「校務」&「セキュリティ」

墨田区教育委員会「ICTセキュリティ研修」リスクを伝え、情報セキュリティへの自覚を促す

教員の働き方改革が進められるなか持ち上がった「GIGAスクール構想」

平成28年度の「教員勤務実態調査」からも明らかであるように、10年前と比べて教員の勤務実態はさらに過酷になっています。【図表1】のように、民間企業における1か月の実労働時間と比較しても、教員の労働時間は非常に長いと言えます。

【図表1】労働時間の比較

小学校 民間企業
校長 副校長・教頭 教諭 事業所規模5人以上
調査産業計
1週間当たりの労働時間
(時間:分)
55:03※1 63:38※1 57:29※1 -
1か月当たりの労働時間
(時間:分)
220:12※2 254:30※2 229:54※2 142:12※3

※1 文部科学省「教育勤務実態調査(平成28年度)」より、持ち帰りの時間は含まない学内での勤務時間
※2 「1週間当たりの労働時間×4」として弊社にて算出
※3 厚生労働省「毎月勤労統計調査地方調査 平成30年平均分結果概要」より

教員の労働時間を削減する取り組みの一つとして、勤務時間を年単位で管理する「変形労働時間制」の導入を柱とする「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)」の改正案が可決されました。これにより、繁忙期の勤務時間の上限を引き上げる代わりに、夏季休暇中などに休日をまとめて取ることができるようになりました。また、この改正案には残業時間の上限を月45時間、年360時間とする文部科学省のガイドラインを、「指針」に格上げする旨も盛り込まれています。教員の働き方改革としては、そのほかに校務支援システムの導入が進められていることも挙げられます。平成31年3月時点で整備率は57.5%※4に達しており、今後も整備が進められていきます。

さらに文部科学省により、各地方自治体の教育委員会および学校において取り組むことが重要と考えられる方策が整理されました。そして、平成31年3月18日には各都道府県知事・教育委員会教育長等宛てに「学校における働き方改革に関する取組の徹底について(通知)」と題した事務次官通知がなされています(私立学校および国立大学附属学校にも別途周知)。このなかで、「学校及び教師が担う業務の明確化・適正化」について次のように記載されています。

※4 文部科学省「平成30年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」より

基本的には学校以外が担うべき業務

登下校に関する対応、放課後から夜間などにおける見回り、児童生徒が補導されたときの対応、学校徴収金の徴収・管理、地域ボランティアとの連絡調整

学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務

調査・統計等への回答等、児童生徒の休み時間における対応、校内清掃、部活動

教師の業務だが、負担軽減が可能な業務

給食時の対応、授業準備、学習評価や成績処理、学校行事等の準備・運営、進路指導、支援が必要な児童生徒・家庭への対応

教員の業務の適正化については、事務次官通知以前からすでにさまざまな取り組みがなされてきました。例えば兵庫県のある中学校では、以下のような教員業務の見直しを行った結果、教員の超過勤務時間の平均が22分短縮した事例もあります。

  • 登下校対応や安全指導で地域の方々に協力してもらう
  • 不登校など家庭環境に課題がある生徒への対応でスクールカウンセラーを活用
  • 生徒指導事案の発生時には市の教育委員会や関係機関を活用
  • 学校行事には生徒たち自身で具体的な取り組みができるように指導

参考:兵庫県教育委員会「教職員の勤務時間適正化 先進事例集」(平成29年4月)より

そんななか、令和元年12月13日に臨時閣議案件として提出された「令和元年度一般会計補正予算」が翌14日に決定されました。これにより、「GIGAスクール構想」として児童生徒1人1台の端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備するための経費が予算に盛り込まれました。今後はすべての自治体において、児童生徒1 人1 台の端末整備が進められていくと考えられます。

児童生徒1人1台の端末が整備されると、学校には端末が何台あることになるでしょうか?文部科学省が発表している学校数と在学者数、教員数から、小・中・高等学校の1校当たりの平均人数を試算すると【図表2】のようになりました。

【図表2】1校当たりの平均人数(人)

児童生徒数 教員数
「児童生徒数」と「教員数」の合計
小学校 323.1 23.4 346.5
中学校 316.6 28.3 344.9
高等学校 660.7 62.5 723.2

参考:文部科学省「文部科学統計要覧(平成31年版)」
「1.学校教育総括」より弊社にて算出

学習指導要領に外国語教育やプログラミング教育が盛り込まれ、教員が教える内容はさらに増えています。そんななか、例えば小学校で平均約346台の端末のメンテナンスを、教員が行うことは果たして可能でしょうか。

児童生徒1人1台の端末整備で変わる教員の日常

現在、学校のコンピュータ教室にある端末は、デスクトップ型が比較的多いと思います。小学校での日常的な管理といえば、まれに電源が入ったままの端末があれば気づいたときに電源をオフにし、下校時に施錠を確認するくらいでした。充電切れや紛失といった問題について意識することは、ほとんどなかったでしょう。

ところが今後、児童生徒に1人に1台整備されるのは多くがタブレット型の端末です。使った後は充電保管庫に収納して、電源ケーブルをつないでおく必要があります。また、紛失や盗難対策として、台数がすべてそろっているかを日々確認しなければなりません。そして、これらの確認をすべての教室で行うことは情報担当の教員だけではできないので、各担任の教員が実施することになります。

これまで情報端末を管理したことのない教員が、スムーズに対応することは可能でしょうか。充電庫の使い方一つとっても、弊社では日々以下のようなトラブル事例を伺っています。

  • 充電器の赤いランプの点滅の意味が分からない。
  • ケーブルをきちんと奥まで差せておらず、充電できていなかった。
  • 不用意に全端末を充電しようとしてしまい、供給電力量を超えてしまった。

【図表3】端末の電源管理イメージ

小さなことですが、翌日の授業に支障を来す可能性があります。電源管理一つでも、これだけの影響が想像できます。端末の管理以外にも、各教室の施錠や鍵の管理などが必要になると考えられます。

もう一つ、忘れることができないのは、児童生徒への情報モラル指導です。これは学習指導要領にも記載されており、教員が児童生徒へ指導しなければならないものです。情報モラル指導が不十分なまま、児童生徒が1人1台の端末を持つとどうなるでしょうか。

【図表4】は、不正アクセス禁止法違反の被疑者数の年代別割合を示したものです。14歳~19歳の割合は全体の27.7%で、20代と並んで最も大きな割合を占めます。14歳未満のデータは非公開ですから、実際には10代の割合がさらに大きいと想像できます。子どもたちは好奇心が旺盛で、興味本位で罪を犯してしまいがちなのです。

【図表4】不正アクセス禁止法違反 年代別被疑者数(触法少年を除く)

参考:警察庁「平成30年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(平成31年3月7日)より

過去にも2016年6月に、先進的な教育情報システムへの不正アクセスによって、1万4,000人分を超える個人情報が漏えいした事件がありました。この事件は17歳の少年が主犯であったことも大きな注目を集め、「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」が定められるきっかけにもなりました。

また2019年12月にも、中学3年生が教員のIPアドレスとパスワードを窃取し、校務用サーバへアクセスして自身の成績情報を改ざんする事件が起きました。この事件では、教員が生徒の求めに応じて自身の教員用端末を貸与したことがきっかけとなり、IPアドレスとパスワードが漏えいしています。

児童生徒1人1台の端末整備が行われても、同様の事件の発生を未然に防ぐため、教員のICT指導力の向上と児童生徒への情報モラル指導は非常に重要だといえます。このような状況下で、教員が端末のメンテナンスを行うのは現実的ではありません。

児童生徒1人1台の端末のセキュリティは、誰が・どう守るのか

学校で使われる端末の情報セキュリティ対策については、前出の100ページ以上にもわたる「教育情報セキュリティポリシーに関するガイ ドライン」に定められています。端末に対する物理的・技術的セキュリティ対策だけでも20項目以上が記載されており、教員が授業の片手間に実施するのは困難です。

ガイドラインが定める対策項目数は確かに多いのですが、その対策項目数の多さこそ重要です。なぜなら、昨今のサイバー攻撃は非常に高度であり、完全に防御することは困難である一方、対策項目数が多いことそのものが、サイバー攻撃への防御力となるためです。

このことは、鍵のかかっている扉に似ています。高度な鍵が1つだけならば、それを攻略すれば侵入できます。一方、それほど高度ではなくても多数の鍵がついていれば、攻撃に時間がかかることが想像されるので、攻撃者は攻撃の最中に発覚することを恐れて侵入そのものを諦めがちです。そのため警視庁では、ドアや窓の防犯対策として、補助錠の取りつけを真っ先に挙げています。そのほかには、センサ付きライトの設置等が勧められています。

多数のセキュリティ対策を漏れなく実施することは必要です。しかし繰り返しますが、教員がこれらの業務を行うのは現実的ではありません。端末のメンテナンスやセキュリティ対策を専門に行う、十分な経験とスキルを備えた専門職が必要です。

では、そのような専門職による管理体制を整えるには、何が必要でしょうか。各校に端末の運用管理を行う専門職を配置することは現実的には難しく、教育委員会で数名の体制になるのではないのでしょうか。

つまり、教育委員会に在籍する専門職の数名で、各学校にある計数千台にも上る端末の運用管理を行うことになります。それらを、常に問題なく授業で利用できるように運用管理するためには、効果的なリモート管理ができるツールが必要です。また、その専門職の人材には、突然整備された端末を授業でスムーズに使える状況に保つことができるよう、学校の業務に対する理解も求められます。

例えばOSやソフトウェアの更新において、学校の教員や児童生徒が行う対応は最小限に抑えることが必要です。【図表5】に示すように、端末の充電やネットワークへの接続は、端末が手元になければできません。しかし、それ以外の操作はツールさえあればほとんどリモートで行えるため、専門職の人材に任せられます。

【図表5】更新プログラムの適用における役割分担

リモートでできることは専門職の人材が対応し、各学校で人が対応しなければならないことを最小限に抑える工夫が必要です。このような仕組みを実現するためには、端末整備の段階で、その端末やOS、システムの運用管理の経験を備えた人材が豊富かどうかを考慮しておくことも重要です。例えばWindowsであれば、2003年時点ですでに国内のMCP有資格者数は12万人に上っていました。資格を取得していなくても、組織で使われる端末のほとんどがWindowsであるため、他OSに比べてスキルやノウハウを持つ技術者の数が格段に多いです。

また、前出の「学校における働き方改革に関する取組の徹底について」において、文部科学省より教員が行わなければならない業務とそうでない業務の仕分けが行われたように、端末の運用管理においても同様の工夫を行うことで、教員の負担を軽減することができます。

まとめ

新学習指導要領の下、教える内容が増えたにもかかわらず、働き方改革で教員の業務時間を減らすことが喫緊の課題となっています。そのようななか、児童生徒1人1台の端末整備による運用管理業務までをも教員が担うことは現実的ではありません。とはいえ、「情報セキュリティ対策は、安全・安心にI C Tを使う上で必ず必要」ということに異論を唱える方はいらっしゃらないと思います。

今後、サイバー攻撃がより巧妙で高度になるほか、端末の利用頻度が増えれば、それに伴って操作ミスの件数も増えると予想されます。そんななかでも、教員と子どもたちに端末を安全に使っていただくためには、非常に多くのルールが必要です。しかし、ルールが多すぎると守ることが難しく、ICTが活用されなくなってしまいます。そうならないよう、意識しなくても安全な使い方ができるような仕組みにするために、現場の運用を踏まえつつ、ガイドラインに沿ったICT整備が求められます。

ガイドラインによって、具体的な情報セキュリティ対策の必要性を説明しやすくなっています。また、学校現場の情報セキュリティを守るための技術も日々新しく開発されており、教育委員会や学校現場の業務状況に応じて、さまざまな解決策が考えられます。

弊社といたしましてもソフトウェアメーカーとして、ICTを利用される方々に少しでもお役に立てる商品や情報をご提供できるように、引き続き取り組んでまいります。

Sky株式会社 金井 孝三
(2020年5月掲載)