学習指導要領/教育の情報化

学習指導要領改訂の方向性とアクティブ・ラーニング

新潟大学教育学部卒業後、新潟県上越市立大手町小学校教諭、上越教育大学附属小学校教諭、新潟県柏崎市教育委員会指導主事などを経て、平成17年4月より文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官。平成27年4月より現職。

学習指導要領の改訂に向けて、これからの社会に生きる子どもたちに求められる資質・能力や、注目される「アクティブ・ラーニング」について、田村 学 文部科学省初等中等教育局視学官に解説いただきました。(2015年10月取材)

学習指導要領の改訂へ

「知っていること、できることをどう使うか」

平成26年11月、中央教育審議会に対して「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」として文部科学大臣より諮問文が出されました。

この諮問を受けて、平成27年8月に教育課程企画特別部会において論点整理が行われ、2030年の社会とその先の社会に生きる子どもに、どのような資質・能力の育成が必要なのか。学習指導要領の改訂に向けた本格的な議論が始まったところです。

教育課程企画特別部会においては、このような背景を踏まえ、「何を知っているか、何ができるか」はもちろん「知っていること、できることをどう使うか」という資質・能力、つまり、知識を暗記することに加えて、得た知識を目的に応じて使う力を重視した教育課程の在り方について全体で議論を重ねています。これまでの改訂では、各教科部会の個別の議論からスタートしていましたが、今回の改訂では、まず教育課程全体の議論を教育課程企画特別部会で実施して、教育課程を構造的にとらえることから着手しています。

「知っていること、できることをどう使うか」などの資質・能力を育むための具体的な改善の方策の1つが「アクティブ・ラーニング」です。教育課程を構造的に捉えて見直すという「カリキュラム・マネジメント」のアプローチとアクティブ・ラーニングという、授業における学習・指導方法を具体的に見直すというアプローチを、両輪にして進めることが、【図1】のように21世紀に生きる子どもたちに必要な資質・能力の育成につながるという視点で議論を進めています。

図1

これまで積極的に行われてきた授業改善の取り組みは、まさにアクティブ・ラーニングである

アクティブ・ラーニングの本質

子どもの思考が活性化し、課題に真剣に立ち向かう

そもそもアクティブ・ラーニングという言葉は、平成24年8月中央教育審議会の「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」の中で、すでに記述されています。その際には、能動的学修(アクティブ・ラーニング)と括弧書きで記載されていました。「能動」の対義語は「受動」ですから、大きなとらえとしては「受動的にならない学習」ですが、先述の諮問文では「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習」とされています。

一方で「アクティブ」という言葉から、活動性をイメージさせてしまい、授業中に子どもたちが活動する、ダイナミックに動きまわる、何か体験をたくさんさせなければならない、といった誤解を持たれる傾向があります。確かに体が活動的であるということも大事なのですが、一番活性化してほしいのは子どもたちの頭の中、「思考」です。

つまり、「子どもたちの思考が活性化し、真剣に課題に立ち向かっているような状況」が授業の中で起きているかどうかが重要になるわけです。

探究的なイメージを持たれる方も多いと思います。もちろん探究的なものもありますが、例えば活用の場面で「より積極的に自分の考えを他者に伝える」、習得の場面で「何のために習得するのか、自身にどのような成長があるかを自覚的に習得する」さらには「個別ではなく子ども同士で教え合う、教えてもらう」といった場面でも、子どもの思考は活性化しています。このような学習の状況を授業場面の中に作っていくことがアクティブ・ラーニングにつながります。

そうすると、これまで国内で積極的に行われてきた授業改善の取り組みは、まさにアクティブ・ラーニングであると言えるのです。特に小学校の先生方は熱心に取り組まれており、例えば問題解決的な学習や発見学習、体験活動やグループディスカッション、ディベートなどさまざまにあります。そういったものもアクティブ・ラーニングに含まれると思いますし、もちろん言語活動もアクティブ・ラーニングの範疇に含まれます。

しかし、小・中・高等学校、大学と校種が上がるにつれて、より受動的になる傾向があります。これからは、これらをすべての校種の教室で実施し、質的にも担保していくことが求められてくると思います。さらに、授業の質の向上には、これまで行われていなかった新しい学習・指導方法を考えていくことも必要です。例えばジグソー法や思考ツールを使ったディスカッション、あるいはICTなどを積極的に授業に取り入れ、子どもたちがよりアクティブに学ぶ授業を考えることも求められると思います。

アクティブ・ラーニングの視点

授業改善の3つの視点

教育課程企画特別部会「論点整理」において、アクティブ・ラーニングについて授業改善の3つの視点が示されています【図2】。アクティブ・ラーニングでは、「プロセス」「インタラクション(相互作用)」「リフレクション(振り返り)」が、適切に学びの中に位置づけられるかどうかが重要であり、これらの3つの視点で授業を改善することで、今まで以上に高度化された学力の育成が期待できます。

図2

1つ目は、汎用的な能力の育成です。これまでの知識・技能の習得が中心の授業は、授業の一局面において、教師が「これを覚えなさい」と指導すれば成立していました。ところが、これまで思考力・判断力・表現力と言われていた、実社会で活用できる汎用的な能力は、「学びのプロセス」の中で身につきます。汎用的な能力が存分に発揮される場面が用意され、子どもたちが真剣に課題に立ち向かう。そして、そのような時間が潤沢に提供されていればいるほど、論理的な思考力やコミュニケーション能力などの汎用的な能力が育成されます。

2つ目は、従来のような一斉画一的な暗記・再生型の時代では、個別の情報を記憶しておくことが問われていましたが、これからはそういったバラバラの知識や情報の量ではなく、知識の質や構造が問われるようになります。【図2】の(2)のように、相互交流の多い思考・発信型の授業が行われることで、構造化され、精緻化された知識が子どもに形成されます。このようにして獲得された知識は使い勝手がよい知識であり、より安定して残っていく知識になります。

3つ目は、異なる多様な他者とともに対話しながら問題を解決したり、新しいアイデアを創出したりすることを経験し、学びの手応えを感じられると、自らの成長を実感したり、集団であることの一体感が得られたりします。このような好ましい「手応え感覚」に出会えると、人は「また頑張ろう」と思えるわけです。アクティブ・ラーニングを通じて、学習意欲が持続的かつ恒常的なものになり、困難があってもめげずに学び続けられる力や、主体的に学ぶ力といった、「学びに向かう力」が育まれます。

情報教育、総合的な学習の時間との関係

プロセスと相互作用で、汎用的な能力を

アクティブ・ラーニングは、情報教育や総合的な学習の時間と極めて深い関係にあります。

情報教育において「情報活用能力」として大事にされてきた、子どもが課題や目的を持って、さまざまな外部リソースから情報を取り込み、自分の中で処理して何らかの形でアウトプットするという一連の学習のプロセスは、アクティブ・ラーニングのプロセスを重視することと非常に重なります。さらにアクティブ・ラーニングは、インタラクションの充実もポイントの1つです。他者との協働や対話に加えて、インターネットで外部リソースから情報を収集する活動を行い、自身の周辺情報と得た情報をつなぎ合わせることで、知識をネットワーク化・構造化することも考えられます。これは、まさにICTがもたらした考え方であり、これからの子どもたちは、このような学び方を経験して身につけることが必然のことのように思います。

総合的な学習の時間とのつながりで言えば「総合的な学習の時間 学習指導要領解説編」で示されている「探究のプロセス」では、課題を設定して、情報を収集して、整理・分析してまとめ、表現するという4つのプロセスをスパイラルで繰り返しています。また、探究のプロセスと共に「ともに学ぶ」ということが、学習指導要領及び解説上で大切にされ、強調されて取り組まれてきました。

このようなプロセスの重視、インタラクションの充実、さらにリフレクションによるスパイラルなど、多くの部分がアクティブ・ラーニングと密接に関係しています。

さらに総合的な学習の時間では、学校ごとに目標や内容を定め、学校として子どもたちにどのような資質・能力を育成するのかを決定しています。教育課程企画特別部会の「論点整理」において「総合的な学習の時間における教科横断的な学びと、各教科における学習を相互に関連付けながら充実を図っていくことが、育成すべき資質・能力を身に付けていくための重要な鍵になる」とも記載されており、冒頭で述べた「カリキュラム・マネジメント」の視点からも、今後より一層重要な役割を担うことが期待されています。

アクティブ・ラーニングと学力

「探究のプロセス」がB問題に影響

これまでの全国学力・学習状況調査の結果から日本の子どもたちは、知識は身についているものの、B問題で問われる知識の活用が苦手だということがわかっています。また近年のOECD(経済協力開発機構)の「生徒の学習到達度調査(PISA)」では好ましい調査結果が現れているものの、学習に向かう意欲が十分に育っていないことや社会に対して自ら積極的に参画していこうとする行動力が育っていないことがわかっています。

子どもたちが自ら社会と主体的に関わり、その変化に対応し、自ら社会を創造していく主体として育つためにも、「学びに向かう力」が育つことが非常に重要ですし、学力で言えば、B問題のような実社会の問題を、自分で解決していくときに使える汎用的な能力の育成も求められています。

一方で、全国学力・学習状況調査の結果から、総合的な学習の時間において、探究プロセスを重視して学習を行ってきたかどうかとB問題の正答率に顕著な相関が現れています。今回の改訂でアクティブ・ラーニングが重要視されているのはそのような背景もあります。

田村視学官 アクティブ・ラーニングは、過去を否定するものではありません。

授業の質的転換

「思考・発信型」「学習者中心」へ。調和とバランスを

ここまでお話ししたとおり、アクティブ・ラーニングは、まったく新しい概念というわけではありません。今までの授業をすべて変える必要はなく、これまで初等教育、特に小学校を中心として取り組まれてきた授業改善や授業研究から生まれたさまざまに優れた教育実践にこそ、アクティブ・ラーニングの視点が反映されていると考えるべきです。先生方には、そのような前提で、より一層の授業の質的向上に向けて、次の2つの転換を意識して取り組んでいただきたいと思います。

1つは、暗記・再生型から思考・発信型の授業への転換です。これまでは、一方的に教師が教え込む一斉画一的な暗記・再生型の授業が行われる傾向がありました。これでは子どもは受け身になってしまいますし、知識はバラバラになってしまいます。そして学習意欲も次第に落ちていきます。これを思考・発信型に転換し、考えをまとめ、話し合い、伝えるといった活動をこれまで以上に行っていただきたいと思います。そこでICTなどを活用すれば多様な表現が可能になると思いますし、多様な他者とのやりとりが可能になり、時間や空間も超えられると思います。

もう1つは、教師中心から学習者中心の授業への転換です。これまでの暗記・再生型の授業では、教師が中心になり、教師に指示されたように子どもが学んでいました。当たり前のことですが、「学習者にとって、どのような学びが起きているか」ということを意識する学習者中心の考え方に転換していくことが大事です。学び手である子どもが本気になって授業に取り組んでいるかどうか。真剣に学んでいるかどうかを真摯に問うていかねばならないと思います。

アクティブ・ラーニングが広まる一方で、「主体的」や「学習者中心」が曲解されてしまい、「放任」になってしまわないか。あるいは「アクティブ・ラーニングとは、この学習方法である」「どの教科、どの場面でもこの方法しかない」と偏った、限定した見方がなされてしまう危惧もあります。これまで述べてきたように、具体的な学習のプロセスは限りなく存在しうるもので、発達の段階や教科・単元、学習場面によっても異なるはずです。

また、暗記・再生型の指導が必要な場面もあるはずです。二項対立の発想ではなく、調和を保ちながら全体をバランスよく高めていただきたい。

授業研究という独自のインフラによって磨かれた「きちんと教える」「わかりやすく伝える」「反復して定着させる」という日本の教師の教授スキルの高さは、まさに世界に誇れる日本の強みです。この強みを自覚しつつ、学び合いや自己解決をバランスよく授業に取り入れていただきたいと思います。

(2015年12月掲載)