情報教育

教科「情報」実践報告

ブランディングプロジェクト

ポスター&フライヤー制作を深める

西澤 廣人(埼玉県立芸術総合高等学校 教諭)

西澤廣人

ポスターやフライヤーは、シンプルなものが力を持つ。技術的なトレーニングも必要だが、それ以上に何をどう伝えたいのかが重要になる。会社や製品の強みをみつめ、磨くというブランディング(ブランド化)の視点を使い、自分の学校や自分自身の中にある「伝えたい」モノやコトを整理し、何が強みなのかを考える。作り上げた作品を提示し、コメントしあうことでさらにブラッシュアップする。
芸術総合高校で美術科と音楽科の生徒を対象にした授業での、学校・学科・自分を伝える実践を紹介する。

【1】はじめに

埼玉県立芸術総合高校は、平成12年に美術科・音楽科・映像芸術科・舞台芸術科を有する全国初の芸術学科だけによる総合高校として開設され、今年で13年目になる。

学年は美術科、音楽科、映像芸術科、舞台芸術科の学科別の4クラスで構成される。50分×7時間授業、2学期制で、週の授業の2/3が一般科目、1/3が学科の専門科目になる。

映像芸術科は、教員4名+大学等の社会人講師7名で17科目の授業を行っている。生徒は2年次から写真・ビデオ表現・CGの3つの専攻に分かれて作品制作を深めていく。

3年次になると、自分が所属する学科以外の学科の教員が開設する科目を履修することができる。

今回の発表は、映像芸術科の専門科目ではなく、美術科や音楽科の生徒が選択する「CG」の授業の実践である。「CG」は、2単位2時間連続で、3年次に60時間弱の授業を行っている。

この授業で行った「ブランディングプロジェクト」をアクティブラーニングの視点で紹介する。

【2】アクティブラーニング

「アクティブラーニング」は「能動的な学習」のことで、大学の教育改革キーワードの1つ。「知識を使える」人材を育成するという時代の要請を背景に広がってきている。アクティブラーニングは、意識していなくても、すでに多くの高校の授業の中でも取り入れられている。ここでは、生徒を能動的にかかわらせるためのしかけについて、私なりのポイントを7つあげる。

2.1 プロジェクト

授業を構想するときに、スキル獲得のワークを組み合わせて、問題解決型のプロジェクトの中に入れることはできないかということを考える。活動全体を通して身に付く力は何かを考える。

2.2 ストーリーの力

プロジェクトがどんなものかを生徒たちが理解するためにはストーリーの力がかかせない。生徒自身が参加する物語としてプロジェクトを語ることで、ゴールのイメージを共有する。

2.3 制限

生徒主体=自由、ではない。制限があってこそ、かかわりも生まれやすい。どんな制限があるかをプロジェクトの最初の段階で明らかにしておく。

2.4 機能の絞り込みと遊び

使用する機能の中で、もっとも基本となるものは何かを考える。絞り込んだ部分だけを説明したら、後は詳しい説明は行わず、トライ&エラーで試させる。いろいろやってみたいと考えている生徒も少なくない。そこで、試して遊ぶ時間や課題を用意する。その後で、シンプルなものが力を持つという話をして、作品は最終的にはシンプルに作り上げるように誘導する。

2.5 かかわりあう雰囲気

かかわる時間を作り、かかわることを評価する。発表で1人1分「作品を語る」。このときに、見て欲しいところ+ヒントがほしいところも述べる。

コメントシートに、「いいところ」「アドバイス」を書く。

図1 コメントシート

2.6 ブラッシュアップ

作って終わりではなく、ブラッシュアップする機会を作る。変化を最終発表のときに、評価する。ブラッシュアップの効果を体感することが重要。

2.7 リフレクション

日々の活動をふりかえるリフレクションの時間をとる。自己評価を日常的に行うために、出席票に簡単にチェックできる欄を作る。

図2 出席表

【3】ブランディングプロジェクト

ブランドとは何か、ブランドの魅力を伝えるためにアートディレクターなど広告に関わる人はどう考えているのか。佐藤可士和氏の仕事や言葉を紹介しながら、強みをみつめ、磨きあげる大切さを学ぶ。その上で、自分の学校や自分自身をどう再認識して、他人にどう伝えるのか。ブランディングプロジェクトを年間のテーマとし、前半はポスター制作を中心に、学校のブランディングを。後半は、フライヤー制作を中心に、自分自身のブランディングを考える。

3.1 ポスター=芸総ブランディング

ポスター=芸総ブランディング

3.2 授業のステップ

  • プランニング
  • レイヤー練習
  • ビッグビジュアル(力のある写真)
  • キャッチコピー
  • 中間発表→ブラッシュアップ
  • 発表&掲示→投票

【4】マイフライヤー

ちらしのことをフライヤーという。自分自身が将来行うコンサートや個展のフライヤーを作成するプロジェクトを「これは未来のフライヤーです。近い未来でも少し先の未来でも。時間と場所、そして未来の自分の経歴や姿をイメージしてみよう。文字情報としてどんなことが必要だろうか?メモの欄に項目をあげ、白紙の両面にラフアイデアを書こう。」とはじめた。これを作るには、自分自身の強みは何かを考える必要に迫られる。

4.1 フライヤー=ちらしの表と裏

実際のフライヤーを見て研究する。

4.2 要素の分解とパーツの作成

ポスターに比べ、フライヤーは要素が多い。長い期間のプロジェクトになるため、途中にパーツ作成のためのワークをはさむ。例えば、「フライヤーの裏面に使う自己紹介用の写真をかっこよく撮ろう!」の回では、「カメラマン、モデル、照明、スタイリストなどそれぞれが役割を分担して、すてきな写真をとってみよう。」と、それぞれがなりきって、写真撮影を行った。

【5】まとめ

アクティブラーニングでは「関わり」がキーワードだと感じている。ソーシャルメディアが広がり、関わりの時代になった「何かのプロダクトをつくっていく段階を、物語化していくこと。それがリアルタイムプロダクトだ。」(『ソーシャルメディアの夜明け』p.160)出来上がった作品を、互いの成長を感じて喜び合えるような、互いの物語を共有するプロジェクトとして、今後も深めていきたい。

参考文献

  1. (1)NHKテキスト『知る楽 仕事学のすすめ』人を動かすデザイン力・佐藤可士和(NHK 2009)
  2. (2)『キャリアガイダンス』No.42(リクルート2012)
  3. (3)『ソーシャルメディアの夜明け』平野友康(メディアライフ 2011)

引用・参考サイト

  1. (4)河合塾Kei-Net 進学情報誌Guideline 教育改革ing アクティブ・ラーニング(http://www.keinet.ne.jp/doc/gl/10/11/kaikaku_1011.pdf)(河合塾 2010.10)

※第5回全国高等学校情報教育研究会(千葉大会)要項から転載
(2013年3月掲載)