情報教育

教科「情報」実践報告

論理回路のしくみに関する授業の実践報告

教科「情報」の授業での論理回路学習教材の活用

長嶋 秀幸(東京大学教育学部附属中等教育学校 教諭)

長嶋秀幸教諭

コンピュータのしくみを視覚的・体験的に学習できる論理回路学習教材を開発した。教科「情報」において本教材を用いた授業をおこなった。授業中の生徒の様子を観察したところ、本教材を用いて半加算器の回路を作成できたグループが8割程度あった。また、実際の回路に触れることより、生徒は試行錯誤ができ、興味を持って課題に取り組んでいる様子が見られた。このことから本教材を用いることにより、コンピュータのしくみについて、生徒の理解が深まったと考えられる。

【1】はじめに

筆者はこれまで、高等学校教科「情報」(以下、情報科)において、技術教育の一環をなすような情報技術教育のカリキュラムを実践してきた。情報科の授業では、①コンピュータ、②通信技術、③制御技術(コンピュータによる自動化)の3つの内容を中心に展開してきた(1)

筆者がコンピュータに関する授業を構想する際、百科事典等におけるコンピュータの定義を確認した。 百科事典等ではコンピュータはオンとオフにより表現されたデータを論理演算する装置であるとされている(2)(3)。このことから、情報科の授業においてコンピュータのしくみを学習する場合、電気のオンとオフを切り替えて演算をおこなう論理回路のしくみを学習する必要があると考えた。

次に、コンピュータの演算回路、論理回路のしくみについて各教科書会社が発行している検定済み教科書における記述を調べた。その結果、数冊の教科書に論理回路に関する記述があった。教科書の中には、論理回路のAND回路、OR回路、NOT回路をランプと電池とスイッチにより構成された電気回路で示されているものがあった。しかし、半加算器などの実際の演算回路については電気回路図が示されていない。そのため、論理回路と実際の演算回路との関係を生徒がイメージするのが困難であると思われる。

そこで、筆者は情報科の授業において活用することを目的として、電気のオン/オフを切り替えながら演算するコンピュータのしくみを視覚的・体験的に学習できる論理回路学習教材(以下、本教材)を開発した(4)。この教材では半加算器等の単純な回路を、リレーを使って作成できるようにした。本報告では本教材を活用した授業について述べる。

【2】授業の内容

東京大学教育学部附属中等教育学校5年生(高校2年生に相当)3学級において、2013年4月後半から5月前半にかけて「コンピュータにおける演算のしくみ」に関する授業を5時間、実施した。授業の内容は表1の通りである。

表1 授業の内容

表1の(3)の授業において、ビデオ教材を用いてコンピュータ以前の電気式計算機がリレーのスイッチのオン/オフを切り替えて演算をおこなっている様子を生徒に見せた。生徒はリレーを使えば計算機を作れることがわかった。そこで、表1の(4)において、筆者が開発した本教材を使用して実際に演算回路を作成する授業を実施した。この授業は2時間おこなった。次に、それぞれの授業の内容を述べる。

1時間目の授業の目標は、リレーのしくみがわかり、リレーを用いてAND回路、OR回路、NOT回路を作れることである。

生徒を4人ずつのグループに分け、1グループにつき本教材を1つ渡し、 実験をおこなわせた。まず、リレーのしくみを調べる実験をさせ た。このリレーはc接点1極であり、スイッチにつながった端子が3つある。テスタを使って端子間の導通を調べさせた。これにより、コイルに電圧をかけたときとかけないときに、リレーのスイッチ部分の端子間において電気が流れる組み合わせが変わることがわかる。これがリレーの働きであり、生徒がリレーのしくみがわかるように、コイルの電圧をオン/オフさせて、リレー内部の変化をよく観察させた。

次に、本教材を用いてNOT回路を作成させた。表1の(1)の授業において、入力と出力のオン/オフが逆になるNOT回路の動作に疑問をもった生徒もいる。本教材を用いてNOT回路を作成して生徒に見せると驚きの声が上がった。そこで、グループごとにNOT回路を考えさせた。ほとんどのグループがすぐにNOT回路を作成できた。

同様に本教材を使用してAND回路とOR回路を作成させた。生徒は話し合い、試行錯誤しながら回路を組み立てていた。筆者は教室内を巡回して、つまずいているグループには個別に対応した。AND回路は比較的容易に作成できるが、OR回路はなかなか正解にたどりつけないグループが少なくなかった。これは例年通りである。OR回路は、リレーの動きを良く考えないと回路を組めないからである。授業終了時間まで考えさせるが、できなかった生徒の中には授業が終わっても考えているものも見られた。

2時間目の授業の目標は、本教材を用いて半加算器を作成できることである。

最初に前時のリレーを用いたAND,OR回路の作成について、前時にできた生徒に、回路のつなぎ方とリレーのスイッチの動きを説明させた。また、なぜそう考えたかを聞くことにより、前時にできなかった生徒に考える手がかりを与えた。

次に、半加算器の論理回路図を生徒に示した(図1)。この論理回路を3つの部分にわけて、それぞれの部分について、リレーを使った回路を考えさせた。最後に、この3つの回路を組み合わせて半加算器の回路図を完成させ(図2)、本教材を用いて回路の動作を確認させた(図3)。前時と同様、4人1グループになり、実験をおこなった。

図

クラスで8割程度のグループが授業時間内に半加算器の回路図を書けていた。正しい回路図を書けたグループを観察すると、プリントに書かれた回路図上において、リレーのスイッチのオン/オフの変化を考えて配線を考えていた。一方、本教材を使って場当たり的につないだグループは正しい回路を作るのは難しい様子だった。

最後に本教材を使って半加算器の回路を組んで、回路の動作の確認をさせた。中には回路図はできているものの、プリントの図と本教材の基板上の端子の位置がずれていたため、実際に配線するのに手間取っていたグループも見られた。

【3】まとめ

情報科の授業において、筆者が開発した論理回路学習教材を用いた授業を各クラス2時間実施した。授業中の生徒の様子を観察したところ、本教材を用いて適切な回路を組み立てられたグループが8割程度あった。また、実際の回路に触れることにより、生徒は興味を持って課題に取り組んでいる様子が見られた。生徒が論理回路による演算のしくみを理解するのに本教材は有効であったと考えられる。

一方、プリントと教材の基板の端子の位置が異なっていたため、配線をするのが難しい生徒も見られた。今後、プリントと基板の端子の位置を合わせる必要があると思われる。

参考文献

  1. (1)長嶋秀幸 : "東京大学教育学部附属中等教育学校における情報科カリキュラム-情報技術教育を志向したカリキュラムとその実践-",東大附属論集,第51号, pp.161-167(2008)
  2. (2)斉藤忠夫 : "コンピュータ",世界大百科事典, 第10巻, 平凡社, pp.671-676(2006)
  3. (3)情報処理学会歴史特別委員会 : "日本でのコンピュータの始まり", 日本のコンピュータ発達史, 第25号, オーム社, pp.27-41(1998)
  4. (4)長嶋秀幸 : "論理回路学習教材の開発-共通教科「情報」におけるコンピュータのしくみの学習-", 東大附属論集,第56号, pp.81-88(2013)

※第6回全国高等学校情報教育研究会全国大会(京都大会)要項から転載
(2014年1月掲載)