情報教育

教科「情報」実践報告

フィールドワークの可能性を探る

春日井 優(埼玉県立朝霞高等学校 教諭)

春日井優教諭

【要旨】

本校の日本史Aの授業では、フィールドワークにより地元朝霞市内の歴史を調査している。昨年度、日本史Aの授業と連携した授業を3年次生の選択科目「情報と表現」で行った。その実践報告とともに、情報科の授業においてフィールドワークを行うことの可能性・意義及び課題について考察したい。

【1】はじめに

本校の日本史Aの授業では、地元朝霞市内の歴史をフィールドワークで調べ、発表を行う授業を行っている。この授業を担当している教員と話をしたところ、情報の表現や伝達の工夫との相性が良いと考えられ、日本史Aとの連携を試行的に行った。昨年度で行った「日本史A」と「情報と表現」の2科目による共同授業の実践を報告するとともに、フィールドワークを情報科の授業で行うことの可能性・意義及び課題を考察したい。

【2】授業実践報告

2.1 授業の概要

授業の目的
(情報と表現)
ビデオによる撮影や中継などの活動を通して、画像による表現技法を身に付ける。
受講生徒数 情報と表現 9名 文系志望の生徒が多い
日本史A 40名 理系志望の生徒が多い
授業時間 水曜日 3・4時限目(同時展開)
授業内容
(情報と表現)
日本史Aでの朝霞市内の歴史について聞き取り調査の様子の中継を行った。また、それぞれのグループの発表の様子をビデオで撮影した。

情報と表現の授業では、日本史Aの授業と関連して朝霞市にある塩味醤油資料館の聞き取り調査の様子の中継と、日本史Aの各班の発表の様子の撮影を行った。これらの授業の様子を報告したい。

2.2 塩味醤油資料館の聞き取り調査の中継

塩味醤油資料館は歴史的な資料が保存されている資料館である。ここへの調査に同行し、聞き取り調査の様子の中継を行った。

2.2.1 生徒の役割分担

レポーター担当、映像担当、Twitter担当の3つの役割を分担した。レポーター担当の生徒には移動や聞き取りの前後にカメラの前で状況を伝える役割を分担させた。中継担当の生徒には、カメラでの撮影、機材の運搬、撮影の補助を分担させた。Twitter担当には、聞き取りの様子などをTwitterに書き込んで伝えることを分担させた。

2.2.2 授業の様子

レポーター、カメラで役割を分担して中継レポーター担当が醤油資料館についての案内をし、最初の建物について資料館の方から説明をしていただいた様子の中継を行った。その説明が終わったあたりでパソコンのバッテリーが2台とも切れてしまい、中継もTwitterもほとんどできないまま終わってしまった。その後は、ビデオ撮影だけ継続して行った。

ビデオで撮影している生徒以外は役割がなくなってしまったが、文系を希望している生徒ということもあり、歴史的な資料について興味を持ち、積極的に質問をするなど地元の歴史についての興味・関心につなげることができたのは不幸中の幸いだったと思う。

2.3 各班の発表の撮影

日本史Aの各班が現地で発表する様子を撮影班2人1組で同行して撮影を行った。全部で13班あり、撮影する人数も不足し機材が揃わないこともあり、3週間6時間にわたって撮影を行った。

日本史A選択の発表者と情報と表現選択の撮影者が連れ立って、日本史Aの授業で調査した地点に行き撮影を行った。情報と表現選択者は現地に出向くのが初めてであり、撮影場所や構図については日本史A選択者と相談して現地で試し撮りをするなどして決定した。

発表者は効果的に発表を行うために小道具を用意したり、撮影者は映像面での工夫をするために発表者に動きや構図などを提案したりという工夫を重ねて撮影を行っていた。

2.4 授業実践を振り返って

日本史A選択者が調査した内容を発表し、情報と表現の選択者はその発表の撮影を行う授業を行った。年度当初にはプレゼンテーションを中心に授業を計画していたため、限られた時間で共同授業を行うこととなり、発表の撮影だけとなってしまった。

日本史Aの授業で行った事前調査にも加わり、発表方法についての中心的な役割を担うなどより多くの時間を共にすることで、さらに効果的な表現や伝達の工夫が行えたのではないかと思う。

【3】フィールドワークを行う意義と課題

3.1 フィールドワークを行う意義

3.1.1 一次情報を収集できる

コンピュータ室だけでの授業では、ネット上から検索をするだけで報告書をまとめることができてしまう。しかし、ネット上の検索では情報が手軽に入手できるため、現地調査などの一次情報を収集することの重要性を見落としてしまう。フィールドワークの経験を通して、一次情報を収集する機会を生徒に体験させ、一次情報の重要性について考えさせることにつなげられる。

3.1.2 伝達の工夫ができる

ビデオ撮影の場合には、撮影後にその場で見ることができ、うまく伝わっていない原因を確認することができる。改善を行い再撮影することで、より伝わる映像を作成することができるのは時間や空間を共有していない利点であろう。

また、映像では時間が連続していなくても編集により連続して見せることができるため、表現の幅が広がり工夫の余地が増えることも挙げられる。資料を撮影する前後で録画を停止して準備する姿を見せないようにしたり、別の場所に移動する際に空を飛んで移動するように見えるように撮影したりといった工夫が見られた。

さらに、映像を編集により都合の悪い部分を切り取って前後でつなぎ合わせたり、構図を工夫して映像に写したくないものを構図の外側に出してしまって見せないようにしたりなど、映像におけるメディアリテラシーを経験的に学習させることもできるのではないかと考えている。

3.1.3 発表形態が柔軟になる

プレゼンテーションでは発表者が聴衆に向かって説明をするというスタイルであるが、ビデオ撮影では必ずしも視聴者に向かって話しかけるというスタイルでなくても成立するという特徴がある。

寸劇に仕立てて小芝居をして伝えるなどの表現方法の工夫をすることができる。生徒の中には衣装や小道具も準備して発表に臨んだ者もいる。

発表形態の制約が外れることで、映像メディアの特性に応じた表現方法を考えることができるのではないかと考える。

3.2 フィールドワークを行う上での課題

3.2.1 機材の課題

ネット中継やビデオ撮影を行ったが学校にある機材はパソコン2台とWebカメラだけである。管理職の了承を得て、ノートPCの設定を変更しネット配信を行った。モバイルデータ通信サービス端末やビデオカメラは私物を利用した。

また、校外での活動ではバッテリーの稼働時間も重要になってくる。今回行った授業ではバッテリーが切れてしまったために十分な中継を行うことができなかった。

様々な取り組みを行うためには、情報機器としてタブレット端末を整備していくことが有効であると考える。

3.2.2 授業時間の課題

本校の「情報と表現」・「日本史A」の授業は、2時間連続である。途中の休み時間も使うことができるため、実質110分として計画することができる。校外に調査に出かけるには移動時間が必要になるため、50分の授業では難しい。

このような校外での活用を授業で取り入れるためには時間割上での問題をクリアする必要がある。

3.2.3 同時配信の課題

今回の授業ではUstreamやTwitterなど同時配信の技術を利用した。問題発言や誤った行動などが配信されてしまう。発信者としての遵法意識やモラルといった面での指導が重要となってくる。

3.2.4 生徒指導上の課題

学校によっては授業中に教室を離れることが生徒指導上で問題になることも考えられる。また、移動中に交通事故に遭う危険性も考えられる。校外に生徒を出し、調査や発表を行うためには、管理職や他の職員からの理解も必要である。

【4】おわりに

日本史Aとの合同授業を行ったが、私自身その経験を通して十分なフィールドワークの効果を実感することができ、情報科においても効果的な授業展開ができるとの認識を持つことができた。合同授業を快く受け入れてくれた日本史担当の先生と、様々な課題に対して柔軟に対応し了承していただいた管理職の先生方には心より感謝申し上げたい。

※第5回全国高等学校情報教育研究会(千葉大会)要項から転載
(2013年6月掲載)