情報教育

教科「情報」実践報告

「社会と情報」における「問題解決」の授業実践

岡本 弘之(聖母被昇天学院中学校高等学校 教諭)

山室公司

【要旨】

昨年度ポスターセッションで発表した「問題解決」の授業について、新学習指導要領の「社会と情報」での実践をにらみ、テーマ・手法について改善を加え2011年度も実践を行った。本研究では勤務校における「問題解決」の授業実践についてその効果・課題も含め紹介し、来年度以降各高校で実施される新科目「社会と情報」での「問題解決」の授業の一例として報告したい。

【1】はじめに

平成25年度から実施される高等学校学習指導要領「社会と情報」では、「(4)望ましい情報社会の構築」の中に「ウ、情報社会における問題の解決」の項目が新たに設けられ(1)、来年度以降、各校での「問題解決」の授業実践が求められる。

同解説(2)によると「身の回りにある具体的な問題を解決する例題や実習によって、情報機器や情報通信ネットワークの適切な活用を通して、問題を解決する方法に関する基礎的な知識と技能を習得させる。」とされ、その過程において「Webサイトや新聞・書籍からだけでなく、ブレーンストーミング、アンケート調査、インタビューなどを行うことが考えられる。」と収集方法や整理方法についても学習することが求められている。

勤務校の情報科の授業では、従来より問題解決の授業の実践を行ってきた(3)が、2011年度は今述べた「身近な問題の解決」、「収集方法・整理方法の理解」を意識した授業の企画・実践を行った。本研究ではこの実践を紹介し、次年度以降の「問題解決」の授業の一例として報告したい。

【2】実践の概要

授業実践は高校2年生の情報C(2単位)の2学期後半の課題として7時間を使って実施した。

2.1 授業の概要

授業は座席で分けた4人グループを単位として、「学校食堂の現状分析を行い、その改善案を企画し、食堂に対しプレゼンテーションをする」というプロジェクト方式で企画した。

2.2 授業のねらい

本授業のねらいとしては、次の2点である。
 ①身近な課題を用い問題解決の手順の理解
 ②収集方法・整理方法の理解

2011年度は前年度実践より、テーマをより身近な「食堂の改善」としたこと、手法の学習により力を入れたことを変更点として実践した。

2.3 授業の展開

授業の展開・配当時間は以下のとおりである。

2.3.1 課題を発見する(1時間)

「学校食堂を知らない」という生徒はいないので、いきなり現状分析から授業を進めた。具体的にはワークシートを配布、まず個人で「学校食堂のいいところ(強み)・課題(弱み)」の両方を各3つずつ抽出させた。ここで書いたものを付箋に記入し、グループでKJ法の手法で、共有・分類・整理させた。整理した画用紙をもとに、1分程度で全体発表を行い、クラス全体での共有も行った。

図1・2 生徒がKJ法で作成した用紙・風景

2.3.2 解決案を列挙する(1時間)

前時の食堂の分析をもとに、解決案をグループ討議させた。討議の前に、「相手の意見を否定しない、数多く出す。」というブレーンストーミングのルールを説明し、出た意見の整理がしやすいよう付箋・KJ法の手法も用いて、解決案を列挙させるようにした。

2.3.3 提案についての情報収集(3時間)

列挙した提案からグループで取り上げる提案を絞り、その裏付けとなる現状分析・情報収集の方法を企画書に記入させ提出させた。授業では提案の構成方法や説得力を持たせるための方法について説明し、具体的には現地調査・生徒アンケート・他校の事例調査・関係者の取材・需要調査などを行うよう助言・指導を行った。

2.3.4 発表・相互評価(1時間)

プレゼンテーションの場には学校食堂の責任者2名を招き、この方々を対象として各グループに発表させた。同時に相互評価を行い、発表内容について発表態度(目線・言葉づかいなど)、内容(量や調べた内容)、わかりやすさ(模造紙・スライドの工夫)、説得力(結論と根拠の妥当性など)の4点で評価させた。同時に教員も同観点で評価した。

2.3.5 振り返り・考察・自己評価(1時間)

相互評価の際に生徒に書かせたコメントをもとに、グループ一つ一つについて教員がアドバイスを行った。その後参考として、生徒の作ったスライドを用い、教員二人がプレゼンテーションを行い、生徒の発表との違いを考えさせた。

【3】結果

以下が生徒が発表した提案の内容である。

表1 生徒の発表内容(A組全テーマ)

【4】考察

これら授業実践について、生徒の制作物・態度とTT教員による授業観察、最終的に書いた自己評価・感想をもとに効果を考えたい。

4.1 「方法を教える」効果について

4.1.1 話し合いの質の向上

KJ法で付箋に意見を書かせたり、ブレーンストーミングで数を出させることを意識させた結果、指摘する長所・課題、アイデアの数は確実に増加した。また列挙した長所・課題からの分析、列挙したアイデアからの絞り込みを行うことで、最終的な提案の質も向上した。

4.1.2 一人ひとりの理解の深まり

付箋を用いた話し合いでは全員が意見を書き、意見を出し合うことができた。また分析やアイデアを出す過程において、画用紙で付箋を動かしながら整理作業を行うなど、話し合いの内容を目で確認しながらまとめていった。この共有により、分担作業に入ってもスムーズに制作が進められた。

4.1.3 他の活動へ波及した

KJ法・ブレーンストーミングなど話し合いの方法を高校生に教えたことで、生徒会活動・学級活動での活用も期待できた。現実にはまだ教師主導ではあるが、学級で文化祭の企画を考えるホームルームで「列挙する→グループ化して整理する」という方法を行ったクラスもあった。

4.2 身近で実践的なテーマの設定の効果

4.2.1 生徒のモチベーションがあがった

教員と生徒という授業の枠をはみ出し、学校食堂という部外者をあえて巻き込むことで、授業はより実践的なものとなった。提案を行う相手が明確なので、適度な緊張感を持ってプレゼンテーションにも取り組むことができた。

4.2.2 問題意識・問題解決的な視点が育った

学校食堂について問題を分析し、改善提案を作る過程で、生徒たちは問題意識を持って学校食堂を観察するようになった。生徒の授業の感想に「ふだん何気なく見てきた学校食堂を見る目・意識が変わった」というものがあった。問題解決的な視点を持つことで、見る目が変わったといえる。

4.2.3 効果が目に見えて実感できた

生徒たちがプレゼンテーションした提案のいくつかは、食堂で実際に採用された。身近な食堂を巻きこんだことで、提案の効果が実感できる授業となった。

【5】まとめ

新学習指導要領解説を見ると、「社会と情報」における問題解決では、次の3点が授業づくりのポイントといえる。

①問題解決の基本的な流れの理解
 ②身の回りにある具体的な問題を解決する課題
 ③問題を解決する方法に関する知識と技能習得

本実践では上記①と②を特に意識した実践を行った。そのことは、考察で述べたように、生徒のモチベーション・話し合いの内容・提案の説得力など改善・向上できた面が多かった。

問題解決は、新学習指導要領の情報科の中でも重視されている。本実践が皆様方の授業づくりの参考になれば幸いである。

参考文献

  1. (1)東京書籍(2011)「ニューサポート 新学習指導要領特別号 高校情報 高等学校学習指導要領新旧対照表(情報)」(http://ten.tokyo-shoseki.co.jp/downloadfr1/pdf/hiy74450.pdf)2011.9.1確認
  2. (2)文部科学省(2010)「高等学校学習指導要領解説情報編」開隆堂
  3. (3)岡本弘之、浅井和行「『情報社会における問題解決』の授業実践」日本教育メディア学会第18回大会発表論文集,pp155-156

※第5回全国高等学校情報教育研究会(千葉大会)要項から転載
(2012年12月掲載)