情報教育/モラル

小学校段階でICT技能をどのように育成するか

1.新学習指導要領における情報活用能力の位置づけ

新学習指導要領において、情報活用能力は、言語能力、問題解決能力と並んで学習の基盤となる能力として位置づけられた(文部科学省 2017a)。新学習指導要領の学習内容を達成するためには、情報活用能力が不可欠であるということを物語っている。

また、「平成30年度以降の学校におけるICT環境の整備方針」(文部科学省2017b)においては、新学習指導要領を達成するための方針が示されている。その中で、ハードウェアの機能の考え方では「⑤キーボードの「機能」を有すること。なお、小学校中学年以上では、いわゆるハードウェアキーボードを必須とすることが適当であること」とされている。つまり、情報活用能力を育成するためには、ICT技能を育む必要があり、とりわけ少なくとも中学年以上の児童はキーボード入力によって、様々な学習活用を展開することを意味していると読み取れる。なお、キーボード入力については、新学習指導要領で初めて記述されたわけではなく、現行の学習指導要領(2008)にも下記のように記述されている。

各教科等の指導に当たっては,児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付け,適切に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに,これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。
文部科学省 小学校学習指導要領 総則 第4 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項 2(9)

2.小学生のキーボード入力の現状

キーボード入力について、文部科学省(2015)による情報活用能力調査においては、小学校5年生のキータイピング入力の平均速度が1分間に5.9文字(10秒に1文字)であったことが報告されている。これは、日本の小学生のキーボード入力が極めて遅いことを示している。新学習指導要領の情報活用能力を育成するための学習活動を取り組んでいく際には、相当に支障のあるレベルである。ICTによって授業を効率化するはずが、逆に授業が遅くなり、ICTを使わない方がうまく進むパターンである。

たしかにすべての活動がキーボード入力で取り組むわけではない。しかし、インターネットで情報を検索する時にはキーボードで入力することが一般的であり、学習支援アプリケーションで簡単な名刺を作る、というような活動においてもキーボード入力は必要である。タブレット端末の導入によって、新聞やレポート、プレゼンテーションの作成と発表、というような学習活動も増えている。タブレット端末は今後も導入されていくことを鑑みれば、キーボード入力は極めて重要なスキルであると捉えることができるだろう。

もちろんそれだけではなく、ファイルの保存や整理、表計算を活用した表やグラフの作成、プレゼンテーションの作成など、様々な場面でキーボード入力は欠かすことができない。

3.大人が仕事で使うように児童も使えるようになるイメージをもつ

タブレット端末によっては、キーボードがないものもある。こうしたタブレット端末では、自分の考えを表現するときには指や専用ペンで文字を書いたり、写真を撮ったり、描画したり、あるいはこれらを組み合わせて自分の考えを表現し、発表する。こうした場面で担任が気になることは、指や専用ペンでは鉛筆のような文字が書けず、児童が書く文字が乱れることである。

このことから、以前勤務していた小学校では「タブレット端末を使うと、子どもの文字が丁寧ではないから使わせたくない」という意見が教員や保護者の一部から聞かれたことがあった。

しかし、果たして私たち大人はパソコンをどのように使うだろうか。大量の情報をパソコンで手書きすることは少なく(あるいはほとんどない)、むしろキーボード入力で様々な仕事に取り組むことを考えれば、子どもが文字を丁寧に書けるわけがないことも自明なことであろう。したがって、手書き入力には限界があり、そこで文字が乱れることを指摘することによって、タブレット端末を活用する良さが失われやすい。こうしたことからも、タブレット端末にはキーボードが必要であるということも言えるだろう。

4.キーボード入力の練習方法

キーボード入力は、教科単元のどこで位置づけるかということが難しい。したがって、「いつ学習させれば良いのか」というような質問を受けることがある。また、どのタイミングからキータイピングを学習させればいいのか、という質問も多い。

キータイピングはいずれローマ字入力となることを考えると、1、2年生ではマウスでひらがなをクリックしたり、タイピングしたりして慣れ親しみ、3年生の国語でローマ字を学習するタイミングでタイピングソフトを活用して練習に取り組む、ということが想定される。しかし、キータイピングは運動技能であることから、何度も練習してようやく身につくものである。だとすれば、ローマ字を学習するタイミングで数時間練習をしただけでは当然身につかない。しかも、将来的には学習に支障のないくらいのスピードで打つことができなければならないとすれば、毎日繰り返し練習をする必要がある。このためには、教科以外の時間や家庭での練習など、「隙間の時間」を活用して練習をさせる必要がある。

各学校が扱うアプリケーションによって練習方法は様々であるが、クラウドで練習するようなアプリケーションがお勧めである。児童1人1人にIDとパスワードを配布し、家庭でも学習できるような環境を提供するとよい。その際、家庭で取り組む時間が長時間にならないよう、学校便りや学級便り、保護者会等で保護者に事前にお知らせしたり、随時状況をヒアリングして意見を取り入れたりしながら実施することで、長時間使用による疲労や他の学習の弊害とならず、スムーズに進めることが可能になる。

また、1人1台のタブレット端末の環境が整備されている学校では、何かの隙間の時間を活用して、短時間の練習を繰り返すことによって、児童のタイピングの練習時間を確保したい。

5.児童のICT技能が向上することで授業は効果的かつ効率化する

こうして、タイピングが速くなると、様々な学習で支障なくタブレット端末を活用することが可能となってくる。

例えば、私が担任をしていた5年生の学級の児童は、国語で意見文を書く活動において、10分程度で児童全員が400~600字を入力して意見文を完成することが可能であった。1分当たりの入力数は40~60字程度であり、情報活用能力調査の結果のおよそ7倍~10倍のスピードである。これにより、意見文を友達とチェックし合って、誤字脱字を直したり、あるいは校正したりすることで、よりよい意見文を書く時間を確保することが可能となった。この事例は文部科学省(2017c)「学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議(第4回)」配付資料(資料3)杉並区立高井戸東小学校提出資料(PDF)を参照していただきたい。
http://jouhouka.mext.go.jp/school/pdf/1382577_3.pdf

一方、原稿用紙で意見文を書くと、文字を間違えたら消しゴムで消し、書き直すという作業を繰り返すうちに紙が汚れて読みにくくなったり、あるいは45分で書き切ることができない児童もいることで、誤字脱字を修正したり、校正したりすることができないこともある。当然、タイピングが速くても文章を書く力なくしてキーボードで意見文は書けないが、ここではよりよい意見文を書くことが目標であって、手書きで書くことが目標でないとすれば、手書きにこだわる必要もない。

こうしたキーボードを活用した文章入力の学習の考え方は様々であり、担任の価値観によるものである。文字を丁寧に書かせたいという願いが強い担任であれば、当然意見文は手書きで書くだろう。

しかし、我々大人が仕事で文章を書く際には、ほぼパソコンで書くことを考えれば、パソコンで意見文を書くことの意味や意義を見出せるはずである。

もちろん、手紙を書く、というような学習では、手書きの方が気持ちは伝わるだろう。パソコンで文章を入力することで「意見文はパソコンでもいいかもしれないが、手紙なら手書きの方がいい」という議論にも発展しやすい。こうした議論によってメディア特性の違いによる表現の工夫も生まれ、情報活用能力の育成にもつながっていく。

6.他のICT技能も向上する

こうした活動が増えていくと、ファイルを保存するということが増えてくる。大抵の場合、ファイルサーバーがクラス毎に設定されているが、権限によっては自分以外のファイルを誤って消してしまうこともある。とくにタブレット端末画面でファイルを操作しているときに誤操作が多い。こうした体験を繰り返すことで、「ファイルは2つ作って、1つは自分のタブレット端末に保存した方が良い」という意見が出されたり、あるいはサーバーの仕組みを理解したり、「フォルダ毎にファイルを整理整頓した方がいい」というような発想に至っていく。

また、タイピングが速くなっていくことで、他のソフトフェアの活用が上手になっていく。ワープロソフトと互換性のある表計算ソフトやプレゼンテーションソフト間でコピーして、プレゼンテーションを作成することも可能になっていく。

筆者が担任をしていたクラスの児童が、学習活動ソフトを活用してタイピングで意見を共有している姿は、上図やWebサイト(http://www.sky-school-ict.net/class/tablet/tablet44.html)を参照していただくとわかりやすい。2~3分で自分の意見をタイピングする様子がわかる。

7.まとめにかえて

キータイピングの速度の向上によって、担任が意図した授業が流れるようになってくる。また、ファイルが増えていくことで、ファイルやフォルダの機能や特徴を覚えたり、整理整頓を通してコピーや貼り付けなどの機能やショートカットも習得したりする。さらに他のアプリケーションの活用方法が多様になってくる。まずは毎日1日5分のキーボード練習から、児童の情報活用能力の育成の基礎を養っていきたい。

[参考文献]

(2018年5月掲載)