ICT活用教育のヒント

実践交流会レポート 東京都国分寺市立第四小学校「個別最適な学び×ICT活用」
『SKYMENU Cloud』の活用事例を交流し、
参加者同士で気づきや悩みを共有

このほど、東京都国分寺市立第四小学校ICT部会が主催する実践交流会「個別最適な学び×ICT活用」が同校で開催されました。本会は、同校の先生方の提案がきっかけで企画され、東京都内から40名を超える教員が参加。講話をはじめ、1人1台端末や『SKYMENU Cloud』を活用した実践発表、グループディスカッションなどが行われました。同会の内容の一部をレポートします。

講話|個別最適な学びとICT活用

得意な教科から始め、小さな成功体験を積み上げて

佐藤 幸江 放送大学 客員教授

実践交流会の冒頭では、佐藤先生が「個別最適な学びとICT活用」をテーマに講演された。まず学習の速度や興味関心が異なる子どもたちが増えている現状を挙げ、教育現場の多様性を指摘。従来の一斉伝達型の授業では個に応じた対応が難しく、1人1台端末やクラウド環境など、学びを支えるためのデジタル学習基盤の整備と意図的な活用の重要性を強調された。

そして自由進度学習、自己調整学習、探究的な学びなどのトレンドのキーワードに触れ、「ぜひ積極的に取り組んでほしい」と呼び掛ける一方で、「型だけを追いかけるような実践にならないように」と警鐘も鳴らした。その上で「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」が、学習指導要領のめざす「主体的・対話的で深い学びの実現」につながるとし、「学習課題」「学び方の選択」「学習への見通し」「学習環境づくり」「教師のみとりと指導・支援」「学び合う学級の雰囲気」の6つのポイントを紹介。特に「教師のみとりと指導・支援」について、「子どもに委ねているつもりが放任になっていないか」と指摘され、教師は「子どもの学習状況を把握し、適切な指導・支援を行わなければならない」「デジタル技術を活用して適切に介入し、学びをサポートすることが重要」と訴えられた。

最後に、「得意な教科から始め、小さな成功体験を積み上げることが大切。失敗を恐れず取り組み、ぜひ教員間で協働して個別最適な学びの実現をめざしてほしい」と先生方を激励された。

実践発表

うれしい言葉、嫌な言葉を分類し可視化。
まずは「多様性」に気づくこと

祐一郎 東京都国分寺市立第四小学校 主任教諭

澤先生は、発表の冒頭で個別最適な学びには「学級の支持的環境が重要だ」とし、その実現には「子どもが多様性を受容することが大切だ」と強調。言葉の感じ方の違いを通じて多様性を学んだ「特別活動 その言葉、大丈夫?」の事例を報告された。

授業では、まず[気づきメモ]で自分が言われて「うれしい言葉」「嫌な言葉」を入力させた。[気づきメモ]のメモはそのまま[発表ノート]にコピーできるため、[発表ノート]の思考テンプレートを使って「うれしい言葉」「嫌な言葉」を分類。例えば、「うれしい言葉」については「うれしいこと・言葉」「あまり気にならないこと・言葉」「判断に悩むこと・言葉」で整理させた。その結果を[グループワーク]で共有して見比べれば、「それだけで一人ひとり言葉の受け止め方が異なることが分かる」と述べられた。「最初はみんな同じような感じ方だと思っていたけど、意外とみんなの感じ方が違い、驚いた」といった感想があり、多様性に気づく様子が見られたという。

澤先生はまとめに 「他者と関わり合って生きることは、学級も社会も同じ。いろんな人がいる中でどうやって自分を大切に、そして相手も大切にできるか。これからの私たち教員の課題だと思う」と呼び掛け、発表を終えられた。

▲ [発表ノート]の思考テンプレートで言葉を分類

実践発表

児童が「選ぶ」「自分で決める」まずは大きく捉えて実践

田口 光彩 杉並区立富士見丘小学校 教諭
(実践時:東京都東大和市立第十小学校 教諭)

田口先生は、個別最適な学びにおける「指導の個別化」「学習の個性化」に着目して取り組んだ小学校4年生の実践を報告された。

指導の個性化の視点で実践した、国語「未来につなぐ工芸品」では、児童が自分の特性やニーズに合わせて、紙や1人1台端末、[発表ノート]などの学び方を選択。最終的にPDFデータにして印刷することで、すべての児童が図鑑としてまとめられるようにした。その際、友達の書き方をリアルタイムで見ながら学べる[ライブ公開提出箱]を活用することで、「児童が他者の学び方を参考しながら学習できた」と振り返られた。

学習の個性化については、社会の授業で取り組んだ自由進度学習の実践を紹介。児童が資料を選び、自分で時間を調整しながら[発表ノート]で学習を進めた。予定を立ててタイマーで時間管理をしながら学習したり、自分のペースで黙々と学習を進めたり、[グループワーク]でつながり、話し合いながら学習を進める児童の様子が見られたという。

まとめで田口先生は、「端末の活用はあくまで手段。子どもたちが主体的に学ぶ環境をもっと整えたい」と今後の抱負を述べられた。

▲ [ライブ公開提出箱]で友達の学び方を参考にする

実践発表

[ライブ公開提出箱]で友達の考えを参照、自力で考えを出せるように

黒木 聡子 東京都国分寺市立第九小学校 教諭

黒木先生は、少人数クラスにおける算数指導について多数の実践を報告。『SKYMENU Cloud』の良さについて、考え方やゴールまでの道筋がさまざまにある課題で、みんなの考えを簡単に共有できることだと述べられた。

例えば、体積や面積の単元では、子どもたちの多様な考え方を『SKYMENU Cloud』の[提出箱]や[ライブ公開提出箱]で共有しながら学習を進めたことを説明。それにより「最初の問題は難しくても、次の問題では児童が自力で考えを出すことができた」と効果を報告された。

また黒木先生は「学び方の選択」を尊重されており、すべての単元で、紙と[発表ノート]の両方の教材を用意し、児童が選べるように工夫。例えば、平行四辺形の等積変形の学習で役立つ、紙を折り曲げて小さい長方形を作る方法を紹介し、紙だからこそ得られる学びの良さも伝えられた。

低学年における『SKYMENU Cloud』の活用例も多数報告し、[手書き入力]機能がさまざまな活用の下支えになったと評価された。手書き入力により、低学年の児童でも端末で活動しやすくなり、授業で効果的に活用できたという。1年生の最後の保護者会では、児童が[発表ノート]を使ってクイズを作成して保護者に出題できたことを紹介し、「時間はかかるが、粘り強く取り組めば自分たちでクイズを作成できるようになる。達成感をもたせて2年生に進級させられた」と振り返られた。

▲ 多様な考え方を[提出箱]や[ライブ公開提出箱]で共有

実践発表

[ポジショニング]で児童一人ひとりの
思考を読み解き、指導に生かす

道法 和徳 東京都国分寺市立第四小学校 主任教諭

道法先生は、『SKYMENU Cloud』の[ポジショニング]機能の実践を報告された。道徳の授業に限らず教科指導でも活用されており、国語でも活用。和語・漢語・外来語について右図のようにそれぞれ3つの位置で問い、児童の理解度や実態を確認した。マーカを和語に置いた児童はピンク色、漢語は青色、外来語は緑色と、それぞれ[ポジショニング]画面の背景色が変わるため、「視覚的にも分かりやすい」と説明。例えば、「ホテル・スクール・ラッシュは?」と問えば画面が緑色(外来語)に変わり、全員が簡単に答えられることが分かる一方で、「宿・学び舎・混み合うは?」と問うと、色がそろわず、児童の回答に対する迷いがひと目で分かる。さらに、教員用端末画面では児童の名前が確認できるので、選択肢の真ん中にマーカを置いた児童に、個別に声を掛けて児童の理解を深められたという。

道法先生は、これまでの指導について「和語・漢語・外来語について教員が一方的に説明し、教え込んでいた」と振り返る。[ポジショニング]を使ってからは、児童が知りたいと思っていることを教員がつかみやすくなったとし、「何を調べたい?」と聞くと「和語!」「漢語!」と児童から積極的に声が上がるように。「意欲的に学習に向かう姿が見られるようになった」と変化を報告された。

「今まではレディネステストなどで児童の実態を把握していたが、短時間で確認できる。児童の思考を可視化し、読み解ける[ポジショニング]を個別最適な学びに役立てたい」とまとめられた。

▲ [ポジショニング]の画面。3つの位置で児童に問う

実践発表

個別最適な学びでは、教師が提示する資料が重要

伊藤 理絵 東京都昭島市立共成小学校 主任教諭

伊藤先生は、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実をめざして取り組まれた、4年生の社会科「水道のしくみ」の事例を発表された。

伊藤先生は、一つの[発表ノート]で思考テンプレートから振り返りまでのノートをまとめて配付することで、児童が自分で学習を進められるようにしている。[発表ノート]の[Webリンク]機能を使い、動画、教科書、PDFデータ化した資料などへのリンクを設定。児童に資料の選択肢を提供し、自分で選んで学べるように工夫された。

また、児童が資料から読み取ったことを、[気づきメモ]を活用して常時全体で共有。さらに、画面キャプチャを使ってメモを取ることで、情報活用が活発になったという。終末では自分や友達の[気づきメモ]を[発表ノート]にコピー。思考テンプレートで考えを整理させた。

▲ 気づきを[発表ノート]の思考テンプレートで整理

実践を振り返り、伊藤先生は[気づきメモ]を使うことで児童は常に発見をアウトプットするため、受動的な時間がなくなり、思考をアクティブな状態に保てた。また、自分のペースでじっくり学べる環境が整い、友達の[気づきメモ]を活用することで、前向きに学べたと振り返られた。

最後に「個別最適な学びでは、教師が提示する資料が重要」と強調されるとともに「これからも児童と共に楽しく学べる授業を展開したい」と抱負を述べられた。

▲ 実践交流会では[気づきメモ]を活用し、参加者同士で情報を共有した。講話や実践発表を聞きながら、気づきや悩みをグループメモに投稿。コメントのやりとりや教え合いが生まれていた

閉会あいさつ

まずは教員が課題解決に臨み、児童にその姿勢を示そう

大島 晃 東京都国分寺市立第四小学校 校長

閉会のあいさつでは、同校の大島 晃 校長が登壇。大島校長は、研修会の企画に至る経緯について触れ、道法先生と澤先生が校長室を訪れて「研修会を開催したい」と熱意のある提案があったことを紹介された。その際の2人の姿に感心したと述べ、「私たち教員は、いつも子どもたちに『自分で課題を発見して、自分で解決しよう』と言っている。しかし、私自身を含めて教員はそれができているだろうか。まずは私たち教員が課題解決に臨むことが大切だと思う」と語り、教員自身が率先して課題解決に取り組み、その姿勢を児童に示していくことの重要性を訴えられた。

また、同校で取り組まれている自由進度学習に触れ、「私たち教員は「生活指導」「特別活動」などで、すでに誰一人取り残さない、個に応じた指導を行っている。しかし、それを日々の教科指導に落とし込むことに難しさがある」と述べ、その要因は教員が自分の経験に基づいて授業をしてしまうことにあると分析。だからこそ、ICTなどの現代の技術を活用し、より良い授業に改善していくことが大切だと強調された。

さらに大島校長は「『SKYMENU Cloud』などのICTを活用することで授業の質を向上させられる。私たちは今からどんどん新しいことに取り組まなければならない」と話され、今後も教員の学びの機会を積極的に作り出していく意欲を示された。最後に、佐藤教授や5名の実践発表者に対して感謝を述べ、拍手をもって研修会を締めくくられた。

実践交流会を振り返って

教員の学びの機会やつながりが生まれる場をつくりたい

今回の研修会の企画、運営された国分寺市立第四小学校ICT部会の道法先生、澤先生にお話を伺った。道法先生は「SKYMENU エキスパートTeacherの先生方の協力で、多くの先生方に参加してもらえた。教員同士の情報共有の大切さを実感するとともに、対面で交流することの良さを実感した」と振り返られた。

澤先生は「さまざまな価値観を持った教員同士が交流することで、それまで自分が関心をもてていなかったことを知ることができる。今回の研修で自分の興味関心が広がった」と感想を述べられた。同校のICT部会では、今後も研修会を企画し、先生方が学ぶ機会や人と人がつながり学び合える場を校内外に提供されるという。

(2025年7月更新)