情報教育

教科「情報」実践報告

話し合う情報モラルの授業実践

岡本 弘之(聖母被昇天学院中学校高等学校 教諭)

岡本弘之教諭

ディジタルネイティブと言われる高校生は、早くからケータイ・インターネットといった環境が身近にあり、高校生の今でもスマホやSNSといったツールも工夫しながら使いこなしている。その中での失敗や工夫といった経験を話し合い・発表の中で共有させ、教師が「教え込む」のではなく生徒同士の「学び」を重視した情報モラルの授業実践を紹介したい。

【1】はじめに

今回の授業の初めに高校2年生の受講者に挙手によるアンケートを取った。その中で2/3の生徒が小学校の時からケータイを持ち、現在でも2/3はスマートフォンを利用。Webページ・ブログを持つ生徒はほとんどいないが、LINE、Facebook、mixiといったSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)をほとんどの生徒が利用している現状が明らかになった。(リクルート進学総研が2012年4月に行った「高校生のWeb利用実態」調査によると、高校生のSNS利用率は77.0%)

これらの現状から、勤務校の情報科の授業において、「SNSも含めた情報発信の際の注意点・活用を学ぶ授業」を実践している。本実践では生徒がより主体的に授業に取り組むことができる工夫として、次の3点を意識して授業を実践した。

  1. ①経験交流や話し合いによる学びを取り入れる
  2. ②話し合いを活性化するためKJ法やブレーンストーミングの手法も取り入れる
  3. ③影の部分(注意事項)を知るだけでなく、賢く活用するところまで考えさせる

【2】授業の実践

高校2年生の情報Cの1学期の授業で、3時間を使って実施した。授業の目標としては「生徒がWeb・ブログ・SNSで情報発信する際に注意すべき点を知り、活用するための力をつける」ようにした。

2.1 知識の整理をする(1時間)

インターネット上で個人が情報発信に用いるWeb・ブログ・SNSそれぞれの特徴について、更新の容易さ・双方向性・公開範囲といった視点で整理する講義を行い、生徒はその話をワークシートの表にまとめた。

利用の多いSNSについては、主なSNSの画面構成・参加人数・特徴を筆者の実際のページを見せながら説明をした。今年度の変更としてLINEについて、その仕組みも含めて説明を追加した。

また「大学生の半分がLINE疲れ」などといったニュースとその理由もここで紹介した。

2.2 利点と注意点をKJ法で整理する(1時間)

自分の経験や聞いた話から、ブログ・SNSなど個人が情報発信する際の注意する点、便利な点をワークシート・付箋にそれぞれ書かせた。それに加えて、同様の内容をWebでも調べさせ、ワークシート・付箋に記入させた。

この準備のあと、座席で指定した4人ずつのグループで、注意する点・便利な点ごとに、画用紙に付箋を貼りつけ、似た内容をグルーピングするKJ法の手法で項目を整理させた。

整理した画用紙をもとに各グループ1分程度で全員の前で発表させ、自分のグループ以外の発表について、ワークシートにメモさせるようにした。

すべての発表終了後、生徒があげた項目のスライドを用い、授業者が解説・補足説明を行った。

図1 図2

2.3 得た知識をアウトプットする(1時間)

情報発信する際の注意点・便利な点を整理した上で、まとめとして今年度は情報モラルに関する標語・ポスターを考えさせることとした。

具体的には、授業内で次の作業をさせた。

  1. ①標語を作る
    ケータイ・スマホ・ネット・SNSの利用について、気をつけること、こう使おうという呼びかける標語を作る
  2. ②簡単なポスターを作る
    プレゼンテーションソフトを使って、標語とその説明+画像で、簡単なポスターを作る

図3 廊下に提示した標語ポスターここまでの学びでインプットしたものを、標語・ポスターという形でアウトプットしてほしいということで、このようなまとめを考えてみた。

そして作成した標語・ポスターは授業終了後標語についてはIPA主催の「情報セキュリティに関する標語コンクール」に全員応募、ポスターについては生徒玄関に全員分掲示し、併設中学生への啓発を呼び掛けた。またこれらを作成時に明示することで、生徒のモチベーションを高めた。

【3】考察

今回の話し合う情報モラルの授業について、生徒は何を学びどう感じたのだろうか。最後に書かせた生徒の感想から振り替えってみた。

①注意事項の調べ方がわかった

話し合う前にインターネットで注意事項について調べさせたことで、現在利用している生徒も新しい発見があった。インターネット上のコミュニケーションは次々と新しいものが現れる。知識を教えるだけでなく、調べ方を教えておくことは、将来新しいツールが現れても対応できる生徒を育てることにつながる。

②具体的で新しい注意事項がわかった

生徒の発表からは、スマートフォンで撮影した写真に位置情報が残ること、SNSのプライバシー設定の方法など、具体的で新しい注意事項・利用方法が出た。従来の講義形式の授業では、こういった細かな注意事項まで説明できなかったが、生徒の発表に解説を加える形式としたことで、より多くのことを教えることができた。

③マイナス面・プラス面のバランスが良かった

活用している生徒からプラス面について多くの意見が出され、マイナス面に偏らないバランスの良い授業となった。生徒の感想にも「使い方を間違えなければいいものになる」、「守らなければいけないマナーもあるが、コミュニケーションが広がる」といった感想が多くみられた。

④受け身ではなく主体的に授業に取り組めた

生徒たちは積極的に、意見を出したり、調べたり、話し合っていた。生徒の感想にも「友達の意見が参考になった」、「KJ法は楽しかった」、「たくさんアイデアが出てくるのが面白い」といったものが多くみられた。

【4】まとめ

従来から生徒が興味を持つ情報モラルの授業をめざして工夫してきた。今回実践した「話し合う情報モラルの授業」の効果をまとめると、次の4点になる。

  1. ①「準備→話し合い→発表→教師の解説」の各段階で生徒の学びがあった
  2. ②KJ法といった話し合いの方法を使ったことで、活発な意見交換を行うことができた
  3. ③注意点だけでなく、利点を知ったことで、積極的な活用を考えることができた
  4. ④生徒が主体的に取り組んだことで、自分の情報発信を見直すなど次の行動につながった

情報モラルの授業では、生徒の利用が先行している実態がある。その中でうまく生徒の体験を取り入れることで、より生徒の現状に近い情報モラルの授業を組み立てることができる。教師からの知識だけでなく、生徒同士の経験・知恵を共有する学びの視点を重視することは大切である。

(筆者Web:http://www.okamon.jp)

参考文献

  1. (1)リクルート進学総研「高校生のWEB利用実態2012年」
    http://souken.shingakunet.com
  2. (2)岡本弘之、浅井和行「『話し合う』情報モラルの授業」日本教育メディア学会第19回大会発表論文集,pp.99-100

※第6回全国高等学校情報教育研究会全国大会(京都大会)要項から転載
(2014年7月掲載)