データを活用する授業の実践とICT活用
春日井 優(埼玉県立川越南高等学校 教諭)

はじめに
近年のAIの急速な進展に伴い、文理を問わず十分なリテラシーを備えた人材の育成が期待され、「プログラミング教育」と「データの活用」が主な柱である。新学習指導要領の実施に向けて、小学校からのプログラミング教育が話題となっており、さまざまな授業実践などの報告がなされている。
本稿ではもう一つの柱である「データの活用」についての授業実践を紹介する。はじめに、小学校から高等学校までの「データの活用」の継続性を確認し、高等学校での授業実践について報告する。内容は高等学校のものになるが、小中学校の先生方にも参考としていただけるよう努めたい。
【表1】「データの活用」に関する主な学習内容(概要)
小学校低学年 |
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中学年 |
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高学年 |
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中学校 |
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高校必履修科目 |
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高校選択科目 |
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「データの活用」の学習内容
「データの活用」は一つの柱であることから、小学校から高等学校までの学習内容を俯瞰しておく。所属以外の校種の学習内容を知ることは、互いに参考になるであろう。
表1の小学校高学年にある「統計的な問題解決の方法」について表2に掲載した。これは、統計の知識を活用する場面で重要となる。本稿で紹介する授業でも、この方法を意識して実践した。
【表2】統計的な問題解決の方法(PPDAC)
問題(Problem) |
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計画(Plan) |
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データ(Data) |
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分析(Analysis) |
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結論(Conclusion) |
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一斉授業による「データの活用」についての学習
「授業の時間数と実施内容」を表3に示す。
【表3】授業時数と実施内容
授業時数 | 実施内容 |
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4時間(一斉) |
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4時間 |
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2時間 |
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はじめに、一斉授業では、さいたま市の日ごとの最高気温のデータを1か月分配布し、表計算ソフトウェアの関数を用いて最大値・最小値・平均値・四分位数・分散・標準偏差といった基本統計量を求められるよう指導した。また、2数の数量関係を調べるために、さいたま市と熊谷市の最高気温のデータを用いて、共分散と相関係数の求め方を指導した。生徒は、値の求め方は数学で学習しており、情報科の授業では表計算ソフトウェアによる値の求め方、これらの値の持つ意味について確認した。また、視覚的に捉えられるよう、箱ひげ図や散布図の描き方についても指導した。ここでの注意は、数学科で学ぶ四分位数と表計算ソフトウェアによって出力される四分位数の値がいくらか異なることである。また、箱ひげ図では外れ値の処理が行われて表示されることに注意が必要である。
次に、ある市が公表しているアンケートのクロス集計の結果を用いて、カイ二乗検定による独立性の検定を指導した。計算は表計算ソフトウェアを用い、期待度数やカイ二乗値、棄却限界値を求め、それらの値を基に検定できるようにした。
グループでのデータを活用する活動
一斉授業での知識を問題解決に活用できるよう、グループ活動の授業を行った。また、統計的な問題解決の方法をひととおり経験できるよう、生徒自身が問題を発見し結論に至るまでの一連の流れを整理して発表するものとした。
一斉授業では基本統計量も含めて指導したが、グループ活動では高校で初出となるカイ二乗検定での分析を活動の柱とした。「統計的な問題解決の方法」と対応づけして、生徒の活動について述べる。
①「問題」の場面
グループ内で相談し、統計を用いて解決する問題について考える活動を行った。単にアンケートを作るのではなく、アンケートをとることにより何らかの問題の解決策を考えたり、分析したことを受けて解決すべき事柄が発見できたりするような調査項目となるようにさせた。この場面でのICTの活用は、問題を検討するためにインターネットで検索を行ったグループがいくらかある程度だった。
生徒が考えたテーマの例
- スポーツをするのが好きか × 見るのが好きか
- 卵の黄身と白身どちらが好きか × 味付けは醤油かソースか
- どのコンビニのおにぎりが好きか × 「パリパリ」「しっとり」どっちの海苔が好きか
②「計画」の場面
生徒はアンケートの質問に対する選択肢を考え、どのようにクロス集計したらよいか検討する活動を行った。
調査方法として、無作為抽出による標本調査とさせた。表計算ソフトウェアの関数(RANDBETWEEN関数)を用いて乱数を発生させ、出席番号と対応づけて回答者を決めることとした。
③「データ」の場面
アンケートをとり、集計する活動を行った。調査対象をクラスの約半数の20人程度とさせた。対象者が少ないため、手分けして対象者に直接質問し、紙に記録していた。その後の集計では、標本数が少なかったため、手作業で人数を数えていた。
今回の授業では行わなかったが、アンケート調査の規模を大きくしたい場合には、Webでのフォームによるアンケートの実施や表計算ソフトウェアによる集計などICTの活用も検討が必要であろう。
④「分析」の場面
生徒は、集計したデータを基に期待度数やカイ二乗値を計算したり、棄却限界値を計算したりする活動を行った。また、他者にデータを分かりやすく伝えることができるよう、単純集計では円グラフや棒グラフ、クロス集計ではモザイク図(マリメッコチャート)により、データを視覚化した。これらの処理は、表計算ソフトウェアやプレゼンテーションソフトウェアを活用した。
⑤「結論」の場面
分析した結果を基に、グループで結論を検討する活動を行った。仮説検定の結果を検討したり、得られたデータの傾向やその理由などを考察したりして、全体を振り返り発表資料をプレゼンテーションソフトウェアで作成した。
授業の感想
- ・アンケートをして、調査や分析は初めてだったので良い経験になった
- ・予想と結果が違っていて実際に分析してみないとわからないものだと思った
- ・実際に自分の手を動かすことで統計値の意味が理解できた
- ・授業で勉強したことを振り返りながら取り組めた
おわりに
データの集計や処理では、ICTは必要不可欠な道具である。統計的な概念を身につけることの兼ね合いはあるが、大量のデータを処理するためにはICTが必要となる。また、他者と根拠となるデータに基づいて解決に至る考えを共有する際にもICTの活用が有効となる。
(2020年2月掲載)