研究会・セミナー

島根県雲南市立木次中学校 ペアやグループでの対話を重視し、タブレットを思考の可視化、共有に生かし指導

島根県雲南市は、2018年度からWindows OSのタブレット端末で整備が進められています。このほど、雲南市立木次中学校で開催された公開授業の様子をレポートします。

(日本教育工学研究会(JAET)主催「第45回全日本教育工学研究協議会全国大会島根大会」
10月18日公開授業を取材

情報活用能力の系統表を作成し、中学校区で共有して指導

同校は、「人との関わりの中で、自ら学び考え、主体的に表現できる生徒の育成~ICTを活用した主体的・対話的で深い学びを目指して~」を研究主題に掲げ、2018年度から3つのICT教室や33台のタブレット端末を使い、ICTを活用した授業研究に取り組まれている。

2018年度から木次中学校区内の小学校と連携して、重点的に育みたい資質・能力を決定。「課題対応能力」「伝え合う力」「情報活用能力」を定めて、系統的な指導を展開されている。

具体的には、「課題対応能力」を高めるために、さまざまな課題を発見・分析し、計画を立てて解決しようとする課題解決的な学習の展開を重視した授業づくりを推進。「伝え合う力」については、ペアやグループでの対話を重視し、ICT機器や付箋紙、ミニボードなどを取り入れた指導を各教科で展開している。「情報活用能力」の育成については、木次中学校区で作成した「情報活用能力育成のための系統表」をベースに、年間指導計画を作成。目的意識・相手意識を重視したプレゼンテーションやレポート、新聞などを制作する学習活動を3年間で系統的、計画的に指導してきた。

そのような学習基盤の上に、公開授業では数学と国語でWindows OSのタブレット端末と学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』を活用した授業が公開された。

3つの携帯料金プランのグラフを重ね合わせ、各プランがお得になる条件を読み取る

2年数学「一次関数の利用」(実践者:寺本幸平教諭)では、2人1台のタブレット端末を活用した授業が展開された。

本時は、生徒にとって身近な携帯電話の電話料金プランを扱った。一次関数の単元でこれまで学習した内容と日常生活場面のつながりを意識させるとともに、表、式、グラフなどを用いて課題に適する条件を見出し、説明できることをねらいとした。

授業の冒頭、寺本教諭は、【図1】のように3つの異なる料金プランを示し、通話時間が70分の先生は、一体どのプランが最もお得だろうかと問いかけた。

生徒たちは、「利用料金=基本料金+1分ごとの料金×通話時間」という1次関数の式で利用料金を導きだすと、さらに「通話時間が5分、140分の場合はどうだろうか」と問い、通話時間によってお得になるプランがそれぞれ異なることを確認させた。

その上で店員さんになったつもりで「各プランがお得になる条件をお客さんに説明しよう」と本時の課題を示された。生徒たちは、どのようにすればお客さんに説明できるのか。ペアで相談して考えていった。

【図1】どのプランがお得?

3つのグラフから、各携帯料金プランがお得なる条件を見出す

生徒たちの話し合いが行き詰まっている様子を見取った寺本教諭は、「携帯ショップの店員さんは、いつも計算してお客さんに説明しているのだろうか」と学級全体に投げかけた。生徒から「計算して説明している店員さんを見たことがない」「グラフを使ったらどうだろう?」という声があがった。その意見をとり上げて「3つのグラフを書いて比較すれば、利用時間と電話料金の関係を比較できるのではないか」と話し、各ペアに1つのプランを割り当てて、電話料金プランの使用時間と電話料金の関係をそれぞれのグラフをワークシートに書き表すように指示された。

それから『SKYMENU Class』[発表ノート]の[画像合成]機能を使い、グラフのマス目を貼り付けたスライドを学習者機に一斉に配付。担当したプランのグラフを[マーキング]で書き込み、提出するように指示された【写真1】。

【写真1】担当するプランのグラフを書き込み提出【写真2】学習者機に配付された合成画面を見て、ペアで分析

各ペアが書き込んだA、B、Cの3つの料金プランのグラフは、「提出ボタン」を押すと即座に教員機に提出され、【図2】のように1つに重ね合わさった。寺本教諭は、合成された画面を電子黒板に投影して「交差する3つのグラフの、どこをどのように読み取れば、各プランが最もお得になる条件を説明できるだろうか」と問いかけた。そして合成されたグラフを学習者機に配付し、3つのグラフを比較して読みとれることを考えさせた【写真2】。

【図2】『SKYMENU Class』[画像合成]機能

あるペアは、お得な料金プランが変わるポイントについて、[マーキング]で書き込みながら熱心に話し合っていた。その話し合いは授業時間を終えても続き、参観された先生方は、主体的・対話的に学習に取り組む様子を驚嘆のまなざしで見つめていた。

「あと一歩」を踏み出せない生徒を、ICTが後押し

研究協議会では、参観した先生方から「授業を終えてもまだ生徒同士で説明しあっていた。[画像合成]は、新たな問いや考えにつながる可能性を秘めている」「[画像合成]は、かつてOHPで取り組んでいたことをタブレット端末上で実現できる。生徒の意見を一瞬で集約できるのは画期的」といった感想が寄せられた。

授業後、寺本教諭は「『SKYMENU Class』の学習者機画面を電子黒板に一覧で表示させたことで、ほかの生徒の様子から気づきを得て、書こうとする姿が見られた。あと一歩を踏み出せない生徒を後押しできた」と振り返られ、授業支援機能の有効性を強調された。加えて「大型電子黒板であっても教室後方からはグラフの数値は読み取りにくい。[画像合成]で合成したグラフをもう一度生徒の手元のタブレット端末に配付できたことで、より深く考えさせられた。数学では、グラフだけでなく、図形、角度などの視覚支援が有効な単元で活用が期待できる。書き込みやすく、消しやすい、さらに考えを即座に共有できるという『ICTの良さ』を今後も授業に生かしたい」と話された。

タブレットで芭蕉の想いを巡る「旅プラン」を作成 より伝わる表現をめざし、ペアで言葉を追究

3年国語(実践者:鎌田晋也教諭)では、「おくのほそ道」の単元で、2人1台のタブレット端末を活用した授業が展開された。本時までの学習で、生徒たちは「おくのほそ道」の学習を通じて、「人生とは旅にほかならない」という松尾芭蕉の考え方や想いを感じ取ってきている。

鎌田教諭は、学習のまとめとして松尾芭蕉の旅程や句に詠まれた想いを生徒たちに追体験させたいと考え、発句した場所を紹介する「旅プラン」をプレゼンテーションで紹介する学習を構想された。生徒たちは前時までに「おくのほそ道で特に紹介したい場所」「芭蕉の想いがイメージしやすい場所」「資料等が集めやすい場所」という3つの観点から、「日光」や「平泉」「立石寺」「最上川」など、芭蕉が旅した8つの場所をそれぞれ選んでいる。各章句の本文や写真、インターネット検索で収集した情報をもとに、ワークシートに情報をまとめ、『SKYMENUClass』[シンプルプレゼン]で旅プランを紹介する資料の制作を進めている。

「旅プラン」をグループで中間発表。意見を交流し改善

[シンプルプレゼン]は、児童生徒がプレゼンテーションをする上で必要最低限の機能のみを厳選して搭載したシンプルなアプリだ。鎌田教諭は、スライドの背景設定やアニメーション効果の設定などがなく、国語の学習に集中させられると考えて授業に取り入れられた。

また[シンプルプレゼン]には、スライドに挿入できる情報量を「制限」できる機能を備えており、あらかじめ設定した制限のレベルを超えるとプレゼンテーションが実行できなくなる。鎌田教諭は、【写真3】のように初級レベル(使えるスライドは8枚まで、スライドごとに使える画像は6枚まで、スライドごとに使える文章は7個まで(それぞれ20文字まで))で制限を設定。情報量を制限することで、生徒たちに本当に必要な情報だけを厳選させ、端的で伝わりやすい表現を追究させたいというねらいがあった。

【写真3】[ シンプルプレゼン]の制限レベル設定画面【写真4】ペアで話し合い、プレゼン資料をまとめる

授業が始まると、生徒たちは前時までに作成した資料を開き、早速、作業に取り組んだ【写真4】。鎌田教諭は[タイマー]で作業時間を示しつつ、学習者機画面の一覧を電子黒板上に投影。画面一覧で全員の進捗を確認しつつ、支援が必要なペアがあれば、アドバイスをしてまわられた【写真5】。

続いて、3つのペアで1グループを編成し、制作途中のプレゼンテーションを発表し合うように指示された。生徒たちは「芭蕉の心の動きをとらえているか」「句や本文を効果的に引用しているか」「写真や言葉が効果的に使われているか」といった観点で、お互いの良いところや改善したほうが良い点を伝え合った【写真6】。

【写真5】電子黒板で各ペアの進捗を確認【写真6】タブレット端末画面でスライドを見せながら発表し、交流

より伝わる表現をめざして、言葉を追究する姿が生まれた

「最上川」を選んだペアは、グループの話し合いで「芭蕉が『すずし』を『はやし』に句を変えたことを説明したほうがいい」という指摘を受けた。その後、どのように説明するかをペアで相談して修正したが、「制限」がある中でその検討は難航した。ペアの男子生徒は「今のままでは説明が長い。もっと短く、わかりやすい表現にできないだろうか」と頭を悩ませ、わかりやすく伝えるための言葉を追究している様子が見られた。

授業後、鎌田教諭は「[シンプルプレゼン]は、余計な機能がついていないことが良い。生徒たちが伝えるために表現方法をさまざまに工夫する様子が見られた」とシンプルプレゼンの活用効果を話された。また、「制限することで、情報を厳選せざるを得えなくなる。わかりやすく伝えるために、表現方法を考え、言葉を追究しようとする姿が生まれた。新学習指導要領のめざす『主体的・対話的で深い学び』につながる授業になったのでは」と授業を振り返られた。

(2019年12月掲載)