ICT活用教育のヒント

コミュニケーション力は生きる力(株式会社KEE'S 代表取締役社長 野村 絵理奈 氏)
株式会社KEE'S 代表取締役社長 野村 絵理奈

株式会社KEE’S http://www.kees-net.com/

2005年10月設立。現在は35名の現役アナウンサーが在籍し、日本を代表するトップ企業や官公庁など500社5万人を超える受講者にスピーチ・コミュニケーションを研修。ミスユニバース・ジャパンの公認スピーチトレーナーとして日本の魅力を世界に発信する役割を担っている。2016年秋には、幼児・小学生向けの「KEE’Sこどもコミュニケーションスクール」を開講し、将来グローバルに活躍する子どもたちのスピーチ力向上にも取り組んでいます。

自分の意見を「伝える力」の重要性は、
年々増していると実感します。

グローバル化とICT化が進む社会でスピーチは必須のスキル

株式会社KEE'Sは、企業や官公庁などを対象にスピーチ・コミュニケーション教育に取り組んでいます。私は、以前アナウンサーとして放送局に勤務していたのですが、「話す」「聞く」といったアナウンス技術はアナウンサーだけの専門テクニックではなく、将来どんな方にも必要になるスキルだと感じ、当社設立を決断しました。

しかし当時は、まだスピーチやプレゼンテーションの研修に取り組んでいる企業や団体はほとんどありませんでした。スピーチトレーニングを提案したある大手メーカーには、「うちのトップは技術畑出身だから、スピーチは必要ありません」とお断りされました。ところが、数年後にはお客様の方からお声がけくださり、お手伝いさせていただくようになりました。実は「国際会議の場で、周りの外国人に圧倒されて、何も発言できなかった」というお話でした。

グローバル化が進むなかで、自分の意見を「伝える力」の重要性は年々増していると実感します。今や、自分が海外に行かなくても、外国人の方が日本に来て活動するようになっています。

特にICT分野は、これまで日本人が得意としてきたモノ作りとは違い、目に見える製品がありません。システムやサービスなど、目に見えないものの良さを伝えるには、言葉を使って提案する以外にありません。現在、コミュニケーション力に注目が集まるのには、社会のグローバル化とICT化が急速に進んでいることが背景の一つと言えるのではないでしょうか。

研修を行ってきた実感として、優秀な方ほど自分との内的会話が多く、周囲の方との外的会話が少ない傾向があります。しかしそれは、単にアウトプットに苦手意識があるだけで、「話すべき内容がない」というのではありません。むしろ、内的会話が多い方ほどよく考えてらっしゃいます。しかし、日本人の特性として、目立つことが苦手だという一面がどうしてもあるのだと思います。

苦手意識の原因には、「やり方がわからない」ことが挙げられます。「一歩踏み出しましょう」と言っても、やみくもに背中を押すのでは怖さが勝ってしまいますので、具体的な方法を身につけていただけるように取り組んでいます。

スピーチは「思考力・論理力・表現力」を伸ばすことができる
現在の子どもたちが大人になるころ、これまで以上に国際化、多様化が進みます。国際社会でも日本人は「自己主張をしない」と捉えられています。未来の社会で真に「生き抜く力」とは何かと考えたとき、スピーチに含まれる、深く考える力、意見をもつ力、それを表現する力が重要だと考えました。そのためKEE’Sの子どもクラスでは、徹底的に「思考力・論理力・表現力」を伸ばすカリキュラムを立て、ゲーム感覚で取り組んでもらえるよう工夫してきました。

当社では、これまでも子どもの教育を進めてきましたが以前は「アナウンサー体験」といったイベントの一つと受け止めていらっしゃる親御さんが多かった印象です。しかし、最近では子どもたちの将来を見据えてスキルを身につけさせたいと、スクールに通わせている方がほとんどです。近年、学校教育においても言語活動を重視されていると伺っています。親御さんたちも、子どもが将来どんな職業を選択しようと、コミュニケーション力は欠かせないスキルだと感じていらっしゃるのではないでしょうか。

私どものようなスクールでスピーチを教えていると言うと、発声や滑舌を重視して、大きな声で流暢に話すことばかりに注力しているように思われがちなのですが、大切なのは技術ではありません。スクールに通う子どもには、スピーチというものを通して、自分の殻を破るマインドを身につけてほしいと考えています。

例えば、スクールの子どもたちに「好きな動物は何?」と質問しても、初めは黙りこんでしまいます。では、答えを考えていないのかといえばそうではなく、たくさん考えすぎて迷っているということの方が多い。しかしそれは、「自分との内的会話を優先して、質問した相手のことを置き去りにしている」ということでもあります。ですから、相手(聞き手)のことを考えて、まずスピークアウトすることが大事だと教えています。

まず、たくさん思い浮かんだ好きな動物の中から1つを選んで、例えば「ライオン」と発してみる。それができたら「なぜなら……」と、その理由を続ける。これをスクールでは「しりとりスピーチ」と呼んでいますが、自分が発した言葉を、自分で引き受けて、次の言葉を継いでいくようにします。このように、どうやって話せばいいかという方法を具体的に教えていきます。

もちろん、方法がわかったからといって、すぐに実行できるわけではありません。やはり恥ずかしさが勝ってしまいますし、緊張もします。

迷ったときには一歩前に出ようとする姿勢。
それこそが一生の宝物になるのだと思います。

やり方がわかれば、挑戦するだけ

限られた時間のなかで、どこでブレイクスルーするかは子どもによって異なります。でも、迷ったときに一歩前へ出ようとする姿勢が身につけば、それが一生の宝物になると思っています。ですから、スクールでは「正しいやり方がわかれば、次は挑戦するだけだよ」と繰り返し教えています。

あるときのこと、学校の授業中にほかの子どもたち全員が手を挙げていても、自分だけは手が挙げられないほど引っ込み思案な子がいました。1分間スピーチでは、2度、3度と練習してから原稿を見ずに話せるようになっていくトレーニングをするのですが、彼は「初めから原稿なしでスピーチしたい」と言いました。そして、「もし失敗したら、2回目に原稿見ていいよね」と、挑戦することを選んだのです。スピーチが終わった後、感想を聞いたところ「緊張しすぎて吐きそうだった」と話していましたが、それからの彼は本当に変わったと思います。

実社会では、得てして外交的でハキハキと話す人がリーダーシップを握り、その人を中心に意見がまとまってしまうといった雰囲気があることは否めません。しかし、内向的であっても周りをよく見て、話をよく聞いている人が、それに加えて自分の意見をきちんと発信できるようになれば、もっとも強いと思います。

ONとOFFを使い分ける

特に大切なことは、細かなテクニックよりも「聞き手の立場に立って話す」ことだと思います。私は、以前から「話し方3つのルール」として、「①ソのトーンで話す(ソの音の高さを意識する)」「②笑顔の口で」「③3倍の声とテンションで」という3点を大切にしてきました。これは、格好良く話すためのポイントではありません。

自分が聞く立場になって考えたとき、明るく笑顔で、聞き取りやすい声で元気に話してもらえる方が「伝わりやすい」ということです。これらは聞き手に対するマナーであり、エチケットです。この「話し方3つのルール」は、学校でも発表で気をつけるべき点として授業に取り入れてくださっている先生もいらっしゃいます。

また、スピーチなどで過度に緊張してしまうのも、うまく話せず失敗しないか、話すべきことが抜けてしまわないかなど、自分の方に意識が向いてしまうからです。日本人には気配りやおもてなしの心など、人の立場に立って考えられる良さがあります。だからこそ、自分が話すときにも意識を聞き手に向けて話せるようになれば、自然と緊張がほぐせるようになっていきます。

実は、アナウンサーには引っ込み思案の人が少なくありません。相手をよく見て、話をよく聞いて、繊細な思考力や想像力を働かせないと務まらない仕事ですので、かえって引っ込み思案なくらいでちょうどいいのです。そして、ONとOFFをうまく使い分けています。

出前授業や学校の先生方を対象にした講演も

全員が外交的であろうとする必要はないと思います。しかし、自分の経験を通じて、またお客様である企業トップの方々が直面されている課題を見聞きするなかで、これからの社会で生き抜くためには、どんな場面でも変わらず自分の意見を「伝える力」を身につけることが、子どもたちの将来を大きく開く力になるのではないかと感じています。

こうしたことから、私どもは教職員の皆さま向けにスピーチ教育の講演やPTA、保護者向けの講演なども行っており、私立の高校や大学では就職などの面接対策として、定例でスピーチトレーニングの出前授業をしています。今後も、積極的に学校関係者の方々との機会をいただきながらアナウンサーとしてのスキルや経験を、子どもたちのためにお役立ていただきたいと考えています。

スピーチ・音読・コミュニケーション指導はKEE’Sにご相談ください

株式会社KEE'Sでは、学校の先生を対象にした講演会や出前授業などのサービスを行っています。詳しくは下記Webサイトのお問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。

■ KEE'Sこどもコミュニケーション教室
http://www.kees-net.com/kids_lp/

■ 話し方教室KEE'S
http://www.kees-net.com/

  • 子供のスピーチ力向上カリキュラム提供
  • 教職員の方の話し方研修・講演
  • 校長先生の説明力向上コンサルティング
  • PTA会員の皆様向けの講演会

(2017年08月掲載)