研究会・セミナー

第6回全国高等学校情報教育研究会全国大会(京都大会)

このほど第6回全国高等学校情報教育研究会全国大会(京都大会)が、京都大学で開催されました。全国17の研究会が加盟する同会は、毎年全国大会を開催されており、今年度で6回目の開催。全国から320人の教育関係者が参加され、「教科「情報」11年目の進展~情報教育の深化~」をテーマに、基調講演やポスターセッション、分科会発表が催され、活発に意見が交わされました。

会長あいさつ:ビッグデータ時代へ児童生徒の情報活用能力の育成を

牛来峯聡会長は、開会式で「ビッグデータが企業の命運を握る時代に突入している。これからの日本は、情報という大量の資源を活用し、分析することで、新しい付加価値のある製品開発や消費者のライフスタイルの変革につなげ、経済成長をさせるとともに、社会のさまざまな問題を解決していかなければならない」とあいさつ。

そして、これからの情報教育の在り方について今一度、原点に立ち返って考える必要があるとし、「ビッグデータの活用で社会が進化してくる時代の到来であるからこそ、高等学校学習指導要領における情報教育の目標で、極めて重要と位置づけられている『情報活用の実践力』『情報の科学的な理解』『情報社会に参画する態度』の3観点で示される[情報活用能力]を育むことに力点を置いた取り組みが必要」と強調。大会を通じて情報交換を活発に行い、議論を深めてほしいと期待を述べられた。

基調講演:情報教育で、人間のための情報社会の構築を

基調講演では、西垣通教授が登壇。「文と理をむすぶ情報教育-基礎情報学からのアプローチ-」と題して、基礎情報学の見地から情報教育の課題について講演された。

西垣教授は、高等学校学習指導要領では新たに「社会と情報」「情報と科学」が設定されたが、日進月歩で進化する情報技術に対して、教える側の知識習得が追いつかない現状や、「違法ダウンロード」「ネット依存」「情報モラル」など、さまざまな問題に対して、教える内容が不統一であると指摘。しかし、子どもたちには「最新の知識」を伝えるのではなく「基本的な知識」を教え、移ろう情報に振り回されないようにすることが大事と訴えらえた。

また、「集合知」の事例を紹介され、「専門家ではなくても、普通の人の知識を複数合わせることで、さまざまな問題を解決できる。そこに機械(IT)の計算力が加わることで、その可能性がさらに広がる。根本的に異なる『生命』と『機械』の違いを理解させ、子どもたちに情報の本質をつかませることが必要。情報教育を通じて、人間のための情報社会の構築、人間と機械(IT)の理想的なコラボレーションをめざしたい」と結ばれた。

ポスターセッション:自校生徒の7割スマホ所有、8割LINE利用

ポスターセッションでは、25のテーマで発表が行われ、実践や調査結果、授業や校務で利用できる便利なツールやクラウドの活用事例などが紹介された。

小池則行・和光高等学校教諭は、「今時の中高生のスマホ。ソーシャル利用実態調査報告」と題し、今年度5月に和光中学校、和光高等学校で実施された「生徒の情報機器利用実態調査」の結果を報告(回答者1074名(回答率92%))。

携帯電話を所有している生徒のうち、中学生は4割、高校生は7割の生徒がスマートフォンを所有。SNSなどのコミュニケーションツールについては、中学1年では4割未満の利用率であるLINEが、高等学校1年には8割以上利用しているといった傾向も報告されていた。

小池教諭は、「目の前の生徒たちが、どのように情報機器を扱い、生活実感を持っているのか。それらを把握した上で授業に臨みたい」と話され、実態に結びついた授業を訴えられた。

分科会発表:ポイントカードを例に、個人情報の保護と活用を考える

分科会では、5つのテーマに分かれ、30の研究発表が行われた。

「情報モラル」の分科会では、生田研一郎・中央大学杉並高等学校教諭が、「個人データの活用はどこまで扱えるか」と題して「社会と情報」を想定した実践を発表。 生田教諭は、生徒たちにとって身近な「ポイントカード」を題材に実践を構想。ポイントカードは、ポイントの蓄積により、さらに高い還元率になったり、限定感やブランドへの帰属感などを与えたりして消費者にメリットを感じさせるサービスだ。一方、企業には、消費者のポイント獲得行動によって、購買行動の情報が提供され、統計処理や分析によってサービスの個別化を行い、ユーザの囲い込みが行えるメリットがある。生徒たちにとって身近なポイントカードの仕組みから、個人情報の「保護」と「活用」が「トレードオフ」の関係にあることに気づかせた。

生田教諭は個人情報の「保護」と「活用」の関係性を理解させ、個人情報の提供について、自ら判断できるための基礎知識を身につけさせたいと考えておられる。「経済の動きや生徒にとって身近な事例を踏まえた授業構築が必要。経済学などとも結びつけて実践したい」と今後の課題を話された。

次回大会(第7回)は、来年度8月に東洋大学川越キャンパス(埼玉県)を会場に開催される予定だ。

(2013年10月掲載)