情報教育

実践研究「情報科」

「情報Ⅰ」は生徒にとって
「身近」で「切実」で「実行可能」な問題解決を

鎌田 高徳(神奈川県立茅ケ崎西浜高等学校 教諭)

鎌田 高徳 神奈川県立茅ケ崎西浜高等学校 教諭

はじめに

2022年度より、全国の高等学校では新学習指導要領に沿った授業が始まる。どの教科においても、新学習指導要領に向けた研究会やセミナー、研修などが組まれており、次の指導要領に向け慌ただしくなってきた。日本の学習指導要領の改訂は10年に一度行われるが、今回の改訂の中で学習内容が最も変わる教科は共通教科「情報」であろうと私は感じている。なぜなら今回の改訂に合わせ、2019年度に文部科学省より高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修用教材(以下研修資料)が公開されたからである。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1416756.htm

このように新学習指導要領の改訂に合わせ研修資料が公開され、さらには2020年度より、この研修資料を活用した「情報Ⅰ」の教員研修が全国各地にて始まる予定である。今回の改訂で、ここまで事前に新学習指導要領に向けた準備をする教科は他には見られない。それほどまでに教科「情報」は学習内容をドラスティックに変化させようとしている。

では、どのように変わろうとしているのか、その一例を示してみよう。現行の学習指導要領では、共通教科「情報」は、「社会と情報」か「情報の科学」のどちらか一つを履修する選択必修の形を取っていた。この場合、「社会と情報」では学習内容の中にプログラミングを扱っていないが、「情報の科学」では学習内容の中にプログラミングを扱っている。つまり、プログラミングを学ばなくても共通教科「情報」の授業を終えることができていたのである。

「情報Ⅰ」は問題解決がベースになる

しかし新学習指導要領では、このような科目の選択肢はない。すべての高校生が「情報Ⅰ」の科目を必修することとなる。この「情報Ⅰ」では、(1)情報社会の問題解決、(2)コミュニケーションと情報デザイン、(3)コンピュータとプログラミング、(4)情報通信ネットワークとデータの活用の4つの内容を学習することになっている。つまり、すべての日本の高校生がプログラミングを学ぶことが必修化されるのである。ものごとの概念を図形の組み合わせによって表現することを図解化というが、この「情報Ⅰ」で学ぶ4つの項目を図解化すると【図1】のようになる。

図1

ただ、「情報Ⅰ」の研修資料にある各章の全体を通じた学習活動の進め方をよく読んでみると、これら4つの項目は個別に学習するのではないことが記載されている。すべての項目において、問題の発見から学習活動を行うことが記載されている。つまり【図2】のように問題解決をベースとした授業を行い、また各項目を関連づけながら学習していくことが求められているはずである。

図2

ところが「情報Ⅰ」に向けたセミナーなどに参加すると、どの発表や講演も「プログラミング」という文字が躍っている。しかし、本当に私たちが「情報Ⅰ」で注目しなければならないのは、【図2】に示すように問題解決なのではないだろうか。つまりプログラミングで問題解決を行う授業や、情報デザインで問題解決を行う授業、あるいはネットワークデータを活用し問題解決を行う授業をしていくことである。問題解決こそが、「情報Ⅰ」の学習内容において最も重要なポイントのはずである。それでは、「情報Ⅰ」で扱う問題解決は具体的にどのように行えばいいのだろうか。

問題解決に取り組みやすい題材とは

私の勤務校では、2016年度・2017年度の2年間にわたり、国立教育政策研究所より、国立教育政策研究所 教育課程研究指定校事業(共通教科「情報」)の指定を受けた。この指定を受け、問題解決に対する学習者の意欲を向上させるための題材の工夫を行うとともに、思考力・判断力・表現力を育成するための方法を検討した。そこで注目したのは問題解決において、生徒にとって「身近」で「切実」で「実行可能」な題材を選定することだった。

単元目標と学習内容に沿った形で、問題解決の題材を設定し授業を行った。2016年度の題材についてアンケート結果の改善点を基に、2017年度の題材を練り直した。生徒にとって身近な題材であること、問題解決すべき切実な題材であること、問題解決が実行可能であることの3つの視点に着目し題材の再選定を行い、授業後に生徒に対して実施したアンケート結果を【表1】に示す。

【表1】生徒にとって身近な題材を選定すると、問題解決の意欲が向上した

題材 (問題解決の学習のテーマ) 身近
であった
切実
であった
実行可能
であった
(2016年度)社会と情報 ウ 情報の表現・伝達の工夫
茅ケ崎西浜高校に必要なピクトグラムを制作しよう
○ 75%    53% ◎ 91%
(2017年度)社会と情報 ウ 情報の表現・伝達の工夫
SNSで起こった出来事をピクトグラムで表現しよう
◎ 86% ○ 70% ◎ 83%
(2016年度)社会と情報 ア 情報とメディアの特徴
大学学長の入学式でのスピーチは周りにどう伝わるか
   61%    62% ◎ 80%
(2017年度)社会と情報 ア 情報とメディアの特徴
LINEトラブルをトーク事例で表現しよう
◎ 94% ◎ 86% ◎ 92%

※◎80%以上、○70%以上(2016年度回答者数150名、2017年度回答者数141名)

問題解決において学校の問題点や、新聞記事の伝わり方が変わっていく問題点を考えさせるより、生徒にとって身近なSNSやLINEの問題点を題材にした方が生徒の問題解決の意欲が向上する。特に2017年度は、切実感を改善することができた。

問題解決の題材においては、目の前にいる生徒らが直面している「切実に解決したい」と思うような問題を題材にすることが重要ではないかと考えている。

学校で学んだ内容が実社会で役に立つ問題解決を

「情報」の授業において問題解決の授業とはどんな授業かと生徒から聞かれると、私は「学校で学んだ内容が実社会で役に立つ授業」と答えている。これまで私が受けてきた問題解決の授業はどちらかといえば、パターン化された解き方が用意してあり、そのパターンに当てはめて問題を解決する授業である。つまり、ほかの成功事例をまねて問題解決を行う授業である。しかし、これでは表面的な内容しか学ぶことができないため、体験した問題解決とは異なる題材の問題を出されると、学んだパターンをそのまま当てはめても問題解決を行うことができない。つまり、学校で扱う問題解決のパターンは実社会の問題解決のパターンに当てはめても解決できないため、学校での学びが実社会で役に立たないといわれているのではないだろうか。それほどまでに問題解決において、題材の選定は重要だと考えている。

これからの授業は、「いいパスワードの作り方」を教える授業ではなく、「いいパスワードとはどんなパスワードか」を生徒たちに発見させる問題解決の授業をしていかなくてはならない。どんな文字や数字や桁数の組み合わせのパスワードが強固で、かつユーザ側が覚えやすく管理しやすいパスワードかを、生徒たちの手で検証し、分析し、いいパスワードを発見させるような授業である。つまり「モノの見方や考え方を教える授業」から、「モノの見方や考え方を働かせる授業」への転換である。

この「モノの見方や考え方を働かせる授業」として、情報デザインで問題解決を行う授業にチャレンジしてみた。【図3】に示すように、コンビニなどに設置されているコーヒーマシンは、ボタンの押し間違いを起こしてしまうデザインではないかと生徒たちに問い掛けた。このデザインのどこが問題か考えさせると、「ボタンが色分けされていない」あるいは「日本語での表記を加えるべきだ」などの意見が出てきた。

図3

このように改善したデザインの例を【図4】に示す。つまり生徒たちに、人が操作を迷わないボタンの作り方を教えるのではなく、人が操作を迷わないボタンはどんなボタンかをデザインさせてみたのだ。また、日ごろからアルバイト先でこのようなボタンの操作を行った経験がある生徒もおり、身近なところにこのようなデザインの工夫が隠れているかもしれないといった振り返りも得られた。私自身、まだまだ情報デザインに関する十分な題材の選定はできていないが、このように「モノの見方や考え方を働かせる授業」に取り組んでいきたいと考えている。

図4

2022年度より「情報Ⅰ」が始まる。教科「情報」は生徒たちに最も身近で、切実な題材を扱える教科である。だからこそ、「情報Ⅰ」の問題解決は題材を精査し、生徒がワクワクしながら問題解決に取り組み、さらに学習した内容が実社会の生活で役に立つと実感させていきたい。

(2020年3月掲載)