情報教育
実践研究「情報科」

~学習の特性によって端末を使い分ける~ コンピュータ教室でデスクトップ端末1人1台を活用した授業実践

春日井 優教諭

埼玉県立川越南高等学校

はじめに

GIGAスクール構想により、義務教育段階では端末の整備が急速に推し進められ、令和2年度内に概ね整備が完了した。高等学校では、BYODやCYODなどによる1人1台端末が検討されている。その一方、従来から整備されていたコンピュータ教室も引き続き使用されている。いずれにも特徴があり、その特徴を踏まえて活用することが望ましい。本稿では、1人1台端末時代における学習活動を整理した上で、著者の所属校での授業実践について報告を行う。

1人1台端末での学習活動

「GIGAスクール構想を浸透させ,学びを豊かに変革する」ことができるよう、文部科学省のサイト内の「StuDX Style」にICTの活用事例が紹介されている。授業での活用事例として掲載されている事例について、すべての学校種、教科を対象にICTを活用した学習活動を抽出。学習活動に合わせて分類・整理し、表1にまとめた。高等学校情報科においては、「情報および情報技術を適切かつ効率的に活用する」ことが目標の1つとなっていることから、学習指導要領解説および教員研修用資料からICTを活用できる事例を抽出・分類・整理し、表1に含めた。

1人1台端末により、必要な時に資料を確認するなど、児童・生徒が自分の考えやペースに合わせて学習を進めやすい環境となった。さらに、ソフトウェアやプログラムを活用することで、処理の自動化も可能となった。それにより、情報収集や分析の作業を省力化し、思考・判断・表現に時間を割いて取り組むことができると考えられる。また、グループ内で決めた課題に対して、作業を分担したり、別々に収集した情報を統合し考えをまとめたりと、活動が個別とグループとの行き来をする。このことは、生徒一人ひとりの資質・能力を向上させるとともにコラボレーションする力にもつなげられると考えている。

表11人1台端末での学習活動(色文字は本稿での学習活動)

分類 ICTを活用した学習活動
資料確認

模範を確認する(例示資料、演示・演奏の動画など)
自分の映像を視聴する(活動の様子、発表、動作など)

情報収集

Webで検索する(Webページ、オープンデータ)
プログラムを用いて収集する(Webスクレイピング、APIの利用
アンケートを実施する(アンケート作成、回答)

記録

写真や動画を撮影する(活動の様子、実験、観察、動作、演奏など)
センサを用いて計測する(実験データ、GPSによる位置情報)

分析

情報を分類・整理する(付箋機能など)
データ処理をする(統計量を求める、専用ソフトの利用
グラフを描画する(実験結果、集計結果、収集した資料など)
テキストマイニングする(アンケートの記述など)
シミュレーションをする(実験、問題発見、解決方法の検討)

内容理解

専用ソフト・アプリを操作して学習内容を理解する(図形描画ソフト、音楽ソフトなど)
コンピュータの動作を確認する(プログラミング、データ圧縮など)

制作

ソフトウェアを用いて作品を制作する(音楽、アニメーション、映像メディアなど)
プログラミングによる作品を制作する(図形描画、曲、計測・制御を用いた作品など)

整理

自分の考えをまとめるスライド、文章など)

蓄積

学習した内容を蓄積する(資料、考え、成果物)
データベース化する(表計算ソフトによる一覧表)

共有

生徒の質問や考えを共有する(ファイル共有、チャット)
成果物を共有する(作品、収集した資料、撮影した映像)
発表するスライド、文章)
評価・コメント・助言をする

コミュニケーション

コミュニケーションをする(電子メール、SNS、Web会議システムなど)

テスト

学習内容の理解を測る(テスト、クイズなど)
パフォーマンステストをする(英語)

学習の記録

学習内容、学習成果、運動(体育)の記録、気づき、考え、振り返りを記録する
自己評価・相互評価を記録する

実践した授業の概要

実施科目・学年
情報の科学 高校1学年
実施内容
オープンデータ、APIを活用した問題解決
題材
「人口・世帯数と施設の位置情報を重ね合わせることにより発見した問題に対する提案をしなさい。」
学習形態
4名(一部3名)によるグループ学習
使用サイト等
統計GIS(政府の統計総合窓口e-Stat内の統計地図)
Google スライド(発表スライド作成)
Google Colaboratory(プログラミング言語Pythonの実行環境)
SKYMENU Pro
条件
  • オープンデータまたはAPIを活用して施設の位置情報を取得する
  • 人口と位置情報を重ねた地図を1人あたり2枚以上作成する
  • グループで1つのテーマとし、描画した地図を根拠に提案する

1人1台端末の活用

本授業を実践するにあたり、生徒が課題を理解しグループで学習を進められるように、生徒が行う学習と同様の問題解決を教員が行い、スライドを作成した。そのスライドを用いて発表する様子を録画し、生徒が必要な時に視聴できるよう例示動画を作成した。また、例示動画で使用したスライドも共有フォルダに保存し、生徒が参考にできるようにした。

生徒は統計GISを利用したり、オープンデータを取得して位置情報を活用する経験がないため、一斉授業で操作の練習をし、活用できるよう指導した。本授業では、学習の流れを経験させ、プログラミングの技能を習得するだけでなく、プログラミングが問題解決に活用できることを理解させることに重点を置いた。そのため、APIを用いたプログラムは教員が作成し、生徒全員に配布。生徒には、配布されたプログラムを用いて施設の位置情報(緯度と経度)を取得できるように指導した。

本授業でICTを活用した活動は、表2のとおりである。これまでに述べた課題の提示や一斉授業での学習をもとに、生徒はグループ単位で学習に取り組んだ。1人1台端末を活用してグループで資料を集めることにより、多数の資料が集まる。それにより、資料を比較して、他の資料との共通点や異なる点を見つけ出し、検討することができる。

表2本授業における生徒の端末活用

学習活動 端末の活用
グループ学習の課題の確認

例示資料の閲覧・例示発表動画の視聴

テーマの検討

地域の課題や生徒の問題意識をもとにWebを検索

施設の位置情報の取得

オープンデータの検索 または 施設名を検索し、プログラムにより取得

人口・世帯数および施設の位置の描画

統計GISを用いて描画

発表資料の作成

Googleスライドで共同編集

学習で活用する端末を選べる場合には、持ち運べることが重要なのか、カメラやマイクなどの入力装置が備わっていることが重要なのかといった、学習の特性を考えることが大切になる。本授業では、デスクトップコンピュータを利用して授業を行った。これは、情報を収集したり、プログラムを動作させたり、スライドにまとめたりといった活動をこまめに切り替えながら行うことになるため、複数のウインドウを並べることができる画面の大きさを優先した。

図1中間モニターに提示した生徒画面(イメージ)

また、本校のデスクトップ端末には『SKYMENU Pro』がインストールされている。[画面受信]機能により、生徒の画面を受信して中間モニターに提示した図1。これにより、他の生徒の進捗状況がわかるようになるとともに、どのように学習を進めたらよいかわからないグループに対するヒントにもなった。1人1台端末を活用した授業では、児童・生徒ごとに進度が異なることが予想される。そのため、学習をうまく進められない児童・生徒に対する支援について検討する必要がある。

▲ 【写真1】授業の様子(教室全景)
▲ 【写真2】グループで相談している様子
生徒が考えたテーマの例
授業の感想

おわりに

1人1台端末の実現により、学習活動の幅が広がった。個別の学習の最適化を図ったり、児童・生徒が異なる学習活動を協働して課題に取り組んだりすることにより、これまで以上に主体的な学びにつながる。

また、プログラミングの授業が始まっているが、学習対象として捉えるだけでなく道具として活用することで学びの幅を広げることができる。今後、より効果的に1人1台端末を活用するか検討を進め、児童・生徒が自然にICTを活用するようになった時の変化に期待している。

(2021年12月掲載)