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- 【Vol.2】学校特有の課題に対応できる無線LAN環境とは
学校で無線LANを快適にご利用いただくために、教育委員会の整備ご担当者様や学校の先生方を対象に、学校における無線LAN環境構築の際の注意点などをわかりやすくご説明します。
学校と企業では使用方法がまったく違う
企業でもネットワークの構築に無線LANを採用しているケースが増えています。しかし、数十台もの端末が一斉に同じ作業をするという場面がほとんどない企業と、一斉にインターネットにアクセスしたり、印刷したりする学校とでは、無線LANへの負荷のかかり方が違います。
先生方からは「企業は、お金をかけて整備しているでしょう」と伺うこともありますが、学校での運用が可能になるように、きちんと無線LAN環境を構築しようとすると、企業に比べ学校の方が整備に費用がかかる場合も珍しくありません。
財源確保の問題から、無線LAN機器の整備にあたって安価な無線LAN機器を選択されることもあります。安価であっても、学校での運用が可能なのであれば問題はありませんが、整備後に問題が発覚するという事例も多く見受けられます。
学校において、どのような運用を想定するのかを予め明確にし、運用と整備のバランスをとっていただきたいと思います。
同時に通信できるのか、できないのか
無線LANと有線LANの違いの1つに、「同時に通信できるか / できないか」が挙げられます。
有線LANの場合には、スイッチングハブというLANケーブルを接続する機器を使用します。このスイッチングハブは複数の通信を同時に行うための機能を持っており、複数のコンピュータが同時に異なる通信を行うことを可能にしています。
無線LANでは「同時接続数○台」という動作条件を目にされたこともあると思いますが、厳密には、一部の規格※を除いて、異なるデータを同時に通信することはできません。
例えば、教室の中に3台の端末があり、それぞれが同時に「動画ファイルのダウンロード」と「インターネット検索」と「ファイルのアップデート」を行ったとします。有線LANの場合なら、この3つを同時並行して処理します。しかし無線LANでは、この3つの通信を瞬間、瞬間に、細かく切り替えながら順番に処理することで、同時に処理しているように見せかけているのです。
もし、処理の最中にデータを取りこぼしてしまったり、1台分のデータ処理にもたついたりすると、ほかの端末は「順番待ち」の状態になってしまいます。こうしたことを踏まえると、無線LAN環境では、40台もの端末でデータ容量の大きい動画を同時に視聴するような使い方は避けた方が無難です。
※ 最新規格の中には、同時接続が4つまで可能というものもあります。
無線LANの高速化とチャンネル数の関係
現在、無線LANの通信速度は高速化しています。かつては「無線LAN=遅い」というイメージがありましたが、最近では利用場面によって有線LANにも引けをとらない速度が出る場合もあります。
ただし、学校では隣り合う教室で同時に利用することも考慮して、電波干渉が起きないようにしなければなりません。
空港の滑走路のように幅の広い道路を想像してみてください。その道路を、たくさんの荷物を載せた大型トレーラーが走るとします。そのときに走るのが1台だけなら好きなだけスピードを出し、大量の荷物を運ぶことが可能です。
しかし同じ道路で、同時に5台の車を走らせる必要がある場合、無秩序に走ろうとすると事故が起きる可能性があるため、車線を設け、往来しやすく整理する必要があります。すると、大型トレーラーでは車線の幅に収まりきらなくなり、車体を小さくしなければなりません。さらに、隣の車線を走る車にぶつからないように注意して走る必要があるので、1台で走るときよりも速度は遅くなってしまいます。ではそれが、10車線だったらどうでしょう?さらに小型の車体にしないと車線内には収まらず、速度も遅くなるでしょう。
無線LANでは、この車線のことをチャンネルと呼びます。学校では、複数の教室で同時に無線LANを利用する可能性があるため、予め複数のチャンネルを用意しておかなければなりません。いくつのチャンネルを用意すればよいのか、よく考えて設定しないと、無線LANをいつでも快適に使うということが難しいと言えます。
学校は1校1校で環境条件が異なる
学校が設置されている場所は、住宅地の真ん中だったり、海の近くだったり、山あいだったりします。また、学校の校舎は鉄筋コンクリート製の4階建て校舎が1つの場合もあれば、2階建ての木造校舎が2つに分かれていることもあり、1校1校の環境条件が異なります。無線LANの通信状況は、周辺環境や校舎の構造によって変わるため、注意が必要です。
また、住宅地の真ん中にある学校では、周辺住宅で利用されている無線LANの電波に、学校で利用している無線LANの電波が干渉されることもあります。
不調が起きたとき、ある教室で受信状況が悪いからといって、単にその教室に設置されたアクセスポイント(AP)の電波強度を強めてしまうと、それまで干渉が起きていなかった別の場所で、新たな電波干渉が発生することもあります。
無線LANを利用する学校の校舎が、どのような場所に設置されていて、どのような構造で作られていて、どのように教室を配置しているのかによって条件がまったく異なるのです。さらに、学校周辺の電波の利用状況に影響を受けやすい環境の場合は、曜日や時間帯によって無線LANが利用できなかったり、利用しづらくなったりすることもあり得るのです。
無線LAN設定の記録は手元に残す
学校では人事異動があります。昨年までは、ネットワークやコンピュータに詳しかった先生がいたけれど、異動されてしまい後任の方が困っている。そうした話は、全国のどこでも耳にします。
「導入時の設定なんて、導入企業が把握しているだろう」と思われるかもしれません。確かに多くの企業は、導入の際に「どんな設定を行ったか」という記録を残しているはずです。しかし中には、記録していない場合や、導入から数年が経って企業の体制変更に伴って記録を破棄してしまったというケースもあります。調達の際には、設計資料や電波環境調査資料、接続試験結果といった資料を、学校と教育委員会に残しておくことをお勧めします。
学校は災害時の避難所になることが多い施設です。多くの地域住民が避難された場合に、学校の無線LANを解放するという対策を採ることもあり得ます。そうしたときに、どのように解放すれば、授業への影響が抑えられるかといったことも、こうした資料が手元に残されていれば検討しやすいと思います。
持ち運びによる無線LANの運用で注意すべきこと
予算の制約上やむを得ず、無線LAN機器とタブレット端末を、教室間で持ち運んで利用するといった運用をされているケースを見かけることがあります。
無線LAN機器を持ち運んだ場合は、接続端末数が増えるほど、授業が開始できるようになるまでに時間がかかる傾向があります。持ち運ぶ時間と設定する時間を考慮すると、10分程度の準備時間では安定して運用できないことも多くあります。無線LANの電波状態は目に見えないため、机上では対策が十分に検討できません。持ち運んで運用する場合には、各教室でトライアルを繰り返して、素早く使用できるようにノウハウを蓄積していかなければ、安定した運用は難しいと思います。
予算の問題はあると思いますが、無線LANアクセスポイントについては、できるだけ早期に教室への常設を行うことをお勧めします。
あなどれないWi-Fi®搭載機器による電波干渉
コードレス電話機や電子レンジなども電波干渉の原因になります。しかし、これらを教室の中に置かれている学校はほとんどないので、タブレット端末以外に教室の中で電波を発している機器がなければ、電波干渉はさほど起きないと思われるかもしれません。
しかし、先生ご自身がご使用になっていたり、児童生徒がかばんの中に忍ばせていたりするスマートフォンはどうでしょうか?スマートフォンの「Wi-Fi機能」が有効になっていないでしょうか?電源が切られているなら問題ありませんが、子どもたちのかばんの中のスマートフォンは、電源が切られているでしょうか?
参観日にタブレット端末を利用しようと考え、前日に試したときにはうまく使えたのに、当日、いざタブレット端末を利用しようとしたら、無線LANがうまくつながらなかったということもあります。そこで、参観に来た保護者の方々にスマートフォンの電源を切ってもらうと通信が確保できたといったことは、ごく日常的に起きたりします。
(山本 和人:Sky株式会社 ICTソリューション事業部)
(2015年11月掲載)