブレット端末上では、簡単に書いたり消したりします。「発表ノート」は児童生徒が消しやすく、書き直しやすい、試行錯誤が容易な使いやすいツールをめざして開発しました。
そして[画面合体]は、複数のタブレット端末画面を一つの大きな模造紙、電子黒板のようにして使ったり、それぞれのデータを簡単に送り合ったりできます。
この機能は、友だちの画面と合体した後、合体して共有したり、作業したりした内容を個々で持って帰れるようになっているので、一度個に戻って考えることが容易にできます。便利なツールになると期待しています。
[マッピング]は、中心の概念から枝葉を広げていくように言葉を紡いで思考を拡散したり、整理したりするマッピングをタブレット端末上で行えるツールです。マッピングは紙でもできますが、タブレット端末上で行うことで、児童生徒1人ひとりにマップを配付したり、以前作成したマップと見比べて考えたりすることが簡単にできます。[自動整列]の機能も備わっているので、常に見やすく表示してくれます。[マッピング]は、「紙では実現できないことを実現すること」を重視して開発しています。児童生徒が抽象的な概念をより具体化、細分化していくときに有効な機能だと考えています。
もっとも低い「児童(生徒)のICT活用を指導する能力」
これまで学校に導入されてきたICTの多くは、教師が提示用に使うものでした。これまでのように教員が主に使うことを想定してタブレット端末を教員に配付するという整備を行う市町村もあります。今までの流れの延長上にランディングさせられるので、上手な導入方法だと思います。
一方で、主に児童生徒用としてタブレット端末を導入している地域もあります。これは、デジタルカメラやコンピュータ教室整備のように、児童生徒のICT活用を目的とした久しぶりの整備の形なので、全国の学校でも大きな戸惑いがあったのではないかと思います。それは、文部科学省が毎年行っている「教員のICT活用指導力実態調査」の結果からも伺えます。この調査では、「教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用する能力」「授業中にICTを活用して指導する能力」「児童(生徒)のICT活用を指導する能力」「情報モラルなどを指導する能力」「校務にICTを活用する能力」の5項目について調査していますが、この5年間、5項目の中でいつも低いのが「児童のICT活用を指導する能力」です。先生方ご自身でICTを操作して使う分には良いのですが、子どもに使わせて、それを指導することに対して苦手意識があることが伺えます。
児童生徒のICT活用には、「学習規律」が前提になる
では、どのようにしてこの状況を乗り越えるのか。例えば【図3】のように、教員1台のタブレット端末環境であれば、学級経営・生徒指導、つまり学習規律のところはこれまでと変わりません。ただし、どのように実物投影機などと使い分ければ効果的なのかといった「ツールとしての活用」を考えていかなければなりません。
そして「グループ1台」となると、学習規律の問題もあれば、先に述べたようにツールとして子どもたちにどのように使わせるかという問題も考えなければなりません。
さらに、「児童生徒一人1台」となれば、学習規律にかかわる問題がさらに増えると思います。児童生徒1人ひとりがツールとしてICTを活用することは大事なことですが、まだまだそこに到達できていないというのが現状だと思います。
しかし、子どもたちがICTをツールの一つとして活用できることや、目的に応じて使いやすいツールを自ら判断し、選択できる力を身につけさせることが必要です。そのためには、まず教師が普段の授業の中で、ICTを含めたツールの選択を子どもたち自身の判断に任せることができているかどうかを見直してほしいと思います。
タブレット端末活用セミナー2017 in札幌(2017.1.12)基調講演より
(2017年4月掲載)