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知っておきたい!無線LANの基礎知識

無線LANの通信規格と暗号方式について

無線LANで使用される電波は、大きく分けて周波数別に2.4GHz帯と5GHz帯に分かれます。そのほか通信や暗号化にもさまざまな規格が存在しており、それらの特性がわからないままではどんな機器を選べばよいかもわかりません。今回は、無線LANに関する規格について概要を説明しながら、セキュリティ対策に触れていきたいと思います。

電波の特性と障害物の影響

鉄筋コンクリートの建物で地下階にいると、携帯電話の電波が届かず、圏外になった経験をお持ちの方も多いと思います。電波の特性の一つとして、ガラスや陶器は通り抜けられますが、鉄筋コンクリートや金属には反射してしまうことが挙げられます。つまり、防火壁や防火扉など、学校内の壁や扉のいくつかは鉄筋コンクリートや金属でできているため、それらの近くでは電波が思うように伝わらない場合もあります。

無線LANを利用するときは、直接届く「直接波」のほか、壁などに当たってから届く「反射波」、障害物の陰に回り込む「回折波」、障害物を通り抜けて届く「透過波」があることを知っているだけでも、トラブル発生時の対処方法を見つけやすくなると思います。特に、学校のように防火壁や鉄筋コンクリートの壁が多く、複雑な構造をした建物の場合、有線LANと無線LANをうまく使い分けることが重要です。有線LANの工事費を確保できないという理由から、無線LANを選択される事例も見かけますが、無線LANは万能ではありません。使う場所の周りにある構造物がどのような素材で作られているかも考慮して、有線LANの方がいいのか、無線LANのアクセスポイントを設置した方がいいのかを選択しなければならないと思います。

2.4GHz帯と5GHz帯の特性の違い

無線LANには、2.4GHz帯と5GHz帯の2つがあることは、以前このコーナーでご説明しました(Vol.1)。この2つの周波数には、さまざまな特性の違いがあるのですが、大きく違うのは速度と範囲(距離)だと考えていただければと思います。

2.4GHz帯と5GHz帯では、周波数は5GHz帯の方が高いです。無線LANは、電波という「波」に情報をのせて伝達するので、1秒間の波の数が多ければ多いほど、つまり、周波数が高ければ高いほど、伝達する情報量を多くすることができます。そのため、同じ時間内なら2.4GHz帯よりも、5GHz帯の方が、たくさんの情報を伝えることができるのです。

しかし、高速に通信できる5GHz帯もいいことばかりではありません。身近な例としては、ラジオ放送を思い出してくださればわかりやすいと思います。ラジオにはAM放送とFM放送がありますが、AM放送の方が周波数は低いです。周波数が低いAM放送の電波は障害物にぶつかっても波が回り込み、障害物の裏まで届きやすい特性があり、AM放送は広い地域で受信できます。しかしFM放送は、AM放送のように広い地域では受信できません。

電波は、周波数が高くなるほど遠い距離を進むことが苦手になります。また、直進性が強くなるため、障害物に当たると反射してしまい、障害物の裏に回り込むことが難しいという特性があります。

また、注意が必要な決まりごととして、5GHz帯の無線LANは屋外使用することが禁止されているため、建物間をまたいで使用することができません。

かつて、携帯電話会社が「700MHz」や「800MHz」といった周波数帯を「プラチナバンド」と呼び、テレビCMを放送していたことがありました。これは、無線LANよりも低い周波数帯の電波は障害物の影響を受けにくく、結果的に「つながりやすい」という特性があるため、各社はプラチナバンドの帯域獲得をかけて競争していたのです。

以上のことを念頭に、2.4GHz帯の無線LANと5GHz帯の無線LANの違いを簡単にまとめると、次のようになります。

2.4GHz帯、5GHz帯

また、この2.4GHz帯と5GHz帯ではお互いにデータのやりとりができませんので、この点をうまく使うことも1つの手段です。例えば、授業などで児童生徒も利用するネットワークは2.4GHz帯、教職員が事務作業に利用するのは5GHz帯といったように、使用する周波数を分けてしまうことも、セキュリティ対策の一つになります。

無線LANの規格

本稿の執筆時点(2015年12月)、学校において利用できる無線LANの規格には、それぞれに名前があり、特徴があります。無線LAN機器のパッケージやカタログを見ると、「11b / 11g / 11a / 11n / 11acに対応」と書かれていることがあります。これが規格の名称です。正式には「IEEE802.11a」や、「IEEE802.11b」という表記になります。

これらの規格の違いを詳細まで把握する必要はありません。ご自身の学校がどの規格を利用しているかを把握し、「11b → 11g・11a・11n → 11ac」の順に伝送速度が向上するということ、特に11acは高速な無線LANとして期待されているという程度に理解しておいていただけばよいかと思います。

無線の電波強度を適切に調節する

セキュリティ対策について考えるとき、そもそも学校の外まで無線の電波が届いていなければ、学校外で受信することはできませんので、校内の利用に必要な範囲にだけ電波が届くように無線LANの電波を適切に調整できれば、前号でご紹介したような「校外から無線LANの電波を利用してネットワークに侵入される」といった課題が、ある程度解消できます。つまり、隣の家に聞こえない程度の声の大きさで話をすれば盗み聞きされにくいのと同じです。

そのため、無線LANのアクセスポイントは電波強度が調節できる機種を選定することをお勧めします。無線LANのアクセスポイントには、電波強度の調節機能がないものもありますから、購入前に確認しておくとよいでしょう。

学校には、さまざまな建物があり、その内部の形状も学校ごとに異なることを考えると、必然的にアクセスポイントを設置する場所や数も異なることになり、それぞれのアクセスポイントに必要な電波強度設定も異なります。

どのようなデータをやりとりすることが多いのかを予め想定しておき、電波強度が弱すぎることがなく、無駄に強すぎることもないように、適切に電波強度を調整する必要があります。無線LANを整備する際、この調整がもっとも手間を要するところです。

電波強度の計測には、「アナライザー」と呼ばれる専用の機械が必要です。工業や情報などの専門高校ではこの機器を所有している学校もあるようですが、専門性が高いため無線LANの電波の測定は、整備の際に同時に業者に依頼する方がいいと思います。電波の状況をスマートフォンやタブレット端末の画面上で見ることができるアプリもありますが、もし、ご自身で測定する場合は、測定方法をしっかり理解した上で行うようにしてください。

(山本 和人:Sky株式会社 ICTソリューション事業部)

(2016年2月掲載)