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研究会レポート 熊本県 氷川町小・中学校研究発表会 「ひ・か・わ型」の学習過程を基盤にタブレット端末を活用

熊本県氷川町は、平成27年度から熊本県教育委員会『ICTを活用した「未来の学校」創造プロジェクト推進事業研究推進校』の指定を受けており、町内小中学校5学校が連携して学力の向上をめざして研究に取り組まれています。このほど氷川町立宮原小学校、氷川町及び八代市中学校組合立氷川中学校を会場に「氷川町小・中学校研究発表会」が開催され、タブレット端末を活用した授業公開などが行われました。発表会の内容をピックアップしてレポートします。

熊本県氷川町は、平成27年度から町内全小中学校5校にタブレット端末や電子黒板、実物投影機などのICT環境整備を進めている。氷川町及び八代市中学校組合立氷川中学校(以下、氷川中学校)では、タブレット端末100台、実物投影機9台、電子黒板8台、5教科のデジタル教科書、教師用のノートPC9台が整備されている。

図1 共通の学習過程「ひ・か・わ型」学習また氷川町では「課題解決にむけ主体的・協動的に学ぶ氷川っ子の育成」に向けて、主体的・協働的な学びの部分に、次の「ひ・か・わ」型学習を位置づけ、町内小中学校5校で共通して実施するという特徴的な取り組みをされている。【図1】

「氷川町小・中学校研究発表会」では、「ひ・か・わ」型学習を基盤に、ICTを積極的に取り入れた授業が公開された。氷川中学校では、社会、数学でそれぞれ1人1台のタブレット端末とタブレット対応授業支援・学習活動支援ソフトウェア『SKYMENU Class』を活用した授業が行われた。

中学1年社会  「モンゴルの襲来と日本」 タブレットで絵画資料を閲覧し、鎌倉幕府滅亡の理由に迫る

配付された絵画資料を閲覧し、気づいたことを書き込む1年社会「モンゴルの襲来と日本」(実践者:濵田洋教諭)では、「蒙古襲来絵詞」を取り上げて、絵画資料からモンゴル軍の特徴を読み取ること、さらにモンゴルの襲来が国内の政治に及ぼした影響を御家人の動きから考察させることを目標に実践された。御家人とモンゴル軍の戦い方の違いなどを、生徒1人ひとりに自由に読み取らせたいと考えられ、「蒙古襲来絵詞」の絵画資料のデータを[教材配付]機能で学習者機に一斉配付。タブレット端末の画面上で絵画資料を拡大縮小したりして閲覧させた。生徒たちは「火薬」や「馬」などが戦場に用いられていることに気づくと[マーキング]で青の線で囲っていた。

[発表]機能で学習者機の画面を投影し、発表その間、濵田教諭は机間指導や[学習者機画面の一覧表示]機能で生徒の考えや進捗を把握。発表の場面では発表者の画面をスクリーンに投影し、わかりやすく情報を共有された。

そして、鎌倉幕府が元寇の後に滅亡した理由について問いかけ、資料を関連させてグループで考えて発表するように指示された。資料は、生徒たちのタブレット端末に予め配付されており、生徒たちは絵画資料や図を確認しながら、お互いの考えを伝え合っていた。

中学3年数学  「相似な図形」 班別で異なる証明方法に挑み、多様な考えを交流

[発表ノート]で証明方法を説明する資料を作成3年数学「相似な図形」(実践者:矢鉾清一郎教諭)では、生徒たちが課題別に問題に取り組み、協働して学び合う授業が展開された。本時、矢鉾教諭が生徒に示した学習課題は△ABCについて「∠Aの二等分線を引くとa:bとc:dは本当に等しいのだろうか?」。この学習課題は、補助線を用いた証明方法が5つあることから、1班1つずつ異なる証明方法の課題を与え、三角形の相似条件や既習の図形の性質を使って考えさせた。

ほかの班に赴いてお互いの証明方法を説明し合うまずは生徒が個別で3分間、問題に取り組む。それから自分の考えを班の中で発表し合い、班員が理解できるまで学び合った。生徒のタブレット端末には、証明のヒントとなる動画も用意されており、生徒たちは必要に応じて視聴。1人ひとりが考えをしっかりと持てるように配慮されていた。

その後、班で考えた証明方法をほかの班で説明するように指示され、『SKYMENU Class』の[発表ノート]で自分たちの考えを説明するための資料をまとめていった。生徒たちは複数人で協働作業を行える[グループワーク]機能で、役割分担して資料を作成。タブレット端末と[発表ノート]にまとめた資料を持って、ほかの班に赴いてお互いの証明方法を説明し合った。学習のまとめでは、ほかの班の証明と比較して類似点や相違点、気がついたことをプリントにまとめた。「延長線を引いた班は下に違う三角形を作って証明していた。いろんな線で証明できることがわかった」と自分たちと異なる考え方に着目している記述が見られた。

授業研究会 参加者にタブレット端末を配付、『SKYMENU Class』を体験

[グループワーク]でお互いの意見を共有しながら交流授業研究会は、先生方1人ひとりにタブレット端末を配付して行われた。本時におけるICT活用などについて感想や意見を[発表ノート]にまとめ、[グループワーク]で意見を共有しながら伝え合ったりするなど、生徒たちの学び合いを追体験するような内容で構成された。参加者からは「全員参加の授業になり、情報共有もスムーズだった。学習意欲の高まりを感じる一方で、どのように生徒の思考を残し、定着に役立てられるかが課題」といった意見があがった。

中島綱紀校長は授業研究会の企画について「多くの先生方はタブレット端末に触れる機会が少なく、ICTを活用した学び合いの授業に触れる機会も少ない。本研究会での体験を今後の実践に生かしてもらえれば」と話された。

講演から 主体的・対話的で深い学びにつながる『ひ・か・わ』型学習とICT活用 山本 朋弘 鹿児島大学講師

1人の100歩ではなく、100人の1歩を

氷川町はまず電子黒板が整備され、次にタブレット端末が整備されました。整備が段階的に進んでおり理想的な形だと思います。そして、氷川町では問題解決的な学びに関して「ひ・か・わ」型の学習という独自のスタイルを取り入れています。町内すべての先生方がこの学習スタイルを共有し、実践されているのは、素晴らしいことです。この姿勢はICT活用においても同様で、「1人の100歩ではなく、100人の1歩」をスローガンに、ICTが得意な先生だけではなく、授業研究を主軸にして全員が足並みを揃えてICT活用に取り組むことを重視されてきました。

「対話的な学び」充実のポイント

公開授業では、「ひ・か・わ」型学習のもと、対話的な学習活動が見られました。この対話的な学びを充実させるためのポイントの一つが「1人ひとりが考える時間の確保」にあり、「ひ・か・わ」型学習においても重視されています。そして対話の場面では、「なぜそう思ったのか」を考えさせ、その根拠を説明させることが重要です。さらに、対話的な学びを充実させるには、教室の児童全員の考えを「見える化」して、多様な考えを共有することが重要です。公開授業でも、授業支援システムを効果的に活用し、学級全員の考えから考察を深める場面が見られました。

個人思考の場面ではタブレット端末で自分の考えをしっかり持たせ、対話的な学びの場面では授業支援システムによってお互いの考えを共有して、比較・考察することが重要です。

ICT活用を考える前に、学習課題や学習活動を見直す

これからの社会を生き抜く子供たちには、課題を主体的に読み取り、熟考し、自分の考えやその根拠を表現できる力が必要だといえます。そのためには従来の知識の暗記・再生型の授業から、思考・表現型の授業に転換し、学習者中心の授業展開を実現しなければなりません。学習指導要領の改訂に向けた論点整理では「どのように学ぶか」というフレーズが記されました。まさに、アクティブ・ラーニングの視点、「主体的・対話的で深い学び」の実現が重要であると言えます。

この主体的・対話的で深い学びの実現に向けては、「自分の考え方を重んじる」「根拠を持って説明する」「比較する」「関連させる」「活動を振り返る」といった学習活動が授業に組み込まれているのか、そしてそのための学習課題が適切に設定されているのかを見直すことから始めていただきたいと思います。

そのことによって、課題解決や対話的な学びが活性化され、授業支援システムやタブレット端末が学習の道具として有効に機能してきます。

今日の授業では、子供たちがタブレット端末を道具として使い、笑顔で楽しそうに、そして一生懸命相手に説明していました。このような学びをこれからも続け、広げていただけたらと思います。

(2017年2月掲載)