ICT活用教育のヒント

人前で話す“ドキドキ”を“ワクワク”に変える1日

株式会社KEE'S 代表取締役社長 野村 絵理奈 氏このほど、株式会社KEE'S(以下、KEE'S)は未就学児(年中・年長)と小学生を対象に、一般社団スピーチ・コミュニケーション協会認定スピーチ講習会「春休みスピーチKIDS認定1DAYキャンプ」(以下、1DAYキャンプ)を開催。プロのアナウンサーによる「話し方」に特化した講習の様子を取材し、KEE'S代表取締役社長の野村 絵理奈氏にお話を伺いました。

「話すのが苦手」という子が
成功体験をつかむ機会になれば

この1DAYキャンプに参加する子どもたちの多くは「人前で話すことへの苦手意識を克服したい」という参加動機を持っています。少人数の友達同士なら気負いなく話せる子でも、大勢の前では過度に緊張してしまったり、大きな声で話せなかったという「失敗の経験」を持つ子が少なくないとのことです。

野村氏は「やはり、より上手に話せるようになるには、学校の学習活動などを通じて、継続的に経験を積むことが大切です。しかし、苦手意識がある子が自信を持てるようになるためにも、いつもとは違った特別な場を設けることで挑戦を促し、“自分にもできた”という手応えを感じさせてあげることが大切だと思います。スピーチの醍醐味は、自分の殻を破ることでもありますので」と、1DAYキャンプを成功体験をつかむ機会にしてもらいたいという開催の意義を語ってくれました。

「聞く人のために話す」ことを意識づける

1DAYキャンプで、子どもたちは「大きな声、大きな口で話すこと」「分かりやすい順番で話すこと」という2つの課題に取り組みます。これは、社会人向けのスピーチ講習でも、印象を左右する「対人力」と、話を整理する「思考力」として示されている課題です。

まず、人前で話すことを苦手にしている子どもたちに「どんな話し方がよいか」を教えるため、講師は、ボソボソと小さな声であいさつをして見せます。次に、大きな声のハキハキとしたあいさつを見せ、「どちらの方が、聞いていて安心するか」と質問。これには「聞く人のために話す」ことを意識させる狙いがあると言います。緊張してしまう要因の一つに「自分はうまく話せるだろうか」と内向きな意識が働くことが挙げられますので、上手に話せるようになるのは「聞く人に伝えるため」と意識づけます。

しかし、広くて天井が高い会場では、思うように声が通りません。そこで大きな声で話せるように、おなかから声を出すこと(腹式呼吸)や口を大きく開けて声を出すこと、怒鳴り声とよく通る声の違いなどを、実際に子どもたちに声を出させながら教えていきます。

野村氏は「話すのが苦手な子の多くは、どうやって話せばいいのかが分からなくてつまずいてしまうことが多いので、小さいうちに話し方を学ぶことが効果的」だと言います。

声の出し方だけではなく、表情や姿勢などにもアドバイスがありました。「自信を持っているから堂々と話せるというだけではなく、堂々と話すことで自信が身につく」という心理を応用して、どのように話せばよいかを経験させています。

決まった答えがない問いに対する
自分の考えをスピーチ

続いて、この1DAYキャンプの最後に発表するスピーチの内容を考えます。このとき、最初に結論から話し、その後に理由を話すこと(ロジカルシンキング)を決まりとします。そして、さまざまなテーマが書かれたカードの中から、自分が話したいテーマを選びます。

このテーマにも工夫があり、「自分の一番好きなところ」や「さいきんのニュースで気になったこと」という一般的なテーマだけではなく、「コンピュータは、心を持つことができるでしょうか?」といった哲学的なテーマも含まれます。

哲学的なテーマの一部は、オックスフォード大学などの欧米の有名大学の入試問題だそうです。野村氏は「子どもたちの感じる力は本当に素晴らしく、それを哲学的な問いに絡めると、私たちでは思いもよらない柔軟な答えが導き出されることも少なくありません」と言います。用意されたテーマに共通するのは、決まった答えがない問いになっているという点です。

子どもたちがこの問いに対するスピーチを考えるのですが、問いに対する答え(結論)には、講師からのアドバイスはありません。あくまで講師は、子どもたちが結論を導き出した「理由」を整理するためのサポートに徹していました。

用意されたテーマの一部

  • 知らない国で生活できるとするなら、どこがいいですか?
  • 1日だけ、まほうが使えるとしたら、どんなまほうを使いますか?
  • あなたは自分のことを「りこうな人」だと思いますか?
  • あなたのとくぎは何ですか?
  • 幸せだ、とはどういうことですか?
  • なぜ海には、塩があるのですか?
自分に挑戦するための発表会と
挑戦した証しの認定証

スピーチ発表会が始まると、保護者の方々も子どもたちとともに発表を観覧します。「初めて訪れた会場で、初めて会う友だちと一緒に受講して、最後に発表会というもっとも緊張する場面を用意しました。こうした日常とは違う取り組みは貴重な経験になると考えています」と野村氏。

この発表会では、幼児クラス(未就学児)と小学生クラスで、それぞれ1位から3位までを表彰します。記者の「頑張って発表するだけではいけませんか?」という質問に、野村氏は「スピーチを教えると言っても、最後は子どもたち自身が“挑戦しよう”と思えるかどうかにかかっています。殻を破る一歩を踏み出すため、目標やロールモデルは明確な方がいい」と話します。

実際、今回の1DAYキャンプで1位になった子は「緊張して一言目を間違えたけど、最後まで発表できて、1位になれて良かった」と笑顔で話してくれました。また下級生たちは、こうした上級生の姿を見て、「あんなふうに話せるようになりたい」と目を輝かせていました。

上級生のスピーチのレベルは、記者の予想を大きく超えるレベルでした。「幸せだ、とはどういうことですか?」をテーマにスピーチした子は、「幸せは、生きることだと思います」と発表。『世界がもし100人の村だったら』という本を読んだことがあり、100人の村の中で30人は栄養が不足していて、8人は3歳までも生きられないと知った。だから、私は“生きる”ことが幸せだと思います。という内容のスピーチを聞かせてくれました。

中には、発表の途中で言葉を詰まらせてしまった子もいました。しかし、発表会の冒頭で「何ができたかよりも、どれだけ勇気を持って挑戦したかを褒めてあげてほしい」との説明があったことで、会場には優しく見守る雰囲気がありました。

30秒ほどの沈黙の後、スピーチを再開してやり通した男の子が、帰り際には照れながらも誇らしげな顔をしていたことが印象に残っています。

講習と発表会をやり遂げると、全員に一般社団スピーチ・コミュニケーション協会認定「KIDSスピーチ5級」の認定証が贈られます。それは、子どもたちが「挑戦した証し」であり、次の挑戦につなげてもらいたいという思いが込められているということです。野村氏が語った「スピーチの醍醐味は、自分の殻を破ること」との考えが、さまざまな場面で感じられる講習会でした。

リコーが協賛
会場で撮影された写真がプリントされたトートバッグのプレゼント

この1DAYキャンプには、リコーが協賛。受付時に撮影した子どもたちの写真を、その場でトートバッグにプリントして、発表会を終えた子どもたちにプレゼントされました。

株式会社KEE’S http://www.kees-net.com/

2005年10月設立。現在は40名の現役アナウンサーが在籍し、日本を代表するトップ企業や官公庁など500社5万人を超える受講者にスピーチ・コミュニケーションを研修。ミス・ユニバース・ジャパンの公認スピーチトレーナーとして日本の魅力を世界に発信する役割を担っている。2016年秋には、幼児・小学生向けの「KEE’Sこどもコミュニケーションスクール」を開講し、将来グローバルに活躍する子どもたちのスピーチ力向上にも取り組んでいます。

(2018年4月取材 / 2018年08月掲載)