情報教育

「スマホ依存」へ向けた学校の対応

はじめに

2019年5月、WHO(世界保健機関)が、国際疾病分類に「ゲーム障害(Gaming Disorder)」を認定したことが大きなニュースとなりました(2022年1月から発効)。国内では、「ネット依存・スマホ依存」という言葉が一般的に使用されていますが、WHOが認定したのは、ゲーム(特にオンラインゲーム)によって通常の生活に著しい弊害をもたらすケースを想定したものである点に注意しておく必要があります。つまり、「依存レベル」の最も高いものがオンラインゲームであると捉えて差し支えないといえるでしょう。

この動きに合わせて、香川県議会は全国初のゲーム依存症に特化した条例として、「ネット・ゲーム依存症対策条例案」を2020年4月1日に施行しました。当条例は、ゲーム時間の制限を設けることなどから、「実効性に乏しい」、「自由な経済活動の妨げ」等さまざまな物議を醸し出しました。それにもかかわらず早期可決に至ったのは、やはりスマートフォンに興じる子どもたちに対する保護者らの懸念が大きかったことがうかがえます。

そしてほぼ同時期に、コロナウイルス感染症への対応として、2020年3月から全国的な休校が始まりました。かつてない長期休業で、しかも外出自粛とくれば、ゲーム・スマートフォンへの依存度が増すのは当然です。「ゲームは1日1時間」と決めていた家庭も、この休業期間に関しては制限を緩めていたのが実情ではないでしょうか。

以上のような状況から、ここで改めて、「ゲーム障害」や「スマホ依存」について、学校の役割を考えてみたいと思います。

自己抑制が困難な状況

【表1】を見ると、1985年頃の日常的な娯楽が、今やスマートフォン内ですべて完結してしまっていることが分かります。ただ、1985年頃に行っていた娯楽には、すべてに「終わり」があります。当時は「日没・番組終了・ゲームクリア・電話代の加算」等で自然終息せざるを得ない状況がありました。

【表1】からは、今も30〜40年前も、子どもたちの娯楽自体に大差はないことが分かります。ただ、現在は、昔のように「見たいTV番組が終わった」「ゲームをすべてクリアして飽きた」という「自然終息」がなく、自己抑制が働かない限り永遠とやり続けるという点では大きな違いがあります。加えて、「直接的な交流」ができることも特徴的です。SNSで「オンラインゲームしようよ」と呼び掛ければ、すぐに仲間が集まります。無限のコンテンツとSNSによる直接的なコミュニケーションが相乗した結果、依存症の間口を大きく広げたといえるでしょう。今の子どもたちには忍耐力や判断力が欠如しているわけではなく、自己抑制が困難な状況にあることをまずは認識いただきたいと思います。

【表1】スマホがなかった時代と現在との比較

学校は「予防措置」に重点を

スマートフォンを子どもに買い与えるのは保護者であり、その利用は一般的には学校外においてですので、家庭でのスマホ利用について学校が個々に対応する必要はないというのが多くの学校教育現場の見解かと思います。ただし、香川県の条例では、保護者に対して、「子どもがネット・ゲーム依存症に陥る危険性があると感じた場合には、速やかに、学校等及びネット・ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者等に相談し」とあり、「学校等の責務」として、スマホ利用のルールづくり等を啓発するとしています。

昨今、学校教育現場の多忙化や長時間勤務が問題となっていることは周知の事実であり、これ以上、学校に過度な負担を強いることは教育現場の疲弊を招くことになりかねません。一方で、過剰なネット・ゲームの利用は、学力低下の懸念や生活習慣の崩壊につながることは各種統計からも明らかであり、家庭任せで放置しておくことも学校にとっては得策とはいえません。

そこで、学校教育の通常の教育課程内での指導において、依存症の「予防措置」として何ができるのか、もしくは、依存傾向もしくはその兆候がある児童生徒の自覚を促し、改めるきっかけづくりの機会をどのように提供するかについて検討したいと思います。

「依存」の分類

「スマホ依存」をひとくくりにしてしまっては、焦点化した予防策を講じることができません。

児童生徒の実態を探り、どういった状況に陥り始めているのかを把握する必要があると思います。【図1】は、依存のタイプ分けを図にしたものですが、私が高校生1,000人以上に調査した限りでは、オンラインゲームの醍醐味は「共に戦う・対戦する仲間の存在」が大きいことが分かったために、「つながり・きずな依存」に分類しています。

なお、WHOで認定されたのは「ゲーム障害」であり、【図1】ではオンラインゲームの分類のみが該当します。「SNSによって相手からの返信がなくてイライラする」といった症状は該当しません。国内では、とにかくスマートフォンを触る時間を少なくしたいということで、一律の時間制限を試みようとしていますが、やはり実質の利用実態に目を向ける必要もあると思います。

【図1】「依存」のタイプ

“決め手に欠ける”がやるべき対策

さて、児童生徒の実態や利用状況を把握したという前提で、本題の対応策について考えたいと思います。各種依存症対策の専門書や医療施設等が提唱している対応策から共通点をまとめていくと、ほぼ【表3】の①〜⑥に集約されます(③の筆者提案は除く)。正直なところ、いずれも決め手に欠けることは確かです。しかしながら、対策がこの程度しかないのであれば、少しでも実行力のあるものを実施していくしか現時点では方法がありません。

以下では、表3の対応策①について、ホームルームや保護者会で提案できる「契約書づくり」を、②については、道徳や特別活動で実践可能なワークやマンガ教材を紹介していきます。

【表2】「依存」への主な対応策の例

以下で紹介する教材は、私自身が作成し、実際に教育現場で活用されている5つの事例を取り上げていますが、私の研究室サイト(http://web.wakayama-u.ac.jp/~toyoda/mrl2/)にて各資料をダウンロードできますので、ぜひご利用ください。

まずは「誓約型のルール(契約書)づくり」

ルールづくりは学校からの一律の提案では、形骸化したルールの押しつけに陥ります。そこで、カスタマイズ可能な使用ルールのモデルを示し、個々の判断によって書き換えて、保護者と同意した「契約書」に仕上げるという方法が有効的かと思います。よって、電子ファイルで【図2】のようなテンプレートを配布して、保護者と児童生徒が対話しながら家庭の実情に合わせて書き換えていきます。また、ペナルティーの設定は、「契約」が履行されなかった場合に必要です。ただし、学校としてペナルティーを与えることはできないため、学校側はその契約書を作る機会を保護者会やホームルーム等で提供するにとどめておきましょう。

【図2】誓約書(スマホ利用の契約書)の例
道徳や特別活動における「節度」の指導

現在の道徳の教科書をざっと見渡してみると、「情報モラル」に該当する項目が明記されており、その中には時間を守らずに使い過ぎてしまう事例や、返事がなかなか来なくてイライラする事例もあります。その多くは、道徳的価値項目として「節度・節制」が割り当てられています。依存症に陥りがちな仲間を「思いやる心」や、ネットワークコミュニケーションにおける「相互理解・寛容」にもつながるなど、道徳的価値を高めるための身近なテーマとして、もはやスマホ利用の実態をテーマとすることは自然な流れといえます。

【図3】は、「書き換え・加筆可能な道徳の「読み物教材」」の例です。道徳の読み物教材を使う場合には、教科書や副教材の文章をそのまま使用することが原則ですが、児童生徒らの実態に合わなかったり、道徳的価値へのアプローチが遠回りすぎる場合もあります。そこで、ストーリーや登場人物の会話などを書き換えたり、加筆できる教材を提供することしました(図3)。ぜひ、皆さんでアレンジを加えて活用してみてください。

【図3】書き換え・加筆可能な道徳の「読み物教材」の例

さて、「節度」というキーワードに再度着目すると、中学校学習指導要領の「特別活動」の「内容⑵」に、「節度ある生活を送るなど現在及び生涯にわたって心身の健康を保持増進すること」との記載を見つけることができます。同解説書では、「自己管理を行うことの意義やそのために必要となることを理解し(中略)学校内外における自己の生活を見直し,自らの生活環境や健康維持に必要な生活習慣等を考える」とあり、そのテーマ例として「インターネットの利用に伴う危険性や弊害などに関する題材を設定し」と続いています。

この趣旨を汲み、指導用教材の一例として作成したのが、「カード式の活用状況マッピングワーク(図5・5)」と「マンガ形式のチェックリスト教材(図6・7)」です。

【図5】は、スマホ利用におけるメリットとデメリットをそれぞれ30枚のカードにしたものです。ここから自分に該当するものを抽出し、それを並び替えることで自らの利用実態を可視化する方法です。

  • メリットカードから自分に該当するカードを5枚選ぶ
  • デメリットカードから自分に該当するカードを5枚選ぶ
  • マッピングシートに両カードを並べて相対的に関連するカードをつなげる。
【図4】スマートフォンのメリット・デメリットカード一覧

【図5】カード式の活用状況マッピングワーク例すると、【図5】の例のようになるのですが、「友人と連絡がとりやすい」「悩みを伝えやすい」というカードと「友人関係が煩わしく感じる」「返事が面倒になる」の相対的な意味合いのカードを無意識に選んでいることが分かります。これをペアやグループで行って、自らの利用状況や他者の状況と比較し共有していきます。最後は、問題点を学級全体で集約して、この問題点を解決するためにはどういった点に気をつけるべきか、どういった意識づけが必要かを検討していきます。

次に、マンガ形式のチェックリスト型教材(その一部)について紹介します(図6)。文字だと認識しづらい状況をマンガの一コマで示して自覚を促すものです。例えば、吹き出し部分を空白にしておいて、セリフを書いてみるという取り組みも考えられます。グループ内でそういったセリフを考える中で、自らの体験談を語ることにもなるでしょう。

【図6】マンガ版の依存症チェックリストと【図7】浪費した時間を有効的な時間に置き換えて考えるマンガの例

【図7】は5コママンガ形式で、1・3コマ目は、実際に自分のスマートフォンでの確認を促す内容となっています。そして、最終コマの空白部分には、スマートフォンの利用時間と同等の時間でどういった活動ができるのかを書き込むようにしています。スマートフォンを手放した時間に、代替的な活動がいくつ示せるがポイントです。結局、ゲームをやめさせても、他の活動ができなければゲームへの「禁断症状」が増すばかりです。よって、まずは他者の真似でも構わないので、この空白部分を埋めていけることが重要だといえるでしょう。

当然ながら、この程度の対策で防ぎきれるわけではありません。ただ、「節度」ある利用とはどの程度なのかを学級内で共通認識し、自覚を促すきっかけづくりにはなるはずです。

最後に

【表3】の対応策には、③「クリエイティブな使い方を指導する」を私の独自項目として入れました。今や、「1億総クリエイター時代」といわれて久しく、そのためのツール(スマートフォンやタブレット等)も十分普及しました。しかしながら、その作り方や配慮・留意点(著作権・肖像権、許諾の方法等)は学校教育では教えられていません(むしろ現状では、スマホ利用を抑制・制限・禁止する方向が一般的です)。そのため、児童生徒らは、各種ツールの使い方を「独学」や「(児童生徒のみによる)協働学習」によって学校外で学んでいるのが現実です。

大人や学校が、児童生徒の長時間のゲームプレイに難色を示すのは、そこに生産性や将来性が見い出せないからという理由が大部分を占めていると思います。しかしながら、プログラミングや適切な動画制作などができるようになれば、そこに創造性が発揮されることもあり、「デジタルなものづくり」につながります。そのようなスキルが、将来的にどのように生かされるのかも見えてくるはずです。児童生徒らを、プレーヤーからクリエイターに転換させる機会、そのきっかけづくりがプログラミング教育であるという見方もできるのではないでしょうか。スマートフォンの「使用制限機能」でゲーム類や動画配信アプリ等の時間をしっかりと決めておいた上で、創作系アプリ(プログラミングやプレゼン・スライド・映像制作アプリ等)は解除しておいてもいいのではないかとも思います。主体的な創作活動は、自己抑制によって終了することができるからです。

この新型コロナウイルス感染症対応における休校措置で悔やまれるのが、プログラミング教育の完全実施が間に合わなかったこと、動画コンテンツの作成や遠隔授業などがまだごく一部の学校でしかできていなかったことです。この有り余る時間を有意義に過ごすためにもクリエイティブな技能が習得できていればと悔やまれます。このような状況を見越しての検討が本格化し、タブレットやスマートフォンを介してのクリエイティブな活動を促す好機になればと願っております。

【引用・参考資料】
豊田充崇、ゲーム依存に対する予防教育、医学のあゆみVol.271(No.6) p597-604
豊田充崇、対話的な学びを重視した情報モラル指導用教材の開発とその有効性、和歌山大学教職大学院紀要(学校教育実践研究)2018,No.3,p21-28
豊田充崇、考え議論する道徳教育のススメ−これからの情報モラル教育−、道徳ジャーナル(学研)、2018,97号,p2-3

(2020年6月掲載)