研究会・セミナー

授業づくりの原点を、今一度見つめ直す

2011年10月21日(金)、22日(土)に、兵庫県丹波市において第37回全日本教育工学研究協議会全国大会「JAET2011丹波大会」が開催されます。

同大会の実行にあたり中心的な役割を担われている、丹波市教育委員会教育部の岸田隆博部長にお話を伺いました。

「ICTは道具」30年変わらぬ姿勢

丹波市では、昭和58年から氷上情報教育研究会を中心に、情報教育の推進に取り組み、実践を積み重ねてきました。当時から「ICTは道具であり、決して主役ではない」という基本的な考えのもと、決してICT機器が前面に出る授業ではなく、ICTを効果的に活用することを通して、子どもたちはどのように変わったのか。教員は、どんな学力を子どもたちに保障したのか。常に子どもたちの学びに焦点に当てた情報教育の取り組みを行ってきました。

今大会のテーマ「“わかる・できる・のびる”学びを保障する授業の創造-授業にさりげなく活躍するICT」は、その思いを全面に出しました。

でも一方で、道具(ICT)の持つ可能性についても考え、研究に取り組んできました。例えば、テレビ会議による遠隔共同学習のカリキュラム開発や、ノート型コンピュータを子どもに配り、ランドセルに入れて家に持って帰らせ、家庭からインターネットに繋げて学習する可能性なども模索してきました。

コンピュータはあくまで道具ですが、その道具の持つ可能性や新たな授業の在り方について積極的に研究を行ってきました。

ICTで興味関心を引きつける

新しい学習指導要領では「習得」「活用」「探求」といった学習活動をバランスよく行うことが明記されました。

基礎的・基本的な知識・技能の習得には、短期的なものと長期的なものがあると考えています。

例えば、掛け算を勉強した直後に計算できるのは、いわゆる短期習得です。そして、半年後も確実に計算できるのは、長期習得です。半年後にもできたとき、初めて習得したと言えると思います。

習得を確実なものにするためには、子どもにいかに興味関心を持たせる学びができるかが大事になると考えています。興味関心を持たせられない学びは、学習した内容も、すっと流れてしまいます。

子どもに興味関心を持たせるには、子どもたちがすでに持っている体験や経験を取り入れた授業を展開することだと思います。

例えば、遊びでいっぱい体験したことと学習内容を結びつけると、子どもはその体験を思い出しながら解決しようと、とても意欲を持って学習します。でも、学校での学習の多くは、子どもたちにとってなぜ学習するのかよくわかっていません。だから、私たち教員が、学ぶことの「理由づけ」をし、興味関心を持って学習ができる授業展開が必要なのです。

かつて、私が教員時代、6年生で九九ができない児童がいました。そこで、当時出始めのコンピュータを活用して、興味を持って学びなおしができるようにしました。その児童は、実に生き生きと学習し、見事、九九を覚えきりました。

体験に勝るものはありませんが、学びの動機づけとして、コンピュータなどを活用して、子どもの学びに新しい刺激を与え、興味関心を抱かせることは大切だと当時は強く思いました。その興味関心が、次の「もっとやってみたい」につながると思います。

現在であれば、電子黒板を活用した授業です。電子黒板等、教科指導におけるICT活用は、学習内容をわかりやすく説明したり、学習への興味関心を高めたり、子どもたちの学びを充実させることになります。

最後は教員の指導力

でも、それは「入口」にすぎません。興味を持って、食らいついてた子どもに、「どのようにして習得させるか」ということまで、電子黒板はやってくれません。 

確実に習得させられるかどうかは、「教員の指導力」にかかっています。だから、子どもたちの学びを保障する授業づくりは、いつの時代も変わらずとても大切になります。

今大会テーマを「“わかる・できる・のびる”学びを保障する授業の創造-授業にさりげなく活躍するICT-」と書いたのは、子どもたちが「あっ、そうか。わかったぞ!」「あ、問題が解けるようになったぞ!」「どんどんおもしろくなってきたぞ!」というサイクルを生む授業づくり、そのサポートをしてくれるのがICT。当たり前のことなのですが、今こそ原点に立ち返り、みんなで共有し、理解したいという思いを込めています。

本大会に集まった参加者同士が語り合い、伝え合うことを通して、我々教員が今何をすべきなのか、何が求められているのかなどを明確にするとともに、指導力の向上のために明日からできる具体的な手だてを明らかにする機会にしたいと考えています。

第37回全日本教育工学研究協議会全国大会「JAET2011丹波大会」
開催日:2011年10月21日(金)、22日(土)

市内学校が一丸となって取り組む公開授業

本大会の公開授業校を検討するにあたり、本大会を丹波市の教員全体の授業づくりへのモチベーションを高め、また授業力の底上げにつながる機会にしたいと考えました。

そして、研究指定を受けた学校だけが取り組むのではなく、本市内全小中学校、県立高等学校が、この大会を盛り上げる体制を作りたいという思いがありました。

そこで、本大会では、特に中学校の研究指定について新しい試みをしています。具体的には、これまで学校単位で行っていた研究指定を、市内中学校7校の先生方が参加している教科研究部会ごとに行いました。これによって全中学校の先生方が一丸となってこの大会に向かって取り組んでいます。大会当日、中学校の公開授業は丹波市立氷上中学校だけですが、そこでは、各教科の研究部会で練られた8教科9科目の授業が一同に公開されます。

また、丹波市立前山小学校の公開授業も、ぜひご覧いただきたいです。ここでは、氷上情報教育研究会が昨年度から取り組んでいる「授業づくり」「情報モラル」「体育教育」をテーマに、本研究会のメンバーが集まって授業を公開します。もちろん、研究指定を受けている丹波市立新井小学校、丹波市立和田小学校、丹波市立西小学校、兵庫県立柏原高等学校も、子どもの学びを保障する授業を公開します。ぜひそれぞれの研究成果をご覧いただければと思います。

こだわりを詰め込んだパネルディスカッション

パネルディスカッションには、私の個人的なこだわりも詰め込んでいます。子どもたちは「わかりたい」「できるようになりたい」と思っています。教員が、それをどれだけ引き出せるかが、その専門職としての役割です。教員は、確かにICT活用指導力を身に付けなければなりません。そのためには、ICTが効果的に活躍する場面や、活用の仕方について絶えず研鑽を積み、もっともっと議論することが必要です。

子ども自身が「わかった」と感じ、「問題が解けた」「勉強がおもしろくなってきた」という、当たり前の授業サイクルを生む授業づくり、そしてそれをサポートするICTの活用について、参加者全員が原点に立ち返って考えられるようなパネルディスカッションにしたいと思っています。

第37回全日本教育工学研究協議会全国大会「JAET2011丹波大会」

(2011年8月掲載)