学習指導要領/教育の情報化

「きらり」と光るICT活用にいかに迫ることができるか

教員の活用から、児童生徒の活用へ

これまでに導入されてきたプロジェクタや電子黒板、実物投影機などのICTは主に「教師」の活用を想定して導入されてきた。今、さまざまな地域、学校、自治体単位で「タブレット端末」という新しいICTの導入が進んでいる。これにより「教師」だけでなく「児童生徒」がICTを活用することに、より比重が置かれて検討されるようになってきた。当然、教師がタブレット端末を使う場面はさまざまにあり、「教師」と「児童生徒」の両面からタブレット端末の活用を考える必要がある。タブレット端末活用のポイントを4つのキーワードで紹介したい。

パーソナル ~個々への対応~

1つ目のキーワードは、「パーソナル」だ。教室で電子黒板やプロジェクタを使う授業は、一斉に教材を提示し、それをもとに話し合わせる、作業させるという授業展開になる。そこに、タブレット端末が1人1台、もしくはグループに1台あるだけで、個人、グループごとのペースに合わせて映像や写真を視聴させ、考えさせることが可能だ。一斉ではなく、個々に対応できる。既存のICTとタブレット端末には、ここに決定的な差がある。

また、紙の教科書や資料集では、気づいたことや考えたことを自由に書き込んで考えるということは行いにくい。しかし、タブレット端末と学習者用デジタル教科書が整えば、子どもたちが個々に自由に書き込んで考えられる。書き込んだ内容を一旦保存して、何度でも最初からやり直して考えさせることも可能だ。

コンパクト ~気軽な持ち運び~

2つ目のキーワードは「コンパクト」。タブレット端末は、教師、子どもたちが気軽に持ち運べる大きさだ。例えば、教師がタブレット端末で子どもたちのノートやワークシートを撮影し、それを電子黒板やプロジェクタに大映しにして紹介する。わざわざ黒板の前に子どもたちを呼んで書かせることなく、素早い共有が可能だ。

この「気軽」に活用できることが重要だ。タブレット端末は、デジカメの画面と比べて大きく、グループで頭を付き合わせて撮影した動画や写真を見ることができる。タブレット端末は「持ち運びできるICT」として今後、飛躍的に活用が伸びていくと推測する。

オールインワン ~収集から加工・表現まで~

3つ目のキーワードは「オールインワン」。タブレット端末1つで、「撮影」「視聴」「編集」「発表」とさまざまに利用可能だ。これまでいくつかのICTを組み合わせて、教師も子どもも苦労して実現していたことが、今やタブレット端末1台ですべて賄える。

プラットフォーム ~思考力に着目した授業改善の可能性~

4つ目、最後のキーワードは「プラットフォーム」だ。タブレット端末は、頭の中にある思いや考えを視覚的に表す「思考の可視化」に役立つ。勿論、黒板、ホワイトボード、付箋紙など従来の教材道具も思考を可視化できるツールだ。しかし、タブレット端末は授業支援ソフトと組み合わせることで、子どもたちの思考を手元でリアルタイムに把握する、必要に応じて電子黒板にも転送して全体で共有する、場合によってはA君とB子さんの画面を比較して考えることもできる。タブレット端末は、思考が集まる拠点、「プラットフォーム」になる。「思考力」に着目した授業改善につながる可能性がある。

多様なICT環境、それぞれの役割を意識する

One of them のICTを意識しよう「言語活動の充実」は、現行の学習指導要領のキーワードの1つだ。言語活動の充実とICTが絡んだときに、「タブレット端末だけで授業を行うことはない」と筆者は考えている。したがって、従来の授業の流れ、教材とどのようにICTを組み合わせるのかを視野に入れて考えなければならない。

たとえ、どのようなICTが導入されても、授業をアナログ重視でデザインすることは変わらない。その中で「きらり」と光るICTの活用に、いかに迫れるかが教師の塩梅だ。

それには、「One of them」のICTを意識することが大事だ。タブレット端末やソフト、そして周りを取り巻く従来の教材教具。授業におけるそれぞれの役割は一体何なのか。さらに言えば、他の教材や教具の方が、もっと良いのではないか、と良い意味での疑いを持ちながら授業を評価する目も大切だ。

「道具」としてタブレット端末を使いこなす

無意識化を意識するタブレット端末は、はじめから自分の手足のように、あるいは「思考の可視化ツール」として使えるわけではない。例えば、私たちがメモを取るときにどのようにボールペンを使えばよいのかを考えず、無意識に使っている。同様に、子どもたちが意識してタブレット端末を活用する段階から、どんどん慣れさせて、無意識に活用できるように、「道具」として使いこなせるようにすることが重要だ。

教師は、効果的な活用を考える一方で、慣れが及ぼす影響や手間の軽減、日常的な活用を意識する必要がある。

教育の情報化ビジョン ~21世紀にふさわしい学びと学校の創造を目指して~

平成23年4月に発表された「教育の情報化ビジョン」では、「教育の情報化については、これまで策定された国家戦略に掲げられた政府目標を十分達成するに至らず、また、他の先進国に比べて進んでいるとはいえない状況にある」「我が国の子どもたちが21世紀の世界において生きていくための基礎となる力を形成することが求められている」と、冒頭に指摘している。このために、「学校教育の情報化に関する懇談会」を設置し、さらにその下に学識経験者、学校教育関係者などで「教員支援ワーキンググループ」「情報活用能力ワーキンググループ」「デジタル教科書・教材、情報端末ワーキンググループ」を配置し、意見交換を進めてきた。その結果、「教育の情報化ビジョン ~21世紀にふさわしい学びと学校の創造を目指して~」と題して文部科学省から公開されている。

ここでは、「21世紀にふさわしい学びの環境とそれに基づく学びの姿」として、「学校においては、デジタル教科書・教材、情報端末、ネットワーク環境等が整備され、情報通信技術を活用して、一斉指導による学び(一斉学習)に加え、1人ひとりの能力や特性に応じた学び(個別学習)や子どもたち同士が教え合い学び合う協働的な学び(協働学習)を推進することが期待される。」としている。

総務省は、平成22年度からICT機器を使ったネットワーク環境を構築し、学校現場における情報通信技術面を中心とした課題を抽出・分析するための実証研究として、フューチャースクール推進事業を開始した。タブレットPC、情報端末、電子黒板、校内無線LANの整備、協働教育プラットフォームの構築など、ICT環境を提供し、「ICT環境の構築に関する調査」「ICT協働教育の実証」「実証結果を踏まえたICT利活用推進方策の検討」などを進めた。

平成23年度から、文部科学省が「学びの推進基盤の確立」「学びの知的基盤の確立」「若い世代の人材基盤の形成」を核として、学びのイノベーション事業を開始した。特に「学びの推進基盤の確立」では、総務省のフューチャースクール推進事業と連携してデジタル教科書・教材、情報端末等を利用した指導方法の開発や必要な機能の選定・抽出等の検証を行った。

タブレット端末の導入パターンと課題

タブレット端末については、企業独自や学校単位での活用検証、地域での学校への導入など、さまざまな取組が見られるようになってきた。現在見られるタブレット端末導入のパターンと課題について、筆者なりに整理してみた。

タブレット端末の導入パターンとしては、大きくは3パターンになる。パターンAはさらに4つに分類できる(表1)。

表1 タブレット端末の導入パターンの分類

パターンA-0 : 教師の持ち込み

これは正規に「導入」と言えない場合も多いが、教師が自分のタブレット端末を持ち込むパターンである。しかし、1台でもカメラ機能で子どものノート、演技、グループの実験の様子などを撮影し、大型テレビに転送するなどの活用が可能だ。しかし、日常的に児童生徒が活用できる環境ではない。

パターンA-1 : グループ台数分

なかなかすぐに1クラス分導入といかない場合、8~10台導入するパターン。予算的には無理すれば学校でもそろえられないことはないが、複数のクラスで使うことはできない。このパターンの場合、1台が故障するとダメージも大きい。

パターンA-2 : 1クラス台数分

パソコンルームのPC更新時に多くの教育委員会が検討するパターン。この数になると、移動して使うには充電保管庫などの用意も必要になる。

パターンA-3 : 複数クラス台数分

文字通り複数のクラスが同時に使える150~200台といった台数が各校に導入されるパターン。しかし、このへんからかなり予算的には厳しいし、人のてあて(ICT支援員など)が必要になってくる。

パターンB : 全校児童生徒1人1台

いわゆるフューチャースクール・学びのイノベーションパターン。ずっと自分のものとして1年間使える。実証校では数々の成果と課題があがってきている。ただ、このパターンBがすぐにたくさんの自治体で実現できるとは思えない。

パターンC : 個人所有

パターンBをとびこえて、このパターンCが進むのではないかと推測する。ただし、機種の統一や、学校で授業で使えるためのICT環境整備などの問題も山積だ。

パターンA、B、Cと分類したのにはわけがある。タブレット端末の位置づけがまったく違うのだ。A、Bは学校での共有物であり、Cは文具だ。それぞれ導入の考え方がまったく違ってくることが予想される。まだまだ先のことだと思われているかもしれないが、今から検討していく必要がある。現実的に、どのパターンならできるのか、検討とともに活用イメージを持つことも重要だ。

参考文献

  1. 文部科学省,教育の情報化ビジョン ~21世紀にふさわしい学びと学校の創造を目指して~
    http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/04/__icsFiles/afieldfile/
    2011/04/28/1305484_01_1.pdf(2014.01.27取得)
  2. 総務省,フューチャースクール推進事業
    http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/kyouiku_joho-ka/
    future_school.html(2014.01.27取得)
  3. 文部科学省,学びのイノベーション事業
    http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/
    2010/09/30/1297939_4_1.pdf(2014.01.27取得)

※一般社団法人日本教育情報化振興会主催 タブレット端末活用セミナー2014特別講演より
(2014年6月掲載)