研究会・セミナー

ICT、シンキングツールで「活用力」を高める

ICTは「当たり前にある存在」

今大会では、仙台市内4つの会場で20の授業が公開された。仙台市立愛子小学校では12の公開授業が行われ、多数の参観者が集まった。

開校から5年を迎える同校は、初年度より市教委によってICT機器の導入が行われ、ほぼ全教室で電子黒板やデジタル教科書が利用できる環境が整えられている。ICTは、日常の授業づくりの中に「当たり前にある存在」となっている。一斉指導だけでなく、個別学習や協働的な学びの場面において、学びを深めるためのICTの効果的な活用が進められている。

ノート指導や辞書活用の指導なども重視

同校は、これまで「ICT活用」「ノート指導」「TCCC(児童の思考・表現のリレー)の指導」「辞書の活用指導(2~6年)」に重点的に取り組み、これらを「愛子スタンダード」と位置付け、日常化を図っている。

今年度の研究テーマは「今と未来を生きるための力を育む教育活動の工夫~活用力を高める授業改善を通して~」。「思考力・判断力・表現力」などの「習得した知識・技能を条件に応じて使う力」を「活用力」と定め、「活用力」を身に付けさせるための指導計画や指導の工夫に取り組んでいる。

活用力を育成する場面を支えるツールとして「シンキングツール」を授業に積極的に取り入れており、公開授業でも多数活用されていた。

消防局、警察など「総合防災情報システム」の連携をシンキングツールで整理

各機関の連携を書き表し、整理する5年社会「情報化した社会と私たちの生活」(実践者:長谷川壮太教諭)では、宮城県の防災のための情報ネットワーク「総合防災情報システム」を題材に授業を展開された。

長谷川教諭は、子どもたちが東日本大震災を経験し、ライフラインが途絶えたことや家族と連絡が取れなかったことなど、自分が生きていくために必要な情報が遮断されることの不便さを痛感していることに着目。情報化した社会の様子や情報の有効な活用の仕方について、より理解を深められると考え、防災の視点で本単元を計画した。

前時までに「消防局」や「警察」「自衛隊」などの機関が防災のためにそれぞれどのような役割を持ち、私たちの暮らしを支えているのかを学習してきている。本時は「総合防災情報システム」がさまざまな機関をつなぐことで私たちの暮らしにどのように役立っているのか。シンキングツール(A3サイズのホワイトボード)を使って、個々にノートに集めてきた情報をグループで話し合い、整理していった。

子どもたちは、自分のノートだけでなく教科書、資料なども駆使して情報を探し、各機関の結びつきを線で結んだり、解説を加えたりしてまとめていく。

まとめでは、「情報ネットワークを活用すれば、全部がつながり、多くの命を守ることができる」と情報ネットワークが自分たちにとってなくてはならない存在であることに気づき、自分の言葉で表現していた。

てこを使った道具をシンキングツールで分類

シンキングツール「Yチャート」で道具を分類する6年理科「てこのはたらき」(実践者:園部暁子教諭)では、シンキングツール「Yチャート」とタブレット端末を用いて授業が行われた。

子どもたちは、前時までに「支点」「力点」「作用点」や「つり合うときのきまり」などを学習してきている。

本時、園部教諭は「てこの原理」を応用して作られている道具「ペンチ」「ピンセット」「栓抜き」など、10個の道具を班ごとに用意。「各道具の共通点を考え、3つに分類すること」を本時の課題にされた。

ノートにYチャートを書き、個で分類を考える園部教諭は、まずノートにYチャートを書き、分類を考えるように指示し、個で考えを持たせた。その後、自分の考えを班で話し合うように指示した。子どもたちは「支点が真ん中にあるもの」「作用点が真ん中にあるもの」などと相談しながら道具を分類していった。

班で考えた結果は、各班に1台配付しているタブレット端末にまとめさせ、発表班の画面を提示装置に大きく映し出して発表。ICTがピンポイントで活用され、各班の考えが効率よく共有されていた。

タブレットで自らの発表を振り返り改善

1年国語「すきなものクイズをしよう」(授業者:片倉悠教諭)では、班に1台のタブレット端末を活用して授業が展開された。

子どもたちは、2人ペアになり、「すきなものクイズ」を出し合う。その様子をほかのペアにタブレット端末で撮影してもらい、その映像を見て、自らの発表を振り返るという流れで行われた。

タブレット端末で撮影、再生。低学年でも壮操作につまづかない片倉教諭は、前時の発表映像を振り返り「相手を見ること」「ちょうどいい速さで話すこと」「質問に答えること」の3つのポイントに気を付けて、題目のクイズを出し合うように指示した。子どもたちはタブレット端末で撮影した映像を確認し、発表の仕方について付箋を使って意見や感想を出し合っていた。授業のまとめでは、話し方を改善したペアが発表。撮影してすぐに視聴することで、自らの体験を客観的に振り返り、次の活動に生かせるというタブレット端末活用のメリットが見られた。

情報活用能力という学力

シンポジウム様子

コーディネータを務められた稲垣忠・東北学院大学准教授は、東日本大震災において、限られた情報手段の中で情報を整理・判断する能力が求められたことに触れ、「情報活用能力」は21世紀の情報社会を生きる子どもたちに必須の能力とされた。しかし、その育成にあたっては、ペーパーテストで測ることが難しい情報活用能力の「評価方法」の確立や、子どもたちを取り巻く情報環境、学習環境の変化に合わせた「指導方法」の確立が必要と問題提起された。

大内克紀・文部科学省生涯学習政策局情報教育課専門官は、文部科学省で取り組まれている「情報活用能力調査」を紹介。同調査は今年度、全国の国・公・私立の小学校第5学年および中学校第2学年の児童生徒を対象に、学校にコンピュータを持ち込んで試験を実施されている。調査結果は今後の学習指導の改善や情報活用能力の内容の見直し、教育課程の検討のための基礎データなどとして活用されるとされた。

宮岸一孝・ICTプロフィシエンシー検定協会 株式会社レイル取締役は、一般的ビジネスシーンにおけるすべての利用者と、学校で情報教育を学ぶすべての生徒を対象として、総合的なICT活用能力を評価する資格認定「ICTプロフィシエンシー検定」を紹介。同検定では、「ICTスキル評価基準体系」を開発され、さまざまな職務において「ICTを活用して問題を解決する力」の「見える化」を図られた。

黒上晴夫・関西大学教授は、学校教育で育成するべき能力として、欧米で注目されている「21世紀型スキル」を紹介。「21世紀型スキル」は、大きく見れば「思考力」ととらえられる。情報活用能力は広い概念だが、情報を分類・整理するという活動は「思考力」と重なる。この「思考力」の系列を定めて、日本の学習内容を関連させる中に、すべてのカリキュラムを情報活用能力の体系がカバーする方向性が見えてくるとされた。

木村明憲・京都市立一橋小学校教諭は、「情報活用の実践力の育成」に焦点をあて、各教科・領域の中で横断的かつ系統的に育成することをねらい実践されている。

系統立てられたカリキュラム「情報教育スタンダード」を基に、教員は情報活用能力を育成する視点に立った授業づくりを実施。子どもたちには、学年ごとに身に付けさせたい情報活用能力を子どものわかる言葉で明記した学習支援カードを使って意識させ、授業、家庭学習に臨ませていると報告された。

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(2013年12月掲載)