情報教育

教科「情報」実践報告

簡易な統計グラフポスターの
制作を通した問題解決の指導

滑川 敬章(千葉県立柏の葉高等学校 教諭)

滑川敬章 千葉県立柏の葉高等学校教諭

「社会と情報」の問題解決の単元で、簡単な統計グラフの制作を取り入れた授業を実施した。A3用紙1枚のポスターの中に、自らが設定した問題について、問題解決の流れを文字・図解・グラフ等で表現させ、解決方法を提案させた。制作したポスターはグループ内で発表・相互評価を行い、解決案の評価・改善に取り組ませた。

【1】はじめに

情報科の新しい学習指導要領では、問題解決を重視した学習が盛り込まれている。本校では、これまで、情報科(専門学科)の生徒たちに「情報の表現と管理」(前学習指導要領では「情報と表現」)の授業の中で、情報の表現技法の題材として「統計グラフ」の作成を行ってきた。一昨年度、その指導の過程において、従来の表現技法の指導に加えて、問題解決の基本手順を取り入れた授業を実践したところ、その有効性を確認することができた(1)

本稿では、今年度の「社会と情報」の中の「情報社会における問題の解決」の単元において、統計グラフの要素を取り入れ、統計的問題解決力を育てる取組を行った授業の概要と成果について報告する。

【2】統計グラフ作成の指導

統計グラフは、自らが選択したテーマを表現するために、統計資料を集め、そのデータをグラフ化してポスター状に仕上げたものである。その統計グラフの内容を競う「統計グラフコンクール」は、統計知識の普及向上と統計の表現技術の研さんに資することを目的として各都道府県で行われている。それらの優秀作品で競われる統計グラフ全国コンクールは、昨年度で61回の歴史がある。

2.1 これまでの統計グラフ作成の流れ

これまでは、図解を中心とした表現や、表とグラフの作成について学ぶ題材として統計グラフの作成を指導してきた。指導の流れは次のとおりである。

  1. (1)表現したい・伝えたいテーマを考えさせる。
  2. (2)伝えるための統計的情報を収集させる。
  3. (3)集めた情報から受け手に伝えたいことが伝わるように工夫してグラフを作成させる。
  4. (4)キャッチコピー、デザイン、イラスト等を加えて、ポスターを完成させる。

統計グラフの作成は、情報を収集する場面では情報検索の技術や情報の信憑性の確認作業を、また、情報を利用する場面では、出所を明らかにすることの必要性や一次情報源を意識させることなど、関連して指導できる内容も多く、実習課題として非常に有効なものであると考えている。

2.2 問題解決のプロセスを意識させた指導

しかし、単に図解表現やグラフを活用しただけでは、テーマや内容は年齢に応じて変わっていても、使用しているグラフの種類は円グラフや棒グラフなどで、統計グラフコンクールの小学生の優秀作品(2)と比較しても大きな差はない。

そこで、一昨年度から、統計グラフの作成に、問題解決のプロセスを意識させた指導を行い、統計グラフの作品の中に、問題解決の流れを表現させるようにした。

問題認識→データ収集→データ分析→解決策提案

2.3 生徒作品の変化

図1、図2に本校生徒の平成23年度と平成24年度の統計グラフの作品の一例を示す。

図1の作品では、「問題認識→データ収集→現状把握→提案」といった流れでテーマが表現されているが、図2の作品では、「問題認識→データ収集→データ分析→解決策提案」のように、統計的データ分析をもとにした統計的問題解決の流れが表現できている。

図1、図2

【3】「社会と情報」での問題解決の指導

これらの統計グラフの指導経験を活かして、「情報社会における問題の解決」の単元において、問題解決の流れを簡単なポスターにまとめる実習を行った。指導計画は以下のとおりである。

  • ・問題発見、情報の収集・整理の手順  1時間
  • ・表計算ソフトウェアの活用方法    2時間
  • ・問題解決の実習           4時間

3.1 問題の発見、情報の収集・整理の手順

はじめに問題解決の手順について学習した。問題解決では問題の発見が重要であることや、情報を収集する際に必要な検索の技法、一次情報と二次情報、出典の書き方などについて指導した。

3.2 表計算ソフトウェアの活用方法

次に、表計算ソフトウェアの基本的な使い方、表やグラフの作成方法について学習した。気象庁のWebサイトからデータを収集・整理させ、目的に応じた適切なグラフが作成できるように、主なグラフの種類と用途についても指導した。

3.3 問題解決の実習

問題解決の総合実習として、A3用紙1枚の中に、問題解決のストーリーを表現したポスターの制作(図3)と、そのポスターを使った発表を行った。

図3生徒がしえ佐久下ポスターの例

授業時間が限られているため、テーマは「気象に関係する身近な問題」と限定し、基本的に気象庁のWebサイトからデータを収集してくることとした。実習の流れは以下のとおりである。

  1. (1)5~6人のグループに分かれて、ブレーンストーミングとKJ法によって、自分が解決すべき問題(テーマ)を決定する。
  2. (2)問題の背景の説明や問題の解決案のための資料を収集・整理し、グラフを作成する。それらを元に、問題解決の流れに沿って、問題を解決するための提案をポスターにする(図4)。
  3. (3)最初とは異なる5~6人のグループに分かれて、作成したポスターを使って設定した問題とその問題を解決するための提案をプレゼンテーションする。

図4

テーマ決定や発表の時間を除くと、実質的なポスターの制作時間は2時間しかとれなかったが、発表までに放課後等を使ってポスターを完成させるように指導した。後でアンケートを取ったところ、平均2~3時間程度作業を行ったようである。

発表の時間では、提案に対するよい点・改善点を評価用紙に記入して発表者に手渡し、それらを発表者が整理して自分の発表を振り返るようにした。これらを踏まえて作品を改善させることで、問題解決の評価と改善のプロセスも経験させた。

【4】まとめ

今回の実習は本校の生徒たちにとって少しレベルの高いものであったが、非常に積極的に取り組んでいた。生徒の作品に対する自己評価は、100点満点中の60点程度であったものの、実習に対する満足度は80点くらいあり、「楽しくできた」「またやりたい」「発表中に友達に褒められて嬉しかった」「難しかったけど達成感が湧いてきた」といった実習に対しての肯定的な感想が多かった。また、問題解決の流れがよく理解できたかという質問に対して、5段階中の5と回答した生徒が最も多く、問題解決の流れを理解するために今回の実習が有効だったことがわかる。改善すべき点は多く残っているが、今後もこの取組を継続していきたいと考えている。

参考文献

  1. (1)滑川敬章,小泉力一(2013)「問題解決の流れを意識させた統計グラフポスターの制作」(日本情報科教育学会 第6回全国大会講演論文集)p.134
  2. (2)統計グラフ全国コンクール:http://www.sinfonica.or.jp/tokei/graph/

※第7回全国高等学校情報教育研究会 全国大会 (埼玉大会)要項から転載
(2015年1月掲載)