情報教育

教科「情報」実践報告

圧倒的に普及するLINEと高校生の個人情報

社会と情報における個人情報の授業実践

大石 智広(神奈川県立麻生総合高等学校 教諭)

大石智広教諭

現在、高校生には圧倒的に普及しているSNSがLINEである。一方で、LINEのアドレス帳を収集する仕組みについては、個人情報保護やセキュリティの観点から、一部で批判されている。そこでLINEを題材とした以下の2つを目的にした授業を行った。 1.個人情報の基礎的な知識の習得 2.個人情報を提供する時に躊躇すること この授業実践について報告させていただく。

【1】はじめに

1.1 麻生総合高校の情報の授業について

本校は、今年で創立10周年を迎える総合高校である。今回紹介する「社会と情報」の授業は、1年次の必修として開講し、30人×8クラスを2人の教員で同じ内容の授業を展開している。

1.2 社会と情報の単元計画

年間の単元計画を表1に示す。今回紹介する授業実践は、「個人情報とモラル」の中で実施している。その「個人情報とモラル」の詳しい単元計画を表2に示す。今回、紹介させていただくのは、このうち2回目の「個人情報をどう守るか」である。

 

表1、表2

【2】ねらい

2.1 個人情報の授業で伝えたいこと

ビッグデータという言葉が浸透しだしたが、現代は個人の行動記録を企業が様々な形で収集して、サービスとして利用し始めている時代である。この単元では、個人情報の定義など通り一遍のことを学ぶとともに、企業のサービスを通して自分や他人の個人情報がいかに簡単に収集されているかを実感させる。そして、個人情報を利用するサービスを使用する時に躊躇するようになることを目的として作成した。どのような材料で、そのような目的の授業をするか探していたところ、たどりついたのがLINEであった。

2.2 本校におけるLINEの利用状況

現在、本校生徒が一番利用しているSNSがLINEである。2013年度入学生対象のアンケートによると、LINEを利用すると回答した生徒の割合は80.9%となっている。Twitter 51%、mixi 30.5%に比べて、圧倒的な普及率を示している。

一方で、スマートフォンのアドレス帳をLINEのサーバにアップロードし、友達登録を自動で行う方法については、他人の個人情報をLINEに提供することになる、という解釈で批判する声もある。LINEを利用している生徒は、それを意識しないで使用していると推測し、ここを取り上げれば個人情報の扱いを考えさせられる授業ができるのでは、と考えた。80%の普及率であれば、少し補足すれば授業で取り上げるのに十分であるし、また生徒指導上の問題等も考えると積極的に取り上げていくべきだと考え、LINEを取り上げた授業を行うことにした。

【3】授業実践

3.1 授業展開の計画

表3授業展開を表3に示した。一斉授業は、スライドで説明しながら要点を書き取らせる形で進めた。個人考察は、自分で考えたことをプリントに記述させ、指名して発表させる形で進めた。

この授業のポイントは、No.1~3の前半で、個人情報の定義とそれをどのように扱ったらいいか、生徒の常識をよく確認させる。そして後半のNo.4~5でその常識を破っていると思われる例を示し、常識と思っていたことを守ることが難しいことを理解させることにある。

プリントの工夫としては、前半を表面、後半を裏面にきっちりわけておき、話の転換点がはっきり意識でき、意外性を感じられるようにした。

3.2 実際の授業展開

No.3では、生徒自身が自分の個人情報と他人の個人情報をどう扱うか考えさせた。自分自身の個人情報については「むやみに人や企業に教えない」など狙った通りの考えが多く出た。他人の個人情報については、そのままでは考えるのが難しいと考えられるので「友人から別の友人のアドレスを教えてと頼まれたらどうするか?」という例示をして考えさせた。その結果、全てのクラスで「別の友人の許可をとる」という答えが得られ、その理由として「他人のものなので漏らしてはいけない」という答えが返ってきた。どこまで実行しているかは別として、個人情報に関する「正しい」考え方が常識になっていることがわかった。

次に、LINEのアドレス帳を集める仕組みを説明した(No.4)。「アドレス帳を送る」ということは誰の個人情報をLINEに送っている?と問いかけ、自分と他人の個人情報を送っていることを確認した。すぐに生徒は、自分の行動がNo.3において自分で述べた他人の個人情報の扱い方の常識と異なることに気づき、ざわざわし始めた。

すかさずLINEにアドレス帳を送ることはやっていいか・悪いか、という問題提起を行い、自分で考えたことをプリントに書かせた。その時に教員の発する問題提起の仕方が重要であると考えている。効果的な問題提起は以下だった。

  • もし同じような場面が次にあったらどうするか考えよう
  • LINEを使ってない人の個人情報もLINEに送られるけどどう思う?

また、「自分はLINEの利用規約に同意したので良いと思う」という意見も一定数みられるので、以下の問いかけをするようにした。

  • それはあなたの考えであって、アドレス帳にのっている他の人は同意したくないかも?

また、この問題については、先生や大人も答えを持っていないことを強調し、「自分自身で判断していかなければいけない。だからしっかり考えて書いてみよう」という問いかけを行ったところ、かなり真剣に自分の考えを記載していた。

【4】まとめ

4.1 生徒の反応

前半部分で確認した自分と他人の個人情報の扱いは、ともに模範解答と呼べる回答をほとんどの生徒がしており、正しい理解ができていることがわかった。一方、ほとんどの生徒がアドレス帳をLINEに送信しているにも関わらず、他人の個人情報を送っていることを意識しておらず、授業の内容に驚いていた。No.5の問題提起に対する生徒の反応は、主に以下にまとめられる。

  • 良い:LINEは信用できるし、便利な仕組みなので良い
  • 悪い:やはり他人の個人情報を許可無く送信してはいけない。自分は規約に同意しても、他人は同意しているかわからない
  • わからない:良くないことだと思うけど、便利だし、どう考えたらよいのかわからない

授業を通して「身近な所で個人情報を送ってしまっていて驚いた」「アプリなどの登録を行うときは気をつけたい」「すごく考えさせられて良くわからなくなった」といった感想がよせられた。感想から「躊躇する」という授業の目的は概ね達成できたのではと考えている。特に最後の「わからなくなった」という感想を見ると、次にそのような場面があった時にしっかりと考えて判断してくれるのではないか、と期待している。

4.2 今後の課題

今回は1時間の授業で行ったため、最後の問題提起を個人で考えるに留まってしまった。グループディスカッションや考えた結果をプレゼンさせることで、さらに企業サービスを利用する時にどうするか考えが深められたのではないかと考えている。そのような次の活動への展開が課題である。

参考文献

  1. (1)高木浩光@自宅の日記:http://takagi-hiromitsu.jp/diary/

※第6回全国高等学校情報教育研究会全国大会(京都大会)要項から転載
(2013年11月掲載)