情報教育

教科「情報」実践報告

情報を活用し情報社会に参画するために
データベースを科学的に理解する学習

長谷川 友彦(近江兄弟社高等学校 教諭)

長谷川友彦教諭

本校「情報C」において、情報社会の中ではたらく情報システムについて、データベースのはたらきを中心にしながら、情報が実際にどのように活用され、私たちのくらしが支えられているかについて考えさせる実践を行なった。情報社会に参画する態度の育成を一つの観点としながらも、データベースのはたらきを中心として考える中で、情報の活用と情報の科学的な理解を深めることができた。

【1】はじめに

2012年に行われた第5回全国高等学校情報教育研究会にて、「社会と情報」でもデータベースの学習に取り組む意義について発表した。本発表は、昨年の発表の後、本校の「情報C」において、データベースの学習に関する実践をさらに発展させた点について発表する。

本発表で紹介する実践は、「情報C」により実践されたものであるが、学習指導要領「社会と情報」の内容の「(4)望ましい情報社会の構築」内の「ア 社会における情報システム」「イ 情報システムと人間」を強く意識した実践であり、「社会と情報」においても実施可能な内容であると考えている。

【2】これまでの経過

「社会と情報」をにらみ、「情報C」でデータベースの学習に取り組みはじめたのは2010年度のことであった。3年間にわたり徐々に改良を加えながらデータベースに関する実践を構築してきた。本題に入る前に、それぞれの年に行なった実践の特徴と、そこから得られた教訓を簡単に紹介する。

2.1 教科書通りの順序で失敗した1年目

2010年度、最初にデータベースに関する授業に取り組もうと考えたとき、いわゆる“教科書通り”の順序で、データベースの設計、正規化からはじめ、作成したデータベースから関係演算でデータを取り出すという順序で授業を行なった。

多くの生徒たちにとっては、難解な正規化に苦しむだけで、その先の見通しが見えないまま、学習に対する動機が薄れていくばかりであった。

2.2 方向性を模索した2年目

先の見通しが立たなかった1年目の失敗を受け、2012年度には、関係演算を通して大量のデータから情報を取り出す実習を先に取り組むことにした。

この年には、1時間目に情報システムの裏にデータベースというものがはたらいていることを意識させる座学による学習を行ない、2時間目に関係演算を通してデータを取り出す実習を行なうことを通して、社会ではたらく情報システムの裏ではたらくデータベースに対する理解を深めることができた。

しかしながら、用意した手順をなぞる学習の枠を超えることはなく、一部の生徒の中には、ただ教員の指示通りに操作をして終わった感もあった。データベースを活用することによって社会の中でどのように情報が活用されているかを理解できるような実習にしていく必要性を感じた。

【3】授業実践

この授業は3時間構成で授業を行なった。それぞれの授業内容を以下に紹介する。

3.1 「私たちの生活と情報システム」

1時間目の前半には、社会ではたらく情報システムについて、いくつかの事例を紹介しながらデータベースやネットワークが関わっていることについて意識させた。

図1 POSレジでの情報のやりとりこの時間の後半は、主にPOSシステムを例に、そこでどのような情報がやりとりされ、レジにどのような情報が記録されるかを、図1の図解を示して考えさせた。ここでは、「購入した商品」「購入者」「購入日時」などを導くことができればよいとした。

次に「購入した商品」について掘り下げて考えさせた。「購入した商品」はレジではバーコードで読み込むことになる。バーコードそのものには商品の名前や金額等の情報は入っておらず、商品に関するデータベースにある情報とひもづけられている。そこで、バーコードと商品に関するどのような情報がひもづけられているかについて、図2の図解を示して考えさせた。ここでは、「商品名」「メーカー」「金額」など、考えられそうなものを洗い出させる活動を行なった。

図2 バーコードと商品データベース

POSシステムに記録される「購入した商品」「購入者」「購入日時」といった情報を蓄積することによって、どのようなことが分析できるかについても考えさせた。例えば、この店舗ではどのような商品がよく売れているか、どの時間帯にどのような商品がどのような客層によく売れているかといったことを導き出させた。

さらに、いつごろどのような商品をどのくらい仕入れをすればよいかということや、年齢層や性別による流行を知ることで新しい商品の開発に役立てることができることなど、データベースを活用した情報活用の方向性も考えを出させた。

3.2 「関係モデル」

2時間目は、はじめにデータベースとは何かについて説明し、特に関係モデルの概念についての説明を行なった。

関係モデルに関する実習として、簡単な文章情報を表にまとめることを通して、関係モデルにおけるフィールド設定の大切さを理解させた。

次に、ワークシート上に正規化された関係と関連を用意し、関連からデータを導き出して読み取る実習を行ない、関連の意味を理解させた。

図3 図書館でやりとりされる情報この授業の後半では、1時間目に行なった実習と同じ方法で、図3の図解から図書館に必要な情報が何かを考え、さらにそれぞれの情報に必要なフィールドを考えさせ、さらに互いの関連を考えさせることで、関係モデルを構築させた。

3.3 「関係演算」

3時間目には、大阪府立寝屋川高等学校の野部緑先生をはじめとしたグループの開発した、「データベースを学ぶオンライン学習教材」を使用させていただき、大量のデータから情報を取り出すことにより、データベースを利用して様々に情報が活用できることを理解させた。

【4】結果

この単元の感想には、「この単元では情報という授業の総まとめのようなものだと感じました」「情報社会で生きていく上で今まで学んだ情報の授業がどのように役に立つようになるのかようやくわかった」など、これまでに学んできた授業の総まとめのように感じている感想が多く目立った。

3時間という短い時間でデータベースの概念を正しく理解させることには限界があるとは考えている。しかしながら、データベースに関する学習を通して、社会の様々な場面でどのような情報がやりとりされており、それがどのように活用されているかといったことを理解させることはできたと思うし、このことにより学習指導要領「社会と情報」の「(4)望ましい情報社会の構築」に示されている内容を達成するができると考えている。

【5】今後の発展方向

もし授業時間数をもう1時間確保できるならば、例えば1時間目で考えさせたPOSシステムで蓄積される「購入者情報」に関して、ポイントカードを使って購入者情報を蓄積することができれば、個人情報の取り扱いを考えさせる学習にも発展させることができるのではないかと考えている。

【6】おわりに

普通教科「情報」におけるデータベースに関する授業実践は少ないように思われる。今後も諸先生方とともに実践を共有しながら、様々な実践が展開されることを期待している。

参考文献

  1. (1)文部科学省(2010)『学習指導要領解説情報編』
  2. (2)長谷川友彦(2012)「『社会と情報』でもデータベースの学習に取り組もう」,第5回全国高等学校情報教育研究会
  3. (3)野部緑,長瀧寛之,中野由章,兼宗進(2012)「データベースを学ぶオンライン学習教材」, 第5回全国高等学校情報教育研究会

※第6回全国高等学校情報教育研究会全国大会(京都大会)要項から転載
(2014年7月掲載)