情報教育

教科「情報」実践報告

他教科と連携を図る授業実践事例

山下 裕司(山口県立岩国高等学校 教諭)

山下裕司教諭

新学習指導要領で掲げられている他教科との連携を実現するための授業実践事例を紹介します。他教科と連携すると情報教育において題材を豊富に選択できる利点があります。また、受験科目に重点を置く進学校では情報科目が疎んじられるという状況がありますが、それは題材次第で変えていくことを実践で示す必要があります。進学校でこそ教科「情報」の増単位が必要だと思われるようにするための試みです。

【1】はじめに

教科「情報」に対する理解は遅々として進まない。教育委員会、管理職、そして同僚の教員へ教科「情報」の意義を広めていく必要を感じる。私は元来、数学科の教員で、数学科との連携は取りやすい立場だがそこに限定せず、他教科にまで踏み込んで連携を取ることが必要だと感じる。学習指導要領にある「他教科との連携」という言葉をどうとらえるかは議論が不足している部分であると思う。単にWebの検索技術を他教科の授業で活かすという話ではないはずだ。情報科での実習題材を他教科の内容から選択することが取りかかりであり、題材選択だけでなく他教科教員を共同実践者として一緒に取り組むことも必要ではないか。これによって情報科への理解を深めてもらうことになり、他教科との連携が実現する。他教科の内容をそのまま情報科で肩代わりして扱うと、教科としての独自性に問題が生じるが、「ICTを活用して情報を処理して、問題を解決する」という流れの中での題材と限定すれば独自性も保たれる。

【2】授業展開

2.1 英語のことわざをタッチタイピング

T「おやおやA君、前の授業終了のチャイムが鳴ったばかりですよ。早いですね。」

A「先生、今日のタイピング練習は何ですか?」

T「今回は Catch the bear before you sell its skin です。早速各自のフォルダ内のWordファイル『タイピング練習』を開いて打ってみてください。できるだけ手元を見ないように。意味は日本語では・・・」

A「あ 先生いわないで・・・当てるから。」

B「A もうやってんの? 今日は え~と『取らぬ狸の皮算用』だね。」

A「・・・そうだよ。」

T「みんなそろいましたね。席についたらタイピング練習を開始してください。英文は半角文字、日本語文は全角文字で入力します。」

A「この間学習した 1Byte文字 2Byte文字のことですね。やっとこのボタン(半角/全角)の意味が解りました。」

2.2 考査に向けてプレゼンテーション

T「さて皆さん、ここまで『他教科の内容を相互にプレゼンしてみよう』ということで実習をしてきましたが、考査の出来はどうでしたか。」

A「C君のプレゼン『古文【に】の使い方』がとてもわかりやすかったです。テストにばっちり出ました。授業よりわかりやすかったです。」

T「・」

B「Dさんの『電子核』はとてもためになりました。発表態度も先生より立派でした。」

T「・・」

C「ずっとこの実習をやっていたいです。」

T「意義深かったようですね。次にスライドを作成すればきっと今回の半分の時間でできるでしょう。また相互に良かった点を取り入れていけばさらに立派なプレゼンができることでしょう。今日は情報発信に伴う責任について考えてみましょう。」

A「責任なんてあるんですか?僕らには『表現の自由』の権利があるって習いましたけど?」

T「ここでは3つの柱

  • ① 正しい情報を発信する責任
  • ② 相手が正しく理解できる情報表現をする責任
  • ③ 他人の権利を侵害しないように配慮する責任

を立てて、これらに沿って情報発信に伴う責任について考えていきましょう。」

2.3 数列を学んだ後で一般項と漸化式

T「数学で数列を学びましたね。前回までは等差数列と等比数列を表計算ソフト上に表してみました。いかがでしたか。」

A「等比数列の和が表示できるので驚きました。公比を1より小さくすると等比数列の和に限界があることにびっくりしました。」

T「詳しくは数学Ⅲで学ぶことになります。『情報』では数列を扱う原体験をしてみました。」

B「漸化式と一般項の意味が表計算で表すことでよく理解できました。」

T「漸化式と一般項については『アルゴリズム』の違う例として、情報で取り上げてみました。表計算ソフトの利用の実習にもなりましたね。」

A「数学では三項間漸化式をやりましたがちんぷんかんぷんでした。」

T「では今日は、三項間漸化式をアルゴリズムとして数列を表現してみましょう。」

2.4 単純な生態系は危険って本当?

A「先生、生物基礎の教科書に『生態系のバランスは、森林など複雑な生態系ほど保たれやすく、農耕地など、比較的単純な生態系では、バランスがくずれやすい』と書いてありますが本当ですか。」

B「『奇跡のリンゴ』っていう映画を観たけど、そうらしいよ。雑草とともに無農薬でリンゴを育てるってそういうことなんじゃあないかな。」

T「大変興味深いですね。シミュレーションしてみましょうか。むずかしそうですが。」

A「オオカミがウサギを食べて、ウサギが草を食べるっていうのをシミュレーションするんだ~。」

B「複雑な体系って、オオカミとウサギの他にもイノシシとか虫とかが登場するのかな?」

C「オオカミもウサギも子供を産むから増えるし、食べれなければ死ぬし、草も食べすぎたらなくなっちゃうよね。土地は無限に広いのかな?」

A「たくさん食べたら子供がたくさん生まれるのかな?そんなに単純じゃあないような・・・」

B「あまり食べられなければ死亡率も上がるよね。でも腹八分のほうが長生きするかも・・」

T「そうですね。モデル化をするには構造を少し単純にしたほうがよさそうですね。要素の間の相関関係をどう設定すればいいかも工夫をしてみましょう。」

2.5 斜方投射をシミュレーション

A「先生、物理基礎で『斜方投射』を学習しましたが野球のホームランはあんなにきれいな放物線ではありません。」

T「そうですね。では情報の授業で『斜方投射』のシミュレーションをしてみましょうか。」

B「二次関数のグラフを描くのですか?」

T「それでもいいのですが、どのように打球の動きをモデル化するかによりますね。A君は二次関数のグラフでは不満なんでしょう?」

A「だって、打球が伸びるとか失速するとか、実況解説でも言ってますよ。最初は同じような打球でも途中から飛び方が違ってくるんだよ。」

T「おやおや、どうやらA君は単純な放物線では満足できないようですね。それでは、空気抵抗や球の回転を考えてモデル化する必要がありますね。」

2.6 「データの分析」は情報で実習を

T1「T先生、数学Iの教科書が終わりそうもありません。どこか端折ってやらないと・・・」

T「『データの分析』の部分は情報で取り扱いましょうか?大変面白い題材です。」

T1「それは助かります。でも情報の授業内容からは、離れるのではないですか。」

T「数値データを処理してそこから意味を取り出す、いわゆる『データマイニング』の実習として『データの分析』は適切な題材です。数学では理論的な部分だけ簡単に紹介してもらって、理解を深めるための実習を情報で担いましょう。」

【3】おわりに

教科「情報」の授業を1学年で実施するよりも2学年で実施したほうが他教科との連携をとるには好都合である。他教科の内容が充実してくるし、高度になってくるので、いかにしてICT利活用して教科内容に親しむことができるか工夫の為所といえる。理論を学ぶ前にいわばICT利活用した「原体験」を積むことができることが意義深いと考える。そのためには各学年に情報科の単位を保持することが理想的である。これは情報科が教育の情報化のけん引役となることにもつながる。

情報科に対する理解不足が多くの問題を引き起こしている。専任教諭の不在、臨時免許での対応、未履修問題等々。他教科と連携をとることで情報科に対する理解不足が解消され、これらの問題解決につながると確信する。

参考文献

  1. (1)日本情報科教育学会第6回全国大会論文集
  2. (2)英語ことわざ辞典:http://www.eigokotowaza.net/
  3. (3)数研出版 新編生物基礎
  4. (4)数研出版 物理基礎

※第6回全国高等学校情報教育研究会全国大会(京都大会)要項から転載
(2013年11月掲載)