ICT活用教育のヒント

Opinion 「自己調整学習」で、学びに向かう力を育む

木村 明憲
桃山学院教育大学 講師

京都市立小学校教員、京都市総合教育センター研究課研究員、京都教育大学附属桃山小学校教諭等を経て、現職。情報学博士。専門分野は、教育工学、情報教育、ICT活用。

子どもが自ら学んでいくための力を身に付ける

2021年度までに、GIGAスクール構想による1人1台端末の環境が全国の小中学校で整いました。タブレット端末orGIGA端末を、ノートや鉛筆のような当たり前のツールとして子どもが活用する姿をめざして、全国の学校でさまざまな取り組みが行われています。端末に慣れ親しむ段階を超え1人1台端末の環境が整った今年度からは「主体的・対話的で深い学び」をキーワードにして、子どもたちに身に付けたい力を見据えた活用をすることが大切であると思います。

その際に大切にしたいのが「自己調整学習」という考え方です。自己調整学習とは、学習者自身が主体的に学習をコントロールしながら目標を達成する学習スタイルです。子どもたちは学校を卒業し、社会に出たら、決められた期間にどのような手順で仕事を進めていくのかを自ら考え、判断して行動しなければならなくなります。しかし、ほとんどの学校では時間割表に基づき、先生の指示によって授業が進められています。そのことを否定するわけではありませんが、子どもたちが社会に出た際に、自ら主体的に仕事を進めていくことができるようになるためには、小中学校の頃から子どもたち自身が自らの学習を調整をしていくことができる力を育むことが大切なのではないでしょうか。

このことについては学習指導要領においても「主体的な学び」の視点において、「見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる」とあります。この見通しを持つことや学習を振り返ることが、学習を調整する自己調整学習の考え方と通じる部分です。

また、文部科学省の「児童生徒の学習評価の在り方について」の中にも、主体的な学びにおいて、粘り強く取り組むこと、自らの学習を調整しようとすることという2つの側面で評価するといった記述があり、国の評価からも、今後、子どもたちが学習を調整して学ぶことが重要視されていることが分かります。

学習内容、方法、取り組む時間を、子どもが自ら設定する

では、具体的にどのように自己調整学習を授業に取り入れていけばよいのでしょうか。自己調整学習を授業で取り入れる際には、「見通す」「実行する」「振り返る」という3つのプロセスを意識する必要があります。現在、「導入」「展開」「まとめ」といわれている授業の流れを、言い換えたものだと捉えてもらえば良いです。

まず、「見通す」プロセスで大事になるのは、学習計画を立てることです。これまで、学習内容についての見通しを持ちながら授業を進めていくことは、さまざまな学校で実施されてきました。自己調整学習では、そこからもう1歩踏み込み、内容だけでなく、学習の方法、取り組む時間も含めた具体的な計画を教師と児童が共有するのです。

具体的には図1のような学習計画表を配付・共有し、単元の課題(教師から児童に提示されるもの・教科の目標)や目標(子どもたちが頑張りたいと思うこと)、本時の課題や1時間の学習計画を記述し、単元の流れを明確にするのです。このように、子どもたち1人ひとりがこの表を常に参照しながら授業を進めることにより、授業時間内に作業を終えられるように効率の良い方法を生み出したり、授業以外でグループのメンバーが集まる時間を調整したりする姿が見られるようになるのです。このような経験を繰り返すことで、子どもたちは次第に学習を調整する力を身に付けていきます。このように、子どもたちと学習計画を共有した際に、教師が気をつけなければならないことがあります。それは、子どもたちとともに考えた学習計画をしっかり守るようにすることです。

図1単元を通して課題や目標を設定する学習計画

子どもたちの授業の様子を見ながら、「とても頑張っているから」「時間が足りなさそうだから」といって、予定した作業時間よりも、延長するという判断を教師の基準で行っていませんでしょうか。ここで大切にしたいことは、教師が子どもとともにその判断をするということです。学習計画よりも時間を延ばすことを、子どもたちが理解し、納得した上で決めてほしいのです。

「学習計画という約束に基づき、子どもたちとともに授業をつくっていく」という教師の姿勢が何より大切で、それが子どもの学びに対する意識を変えていくことにつながっていくのです。

学習の出口を明確に示す 単元を見通した授業づくりが重要

また、子どもたちが学習の見通しを持つためには、教師の単元を通した授業づくりがポイントです。単元の最後に子どもにどのような力をつけてほしいのか。子どもたちが問いを持ち、学習の出口に向かって主体的に学んでいくためにはどうすればよいのかを、単元の1時間目の授業が始まる前に考えておくことが大切です。

そのときにヒントになるのが、単元縦断型プロセスです図2。単元縦断型プロセスとは探究プロセスを詳細化したプロセスで、教科学習の中で子どもたちが主体的・対話的に学びながら教科の目標を達成するために開発した学習プロセスです。

図2単元縦断型プロセスで学んだ際の子どもたちの脳内イメージ図

自己調整学習では、子どもたちが学習方法を自ら選択できるようになることが重要ですが、それはすぐに身に付けられるものではなく、ある程度長期的なスパンで考えなければなりません。あらゆる教科で単元を通した学習計画をつくり、課題が単元を縦断する授業を行うことで、少しずつ子どもたちも授業の進め方をつかみ、「子どもたちが主体性を発揮する授業」が実現していくのです。

学習内容だけでなく、学習方法も振り返る

最後の「振り返る」プロセスにおいては、「学習内容」が定着したかどうかを記述する活動を行うことが多いのではないでしょうか。自己調整学習においては、それに加えて「学習方法」について、うまくいったこと、いかなかったことの視点で振り返りを記述することが大切です。

自分の学び方を振り返り、学習のうまくいったことやうまくいかなかったことの原因や理由を探り、その後の授業に生かしていくのです。例えば、インターネット検索で情報を集める際に、検索ワードが長すぎてうまく調べられなかったといったことがあったとします。そんなときは、次の学習でその反省を生かして、「次は検索ワードを短くしてみよう」といったように、その反省を次の学びに生かすことが非常に大切なのです。また、次の授業の導入で、前の時間に振り返ったことをあらためて確認することで、少しずつ学習方法の改善が見られるようになっていくのです。

「セルフラーニングカード」で、自己調整の方法を確認する

これまでお話ししてきたような自己調整学習を、誰でも簡単に取り組んでいただけるように、「セルフラーニングカード」を作成しました図3

図3セルフラーニングカード

子どもたちがこのカードを携帯し、日常的に活用することで、子どもの学びに向かう力が高まると考えています。このカードでは、「見通す」プロセスで、目標を立てることと、計画を立てることの2つの場面を解説しています。

まずは目標を立てる上で、カードにあるシンキングツールを使いながら、問いを見い出していきます。そして学習計画を作成する際には、単元の最初に「単元課題」「目標」と「本時の課題」「本時の計画」「時間」を書き、1時間ごとに「目標」「ふりかえり」を書くという流れです。

「実行する」プロセスにおいて学習目標からずれていないか、学習の方法は適切かなどについて子どもたちが確認するとともに、時間内に目標を達成できるかについても確認し、ずれがあれば随時調整するよう促します。このようにカードで視覚化することで自己調整学習のプロセスを意識することができ、子どもが主体的に学ぶ授業につながっていくのです。

自己調整学習の取り組みを始める際や、低学年で取り組む際は、目標や課題を事前に記入しておくなど、最初はある程度教師が型を示して進めていき、徐々に子どもたちに委ねていくというステップを踏むことで、子どもたちに負担なく、自己調整学習をスタートさせることができます。

振り返りや予定の確認、調整に1人1台端末を生かす

自己調整学習において、1人1台端末は有効に活用できます。例を挙げると「振り返る」プロセスにおいてICTが大変役に立ちます。タブレット端末の中には動画や写真など、通常のノートでは残すことのできなかったさまざまな情報を蓄積することができます。何がうまくいったのか、いかなかったのかを振り返る上で、とても有効な手段です。

また、カレンダー機能を使えば、自分のやるべきことを忘れないようにスケジュール管理したり、グループの友だちと予定を共有したりすることもできます。TODOリストを作成し、やらなければならないことをピックアップし、完了すれば消していくという方法も良いと思います。

今の日本の教育では、大学生になった途端に履修登録という自らの時間割を作成するという場面に直面します。そこにハードルの高さを感じる学生も多く、やはり小中学校からの積み上げが非常に大切なのではないかと感じる今日この頃です。

教師の役割は、子どもに学び方を教え、知的好奇心をかき立てること

子どもたちが主体的に学ぶためには、学習方法を自ら選択できることが重要だとお伝えしましたが、これは学習方法を重視して、学習内容をおろそかにするという意味ではありません。子どもが興味のあることを追究すると、教科のねらいから外れやすくなるのも確かです。ですから、「実行する」プロセスで教科のねらいや目標からずれていないかどうかを確認するステップを組み込むとともに、身に付けなければならない知識を活用する場面を、意図的に繰り返し単元に組み込んでいくことが重要です。

子どもたちが学習する方法を身に付け、自ら学びを進められるようになると、授業で教師がクラス全体に向けて話をする機会が減っていきます。これにより授業がスピードアップし、子どもが深く考える時間が増え、内容的な深まりも出てきます。また教室で子どもの横を歩き、個人と関わる時間を増やすこともできます。

今後は、教師が子どもたち自身で学習内容をつかめるように、1人ひとりの学習方法を指導・支援するという役割がより大きくなっていくでしょう。さらに、子どもたちだけでは気づかなかったことを焦点化するような問いの投げ掛けや、知的好奇心をかき立てるような振る舞いが教師の出どころとなることでしょう。

ここで紹介した自己調整学習については、以下のWebサイトで詳しく紹介しています。資料もダウンロードできますのでぜひ、今後の実践にご活用いただければ幸いです。

【Webサイト】情報学習支援ツール 木村明憲

(2022年6月掲載)